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コンサルティングケース

コンサルティングケース

TCGのクライアントが持続的成長に向け実践している取り組みをご紹介します。
コンサルティングケース 2024.08.28

新ビジョンを核とした CX革新リブランディング 

むさし

​お話を伺った人


株式会社 むさし
女将 沼田 弘美 氏
社長 沼田 久博 氏

 

ポイント


1 地域の魅力を活用したブランディングが奏功
2 収益性、顧客満足度がともに向上
3 社員考案の体験型プログラムで顧客とのタッチポイントをつくる

 

 

 

 

 

「白浜時間の中心地」をブランドビジョンに掲げ、経営改善へ着手

 

――美しい海と砂浜が広がる白良浜から徒歩1分、日本三古湯の温泉地である南紀・白浜で70年超の歴史がある老舗旅館・むさし様。数寄屋風の玄関、良質な源泉温泉、新鮮な山海の幸など多彩な魅力にあふれ、「日本の温泉100選」「日本の夕陽100選の宿」にも選ばれた、白浜を代表する大型和風旅館です。

 

コロナ禍の厳しい経営環境を乗り越え、目指す事業の方向性を明確にして持続的な企業体質へ変革を遂げるため、中長期的な経営改善・資金調達・事業再生プロジェクト(PJ)を推進されました。

 

沼田社長:1950年の創業以来、白浜観光や温泉を楽しむ団体旅行のお客様を迎え入れてきました。増加する個人旅行にも対応しようと、付加価値を高めるリニューアルを進めるなかでコロナ禍が直撃して赤字経営を余儀なくされ、取引金融機関の紹介でタナベコンサルティングの支援を受けることにしました。

 

分析の結果、いまの延長線上では将来的に債務超過に陥る可能性があると指摘を受け、キャッシュフローの改善や借入金返済など、2030年までの中長期損益や貸借対照表の計画書を策定しました。計画達成に向けたアクションプログラムも伴走いただけるのは、心強かったですね。

 

――経営改善へと舵を切り、女将さんが陣頭指揮に立たれました。

 

沼田社長:財務を含め経営全般は私が見渡しながら、現場の運営は女将に任せてきました。今回のプロジェクト(PJ)も、事業再生については女将がタナベコンサルティングと二人三脚で推進しました。

 

沼田女将:経営改善計画を着実に実現していく第一歩が、新たなコンセプト「白浜時間の中心地」です。「美しい自然の風景、豊かな山海の幸、パンダがいる人気テーマパークなど、南紀白浜は地域の魅力が満載」という点に着眼し、コンサルタントが提案してくれたむさしの魅力や目指したい姿であり、とても気に入って即決しました。

 

――PJ自体が「ブランドバリューチェーンづくり」であり、「白浜時間の中心地」は、その基軸となるブランドビジョンです。

 

沼田女将:白浜地域の「中心地」に位置するむさしが、一生思い出に残る最高の「白浜時間」を届ける案内役になる、ということだと理解しました。

 

これまでの旅館ビジネスは、建物やお風呂、豪華な食事など旅館内の滞在価値で完結する「発地型観光」でした。一方、これからは、自然や風土、歴史などの資源をブランド価値として、旅館外の魅力も開発していく「着地型観光」モデルへ切り替えていく必要がありました。

 

「白浜時間の中心地」をブランドビジョンに掲げ、地域の魅力をブランド価値として打ち出すモデルへシフト
「白浜時間の中心地」をブランドビジョンに掲げ、地域の魅力をブランド価値として打ち出すモデルへシフト

美しい白良浜から徒歩1分の立地にある、白浜を代表する大型和風旅館
美しい白良浜から徒歩1分の立地にある、白浜を代表する大型和風旅館

 

 

顧客志向のサービスに変える新たな仕組みづくり

 

――ブランディングを切り口に、具体化した全社KPIを共有し、多様なPGが始動しました。

 

沼田女将:経費を圧縮しつつ、客室単価・稼働率を向上して成長性、収益性を改善し、企業体質を強化することが大まかな方向性です。フロントやレストラン、調理、予約営業など、セクションごとの計画も立てました。

 

全体では各セクションリーダーとの月次ミーティング、各セクションでもデイリーミーティングを実施し、コンセプトを基準に滞在魅力の向上へ何ができるかを考え、行動を起こし、チェックするというPDCAを回しました。

 

――ただ、単価を上げるとCSは下がるのが、旅館ビジネスの常識です。

 

沼田女将:単価を上げてもCSが下がらないよう、サービスの付加価値を高めることが必要です。コンサルティング支援が始まってすぐ、大きなインパクトが生まれました。フロント横のカフェでウェルカムドリンクを飲みながら、チェックインするスタイルに変えたことです。旅を満喫して疲れているお客様を、立ったままでお待たせするのはやめよう、とアドバイスをもらったのがきっかけです。

 

「ソファーに座ってチェックインするのが、優雅でとてもよかった!」とお客様のクチコミ評価が広がると、当初は反発していたスタッフも積極的な姿に変わりました。

 

――お客様のおもてなしを顧客志向のサービスに変える、新たな仕組みも生まれました。

 

沼田女将:私と各セクションリーダーによる毎日のブリーフィングもその一つです。今日はどんなお客様が来て、どうおもてなしをするのか。前日のトラブルなども含め、タイムリーに情報を共有して顧客満足度の高いサービスに変えるための、1日の大切な作戦会議になっています。

 

また、CSアンケート結果を「滞在価値、夕食、朝食、体験イベント」など30以上の項目別に、グラフで数値化しました。5段階評価で色分けしてわかりやすく見える化することで、おもてなしへの評価が一目瞭然になりました。

 

 

ブランドの浸透に欠かせない「顧客とのタッチポイント」の築き方とは

 

――おもてなしをする中で、タッチポイント(顧客との接点)をいかに設計するかが重要になります。

 

沼田女将:白浜エリアを一望する17階の展望温泉や夕朝食だけでなく、旅館内に白浜らしい魅力を体感するポイントを数多くつくりました。チェックイン時の説明はもちろん、夜間にもスタッフがガイド役になって白浜地域の魅力を紹介するイベントを始めました。

 

白浜の魅力を体感していただくため、新たにアクティビティーも開発しました。白浜のシンボルである円月島と水平線に沈みゆく夕陽を撮影するフォト体験や、早朝の白良浜を裸足で踏みしめる開放感あふれる散歩など、むさしならではの企画は大好評です。

 

こうした体験型プログラムはスタッフが考案したものです。プログラムを通じ、白浜の魅力、むさしのおもてなしに触れてもらうきっかけを作り出しています。

 

円月島と夕日を撮影するフォト体験。体験型プログラムを通じ、顧客との接点が自然に増加している
円月島と夕日を撮影するフォト体験。体験型プログラムを通じ、顧客との接点が自然に増加している

ブランドビジョンを企業活動に実装するための7つのプロセス
ブランドビジョンを企業活動に実装するための7つのプロセス

 

 

――「旅館の外へ」というコンセプトの発信にも磨きをかけました。

 

沼田女将:円月島の夕景フォト体験などは、お客様にInstagramなどで発信してもらうことで、一気に拡散しました。

 

もう一つ、「白浜の魅力」をイメージしやすい写真や動画をスタッフがInstagramで発信し続けています。これまでとは違い、必ずコンセプトを訴求する内容を掲載して一貫性ある魅せ方に変わりました。

 

円月島や白良浜へ案内しながら対話する時間も、お客様への密着型サービスと発信力向上につながっています。和歌山の伝統工芸である組子細工の体験イベントや、地元特産ワインをレストランで提供する地産地消など、CXを高める地域の魅力を掘り起こし、情報を発信する拠点としても貢献しています。

 

 

ブランディングの取り組みが功を奏し、客単価、CSともに向上

 

――PJの進捗についてお聞かせください。

 

沼田女将:プロジェクトは2年半を経て、客室単価は2万円に倍増し、黒字化を達成しました。客室稼働率が向上し、計画通りに経営再建が進んでいます。宿泊予約サイトの評価(5段階)も3.9から4.3~4.5へと向上しています。CXが高まることにより、単価が上がってもCSは下がらず、むしろ上がりました。

 

コンセプトに基づくサービスやオペレーションを日々実践している成果ですし、がんばったスタッフに賞与や一時金を支給し、EXも向上しています。

 

――社内でも変化を実感されているそうですね。

 

沼田女将:旅館内にとどまらず、南紀白浜のよさや価値をタナベコンサルティングに引き出してもらうことで、「白浜時間の中心地」のコンセプトが自分事に変わりました。また、セクション別に縦割り意識が強かったのも、リーダーミーティングを通して全体で総合的に考える視点が定着しました。バラバラで場当たり的だったオペレーションも、全社統一で計画的、シンプルで効率も良くなり、収益改善につながっています。

 

もう一つ、スタッフは受け身型で「女将が言うから…」が行動基準になっていましたが、今では見える化したCSの数値を見て、一人ひとりが考え、行動するようになりました。

 

コンセプトの落とし込みにより客室単価が向上。CS向上意識が高まり、CS数値結果に結び付いているという
コンセプトの落とし込みにより客室単価が向上。CS向上意識が高まり、CS数値結果に結び付いている

 

――タナベコンサルティングへの評価と期待、今後の展望をお聞かせください。

 

沼田女将:スタッフが成長しないと、おもてなしも情報発信もうまくいきません。徐々にステップアップしていけるよう上手に巻き込みながら、できることから変えていくことができました。

 

当初から「人のリソースを最大化していきましょう」とアドバイスいただいたことで、ブランディング戦略になぞらえてスタッフが成長していくことができました。振り返ってみて、むさしにはそれが良かったのだと実感しています。

 

沼田社長:的確で熱意ある支援をいただき、旅館とスタッフが自立し、改善のPDCAを回して前へと一歩を踏み出すようになりました。単価も稼働率もCSもEXも、さらに高まる善循環ループを持続していきたいですね。

 

――観光立国や地方創生の推進力となっていくむさし様をこれからも支援し続けてまいります。本日はありがとうございました。

 

 

 

PROFILE

    • 会社名:株式会社むさし
    • URL:https://www.yado-musashi.co.jp/
    • 所在地:〒649-2211 和歌山県西牟婁郡白浜町868
    • 設立:1950年
    • 従業員数:82名(2023年3月現在)
    • 代表者:代表取締役 沼田 久博 氏

※掲載している内容は2024年8月当時のものです。