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コンサルティングメソッド
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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2018.04.27

「生産性カイカク」を進めるマニュアル化のポイント:大金 雄一郎

 

自社におけるマニュアルの位置付け

皆さんの会社(仕事)に、マニュアルはあるだろうか。業種(業務)によると思うが、大体の方は「ある」と答えると思う。では、そのマニュアルを使って仕事に取り組んでいるだろうか。そのマニュアルは、過去数年の間に更新されているだろうか。

マニュアルがあっても、実際は社内や部署内で統一されていなかったり、代々引き継がれている「個人メモ」程度のものであったり、体裁よくまとめられていても内容が古く、手引きと実務が乖離していたりするケースも多く見られる。

“マニュアル化”というと、手引きに従うだけで「何も考えない」社員が増えてしまうといった消極的な意見が多いように感じるが、必ずしもそうではない。例えば、徹底した業務のマニュアル化で生産性を向上し、ローコストオペレーションを実現したのが「ファッションセンターしまむら」で有名な、しまむらグループである。

しまむらでのマニュアルの位置付けは次の通りだ。

1.マニュアルの考え方

しまむらはローコストオペレーションを徹底し、効率的な運営を行っており、それを支えているのがマニュアルだ。日本では個人の技術を重視する風潮に加え、マニュアルに対する誤解と軽視も見られる。同社では最も優れたベテラン社員のやり方をマニュアルと考え、新入社員でも一定レベルの業務ができるように、全ての部署でこれを重視。標準化と合理性を追求している。

2.改善提案

「生きたマニュアル」を保つために欠かせない仕組みが改善提案制度である。業務の最適化を実現するには、マニュアルをブラッシュアップし続けることが最も大切だと考えている。同社では、全社員から毎年5万件以上の改善提案が寄せられ、これを一つ一つ検討・実験し、その結果は毎月マニュアル更新時に反映されている。

 

 

生産性を上げるマニュアル化のステップ

しまむらでは、テーブルマナーなど社会人としての基本的なマナーから、商品仕入れ、店舗運営、システム開発など、何から何までマニュアル化されている。各マニュアルは数千ページあり、巻数は十数巻と膨大な分量である。

このようなマニュアル化を行うことで、社員は日常的な業務において考える時間を減らし、新たなアイデアを生み出すためのより付加価値の高い業務に時間を費やすことができる。この考えのもと、マニュアル化推進プロジェクトを支援したA社の事例から、生産性を上げるマニュアル化のステップを紹介する。

事前準備:フォーマット、記載ルールの設定

まずは、統一フォーマットを作成する。フォントやナンバリングのルール、タイトルの付け方などを定める。全体の統一感をそろえるためであるが、あまりにも制約が多すぎると、マニュアルの作成自体が困難になるため、ある程度の自由度を持たせる必要がある。

Step1:マニュアル化する業務の範囲の決定

マニュアルの作成に当たっては、部署ごとで内容を整理することが多い。部署のメンバー全員(主要なメンバー)が集まって、マニュアル化する業務を決める。

日次、月次、年次の基本的なルーティン業務は全て網羅する必要がある。その他の非定型業務であっても、頻度や重要度を基にマニュアル化の対象となる業務とする。全員が集まることによって、業務の重複や、業務分担における改善点が発見できることもある。

Step2:作成担当者の決定

その業務をよく知っているベテランメンバーが作成担当者になると、知り過ぎているがゆえに、詳細を省いたマニュアルになってしまいがちである。そのため、最近業務を引き継いだメンバーが作成してベテランがチェックを行うことで、マニュアル作成自体が、社員教育の一環として成立する。

指導を受ける側は業務に対する理解が深まり、指導をする側は、より効率的に業務を行う方法を考える機会(「自分だけ分かっていればよい」ということではなくなるため)となる。

Step3:マニュアルの作成

実際のマニュアル作成の際のポイントは次の3点である。

(1)冒頭に「この業務を行う目的(求められる事項)」を記載する

これは、スタッフ部門の業務に多く見られる傾向であるが、担当業務の目的を理解しないまま行っていることが多い。「昔から、こうやっているから」というだけで、「何のために」がスッポリ抜け落ちてしまっているのだ。

どんな業務においても、必ず目的が存在する。逆に言えば、目的が明確でない業務は、やらなくてよいことかもしれない。目的が明確になって初めて、効率的な業務の進め方が検討できるようになる。

(2)業務全体の流れが分かるようにフロー図を作成する

業務のスタートとゴール、ゴールまでの道筋がはっきり分かった上で、詳細なマニュアルを読み進めていく方が理解しやすい。また、業務をフロー図に落とし込むことで、その業務を進める上でネックになる部分を明示しやすくなる。

今までフロー図にはなかった業務を落とし込むことで、業務のムダが顕在化されるという副次的効果もある。フロー図については、日本工業規格(JIS)で定められているフローチャート記号を参考にするとよい。フロー図にした時、「判断」の項目に該当する箇所で、ネックやムダが発見されることが多い。

(3)図や実際のフォーマットを多く記載し、視覚的に分かりやすくする

文章ばかりのマニュアルは理解しづらく、文字で説明できる範囲にも限りがある。先述したしまむらのマニュアルでも、イラストや写真が多用されている。

例えば、パソコンの操作画面を画像として取り込み(キャプチャー)、①、②、③……と操作順に番号を付けるだけで、マニュアルとしては十分である。店舗のレイアウトなどは写真を載せることで、文章での説明はなるべく少なくする。

Step4:マニュアルのチェック

担当者が作成したマニュアルを、チェック担当者が照合する。この際のポイントは、「マニュアル通りに業務を行い、正しく目的を達成することができるか」である。チェック担当者がマニュアル通りに行って、疑問に思ったことや正しく業務を行えなかった箇所があれば、それはマニュアルとして不十分だということだ。

チェック担当者は、より分かりやすくするためにどうすればよいか、作成担当者に前向きなアドバイスをすることで完成度を上げていく。

Step5:マニュアルの統合と定期更新

担当者のチェック済みのマニュアルを集約し、1冊のマニュアルとして統合していく。データだけで管理するのではなく、部署ごとに1冊、紙の冊子として置いておくのが望ましい。全体の統一感を確認していったん完成となるが、先述したしまむらの事例の通り、マニュアルには“完成”の概念がない。

完成したら、該当業務を行う際はマニュアルをチェックし、業務のやり方が変われば、マニュアルも都度更新する必要がある。また、定期的(年1回または半期1回程度)に部署メンバーが集まり、マニュアル更新時間を設けるのが効果的である。

以上が、生産性向上に向けたマニュアル化の進め方の大まかなステップである。真に有効なマニュアルは、完成のない、永遠の「たたき台」であることを理解いただきたい。

 

PROFILE
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大金 雄一郎
Yuichiro Ohgane
タナベ経営入社後、経営管理本部財務部にて管理会計から内部統制まで幅広く経理・財務関連の業務に従事。現在はその経験を生かし、財務部門のエキスパートとして、クライアント企業の管理会計システムの導入、資金繰りの改善などを手掛ける財務コンサルタントとして活躍中。