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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2018.01.31

人と組織を成長させる「活躍の場」の与え方:ドメイン&ファンクションコンサルティング部

 

人材確保の課題は慢性化する

現在、多くの企業で経営課題として挙げられるのが「人材確保」である。生産年齢人口(15~64歳人口)は2010年には8103万人であったが、2016年には約450万人減少し、7656万人となっている(内閣府「平成29年版高齢社会白書」)。人口の減少トレンドは今後も避けることができず、人材確保の課題は慢性化すると予想される。(【図表】)

現状、採用に注力している企業は多いが、同時に既存社員をこれまで以上に活躍させることも、あらためて検討していただきたい。将来の人材確保と同様、自社の現有人材をいかに活躍させ、これまで以上に会社に貢献してもらうかが問われている。その方法や活躍の場の与え方も研究していく必要がある。

本稿では、既存社員をさらに活躍させるポイントをお伝えしたい。

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社内研修から上がった改善テーマを実務で推進させる

A社は幹部層が高齢化しており、次世代管理者の育成が急務であった。そこで、中堅社員の長期教育を行っている。管理者としてのあるべき姿など基本的な管理者研修がメインだが、自社の問題点やその解決に向けたディスカッションを行い、役員陣へ提言することもカリキュラムに入れられていた。

中堅社員が役員に提言した内容は、「属人的な組織風土であり、基準やルールが明文化されていない。そのため、品質や業務効率が高まらない」というものであった。その提言内容を役員メンバーも真しん摯し に受け止め、研修メンバーに、引き続き課題に向けたマニュアルづくりや基準、ルールづくりを進めてもらうことにした。

中堅社員らは、役員が真摯に提言を受け止めてくれたことでモチベーションと自発性が向上し、多忙な中、ディスカッションや分析調査を行った。課題のある業務についてマニュアルを作成し、品質と生産性向上に対し現在も懸命に取り組んでいる。また、メンバーは幹部候補としての自覚が芽生え、社内でリーダーシップを強く発揮するようになった。

【成功のポイント】

(1)研修を研修で終わらせない、実務に直結させる取り組みを行う

(2)中堅社員に提言の機会を与え、その内容を真摯に受け止める

(3)メンバーへの期待と実施事項を明確に示す

 

 

やる気の高いメンバーは既存組織からスピンオフさせる

B社は自由な組織風土だが、属人的で業務の役割分担も不明確。それぞれが自分なりの範囲の中で業務を遂行しており、組織横断で体系的に取り組むべきことや大きな投資が必要なものはトップが常に考え、現場に指示を出していた。

しかし、市場が変化するスピードは年々速くなり、技術革新も進むにつれ、これまで以上に全社で取り組まなければならないテーマが多くなってきた。幹部候補メンバーの中には、そのような市場動向や技術動向に危機感を持ち、自主的に勉強会を開くなどやる気の高いメンバーもいた。ただ、縦割りの組織の中で個人の推進力に頼ったものになっていた。

そこで、やる気の高いメンバーを社長直轄のプロジェクトのリーダーに据え、さまざまな経営課題に取り組ませた。同プロジェクトにはもともとモチベーションが高いメンバーが集まっていたが、社長直轄プロジェクトということもあり、これまで以上に業務推進スピードが高まった。リーダーを中心に、難しい経営課題(組織横断で体系的に取り組むべきことや大きな投資が必要なもの)を次々に改善していったのだ。

プロジェクトの成果としては、経営課題を解決したことや、戦略の推進スピードを向上したことなどが挙げられる。経営陣も評価しており、プロジェクトに経営企画としての役割を与え、全社視点での課題解決を継続的に進めている。結果として経営者感覚や全社視点を持った幹部育成の場となっている。

【成功のポイント】

(1)やる気のあるメンバーは既存組織からスピンオフさせ、その能力を十分に生かす

(2)「何をやるかよりも、誰がやるか」の判断基準で業務を割り振る

(3)経営課題の解決を通した人材の育成

 

 

若手社員に委員会の事務局などを任せる

C社では「3S(整理・整頓・清掃)委員会」を立ち上げ、部門横断的な社内活動を行っている。3S委員会は中堅社員を中心に構成されていたが、3Sの浸透を狙うため、若手社員にも参画してもらうこととした。

3S委員会に参画していた若手社員の中で、最も若い入社3年目の社員に事務局を担ってもらうことにし、その上で事務局業務(経営トップや幹部への報告、社内メンバーのスケジュール調整など、さまざまな場面でリーダーシップを発揮しなければならない)を理解してもらうようにした。

事務局を任された社員は、毎月の委員会活動でしっかりと準備を行い、スケジュール調整や提出物が遅い他のメンバーには指摘を行うなど、実によくリーダーシップを発揮した。

その若手社員は事務局業務を通して、調整力、リーダーシップなどさまざまな面で成長した。その成果に着目した経営陣は同様に入社年数の浅いメンバーを委員に人選し、委員会そのものを若返らせた。本来の3S委員会のミッションに加えて、若手育成というダブルミッションとして社内で定着している。

【成功のポイント】

(1)年齢に関係なく組織横断的な業務やリーダーシップを発揮する場面を与える

(2)1つの活動に複数のミッションを与える

(3)人材育成視点で実務を通した活躍の場を与える

以上、3つの事例を紹介したが、まだまだ社員への活躍の場を与える方法は存在する。通常のルーティン業務だけでは社員の能力が100%以上、発揮されていないかもしれない。幹部候補や若手社員に活躍の場を上手に与えることができれば、今まで生かされなかった社員の能力が発揮されることが期待できる。

そのためにも、経営陣は「人材育成視点」に立ち、幹部候補や若手社員に活躍の場を与えていただきたい。