ビジネスモデルの転換が急務である
日本経済は2020年という節目に向けて、緩やかながら堅調に推移している。一方では低収益に苦しんでいる企業も少なくない。低収益企業の特徴の1つに、コモディティー化した商品・サービス、あるいはビジネスモデルから抜け出せていないことがある。つまり、他社の商品・サービスとの差別化要素が失われた状態でビジネスを続けているのだ。こうなると顧客からの要望は「価格」になり、利益を圧迫していく。企業は利益確保のために量産することを目指すため、従業員の労働時間が長くなり、やがて組織は疲弊していくのだ。
この悪循環に陥っている企業の経営者からよく聞く口癖がある。「うちの業界は…」「うちの会社は…」である。しかし、さまざまな企業を支援している中で、特殊な会社や業界はない。大切なのは業界の常識や固定観念にとらわれない視点を持つことである。そうでなければ低収益から抜け出すことはできない。
逆に言うと、高収益を実現している企業は業界の常識にとらわれず、新たな成長へ向けたイノベーションに取り組んでいる。現在の収益構造を決定する上での最大の要素はビジネスモデルだ。ビジネスモデルとは「誰に」「何を」「どのように」、つまりどのような顧客価値に、自社の提供価値をどのような提供手段で結び付けるかである。
全てを変えることが必要なわけではなく、この中の1つでも転換していくことがイノベーションとなり、低収益を脱するきっかけとなる。
「顧客価値」を転換する
顧客価値の転換とは、戦略的には真の顧客は誰か、つまりターゲットを明確化することである。その際のポイントはターゲット(マーケット・顧客)を絞ることである。価格ではなく価値で支持してくれるマーケットや顧客と付き合っていくことが大切である。
搬送機械メーカーA社は高い技術力と納期対応力で大手メーカーから支持されている。多くの引き合いを受けて顧客を増やしていったが、一部の顧客からは価格面での要望が強くなり、徐々に利益率が低下していった。利益は伸びないが、仕事量そのものは増える一方。社員数を増やすことで対応したが、人件費が上がり、さらに利益を圧迫した。
そこでA社では顧客別粗利益分析を実施し、見積もり段階で一定の粗利益基準を満たさない価格での受注はしない方針を決めた。結果として取引先はA社の本来の価値を認めてくれる顧客に絞られ、売り上げは減少したものの利益率は大幅に改善。現在では売上高経常利益率が20%近い水準となっている。
「提供価値」を転換する
提供価値とは商品・サービスそのものではなく、商品・サービスを通じた顧客のソリューション(課題解決)である。
包装資材商社B社は営業の小回り対応・短納期を売りにしていたが、それだけでは価格競争から脱することはできず、中期戦略の中で「包装資材を通じて食品の鮮度・賞味期限延長」というソリューション価値を掲げた。専門営業部隊を組成して、メーカーと共同で提供価値の転換を図っている。また新システムを導入し、顧客の受発注・在庫管理までを一貫して自社で担い、顧客の業務効率化・最適化を支援。この価値を通じて顧客から選ばれる企業へと進化してきている。
リラクゼーションサロン運営のC社は、店舗に来店する一般顧客対象のビジネスの他、企業向けに「福利厚生サービス」として出張施術を行っている。人材の採用・定着に課題を持っている企業向けに従業員の福利厚生として事業を展開しているのである。提供商品・サービスはそのままに提供価値を「癒やし・健康」から「企業の人材採用・定着支援」に転換した事例である。企業向けサービスは企業との月額契約となり、賃借料という固定費もかからないことから利益率の高い事業となっている。
「提供手段」を転換する
提供手段の転換とは、チャネルを転換することである。もともと菓子の卸売業をしていたD社は低収益から脱するために自社の強みである企画力を生かして、全国の製造工場と提携しメーカーへとシフトした。しかし、自社商品を開発しても包装デザインや価格で大手メーカーに勝てず、苦戦した。
そこでD社は、販売チャネルをスーパーや小売店向け販売から全国の商業施設内の「量り売り」に転換。菓子の量り売りという販売形態は、好きなものを1粒・1個単位で選ぶことができるため、特に子どもたちの間で根強い人気がある。「量る」という手間は、大人目線で見ると“面倒な作業”となるが、子どもたちにとっては「楽しい」という魅力的な付加価値になる。
また、子ども向けの菓子類は個包装が多いが、量り売りでは個包装をする必要がない。価格は定価ではなく重さによって決まるため、一般流通で重要視される価格政策やパッケージ、陳列棚確保のための営業などが不要となる。棚の位置や価格設定、パッケージのセンスなど複数の要素で勝負を余儀なくされる売り場が、量り売りによって菓子本来の魅力だけで勝負できる場となるのだ。
また、非常に強い集客力を発揮することから、商業施設にとっても重要なテナントとなっている。つまり、このビジネスモデルでは、限られた経営資源のため包装デザインや営業に力を入れられない中小メーカーでも、自社商品の開発や製造にこだわりを持ちながら、大手メーカーと勝負できるというわけである。
D社は量り売りに転換してから、自社オリジナル商品が大手メーカーの商品より圧倒的に売れるというケースも多く、結果として他社からオリジナル商品の発注が寄せられるという相乗効果も生まれている。一般流通ではあまり見掛けない同社オリジナル商品が店頭に並ぶことで、売り場の多様性が広がり、それが店頭の魅力の1つになっているという。
2020年東京オリンピック・パラリンピックを境に国内マーケットは再び低成長時代に入り、価格競争が激化することも予想される。その中で勝ち残っていくためのビジネスモデル再構築に、今から本気で取り組んでいただきたい。