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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2018.05.31

建設業におけるDXを活用した人材育成改革とは? 堀部 諒太

建設業の実態

日本国内における建設投資は2017年度見通しで54兆9600億円(前年比4.7%増、国土交通省)。建設業は日本を代表する基幹産業である。近年は東日本大震災復興事業や東京オリンピック特需、各都市での再開発事業など全国的に建設需要が高まっており、市場動向としては「晴れ」の状態が続きそうだ。

一方、就労者数が約500万人の同業界では、人材不足が課題となっている。高齢化の進展、また定年に伴う大量離職も予測され、人材不足はさらに深刻化しそうである。ICT化やロボット導入などの取り組みも進んでいるが、人材不足を解消するには至っていないのが現状だ。

その原因として、「3K(きつい、汚い、危険)」や「仕事は見て盗む」という昔ながらのイメージを払拭できていないことが挙げられる。

私は北海道で中堅・中小規模の建設会社へのコンサルティングを行っている。本稿では、人材不足を人材育成によって解消する取り組みを行っている企業の事例を紹介したい。

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「仕事は見て盗む」の現代版

建設業の中でも左官業は特に平均年齢が高い。建設経済研究所の調べによると50歳を超えている。A社も例外でなく、6年前には平均年齢が52歳であった。新卒採用を行っていたものの定着率は悪く、採用を繰り返していたという。

この状況に「10年後の自社に未来はない」と感じたA社社長は、教育改革に着手した。まずは離職者の声に耳を傾けると、「きちんと仕事を教えてくれない」「指示も出していないのにいきなり怒りだす」などの声が上がった。反対に、新人を教える側の意見は「言われたことしかやらない」「指示をしないと何もせずに立っているだけ」というものだった。両方の言い分を聞き、価値観の違いがこの環境を生み出していることに気付いたのである。

こうした現状を変えるために、教える側の意識改革に取り組んだ。「仕事は見て盗む」を現代化するために、日本一の左官職人の左官技術を動画化した。また、その後の実習の様子も動画に収め、日本一の左官技術との違いに気付かせて修正する。現場任せにせず、基礎をしっかりと教えるのである。そうすることで、次のような変化が生まれた。

従来は、入社した新人は「とりあえず」現場に配属されていた。そこでは下働きしか任されず、仕事をつまらないと感じて退職してしまう人が多かった。現在は、新人を採用したら現場に配属せず、基礎教育からスタート。その後、現場に出す。必要最低限のことは分かっている状態なので、現場で預かる社員も一から教える必要がないため負担は少ない。新人自身も、基礎教育で覚えた技術を現場で生かせるため仕事が楽しくなり、続けたいと思うようになった、ということだ。

現在のA社は、十数名の新卒採用を実現し、離職もほとんどなくなったため、平均年齢が10歳以上若返った。技能五輪全国大会にも出場するなど、若手が目標を持って技術研鑽に取り組み、ベテランが若手を育てる風土が根付いたことで、左官業が抱える課題を解決することができたのである。

 

 

建設現場でのOJT改革

B社は半世紀以上続く専門工事業。業界では名の通った企業である。しかし、リーマン・ショック以降、新卒採用を実施できる状況になかったため、20代と30代が極端に少ない社員構成になっていた。そこで約10年ぶりに新卒採用に踏み切り、なんとか数名の採用に成功したのだが、入社後に問題が発生した。

新卒を扱ったことがない現場管理者が多く、会社としての教育ルールも存在しないため、現場での育成が属人的に行われてしまい、質にバラつきが生じたのである。このままでは苦労して採用した社員が退職してしまうばかりか、今後も継続しようと考えていた新卒採用ができなくなってしまうと考えたB社社長は、タナベ経営と共に企業内大学(アカデミー)の開設に着手した。

アカデミー開設の中で、階層別の教育制度や集合研修、社内表彰制度などを取り入れたが、特筆すべきは現場OJT改革だ。建設現場の場合、配属先の現場により工事種別や規模、工程などさまざまな違いがある。従来の現場OJTではある程度の特性や能力を勘案していたものの、現場状況を最優先して配属を決定していたため、数年が経過して初めて成長を実感できるというものであった。

しかしOJT改革では、計画的にスキルを身に付けて経験を積ませるために、現場で必要な能力をスキルマップ化し、本人の未習得スキルをもとに配属現場を選定するというルールへ変更した。これによる変化は大きく次の2点である。

1点目は、習得スキルの「見える化」だ。会社と本人がどのスキルを身に付けたかがマップで分かるようになり、今後の成長のためのステップを共有できることである。

2点目は、コミュニケーションの強化だ。本人のスキルの現状把握と、習得進捗の確認、次の現場管理者への引き継ぎ実施を各現場管理者に求めた。これを行うためにはコミュニケーションが必要になるため、現場へ丸投げせずに工事部全体で新卒を育て上げる仕組みが出来上がった。

この現場OJT改革は始まったばかりだが、今後の展開としてアプリ化なども検討している。現場で社員が活躍できるための仕組みとして進化を続けるだろう。

 

 

昔からのやり方にとらわれないこと

このように、地域の中堅・中小建設業でも、業界の慣習にとらわれず改革を行っている企業が多数ある。「業界は昔からこうだから……」「このやり方でやってきたから……」と環境を理由にするのは簡単だが、果たしてやり方を変えずに結果を改善することは可能なのだろうか。

働き方改革や生産性改革が叫ばれ、多くの業界でIT化・省人化への取り組みを行っているが、やはり企業は人でできている。今の社員をどのように生かすのか、そのために企業として何ができるのか。「業界の常識」というかせを外し、柔軟な思考で改革に取り組んでいただきたい。

 

 

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PROFILE
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堀部 諒太
Ryota Horibe
人材業界の営業・マネジメントを経験後、タナベ経営へ入社。建設業界を中心に人事制度構築や社内大学(アカデミー)づくりなど、人材に関するコンサルティングを展開。クライアントと一体となった顧客密着での展開で人材成長を幅広く支援。