ご支援内容
社会・産業構造の変革やグローバル化の加速に伴い、世の中の新たなニーズに応える専門的な職業人材の育成が課題となっています。全国各地域の職業教育・人材養成機関として日本経済の発展を支えてきた専修・専門学校はいま、リスキリング・リカレント教育の受け皿としても重要性が高まるとともに、地域創生を牽引する産業の中核的人材となる、先端テクノロジーを活用・推進するDX人材や専門的マネジメント人材の養成など、国が方針に掲げる「新たな教育モデル」の形成が求められています。
2025年に開校20周年を迎えた京都医健専門学校は、全国に80校の教育機関を展開する滋慶学園グループの一員として、「職業人教育を通じて社会に貢献する」をミッションに掲げる、スポーツ・医療・福祉・美容の総合校です。文部科学省「職業実践専門課程」認定校として、多様な企業課題の解決や事業プロジェクトに取り組み、「業界が求める人材を業界とともに育成する」産学連携教育を柱に、それぞれの業界で即戦力として活躍できる専門的な知識と技術を習得した人材が数多く輩出しています。
タナベコンサルティングは今回、拡大するスポーツ市場と健康インフラ・サービスの担い手として活躍する人材を育む同校スポーツマネジメントテクノロジー科(4年制)における、産学連携の「事業構想教育プログラム」の実施に協力しました。半年間にわたる全8回のカリキュラム作成、連携企業の選定・紹介、講義・ワークショップの実施、企業への最終プレゼンテーション、プロジェクト運営の推進など、学生指導の専門講師やメンターとしてコンサルタントを派遣し、支援しました。
ご支援内容のポイント
お話を伺った人
京都医健専門学校
教務部 教務課長 スポーツマネジメントテクノロジー科 学科長 西岡 大輔氏
スポーツビジネスのマネジメント人材の養成
――スポーツマネジメントテクノロジー科は、2022年に誕生した新学科です。
西岡:滋慶学園グループはいま、「量より質」の教育を推進し、よりハイレベルな人材育成で社会に貢献していく方針です。当校もスポーツ領域では、2年課程のスポーツ科学科でトレーナーなど健康運動指導に関わる人材を育成してきましたが、テクノロジーの活用推進やマネジメント人材を養成する国の方針を受けて、新たに4年課程の新学科を開設しました。
卒業生の多くがプロスポーツや健康推進の現場で活躍し、夢を叶えています。一方で、プロチームでも収益がうまく得られないために収入が充分でなく、将来に不安を抱くケースが少なくありません。スポーツがビジネスとして成り立つことの大事さを痛感し、4年課程でマネジメントも担える人材を送り出すモデルケースをつくるのが狙いです。
――産学連携「事業構想教育プログラム」を実施されるきっかけを教えてください。
西岡:地域創生関連のイベントで、地域産業を支援するタナベコンサルティングと出会い、そのご縁をきっかけに「スポーツビジネスの力で地域課題を解決」をテーマに、講義とワークショップの寄附講座の開催が決まりました。
その後さらに、タナベコンサルティングの紹介でスポーツウエア縫製メーカーであるトリーカ様(本社・大阪府茨木市)との産学連携「事業構想教育プログラム」を提案いただきました。新学科1期生であるスポーツビジネスコースの3年生、4名が対象です。
――寄附講座の終了後、タナベコンサルティングでは「地域活性化だけでなく、ビジネス的な視点も強化するお手伝いができないか?」と考え、新規事業開発がテーマの教育カリキュラムをご提案しました。
西岡:学生にとって大事なのは、アイデアベースだけで終わらずに、社会実装して実際に課題を解決していくことです。ビジネスを始める時の、マーケットの捉え方や事業モデルのつくり方など、ものの見方や捉え方の角度や精度、解像度を高めるトレーニングで、しっかりと課題解決力を身に着ける内容でした。
実学を重視する当校の教育内容とリンクする部分が多く、ビジネス領域のプロフェッショナルであるタナベコンサルティングにカリキュラムはお任せして、提案から実施まで半年足らずでスムーズにスタートできました。講師を務めたコンサルタントの方から「トリーカ様がOKと言ってくれる内容まで、持って行きます!」という力強い言葉もいただき、安心感がありましたね。
スポーツと親和性の高い新規事業案を検討
――「事業構想教育プログラム」は、後期授業として2024年11月から2025年3月まで、全8回(講義・ワークショップ・企業プレゼンテーション)の開催でした。
西岡:トリーカ様の新規事業案の検討・提案を通して実学的に課題解決力を身につける内容で、卒業研究的な位置付けの正規授業として取り組みました。
政治・経済や社会・技術の動向を知るPEST分析、スポーツ業界のチャンスやリスクの外部環境分析、トリーカ様のものづくり力や商品・サービス力、情報力、の強みや弱みを現状把握しながら、経営・事業とは何か、成長戦略と価値設計、評価のあり方などを1つずつ、丁寧に学びました。
――新規事業案の検討は、学生の「自由な着想」と「スポーツ×インナーウェア×テクノロジーの融合」、という2軸で進行しました。
西岡:高精度のものづくりを強みに「女性の美」を追求するトリーカ様にふさわしい事業案は当然ですが、全く度外視した新規ビジネスでも構わないなど、本当に自由な発想を活かすことからスタートしました。
また、企業研究・分析を深める中で、トリーカ様が「ピックルボール」※という新スポーツへの興味と熱量が高いことを知り、ビジネスに融合する検討も進めました。スポーツがベースの学科として親和性が高く、顧客ニーズに応えるストーリーは社会実装する可能性が膨らみますから。
――西岡先生は全てのカリキュラムを、学生になったつもりで聴講されたそうですね。
西岡:カリキュラムの進行も学生とのコミュニケーションも、とてもスムーズで、何よりテンポがものすごく良くて、見ていて面白かったです。学校の教員は「この子はどこまでできるか…」という進め方になりがちですが、講師はいつまでに、何を、どうやって……というビジネスでは当たり前の基礎力を、ハイテンポでレベルアップしてくれました。
到達したいゴールも明確で、学生の視点に立って課題解決力を培うこと、トリーカ様にクリエーティブな刺激を与えて社会実装につなげること、という設定は最後までブレませんでした。押し付ける感覚もなく、学生が汗をかくにしても、走らされるのか、ゴールに向かって自ら走り出すのかは大きな違いです。「このゴールに向かって走っているんだな」と実感できる講義でありワークショップでした。
できることは何かではなく、面白いアイデアをどう社会実装するか
――ビジネス化できる能力の育成へ、学生の意識や行動の変化は感じられましたか。
西岡:マーケットの人口や年齢層、商品単価、ビジネスモデルとしての損益分岐点はどこかなど、内部・外部環境分析の視点を持ち、自分のアイデアを数字で理解する感覚が身に付きました。提案に至る背景として「私のアイデアはここにマーケットがあって、数字はこうなります」と新規事業が成立するスキームを力強く言えるのは、大きな成果です。
社会人になるとビジネスは実現可能性が重視されますが、学生にはその感覚がなく「好き!」「やりたい!」からスタートします。できることは何か、ではなく、面白いアイデアをどう社会実装するか、という客観的な視点が産学連携に期待されていますから。
――3月にはトリーカ代表取締役社長である岩村真二氏を招き、企業プレゼンテーションを実施しました。
西岡:新規事業案は、個別発表が3案、ピックルボールを含むスポーツ複合施設構想を全員参加で練り上げたグループ発表が1案です。トリーカの岩村社長は真剣に、熱心に聞き入り「ビジネスモデルとしては成立しづらいところもあるが、着眼点は非常に面白い」との講評を受けました。「期待した課題解決に対する満足度は高く、前向きにプログラムを継続実施して社会実装につなげましょう!」と逆提案もいただきました。
――社会実装するのは自信になり、新たな産学連携による課題解決や共創が生まれる原動力になっていきます。
西岡:実は企業プレゼン前に、思い描くゴールまで学生が到達していないのではないかと感じました。そこで、私が相談する前に講師から「もう1回、ブラッシュアップした方が良いですね」と指摘をいただき、発表資料をブラッシュアップするオンライン個別面談を急遽、カリキュラムに加えていただきました。
新規事業とピックルボールの2軸を併走するのは、学生も大変だったと思いますが、講師が授業中にきっちりと棲み分けて後押しをいただけたことで、混乱したり逃げ出したりすることもなくやり遂げてくれました。
プレゼンの様子
あえてコントロールしないことで、学生の力を最大限に引き出す
――タナベコンサルティングの支援に対する評価はいかがですか。
西岡:学生と企業の間にタナベコンサルティングが入り課題解決の実装につなげる産学連携の教育モデルは、とてもありがたいことです。ネガティブな印象を持つ理由が全くなく、ビジネス軸の課題解決力を学生が身に着ける上で、充分な支援をいただけたと思っています。
グループ発表の工程や役割分担では、うまくいかないことがありました。でも、講師や私がリスクヘッジやアイデアをコントロールすると、サポートのつもりが実は邪魔になります。学生の考えではなくなってしまい、いい発表モデルが出来上がっても、プログラムを実施する意味がありません。自分たちでやり切ることで、失敗も含めて経験値と達成感が得られますし、その意味で講師はもの凄くバランスよく、学生の力を最大限に引き出してくれて、まさに絶妙でした。
――今後の展望をお聞かせください。
西岡:スポーツビジネスコースの学生は、当校のサッカークラブに 100 万円を京都近郊の企業へのスポンサーセールスで獲得しています。プログラムで培った力を応用して、今後はさらに精度の高い提案ができるのではと期待しています。
より大きな展望としては、スポーツビジネスの市場規模が拡大し、そのためのAIやICTのデジタルテクノロジーが進展していく一方で、リアルな人間の体験価値としてのスポーツや健康が、とても大事なキーワードになっていきます。単に「ビジネスができる人」ではなく、ビジネスをマネジメントする人材とその価値が、しっかりと評価されるようになればうれしいですね。
――学生の進路選択や卒業後の活躍の舞台も広がっていきます。最後に、ビジネスの視点を持つ学生を育てる全国の先生方へのアドバイスをお願いします。
西岡:ビジネス軸の専門講師には企業経営者の方もいますが、コンサルタントは一企業・業種だけではない、普遍的な見方や捉え方ができるので、学生には受け入れやすく納得感も生まれやすかったと感じています。講師の方のパーソナリティーも大切な要素でしょうね。
――本日はありがとうございました。
※ 高齢者も手軽に楽しめるアメリカ発祥のスポーツ。テニスやバドミントンなどの要素を併せ持つ
PROFILE
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- 京都医健専門学校
- URL:https://www.kyoto-iken.ac.jp/
- 所在地:京都市中京区衣棚町51-2
- 代表者:学校長 藤田 裕之