多様化する顧客ニーズに現場のチーム力で対応する:福原 啓祐
日本経済は現在、景気回復局面が高度成長期の「いざなぎ景気」を超えて戦後2番目の長さとなるなど好調を持続している。経済産業省の「商業動態統計」によると、日本国内の小売市場規模(2017年)は前年比1.9%増の142兆5140億円となり、2年連続で減少した前年からプラスに転じた。だが、内訳を見ると、百貨店とホームセンターが前年を下回り、スーパーマーケットもほぼ横ばいで推移するなど、業態によって業績格差が見られる。(【図表1】)
ようやく盛り上がりつつある小売業であるが、今後の先行きを考えると安穏としていられない。小売業は、人口規模・世帯構造・購買行動の影響を直接的に受ける業種であり、これらの因子がこれから大きく変化していくからである。次に、この3つの因子の現状と先行きを押さえてみたい。
(1)加速する人口減少
国内人口の減少に歯止めがかかっていない。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の将来予測によると、日本の総人口は2015年の約1億2710万人から、東京オリンピック・パラリンピック開催年の2020年には1億2533万人と177万人減少し、2055年までに1億人を割り込む見通しである。
これに伴い、高齢化率(全人口に占める65歳以上人口の割合)が25%を突破し、2025年には「団塊の世代」(1947~49年生まれ)が後期高齢者(75歳以上)となり、2040年には高齢化率は35%を突破することが見込まれている。日本は世界でも類を見ない超高齢化社会となることが確実視されている。
(2)単独世帯の増加
社人研の国内世帯数の将来予測を見ると、日本の世帯総数は2015年の5333万世帯から増加を続け、2023年には5419万世帯とピークに達する。しかし、平均世帯人員は減少を続け、2015年の2.33人から40年には2.08人となる見通しという。
この世帯数の増加の要因は、単独世帯の増加である。総世帯数に占める家族類型別の割合を見ると、単独世帯が2015年の34.5%から、2040年には39.3%と約4割に達する一方、これまで消費の主役であった「核家族」世帯の割合は56.0%から54.1%に低下する。
(3)進む電子購買
一方、オムニチャネルや電子マネーを使いこなすデジタル世代を中心に、Webでの購買が増え続けている。経済産業省の調べによると、消費者向け電子商取引(BtoC-EC)の国内市場規模は、2016年時点で15.1兆円(前年比9.9%増)。2010年(7.8兆円)から6年で約2倍の規模に拡大した(【図表2】)。とはいえ、EC化率(全商取引に占める電子商取引の割合)は5.43%(前年比0.68ポイント増)にすぎず、個人消費市場全体から見れば、まだまだ実店舗(リアル店舗)での買い物が主流である。
実店舗とネット販売の特徴は【図表3】の通りだ。従来、この2つの業態はすみ分けが明確であったが、近年は実店舗を展開する企業がEC拡大戦略をとり始めており、EC化率をKPI(重要業績評価指標)としているところも増えている。他方、EC事業者の間では、米Amazonのように実店舗を出店する事例が現れている。インターネット通販事業を通じて構築したブランド価値を、リアルの場でも生かしつつ、ネットの売り上げにつなげていく相乗効果が狙いである。
いずれにせよ、実店舗とネット販売の融合型企業が増える中、顧客ニーズはさらに専門化・細分化していくことが考えられる。
好調なECとは裏腹に、実店舗(リアル)の売り上げは年々、厳しさを増している。もっとも、これはまだ“入り口”にすぎない。ECの市場規模は今後も右肩上がりに増加していく。しかも消費者のニーズは専門化・細分化している。実店舗は売り場面積の制約があるため、従来のマーケティング手法では太刀打ちできなくなってきている。
ただ、実店舗の強みは、人による接客と地域ニーズに密着した品ぞろえができることである。そこで消費者(顧客)に会社(店舗)や商品の「ファン」になってもらう、「ファンマーケティング」が重要になってくる。店舗を介して顧客とつながりを持ち、業績基盤を安定させていくには、顧客をファン化していくことが必要不可欠である。
顧客をファン化し、好業績を挙げている企業を見ると、次の2つを実践しているという共通点がある。1つ目は、データを徹底的に分析・活用していることだ。スーパーマーケットであれば、POSデータとポイントカードの顧客情報を連動させ、ニーズや嗜好、購買頻度、購買品目などを分析し、いまの顧客は何を求めているのかをつかんでいる。
そして優良顧客を明らかにし、重点顧客を選定する。ECならまだしも、実店舗が全ての顧客ニーズに対応することは困難であるため、自社(店舗)における「真の顧客」は誰かを見極めることが重要である。そして顧客管理、商品管理、仕入れ先管理に反映させて無駄を排除する。
また、現在の個人消費の約4分の1はすでに高齢者層が占めている。将来の超高齢化も見据えると、小売業(またはサービス業)は今後、「高齢者マーケットや単身者ニーズをいかに取り込んでいくか」という視点も忘れてはならない。
2つ目は、「ファンコミュニティー」を大事にし、うまく活用していることである。特に、顧客との接点(コミュニケーション)づくりの方法として、Facebook、YouTube、TwitterなどのSNSを積極的に利用している。その際は、いかに「自社(店舗)が発見されやすいか」が重要であるため、他社にない個性を打ち出すなどして「見つかりやすさ」に重点を置いて日々工夫を重ねることだ。「正しい情報を的確に伝え、魅力的に見せること」が大切である。
チェリー・ピッカー(セール時にだけやって来て、特売品ばかり買う客のこと)でも、店やサービスを気に入ればファンになってくれる。ファンになれば、自社の店舗や商品の情報を自ら取得したり、商品を何度も購入したり、周りにクチコミで広めてくれるようになる。
徹底したデータ分析と、顧客との接点(コミュニケーション)が実店舗経営の成功の鍵を握る。それはスーパーまるまつやレクサス星が丘の事例から見ても明らかである。もちろん、これらの取り組みは今日始めて明日に成果が出るというものではない。時間が必要だ。地道に努力を日々続ける。そういったプロセスが顧客満足の向上につながり、顧客がファンになる仕組みにつながっていくのである。