技術革新がもたらす破壊的衝撃
10年前まで、人の手で情報を入力しないと機械は動かなかった。今は機械が情報を収集、分析、発信して稼働するようになった。「モノによるモノのための、モノの情報システム(=IoT)」の出現である。また、AIがディープラーニング(深層学習)技術によって、「カンブリア大爆発」※さながらの進化を遂げている。
今後、技術革新はかつてないスピードで拡散する。これに伴い、従来になかったさまざまなプラスマイナスの影響が出てくるだろう。例えば、AIによる自動運転技術の普及は事故件数と死傷者数の減少、医療費負担の低下をもたらすが、雇用の消滅(運転手)や自動車保険事業の存続危機も訪れる。やがて「人が運転すると違法」になる時代が来るかもしれない。
ビジネスへの応用速度が加速化し、事業・製品のライフサイクルは短くなり、企業は素早い意思決定と資源投入を強いられよう。次に、今後予測される技術革新とその影響を記載する。
(1)「中抜き」の加速
製品やサービスへのアクセス、発見、流通のプロセスが著しく削減され、製品やサービスが最終消費者まで届く流れは一層短くなる。効率的な流通システムの出現と参入障壁の低下により、個人、起業家、既存企業の市場参入や新規ビジネスモデルの実験を加速化させていく。
(2)サブスクリプション(定期購読)型ビジネスモデルへの転換
メンテナンスや消耗品の供給、定額会員制など、長期的に収益を得るビジネスモデルの構築が進む。日本はハードウエアやものづくり力をてこに、現場データを持つ強みを最大限に生かし、顧客へ迅速にソリューションを提供することが差別化のポイントとなる。
(3)既存主要産業の衰退リスク増大
自動車産業を大きく変える4要素「CケースASE」(Connected:つながる車、Autonomous:自動運転、Shared&Service:カーシェアリング、Electric Drive:電動化)の進展は、技術上の参入障壁(複雑な内燃機関など)に守られてきた競争条件を根底から覆す恐れがある。またフィンテックは、既存の金融システムを侵食することも懸念される。
(4)価値の源泉となるデータ
GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)など大規模プラットフォームのバーチャルデータの利活用に加え、個人の生活情報や製品・設備の稼働状況などの「リアルデータ」を巡る競争にシフトする。これまで想像もしなかったサービスが誕生する一方、プライバシーやセキュリティーのリスクが懸念される。
(5)シェアリングがもたらす社会変革
ライドシェアや民泊など、シェアリング(共用)とマッチング(引き合わせ)の機能を活用したビジネスモデルが誕生している。例えば、ネット通販では商品の小口配送が人手不足でボトルネックになっている。そこで、その地域に住む主婦や学生が空いた時間に配送を請け負う「物流シェアリング」が動きつつある。
第4次産業革命と日本のポジション
第4次産業革命のコア技術(IoT、ビッグデータ、AI、ロボット)が全産業の共通基盤技術となれば、既存のビジネスと結び付くことで新たな価値を創出する。そのため、今まで対応し切れなかった「社会的・構造的課題=真の顧客ニーズ」への本質的対応が可能になると期待されている。具体的には、
①個々のカスタマイズニーズ対応(個別化医療、即時オーダーメード服など)
②社会に眠る資産と個々のニーズをマッチング(Uウーバーber、Airbnbなど)
③AIによる人間のサポート・代替(自動走行車、ドローン配送など)
④製品やモノのサービス化(センサー活用による稼働・保全サービスなど)
⑤データ共有による飛躍的効率化(生産設備と物流・決済システムの統合など)
――を可能にする。
いずれにせよ、新たに生み出される価値の源泉は「データ」にシフトしていく。そのため、データの取得やビッグデータ分析、利活用のサイクルを回し、真のニーズへ対応できる革新的製品・サービスを、いかにスピーディーに生み出せるかが、競争優位の鍵となる。
製造現場でのリアルデータの利活用を巡っては、情報産業の強みを生かして「ネットからリアルへ」と進む米国、また製造業の強みを生かして「リアルからネットへ」と進む欧州が、それぞれグローバル戦略を展開している。日本の場合、企業・系列・業種の壁や自前主義が温存され、グローバルなデータ利活用の基盤であるデータプラットフォームを海外に依存せざるを得ない状況だ。そのため海外のプラットフォーマーが付加価値を独占し、そのプラットフォーム上で日本企業が「総下請け化」し、ジリ貧に陥る懸念が高まっている。
今後、バーチャルデータの利活用に加えて、リアルデータを巡る「データ競争第2幕」へ移行する。その中で、良質かつ豊富なリアルデータを生み出す「現場力」を最大限に生かし、第4次産業革命をリードする競争優位の構築が求められる。
第4次産業革命における基本戦略
データ競争第2幕に移行していく今、日本企業が生かすべき強みは次の3点である。
①活用可能性が高い多様なリアルデータの蓄積(現場や市場で起きていることを丁寧に拾い上げ、新たな価値を生み出す)
②「モノ」の強さ(顧客ニーズやデータをつかむ幅広い産業、技術の集積、人材、品質に厳しい消費者などを背景に、先進技術をいち早く取り込んでモノを刷新し続ける)
③世界に先駆ける社会的課題の存在(デフレや少子高齢化などを、どの国・地域よりも早く解決することで、グローバルにソリューションを展開できる可能性がある)
政府は2017年5月に公表した「新産業構造ビジョン」の中で、日本が第4次産業革命をリードするための戦略分野として、「移動する」「生み出す、手に入れる」「健康を維持する、生涯活躍する」「暮らす」など4つを掲げている。
世界の重心が「西(欧米)から東(アジア)へ」と移りつつある中、国内は「成熟かつ安定した社会の実現」か「閉塞感の中での衰退」かの分岐点にあり、構造改革に向けた正念場を迎えている。企業経営においては、第4次産業革命の波を的確に捉え、ビジネスモデル革新を図るため、政府が掲げた戦略4分野をはじめ、自社の経営資源が有効活用できる成長分野をいかに取り込むかという視点が欠かせない。
最近の成功例を見ると、まず成長分野に参入してから経営資源や強みを生かす、いわば「マーケットイン型発想による新規参入(成長エンジンの取り込み)」を果たすケースが多く見られる。成長エンジンの取り込みに向け「新たなコア技術を増やして他分野へ進出」することも、企業の持続的発展において不可欠な経営技術といえよう。
※ 古代カンブリア紀(5億4200万~5億3000万年前)の1200年間に生物の種類が激増した現象