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コンサルティングケース
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コンサルティングケース 2025.01.29

直売所を基点に雇用創出を支援し、農山漁村を活性化 宮城県やまもと夢いちごの里

ご支援内容


タナベコンサルティングは、宮城県農政部農山漁村なりわい課6次産業化支援班の委託により、「令和5年度 農産物等直売所機能強化支援事業」に参画。宮城県亘理郡山元町の農水産物直売所「やまもと夢いちごの郷」の業績向上のため、現地視察やヒアリング、アンケート調査などを通して課題を抽出・分析し、経営改善計画の策定支援や現場指導、研修を実施しました。

 

 

ご支援内容のポイント


1 ビッグデータを活用し、顧客動態分析に基づき経営改善計画策定を支援
2 全国直売所のモデルケースを紹介し、出荷者とビジョンを共有する研修を開催
3 顧客満足度の向上を目的とした、従業員向けの接遇研修を開催
4 外部目線で業績を評価し、持続的成長につながる設備投資を後押し

 

お話を伺った人



宮城県 農政部 農山漁村なりわい課 6次産業化支援班
技術主任主査(班長) 髙橋 亮輔氏(左)、
技師 小岩 慶浩氏(右)

 

 

直売所は農山漁村の重要な地域拠点

 

――宮城県農政部の農山漁村なりわい課は、2019年に新設されたそうですね。「なりわい」という名称は、全国的にも珍しいと思うのですが、どのような役割を担われているのでしょうか。

 

髙橋:庁内には農林漁家の人材育成や農林水産物の生産振興といった、農林水産業全体を支援する課がいくつもあるのですが、私たちの課は農山漁村に焦点を当て、地域が持つ多様な資源を活用した「なりわい」を創出し、雇用機会や所得向上といった地域経済の活性化につながる支援策を講じています。

 

農山漁村において直売所は、生産者と消費者をつなげる重要な拠点となります。また、一般的なスーパーマーケットとは違い、生産者にとって気軽に商品を持ち込むことができるほか、「地域住民同士の交流の場」や「災害時の食料供給基地」としての機能も備えています。

 

しかし、生産者の高齢化が進んだ地域では、出荷者が減少し、十分な品ぞろえの確保が難しくなり、顧客数が減少していく直売所もあります。そのため、直売所が農山漁村の拠点として持続していくため、2023年5月に経営支援を希望する直売所を公募しました。

 


宮城県 農政部 農山漁村なりわい課 6次産業化支援班 技術主任主査(班長) 髙橋 亮輔氏

 

 

――県内には、どのくらいの数の直売所があるのですか。

 

髙橋:農林水産省が実施した「6次産業化総合調査」(2024年7月5日公表)によると450事業体だと言われています。直売所は、個人で運営している店もあれば、生産者グループやJA(農業協同組合)が運営する店など、規模や経営体制は多種多様です。また、立地する地域によって抱えている課題も大きく異なります。

 

今回の支援事業では、主体的に現状分析や課題と向き合い、農山漁村地域の拠点として、経営改善と発展に意欲のある直売所を募集して、以下の伴走支援を行いました。

 

①直売所の関係者同士でワークショップを開催し、現状分析や課題の抽出を行う。
②抽出された課題の解決に向けて専門家を派遣し、経営改善計画の策定や人材育成等の支援を行う。

 

小岩:公募の結果、やまもと地域振興公社が運営する山元町の農水産物直売所「やまもと夢いちごの郷」から申請があり、2023年10月から6カ月間にわたる伴走支援がスタートしました。

 

 

外部の目線で改善計画を策定し、さらなる飛躍を目指す

 

――やまもと夢いちごの郷は、2019年2月、仙台平野の最南端、宮城県と福島県の県境近くにオープンした山元町の直売所ですね。

 

髙橋:はい。国道6号とJR常磐線坂元駅に隣接し、大型駐車場も備えた交通利便性の良い直売所です。仙台圏や県外からの来客も多いと聞いています。

 

小岩:やまもと地域振興公社は、2018年に山元町・関係機関・一般公募者からの出資により株式会社として設立されました。山元町の町長が社長を務め、一般募集した社員3名とパート19名のスタッフが直売所を運営しています。登録出荷者は約190名です。

 


「やまもと夢いちごの郷」では、名産のイチゴのほか、地元の農水産物や加工品、工芸品などを販売

――やまもと夢いちごの郷は、どのような経営課題を抱えていたのでしょうか。

 

小岩:オープン1周年で来場者数60万人を超え、業績は黒字で順調に伸びていました。しかし、少数精鋭で社員の業務負荷が大きく、さらに売り上げを伸ばしていくには、現場スタッフと経営者がビジョンを共有し、安心して働き続けられる体制を整えることが喫緊の課題でした。

 

また、特産品のイチゴをはじめ、新鮮な地場産品を保管する冷蔵庫が小さく、需要に対して十分な在庫を確保できていない状況でした。その他、ピーク時にレジに並ぶ人の列で売り場が混雑してしまうなど、店内のレイアウトやレジ動線も改善が必要でした。

 

やまもと夢いちごの郷からは、「これから継続的に事業を成長させていくために、どの程度の先行投資をすべきか客観的に判断したい。外部目線で地域の特性やポテンシャルを踏まえた事業改善計画を作成したい」という要望が寄せられました。

 

 

委託の決め手は、課題に対する解像度の高さ

 

――本事業をタナベコンサルティングに委託して良かった点をお聞かせいただけますか。

 

小岩:現場が抱えている課題に対する解像度が非常に高かったことです。DX・デジタルマーケティング・ブランディング・農業経営・観光など、それぞれに高い知見を持つ専門家チームが、人流や検索ワードなどのビッグデータを活用し、やまもと夢いちごの郷の顧客動態を詳細に分析し、最終的には全25項目の改善テーマを挙げてくれました。

 

倉庫や事務所、レジ周りなどの整理・整頓といった、すぐに着手できる5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)活動をはじめ、繁忙期における人材確保や求人条件の見直し、地域のニーズに対応した店舗営業時間の見直し、プライスカードやPOPの改善、長期的な目標としては近隣施設との差別化に向けた商品開発やブランディングまで、難易度や重要度も示した上で、優先順にリストアップいただきました。

 


目を引くPOPで商品の魅力を訴求

――ほんの数分の作業を減らすだけでも、生産性は大幅に向上します。現場の業務負担を減らすことは、エンゲージメントの強化や企業イメージの向上にもつながりますね。

 

小岩:出荷者向けの研修では、ロールモデルとなる全国の直売所の先進的な取り組み事例を多数紹介いただきました。やまもと夢いちごの郷が目指しているビジョンを、出荷者の方々と共有する第一歩を踏み出せたと思います。

 

また、顧客満足度の向上を目的とした、従業員向けの接遇研修では、接遇レクチャーのプロを講師に迎え、基礎的な作法から実践的な対応まで、従業員同士がロールプレーイングを行いながら学びました。

 

――アンケート調査の結果から見えてきたことはありましたか。

 

小岩:パートタイマーの方々も、出荷者の方々も、やまもと夢いちごの郷に愛着と誇りを持って働いていることが、とても伝わってきました。

 

「やまもと夢いちごの郷は、地域住民に親しまれていると思いますか?」という質問に対しては、回答者全員が「とてもそう思う」「そう思う」と答えていて、全体の94%が「この会社で長く働きたい」と回答していました。「山元町のために」という経営理念が、現場スタッフの皆さんにもしっかり浸透していると感じました。

 

――本事業の補助金を活用し、プレハブ式冷蔵庫を導入されたそうですね。

 

小岩:従来は一般的な大きさの冷蔵庫と、冷房を効かせたバックヤードで在庫を管理していたのですが、広さにして3畳のプレハブ式冷蔵庫を設置したことにより、イチゴの鮮度を保ったまま販売量を大幅に増やすことができました。データに基づく経営分析を踏まえ、思い切った設備投資を決断できたとのことでした。

 

また、屋外にLEDライトを設置したことで、夕方以降の野外イベントも開催しやすくなりました。

 

――次のステージにステップアップする上で、設備投資はとても重要です。直売所が成長していく大きな後押しになりますね。

 


宮城県 農政部 農山漁村なりわい課 6次産業化支援班 技師 小岩 慶浩 氏

直売所それぞれの「売り」が伝わるように

 

――宮城県としては、直売所の支援を通して、今後どのような成果を期待されますか。

 

髙橋:一般的なスーパーマーケットとの差別化ポイントは「その直売所でしか手に入らない新鮮なものがあること」だと思いますので、地域ならではの特産品が売りとなって、にぎわいが生まれることを期待しています。

 

山元町は、イチゴのほかにも、リンゴやブドウ(シャインマスカットなど)、イチジクといった果物が魅力的ですし、磯浜漁港に近いため、ホッキ貝など新鮮な魚介類も直売所の人気商品となっています。やまもと夢いちごの郷をはじめ、県内にある他の直売所も、それぞれの独自性をより一層打ち出していけるように応援したいと考えています。

 

小岩:やまもと夢いちごの郷では今後、マネジメント層の育成にも力を入れていきたいとのことです。なりわい課では、これからも引き続き、時代の変化に応じた自発的な経営改善の取り組みに対して、専門家の派遣や資金面の助成などを通じてサポートしてまいります。

 

――タナベコンサルティングでは、北海道から沖縄まで全国10拠点で、地域の活性化を支援しています。このたびは、他の都道府県・市区町村にも大変参考になる官民連携の取り組みをご紹介いただき、誠にありがとうございました。

 

 

PROFILE

宮城県
所在地:宮城県仙台市青葉区本町3-8-1

  • 株式会社やまもと地域振興公社
  • 所在地:宮城県亘理郡山元町坂元字荒井183-1
  • 設立:2018年
  • 代表者:代表取締役社長 橋元 伸一