17ご支援内容
DXにイノベーション、グローバル、マネジメントなど「○○人材」の確保・育成が、持続可能な企業経営・事業発展には不可欠になっています。一方で国内では少子高齢社会が到来し、今後さらに労働力減少が進み、大都市圏以外の地方都市では人材不足がより深刻な課題となっていきます。
時流や社会ニーズ、経営環境や産業構造が急変するなか、経済産業省が2022年5月31日に「未来人材ビジョン」を公表しました。2030年に向けた現行の社会システムからの転換点と、2050年からのバックキャスティングによる新たな社会システムの創出プロセス、2つの目線に立って未来を支える産業人材を確保・育成する方向性と、取り組むべき具体策のビジョンを示しています。
特に、多様性や成長性を重視する企業はイノベーションによる売上高が全体に占める比率が高いこと、技術革新により必要となるスキルと現在のスキルとのギャップ認識が高いこと、そしてイノベーション創出のために日本企業が感じる人材マネジメントの最大の課題は「人事戦略が経営戦略にひも付いていないこと」と提言しています。
こうした現実に直面する課題やその解決への取り組みは、個々の企業だけでなく、地域産業の維持・発展による地域創生・活性化に取り組む地方自治体にとっても、共通するテーマとなっています。愛知県豊橋市は全国に先がけて、地域の未来を担う人材の確保やその成長・定着につなげる仕組みづくりとして、「とよはし未来産業人材プロジェクト」を始動しました。「とよはし未来産業人材プロジェクト」では、市内の人材育成に積極的に取り組んでいる人材育成推進宣言企業を対象に、DX経営戦略講座や経営幹部人材育成支援補助金といった講座受講支援をはじめ、人材育成交流会、人材育成に関する相談窓口、さらに人を育てる仕組みのロードマップづくりへの個別伴走など、多彩な支援プログラムのスキームを確立しています。
「すべての人材に経営力を」と提言し続けるタナベコンサルティングは、豊橋市から「とよはし未来産業人材プロジェクト」の運営委託を受け、各プログラムのカリキュラム作成からコンサルタント講師による指導、事業全体のスムーズな運営や広報、地域の専門家との連携など、トータルでスムーズな事業推進をサポートしています。
ご支援内容のポイント
お話を伺った人
豊橋市
産業部 地域イノベーション推進室 喜多 亮介 氏
地域イノベーションを起こす人材を確保・育成・定着させる「とよはし未来産業人材プロジェクト」
――2024年度から人材育成推進宣言企業制度の施行を皮切りに「とよはし未来産業人材プロジェクト」を推進しています。
喜多 全国の地方自治体と同様に豊橋市も、10年間で人口が1万人近く減少しています。また、デジタル化など社会情勢が変化するなかで、地域産業が今後も持続的に発展していくには、変化に対応できるイノベーション人材が不可欠になります。
直面する課題の解決へ、5年前に地域イノベーション推進室が発足しました。地域産業の持続的な発展へ、既存事業の改善や新事業の創出が継続的に生まれる、地域イノベーション・エコシステムの形成がミッションです。そして今回新たに、人材育成に積極的に取り組む企業を支援する「とよはし未来産業人材プロジェクト」を立ち上げました。事業の根幹である人材育成推進宣言企業制度は、市内に本社、本店、支店又は事業所などを有する法人及び個人事業主が、従業員の学びを促進する環境づくりやキャリア形成の支援など、すでに取り組んでいる項目と新たにチャレンジする項目を3つずつ選び、新たにチャレンジする項目における取り組み内容を宣言する制度です。
――宣言企業を主対象とする人材育成支援事業を推進するきっかけは、2年前に市内企業向けに実施した「豊橋市学び直し基礎調査」でした。
喜多 「人材育成が進まない」「取り組めない」との回答が半数近くを占めました。その理由として「時間を確保できない」「そもそもノウハウや仕組みがない」という声が多く、改めて「このままではいけない」と課題意識が高まりました。
市も事業者も、地域の人材を育てたい、という目指すべき方向性は同じです。地域全体で人材育成の機運醸成を図るために、まずは宣言企業を中心に集中的に支援を強化していこうと考えました。研修会などの単発事業だけで終わるのではなく、DX経営戦略講座やリスキリング実践セミナー、人材育成交流会、相談窓口サービス、伴走支援コンサルティングなどのプログラムで構成する、新しい「学びと交流の仕組みづくり」の支援事業スキームを描き出しました。
「人材の悩みは自社だけじゃない」と気づき、自然発生的に事業者同士のネットワークが誕生
――支援事業の実効性を高めるために、月1回の定例協議会など密に連携して進めました。
喜多 スキームの中身は、行政の私たちよりもタナベコンサルティングがはるかに知見もノウハウもあります。6月のプロポーザルから10月の事業開始までタイトなスケジュールでしたが、互いにフィードバックやディスカッションを重ねることで、現在進行形でより良くしながらスムーズに推進できた、と実感しています。
――2024年10月、伊藤羊一氏の講演会を皮切りに各支援事業がスタートしました。講演会には378名が参加し、人材育成交流会も募集定員を超える参加者が集まりました。
喜多 講演会はより多くの方に、事業や人材育成の重要性を知っていただく狙いがありました。新たな仕組みづくりで最も高評価を得たのが、人材育成交流会(全6回)です。宣言企業でなくても、経営層や人材育成に関わる方なら誰でも参加できますよ、と門戸を広げることで、業種や企業規模を問わず多くの事業者が集まり、回を重ねるごとに参加者が増えました。
特に、タナベコンサルティングから紹介を受けた経営者ゲスト講師の講話や、市の「経営幹部人材育成支援補助金」を活用中の地域事業者による人材育成研修の事例発表が好評でした。ワークショップも、自社の現状をオープンにさらけ出しながら失敗や苦労を共有することで、「悩んでいるのは自社だけじゃない」と気づく場にもなりました。「リアルな声が聞けて、とても良かった」と、自社に持ち帰ったらどうなるか、を考える事業者同士のネットワークも自然発生的に生まれています。
――個別の伴走支援コンサルティングは、豊橋技術科学大学・宮本弘之教授の協力も得て、モデル企業を創出する狙いもありました。
喜多 伴走支援は、人材育成の優良事業者のモデル企業化を目指して、宣言企業を対象に5社に呼びかけて半年間、実施しました。タナベコンサルティングには事前に、5社それぞれの課題を抽出し現状をしっかり棚卸ししてから、どんなスケジュールやアプローチで育成を進めればいいのか、解決策を導き出せるようにリードして欲しい、とお願いしました。その通りに、タナベコンサルティングは宮本教授と方向性をすり合わせてくれました。
地域産業を熟知する学術研究者の知見と、経営・人材育成のエキスパートのノウハウ。それぞれのポテンシャルをうまく掛け合わせることができ、一定の成果が得られたと思っています。
研修会の様子
「個人に学びを任せっきりにしない」宣言企業が増加し、プロジェクトを継続事業へ
――支援事業終了後の参加者アンケート調査を踏まえて、2025年度もプロジェクトを継続事業として実施する計画です。
喜多 アンケート結果は総じて好評でしたし、基本的には評価が高かった支援プログラムを重点化していきます。好評だった人材育成交流会は、実施回数を増やし、内容もグループワークなどネットワークの拡充に主軸に置くように変更予定です。
講座に関しては、DX経営戦略講座に絞り込み、回数も増やします。先進事例の紹介や実効性あるアクションプランづくりなど、経営戦略へのDXの落とし込みと実践可能な推進体制の構築を支援していきます。
――相談窓口サービスは、「待ち」の姿勢から積極的なアプローチに転換していきます。
喜多 2024年度の反省を踏まえた変更点です。メールアドレスと専用フォームで受け付けた相談窓口サービスは、半年間で相談件数100件をKPIに掲げましたが、実際には5件と伸びませんでした。相談案件がないわけではなく、「どう相談すればいいか、わからない」「顔が見えない相手には、相談しにくい」との理由でした。
そこで2025年度は、講座内容の疑問点や交流会で得た気付きの深堀りなどに相談窓口を活用していただくよう促すことや、経営者等が抱える人材育成の課題をテーマとした個別相談会を実施するなど、「待ち」ではなく積極的なアプローチ姿勢に切り替えます。相談件数が少ないからやめよう、ではなく、宣言企業の悩みや課題を積極的に引き出し、解決を図るために、タナベコンサルティングにも協力を得て地道に泥臭くサービス活用を促していくところです。
――人材育成は社内に仕組みをつくり中長期的に定着することが、本来の成果です。
喜多 DX化も広義の人材育成と位置付け、個人に学びを任せっきりにしない自社スキームが必要です。そのことを経営層が理解し、業務中に学ぶ時間を確保するなど人材育成の機運が高まれば、宣言企業も増え、本市の産業が持続的に発展していくと仮説を立てています。
宣言企業は81社(2025年4月15日現在)へと着実に増え続けていますし毎年、自社が決めた人材育成テーマの進捗度や未達成を、目に見えるかたちで振り返りができるのが特徴です。支援事業に「今年も参加したい」との声がたくさん届いているのは、嬉しいですね。
優良モデル企業が地域のメンターとなって、伴走による「支援」から将来は「自走」へ
――とよはし未来産業人材プロジェクトのさらなる展望を教えてください。
喜多 公共性ある市行政の取り組みとして、年度が替わっても切れ目なく、が事業者の目線に立つ時には大事になります。機運醸成を目指した2024年度を土台に、2025年度は内容も絶えずアップデートしながら、事業の内容や成果、宣言企業の取り組みを、ブログなどで対外的に発信していく計画です。
一方で、永続的に続ける事業ではない、とも考えています。支援事業をきっかけに、伴走支援から自走化していくことが必要です。支援した事業者が自走する優良モデルとなるだけでなく、自走を目指す事業者に伴走するメンター的な役割も担っていく。そんな地域事業者のネットワークや交流が生まれ、行政の手が離れても大丈夫になっていくのが理想の姿です。将来的には、モデル企業の取り組みをデータベース的に公開していきたいですね。
――タナベコンサルティングに対する評価や今後への期待をお聞かせください。
喜多 何よりも、私たちが目指す事業の目的やゴールを明確に理解してもらえたのは、凄くありがたいことでした。
講座や交流会、伴走支援のいずれも参加者に好評で、「さすが、タナベコンサルティングさん」という声を何度も耳にしました。実際に会場に足を運んで参加してもらえたら、満足も納得もできる内容だと私も実感しましたし、今後は事前周知する広報にも注力していこうと考えています。
――労働力の減少と地域産業の振興は全国共通の課題です。豊橋市が推進する「学びと交流の仕組み」やモデル企業が育つ成果は、他の地方自治体にも地域イノベーションの良き道標になっていきます。
喜多 人材育成をメインテーマに掲げ、仕組み化まで進める取り組みはまだ少ないと思います。ただ、本当に人を育てることができなければ、地域産業が持続できない課題感とその解決アプローチは、避けては通れないものです。特に、都道府県と比べて市町村は、地域の方々と近い距離感で、より深い関係性を掘り下げていける存在です。
人が育ち、若い方々にとって魅力ある企業に成長し、人材確保につながり、地域に優良企業が残り持続していく。そして、育った人材が地域に定着するところまでが、仕組み化の大事な鍵になるでしょうね。
――本日はありがとうございました。
PROFILE
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- 豊橋市(愛知県)
- URL:https://www.city.toyohashi.lg.jp/
- 所在地:〒440-8501 愛知県豊橋市今橋町1