中堅・中小建設会社の働き方改革(業務の平準化):経営コンサルティング本部
国家戦略となった「労働生産性の向上」
安倍内閣が現在、経済対策で最も注力しているのが「労働生産性の向上」である。政府は2017年5月24日に「生産性向上国民運動推進協議会」を創設し、同日に首相官邸で第1回目の会合を開催した。会の冒頭、安倍総理は「オールジャパンで生産性向上を進めていく」と述べ、人手不足の課題を克服するには、労働生産性の向上しかないと力説した(首相官邸ホームページより)。
日本は、「Karoshi(過労死)」が英語の辞書に載るほど長時間労働で知られる一方、労働生産性がOECD加盟35カ国中22位(2015年、日本生産性本部調べ)と先進国の中で際立って低い。しかも日本は2030年にかけて、生産年齢人口の減少が加速していく。働き手が減る中で経済成長を持続するには、企業各社が従来の働き方を改め、少数精鋭主義で成果を上げていくことが求められる。
では、労働生産性が最も低い産業はどこだろうか。それは「建設業」である。国土交通省が「国民経済計算」(内閣府)を基に作成した資料によると、建設業の就業者数・時間当たり付加価値労働生産性(2015年)は2752円。2011年から上昇傾向にあるものの、「全産業」(4409円)の約6割、「製造業」(5228円)の半分程度にすぎない。
建設業を巡る「働き方改革」
建設業の労働生産性が低い要因として挙げられるのが、先述した長時間労働だ。厚生労働省の「毎月勤労統計調査(年度報)」から建設業の就業状況(2016年度)を見ると、年間実労働時間は2056時間、年間出勤日数は251日。調査対象産業平均と比べ、労働時間は336時間長く、出勤日数は29日多い。つまり建設業の就業者は、他産業より1カ月多く働いていることになる。日本建設業連合会の調査(2015年)では、建設工事の約65%が法定休日(4週4休)以下で就業している。
これは建設業が労働基準法の定める「36協定」(時間外労働に関する労使間協定)の残業上限(月45時間かつ年360時間)の適用除外業種となっているためだ。そのため政府は2017年3月28日に決定した「働き方改革実行計画」で、労基法を改正し猶予期間(改正法施行後5年間)後に建設業を残業上限(罰則付き)適用業種へ移行させることにした。
こうした動きを受け、日本建設業連合会(以降、日建連)は9月22日、長時間労働の是正に向けた行動計画案をまとめた。改正労働基準法が今年度中に成立し、2019年4月から施行されることを前提に、自主規制などで時間外労働を段階的に削減。2021年度末までに建設現場で週休2日制を実現する目標を設定した。
先般の臨時国会での衆院冒頭解散・選挙実施により、改正労基法案の提出・審議が先送りされた。ただ、時間軸がずれるだけであり、「働き方改革」関連法案がいずれ成立することは間違いない。建設業界の働き方改革は「待ったなし」であり、先延ばしせず日建連の行動計画に基づき、時間外労働の削減を進めるべきだろう。
業務のムラをなくす平準化
今年10月に、私がある大手建設会社の現場代理人から聞いた話である。彼は、「建設現場は慢性的な人手不足だ。7年前は3人で行っていた現場を、今は2人で納めなければならなくなった」と言う。一方で、会社側は残業時間の削減や週休2日の励行を推し進めており、時間管理を徹底的に行っているそうだ。例えば、現場係員が一定の残業時間を超えると、所長が本社(東京)に呼び出され、マネジメント能力を問われるようになった。その徹底ぶりに、現場は戸惑い、本社への不満の声も上がったという。しかし、本社は半強制的に時間管理を行い、全社を挙げて残業の削減に努めた。
その結果、何が起こったか。月当たりで少なくとも残業時間が30時間減り(約4日分の休日を確保)、週休2日制も竣工期を除いて実現した。にもかかわらず、「現場の運営上、不具合は何も起こらなかった」とのことである。現在は「フレックスタイム制度」も導入し、現場で長く働いてもらえるような仕組みを構築中という。
このような事例に対して、「それは大手だからできることだ」と思われたかもしれない。しかし、大手企業も中堅・中小建設業と同様に現場のスピード感が求められており(組織の規模が大きいだけに難しい)、実際に工期も厳しいのが現実である。とはいえ、中堅・中小建設業に適した「働き方改革」が存在する。それは「業務の平準化」である。
仕事には必ず「繁忙期」と「閑散期」がある。建設現場の場合、着工前の準備から施工、そして竣工期を迎え、現場を納める過程において、竣工期が繁忙期に当たるだろう。まず整理すると、建設会社、特に元請け会社は次の流れで業務に従事している。
〈着工前〉
施工図・工程表の作成、購買業者との金額折衝、安全ルールの策定
〈着工後~施工中〉
工程通りに現場を進めるための現場管理や突発業務の処理
〈竣工期〉
竣工図書の作成、社内・社外の受け入れ検査準備、工程の遅れを取り戻すための突貫工事(現場管理の時間増、長時間労働の発生)
建設業では、工程進捗の報告や安全パトロールなど標準化されている業務も存在するが、仕事の進め方はバラバラで属人化している場合が多い。業務が平準化されていないために、人によっては竣工期に業務が集中し、深刻な長時間労働を招いている(そのような事態に陥る人はおよそ決まっている)。この問題を解決するための方法の1つが、「業務の平準化」である。
平準化の進め方
平準化とは、業務のムラをなくすことで、仕事の流れを文字通り「平らにする」ことだ。建設業の場合、先に挙げた特殊性を考慮すると、「全ての現場に対応させる」より、現場の状況に応じた平準化が適切である。次に、現場ごとで平準化するための手順(ステップ)を紹介していこう。
〈ステップ1〉トップをリーダーに据え、チームをつくる
組織を動かす上で、最も影響力があるトップを委員長に据えた「働き方改革」チームをつくり、全社員に「働き方改革を行う」ことを宣言する。チームメンバーは、施工に関わる各部門長、もしくは工事長など現場代理人をマネジメントする人物を選ぶ(やる気があっても、中堅社員で構成されたチームはうまくいかないケースが多い)。
〈ステップ2〉モデル現場を選定する
全ての現場で一気に平準化を進めようとすると、チームと現場代理人の負荷が予想以上にかかる。初めはモデル現場で行うとよいだろう。
〈ステップ3〉竣工時に必要な業務を共有し、進捗管理すべき業務を整理する
竣工期でバタつく業務を中心に、必要な書類を洗い出し、共有する。人によっては、施工中は現場を納めることに手いっぱいで、竣工期にまとめて竣工業務を行っている。平準化を進めるために「施工中に竣工業務を同時並行で進める」ためのチェックリストを作成する。その際、チェックする頻度も決める。
〈ステップ4〉モデル現場でPDCA を回す
チェックリストに基づき、モデル現場のPDCA を回す。追跡調査の方法はさまざまだが、具体例としては、
(1)月に1度の会議で報告する
(2)メンバーによる現場パトロール
(3)SNS を利用した報告
――などが挙げられる。ただし、会社の実情に応じたPDCA 体制の構築が成否を分けると言っても過言ではないため、ここは慎重に決めていただきたい。
社員全員が目線を合わせ、働き方改革を実施していく手段として、また竣工期のバタつきをなくすためにも、「現場業務の平準化」に取り組んでほしい。個々の現場によって特殊性が存在するのも確かだが、施工における一連の流れは必ず平準化できる。