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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2018.02.28

中期経営計画に盛り込みたい新たな視点:田上 智則

 

「ポスト2020」に向けた中期経営計画

韓国・平昌で行われていた冬季オリンピックが閉幕した。次回大会は2022年、中国・北京で開催される。が、その前に大きな大会がある。言うまでもなく、2020年の東京オリンピック・パラリンピックである。

夏季オリンピック開催国は、開幕前年に景気が盛り上がり、閉幕後には不況へ陥るケースが多い。日本経済は現在、景気回復局面が戦後2番目の長さとなるなど堅調に推移しているが、2020年以降は過去の開催国と同様、一転して低迷に向かうというのが大方の見方である。

そのため私のコンサルティング先でも、“五輪特需”が?落する「ポスト2020」に備えて、今後3カ年の中期経営計画を真剣に検討している企業が多い。

中期経営計画を策定する中で、必ず付いて回るのが、新たな取り組み(新分野への展開や新規事業など)をどうするかである。既存事業の展開だけでは収益拡大が厳しいため、各社は新しい事業・商品・サービスの創出に知恵を絞るわけだが、固定観念に縛られ、なかなか良い案が出ないというのが現実だ。

 

「異」の要素を取り込む

本稿で私が提言したいのは、新たな取り組みの展開を検討する際、「異」の要素を取り込んでみるということである。例えば、他の社員とは異なる経歴を持つ社員、または普段から変わった考え方をする社員だ。このような人材を巻き込んでいくと、新たな発想が生まれやすい。

私が居住している石川県は、魚がおいしい地域として全国的に評価が高い。つい「このクオリティーを他の場所で味わうことは難しいだろう」とひいき目に見てしまうが、日本全国には石川県に勝るとも劣らない、おいしい魚が取れる地域は多い。近年、そうした全国の魚介類に着目し、小売店や消費者においしく届けるというビジネスモデルを構築している事例も増えている。そこで、鮮魚を題材に「異」の要素を取り込んだ2社を紹介したい。

 

 

異業界出身者が目を付けたもの

1社目が、東京・羽田空港内に魚の処理場を構え、全国から空輸で集めた鮮魚を小売店に提供している「CSN地方創生ネットワーク」。そしてもう1社は、山口県萩市の大島で漁師集団「萩大島船団丸」を展開する「GHIBLI(ギブリ)」である。

CSN地方創生ネットワーク会長の野本良平氏と、GHIBLI代表の坪内知佳氏には、共通点がある。実は両氏ともに、異業界の出身者なのだ。野本氏の実家は業務用食品卸会社を経営していたが、魚との関わりは少なかったという。また、坪内氏も以前は翻訳とコンサルティング業を手掛けており、結婚を機に萩市大島に移住した経歴の持ち主である。

2社に共通しているのは、取った魚を、船の上でひと手間かけた締め方をしていることだ。漁師にとってみれば、ひと手間かけて締めるという処理方法は生産性が悪く、これまで見向きもしてこなかった。しかし、このひと手間を掛けることで魚の状態を良好に保ち、それが顧客(小売店・消費者)から大きな価値として認められているのである。

なぜ、毎日魚を取っている漁師は、このことに気が付かなかったのか。そして漁師の経験がなかった2人は、なぜ気が付いたのか。また気が付くだけでなく、なぜビジネスとして形にすることができたのか。それは、漁師とは「異」なる経歴を持ち、漁師の「当たり前」に染まっていなかったからである。そして、取った魚を新鮮な状態で顧客へ届けるために、どうすればよいかという当たり前の発想を持っていたからこそ、ビジネスモデルを組み立てられたのだ。

 

今ある資源を生かして新たな展開

一般的に、中期経営計画の策定メンバーは、経営幹部と一部の幹部候補社員であることが多い。しかしながら、実務に精通するがゆえ、実務視点の発想から抜け切れず、斬新な案が出にくくなる傾向がある。

新たな取り組み(新分野への展開や新規事業など)といっても、マーケットや技術・販路を抜本的に覆すような、新規の「イノベーション」レベルである必要は全くない。私たちになじみの深い会社でも、既存の経営資源を活用して新たな展開を打ち出し、顧客にその価値が認められ、事業の柱になっている例は多い。(【図表】)

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視点を少し変えてみる

例えば、通信カラオケ最大手の第一興商が展開するカラオケボックス「ビッグエコー」では、一時のカラオケブームが落ち着きを見せていること、昼の時間の稼働が悪かったことから、日中はカラオケだけではなく軽い打ち合わせや電話会議もできるように一部機材を見直し、ビジネスパーソン向けのプランを用意した。もともとカラオケルームは防音機能が備わっているため、モニターにパソコンの画面が投影できるようになれば、打ち合わせルームに早変わりするという算段である。会社に戻らずとも、利便性の高い場所で機動的に打ち合わせができるという新たな価値を提供している。

また、眼鏡小売りチェーン大手のメガネスーパーは、「Zoff」(インターメスティック)や「JINS」(ジンズ)などの低価格チェーンが台頭する中、苦境に陥った。そこで、「安売り」という同じ土俵で戦うことをやめ、アイケアを軸に目の健康に対してトータルサポートをしていく体制に変えた。気軽に安価な眼鏡を何本も買う層ではなく、目に関するさまざまな悩みを持つ高齢者を主な対象顧客にして、顧客基盤を充実させている。

今ある資源を生かし切り、かつ新たな顧客基盤を得られる戦い方とは何か。新たな顧客基盤は、全くの新規顧客だけを意味するものではない。既存の顧客にも新たな商品・サービスを利用してもらうためには、どのような戦い方ができるか。その問いに対するさまざまな発想を持ち得る、「異」の要素を持った人材を巻き込み、その発想を施策としていかに形にするかが重要だ。イノベーションではなく、「異能ベーション」に取り組んでみよう。
 

 

 

 

PROFILE
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田上 智則
Tomonori Tanoue
タナベ経営に入社後、人事処遇制度構築、中期経営計画策定・実行支援、幹部・中堅リーダー育成の分野に多く携わる。モットーは「ご縁をいただいた企業に対して誰よりも責任を持ち、品質の高いコンサルティングを提供する」。