持続的成長の条件
(1)押さえておきたい環境変化
企業は環境適応業だ。全ての経営者は、環境変化にあらがうことはできない。従って、今後起こり得る環境変化を押さえておく必要がある。現時点で想定できる主な変化は次の通りだ。
まず、少子高齢化の進展で労働力人口の減少が加速し、人材不足・採用難が続くと予想されている。次に「働き方改革」。仮に、1日平均12時間労働で事業が成立しているとすれば、今後は3分の2の8時間労働で今以上に業績を上げなければならない。
さらに、東京オリンピック・パラリンピック以降は経済縮小が懸念されている。そして消費そのものに興味が薄い世代の増加で、マーケットの成熟化が進む。加えてAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの技術革新によって、付加価値を生まない企業が淘汰されていく。
(2)持続的成長のための5条件
こうした環境変化の中にあっても、企業は成長を続けなければならない。その際の重要な持続的成長条件として、次の5つを挙げたい。
①戦略検討での優先順位
戦略検討における優先事項は「既存事業の維持・新規事業による拡大」ではなく、「既存事業の進化」である。
②経営資源の活用
①に関連して経営資源の活用に着目する。新しいことを一から始めるのは時間と労力を要する。実行スピード・実行容易性の視点から、既存事業を含めた経営資源の活用に着目したい。
③生産性の高い事業
例えば、拠点を増やして事業規模を拡大するといった人ありきの拡大策は、人材不足・採用難の時代には適さない。現状からの生産性向上が必須である。
④収益性の改善
スポット収益は不安定で、業績安定化に向けたベース・ストック収益(月額など定期的な収益)の基盤を構築する。
⑤ユーザー満足度の最大化のみにフォーカス
自前主義にこだわらず、顧客・ユーザーの満足度を最大化するために、ベストなパートナーの選択を考えることが持続的成長につながっていく。
既存事業強化に向けた「プラットフォームビジネス」の取り組み
(1)プラットフォームビジネスとは
プラットフォームとは、「土台」「基盤」や「場」を意味する。具体的には、Amazon.comや楽天のように「不特定多数の顧客向けに多くの企業が参加し、複数の製品やサービスを展開するEC(電子商取引)サイト」が一般的な認識といえる。
もっとも、そうした大規模サイトを構築し、かつ成功できる企業はわずかだ。そんな一握りの仲間に入ろう、と言いたいのではない。出発点は既存事業であり、到達目標点は、既存事業の強化による「ネクストステージ」への進化である。
(2)PFBの考え方
では、既存事業の進化につながるプラットフォームビジネス(以降、PFB)はどういうものか。例えば、あなたが企業向け仕出し弁当配達業を営んでいる(既存事業)とする。ジャンルは和風弁当で、取引企業は500社あり、利用者はメニューを見て事前予約する。事業を拡大するには利用頻度を上げなければならないが、毎日和風弁当では利用者も飽き、頻度が高まらない。
では、どうすればよいだろうか。
利用者視点でいえば、素材の工夫よりも中華や洋食を提供することだ。自前主義にこだわらず、500社という顧客基盤を中華や洋食が得意な企業に活用してもらう代わりに、顧客基盤使用料(ストック収入)を徴収する。つまり、顧客基盤をプラットフォーム化する。これがPFBの考え方である。
(3)PFBの3つのメリット
①定額利用料による「安定収入源の確保」
プラットフォームから「月額〇万円」などの定額利用料を得ることで、安定ベース収益基盤が構築できる。
②商品・サービス拡大による「顧客満足度の向上」
自社単独によるサービスは、提供範囲に限界がある。顧客ニーズの全てを自社で賄うことは、ほぼ不可能に近い。多くの企業に見られる「ワンストップソリューション」は果たして、顧客ニーズを満たしているだろうか。商品・サービスの押し売りになっていないだろうか。「脱自前主義」で他社にプラットフォームを開放する方が、顧客満足度は高まり、結果として売り上げと利益の拡大につながる。
③サプライチェーン主導による「価格決定権の獲得」
言うまでもなく、サプライチェーンで主導権を握る(発言力が強い)企業が、チェーン全体の価格決定権を持つ。日用品であれば川下の小売り、原材料の手配が大規模かつ難易度が高い業界であれば、川上の原材料メーカーが主導権を持つ。PFBではプラットフォームを提供する企業が、それを利用する企業よりも優位に立ち、価格コントロールが可能となる。
PFBにおける3つの事業モデル
PFBは3つのパターンに大別される。次に挙げるモデルは、実際にコンサルティング現場で提案してきたものである(業界・内容は一部加工している)。
(1)サービス追加型モデル
自社のプラットフォーム上で他社の力を借り、顧客満足度の最大化を実現するモデル。リフォーム会社がOB客向けに経年劣化の点検だけでなく、シロアリ調査や年末大掃除の粗大ごみ引き取りなど、ニーズの多いサービスを定期メンテナンスに含めてパッケージ化し、月額定額制で提供する。シロアリ駆除やごみ回収はプラットフォームを利用する専門事業者が行う。つまりOB客とサービス事業者の双方から収益が得られる。OB客をプラットフォームとして活用する事例である。
(2)サービス併設型モデル
グリコがオフィス向けに展開している「オフィスグリコ」は、3段の菓子箱を設置して、社員がいつでも購入できるサービスである。箱の高さを5段にし、残り2段を他社に場所貸しすることで、2段分の定額利用料が得られる。企業のオフィスで確保している職域販売スペースを、プラットフォームとして活用する事例である。
(3)マッチングビジネスモデル
ある溶剤販売商社は、急な加工が必要な部品メーカーと、供給に余力がある工場を結び付けるプラットフォーム(マッチングサイト)を構築。成立した場合は決定案件に対して溶剤を販売する「三方よし」モデルを展開している。
同社にとっては案件ごとの溶剤販売に加え、工場の会員登録料によるストック収入や、遠方・小口取引先からの受注を効率的に集めることが可能となる。一から工場を開拓するのではなく、これまでに取引実績のある工場をプラットフォームとして活用した、既存事業延長型の事例である。
【図表】は、これまで述べてきたことを体系化したものである。自社の既存事業を強化する際の参考にしていただきたい。新規開拓や提供する商品・サービスのさらなる強化も確かに重要である。しかし、自社が有している事業基盤のプラットフォーム化は、現状の経営資源を活用するものであり、敷居は低く、期待できる効果が高い。ぜひ、既存の経営資源によるプラットフォーム化に取り組んでみてほしい。