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コンサルティングメソッド
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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2018.03.30

“絶対性”を承継するファミリービジネス:中須 悟

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全てのオーナー経営はファミリービジネスを選択すべきか? そこに一通りの答えはない。ただ、企業の目的は存続することにあり、長期的に経営を継続していくためには、ファミリービジネスが有効であるという説がある。

 

ファミリービジネスとして存続するというのは、所有と経営、またはどちらか一方を創業家が代々承継していくことを意味する。その対極にあるのは、M&Aで企業そのものをバイアウト(買収)することだろう。MBO(Management Buyout=経営陣買収)で親族外の役員や幹部に所有と経営を承継したり、IPO※(Initial Public Offering=新規公開株)により不特定多数の出資者を市場から募り、経営者を外部招へいすることも非ファミリービジネスであるといえよう。

 

ファミリーか非ファミリーかの選択を求められるのは、事業承継期である。現在、事業承継を行う企業数がピークに達しつつあることは言うまでもないが、一方で後継者不足も大きな課題となっており、そのような企業がファミリービジネスとして事業を承継していくのか否か、究極の選択を迫られているのである。いずれを選択する場合も、ファミリービジネスとは何かについて深く洞察し、一定の価値判断基準を得る必要があるだろう。

 

 

会社の存続を選んだある創業社長

 

 

「長年、経営の在り方を勉強してきたが、株は親族で継いでいくことに決めた」。ある中堅メーカーの創業社長は言う。その人に子どもはいない。事業経営は生え抜きの幹部に承継していくという。複数のブランドを展開する同社は、それぞれのブランド単位で会社を分割し、現幹部を各社の社長に据えて経営を任せ、グループで地域ナンバーワンに成長するというビジョンを掲げる。また、各事業会社の上に持ち株会社をつくり、創業家がその株主としてグループの所有を承継していく。事業会社の後継社長に株式を譲渡して独立させる選択肢もあったが、社長の結論は違った。

 

「そうしないとバラバラになる」。資本は経営者の思いを媒介する。創業者の理念は変わらないものとして一枚岩で承継していかないと、企業はそのカタチを失ってしまう。この社長は「理念を承継し、長期的に存続する」ことを選択したのである。

 

 

創業家が所有を手放すことの意味

 

 

ファミリービジネス研究の第一人者・日本経済大学大学院の後藤俊夫特任教授は、「所有は絶対に手放してはならない」と強く主張している。所有をいったん手放したら二度と戻ることはない、またそういった事例もないからだ。

所有を手放すというのは、どういうことか。ファミリービジネスにおいては、創業家の理念が伝承されていかないことを意味する。最近、経済紙をにぎわせている出光興産と昭和シェル石油の経営統合がよい事例かもしれない。

 

出光興産の創業者である出光佐三氏は「海賊とよばれた男」であり、外資系石油メジャーからの圧力にも屈せず、独立独歩で現在の事業の礎を築いた。その佐三氏が存命であれば、昭和シェル石油と経営統合することはあり得ないだろう。しかしながら、本稿執筆時点(2018年1月31日)において創業家が保有する議決権割合は28%で、いずれにしても合併などへの拒否権(議決権の3分の1)を持たない。資本の論理からいえば経営統合を避けられない状況にある。ここで両社が経営統合すべきかどうかの見解を示すつもりはないが、創業家が所有を手放すということは、創業者の思いを伝承することができなくなるということである。

 

後継者選択の自由

 

日本は「長寿企業大国」と呼ばれ、世界の長寿企業の半数以上が日本に存在するといわれる。その理由として、日本には「家」を継ぐという習わしがあったからだという指摘がある。しかし今、その家を継ぐ習慣そのものが過渡期にあると言わざるを得ない。第2次世界大戦前の民法には「家族」という概念があった。家父長制の下、相続も、家督を継ぐ長男に一子相伝するのが原則であり、養子を入れてでも家を守らねばならなかった。

 

ところが、終戦後の民法改正で“家族”という概念がなくなり、それに代わって「親族」という言葉が使われるようになった。相続も一子相伝ではなく、法定相続分が定められ、子息・子女の世代へは均等に配分されるようになる。つまり戦後は、「長男が家を継ぐ」という習慣の法的根拠がなくなったのである。

 

一方、現在は事業承継のピーク期に差し掛かっている。事業承継は経営における節目であり、長期的な視点で今後の在り方を考える機会となる。まずは誰に経営をバトンタッチするのか決める必要があるが、その選択肢は多様化しているのが今のトレンドだ。一昔前まで、事業承継と言えばファミリーで引き継ぐパターンが大勢を占めたが、現在では減少傾向にあり、それに代わって社員の内部昇格や外部招へいによる承継が増加してきている。(【図表】)

 

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事業承継が多様化する背景には、先に述べた民法改正もあるが、事業承継のフェーズそのものが創業世代からの引き継ぎではなく、第二世代から第三世代へのバトンタッチである点も大きい。日本に現存する企業は戦後の創業が多く、それらの企業の多くがいま創業60~70周年を迎えている。30年を経営の節目とした場合、2回目の節目を迎えているのだ。創業世代と第二世代の経営者では、事業承継に対する価値観が異なる。創業者にとって企業は自身の人生を賭した存在であり、理念も強い。後継者も血を分けた子息・子女にするという発想になりがちである。だが、第二世代の経営者はより合理的に考え、最も優秀なリーダーにバトンタッチする発想である。子息・子女がいないケースも多いが、いたとしても後継者候補の一人として捉えるのである。

 

いま事業承継の当事者である第二世代経営者は、多様化する選択肢の中で、歴史的にも初めて“後継者選択の自由”を手にしたと言ってよいかもしれない。企業の長期的な成長発展のためにどうすればよいのか、過去の慣習や前例にとらわれることなく、ゼロベースで考えることができるのだ。

 

ただ、自由ほど悩ましいものもない。経営上、最も重要な判断を要するだけに、しっかりとした理念やビジョンを持ち、目先の利害ではなく、正しい価値判断基準を持って対応することが求められる。この世代の事業承継の巧拙が今後、日本における中堅・中小企業経営の道筋をつくるだけでなく、日本経済全体の動向を左右する重要な要素になり得るからである。

 

ファミリービジネスとして存続するのか? 社員に承継するのか? またはM&Aで譲渡するのか? 多様化する選択肢の中で正しい判断をするためには、メリット・デメリットだけで答えは出せない。絶対的な価値観が必要となるのである。

 

ファミリービジネスとは何か

 

最後に、ファミリービジネスにおける社員承継の事例を紹介したい。ファミリービジネスとは何かを示唆するエピソードである。

ある中堅オーナー企業のA会長が、約半世紀にわたる務めを終えて退任した。齢90歳である。実質的な創業者として会社の成長をけん引してきたA会長も、ここ数年はめっきり憔悴して体調も崩したため、満を持しての退任となったのだ。

 

現在、経営の陣頭指揮を執っているのは、現場たたき上げのB社長。十数年前に社長の座をA会長から受け継ぎ、会社を力強く引っ張ってきた。B社長は体も声も大きく、創業経営者と言わんばかりの風格である。その父親も兄弟もみな経営者であり、“生まれながらの経営者家系”と聞く。事実、B社長は毎期、増収増益の経営を続け、慢性的な赤字部門を黒字化し、同社を経常利益率10%の体質に鍛え上げた。

 

そのB社長も間もなく80歳を迎え、次世代へのバトンタッチが必要な段階に入った。しかしながらオーナーのA会長には子どもがおらず、同社は今後、社員から社長を輩出していくしかない。B社長は就任以来、ずっと後継者の選任に頭を悩ませていたと言っても過言ではなく、事実、その候補者は二転三転し、なかなか腹落ちする結論を出すことができなかった。

 

そんなB社長が漏らした一言が象徴的である。「私はA会長の後ろ支えがあったから思い切り経営ができた。今後その支えがない中で経営していく後継者の大変さは、私の比ではない」

 

生まれながらにして経営者の資質を持ち、現場たたき上げの経験と実績を持つ辣腕社長ですら、創業家のバックボーンがなければ経営はできなかったというのである。

 

ここにファミリービジネスの本質がある。

 

創業家というのは会社が存在する理由そのものであり、“絶対的な”ものであるということだ。それに対しB社長は“相対的な”存在であるといえる。社員の中で能力が最も秀でていたから社長になったのであり、その打ち手も顧客ニーズに対して価値を提供する、前年比増収増益で会社を成長させる、赤字の部門があれば黒字にするなど、何をするにもそれは相対的に判断する次元なのだ。“相対的な存在”は、「絶対的な存在」がなければ、その価値を発揮することはできないのである。

 

経営は「不易流行」という。それは「絶対と相対」という表現に置き換えることもできる。今後、同社はその絶対的な存在を“創業者の理念”として言葉に残し、それを歴代社長が受け継ぎながら経営を展開していかなければならない。

 

それが長寿企業として存続する絶対条件となるのである。

PROFILE
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中須 悟
Satoru Nakasu
タナベ経営 経営コンサルティング本部 副本部長 戦略コンサルタント 戦略財務研究会 リーダー。「経営者をリードする」ことをモットーに、経営環境が構造転換する中、中堅・中小企業の収益構造や組織体制を全社最適の見地から戦略的に改革するコンサルティングに実績がある。CFPR認定者。