コンサルティングの現場で、話題に上ることが多いのが「採用難」の問題である。近年の有効求人倍率はリーマン・ショック後の2009年を底に、8年連続で右肩上がりに上昇。直近では1.50倍(2017年平均、厚生労働省調べ)という44年ぶりの高水準を記録したことは記憶に新しいのではないだろうか。
しかし、危機感を強く持ってはいるものの、実際には過去からの延長線上の対症療法的な手立てで終わっていたり、半ば諦めてしまい、採用への投資を見送っていたりという企業も少なくない。今後、数年の採用環境は、中途・新卒ともに現状より厳しくなることが予想される中で、中堅・中小企業はどのように採用マーケットを戦っていくべきなのだろうか。
本稿では、中堅・中小企業が、限られたリソースの中で今すぐに取り組める採用活動を3つ、事例を交えながらお伝えしたい。当たり前に見える内容でも、意外とできていない企業が多いものだ。あらためて、自社の活動と照らし合わせてほしい。
社員の出身校・前職(キャリア)を活用した活動
まず1つ目は、社員の出身校・前職(キャリア)を活用した採用活動である。簡単に言うと人脈営業だ。社員の出身校の中でも、特に相性の良い学校や、今後長くパイプを構築したい大学などをピックアップし、キャリアセンターやOB・OGのつながりを活用する。中には、トップ自ら大学キャンパス内を歩き、学生と一緒に食事や会話をしながら情報収集をしたり、キャリアセンターを通じて就活生に対する講演を毎年実施することで間接的に企業ブランディングにつなげている企業もある。
また中途採用においては、中途入社した社員の前職を洗い出してみる。親和性の高い会社や業界があれば、その社員の人脈を活用し、前職の後輩・同僚で転職を考えている有能な人材に直接コンタクトを取ってもらうという方法である。ただ、この活動方法は、その社員が「自社を後輩や同僚に紹介したい」と心から思えるかどうかがポイントになる。日頃から社員満足度を意識した経営ができているかが問われるといえる。
「類は友を呼ぶ」。自社においても社内で優秀な人材やロイヤルティーの高い社員をピックアップし、その社員の「友」へダイレクトにアプローチするという対策を検討してみてはいかがだろうか。
退職者を再雇用
2つ目は、退職者の再雇用だ。何らかの理由で自社を離れてしまった社員をもう一度自社に呼び戻すというアプローチである。昨今では、サイボウズの「再入社パスポート」※のように社員の“出戻り”を歓迎する制度を設けている企業もある。いきなり「制度をつくりましょう!」というのではなく、まずは「一度退職した社員を再雇用してもよい」という風土やマインドセット(判断基準)をつくろうということだ。
退職者の再雇用は、退職者本人が会社の業務内容を把握しており、会社側も退職者の人間性をある程度理解しているという大きなメリットがある。しかし、退職者全員に声を掛ければいいということではない。当時、事情により仕方なく退職した人や、キャリアアップなど前向きな理由で退職した人などを対象に、「もう一度、わが社で輝いてみないか?」と声を掛けることがポイントだ。
再雇用を成功させるポイントは、退職者リスト自体をきちんと整理・把握しておくことにある。自社は退職者のリストを眠らせていないか。または退職者リストを作っていない、退職理由や経緯を把握できていないという状態になっていないかを確認することから始めてみてはいかがだろうか。
※ 退職者に「再入社パスポート」を交付し、退職後6年間は復帰を可能とする制度
自社の営業・プロモーション活動の場面を利用
3つ目は、自社の営業活動の現場を利用するアプローチである。この方法は、会社のビジネスモデルや業界によって少しカスタマイズが必要となる。私が支援先で導入いただいた事例を基に説明したい。
ある消費財メーカーA社から採用の相談を受け、これまでの新入社員の入社動機をヒアリングした。そこで注目したのが「当社の商品を含め、この業界が学生時代から好きで、地方にいながら毎年欠かさず東京のイベント・展示会などに足を運んでいた。そこで出展していた当社を知り、どうしてもその業界での仕事に携わりたいという思いが強かったため、自分で当社に電話し、面接を志願した」という社員の声だった。
この事例を基に、A社が毎年数回出展しているイベントや展示会のブースで、自社商品のPRと合わせてリクルーティングのPRも同時に行うことを決めた。導入の背景として、A社には先述した新入社員のように業界自体に魅力を感じて入社した社員が多かったことが挙げられる。
これは、A社が「求める人材像」として描いていた姿とも合致する。業界好きの人が集まるイベントがあるのだから、そこで採用活動をするのは至極当然のことで、効率的であるという結論に至ったのだ。
この方法を実施する上でのポイントは、まだ就職意思が特段ない人々(潜在的ニーズ)にアプローチできることである。すでに就職したいという意思がある人たち(顕在的ニーズ)を対象にしているのであれば、一般的な就活イベントや業界主催の合同説明会などにブースを出展する、もしくは採用ポータルサイトへ登録するという発想になるものだが、ニーズが顕在しているマーケットでは採用競争が激化するのは当然である。
おそらく中小企業のほとんどは、このマーケットで必死に差別化を図ろうとしており、そうすればするほど費用対効果が出ず、苦労しているのではないだろうか。
そこで、視点を顕在層から潜在層にシフトすることで、リクルート活動が始まる前からアプローチする。ライバルがいない・やらない市場で自社をPRすることができるため、顕在層を対象とした採用競争を優位に進めることができるのだ。
採用活動をマーケティング思考で行う
今回紹介した3つの視点に共通することは、「マーケティング思考」「営業視点での発想」だ。例えば、2つ目に挙げた退職者リストは、営業活動に置き換えれば、「失注リスト」や「過去の取引先リスト」になる。おそらく、失注リストや過去の取引先リストを持っていない、もしくは持っていてもアプローチしていない企業はほとんどないだろう。
このように考えると、採用活動における「退職者リスト」へのアプローチは必然的な流れである。企業が大事にしている「顧客リスト」と同じように退職者リストも大切にしてほしい。
今後も採用難が続く中で、中堅・中小企業が優位性を築くためには、人事部門をマーケティング思考や営業視点で活動できる部門に発展させる必要がある。社内の限られたリソースの中で行う採用活動は、人事部門だけではなく、トップも含め全社横断的な活動として捉えてほしい。
決して、就職ポータルサイトのエントリー数だけに一喜一憂したり、大企業の引き立て役のような誰も来ない採用ブースを出すことだけに満足してはいけない。
今回紹介した3つの施策を参考にしながら、「リクルーターはどこにいるのか」「何をしている時に接点が持てるのか」「どのようなタイミングで入社意欲が高まるのか」といったマーケティング思考を人事に取り入れてみてほしい。
まずはできることから1つずつ実行することだ。これを機会に、読者の皆さまが採用活動への新たな一歩を踏み出せることを祈っている。