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コンサルティングケース

コンサルティングケース

TCGのクライアントが持続的成長に向け実践している取り組みをご紹介します。
コンサルティングケース 2024.08.30

“イクボス”の理解と実践で育児休業取得率の向上を目指す

高知県

ご支援内容


2022年4月および10月の育児・介護休業法の改正により、「産後パパ育休」の創設や育児休業の分割取得が可能となったほか、

企業における対象労働者への個別意向確認や育児休業を取得しやすい環境整備が義務化されました。

それに伴い、男性の育児休業取得率向上に向けた取り組みが進んでいない中小企業への対応として、日本創生のための将来世代応援知事同盟より委託を受け、

タナベコンサルティングは「中小企業向けイクボス普及・拡大事業」の支援に参画。啓発を目的としたセミナーの実施とガイドブックを作成しました。

 

ご支援内容のポイント


1 セミナーの企画から宣伝まで、参加者に刺さるアプローチで高評価をマーク
2 クライアントに寄り添ったコミュニケーションでニーズを把握
3 円滑なプロジェクトマネジメントで信頼を構築

 

お話を伺った人



高知県農業振興部 農業政策課 課長補佐 山﨑 俊也氏(左)
高知県総合企画部 交通運輸政策課 チーフ(地域交通担当) 寺尾 侑氏(右)

 

 

中小企業が直面する問題を解決するために

 

――2023年11月から2024年3月にかけて、全国24道府県が加盟する《日本創生のための将来世代応援知事同盟》では、高知県をリーダー県として『中小企業向けイクボス普及・拡大事業』を実施されました。男性の育児休業取得をテーマに、中小企業における“イクボス”の普及・拡大を目的とした本事業は、どのようにスタートしたのでしょうか。

 

山崎:最初に本事業の開始に先立ち、24道府県の担当者を対象にアンケートを行いました。高知県だけで展開する事業ではないため、各地が直面する地域課題や要望などについて質問し、どのようなプランを策定すべきか、生の声が聞きたかったからです。

 

寺尾:そこでもっとも多かったのが「中小企業における育児休業の取得率」に関するものでした。さらに言えば、男性社員を対象とする育児休業ですね。高知県では2020年度に濵田省司知事が「イクボス宣言」をし、県庁主導で男女ともに育児休業の取得がしやすい雰囲気づくりを進めていますが、残念ながらまだまだ十分とは言えません。

 

山崎:集まったアンケートを確認すると、高知県だけではなく、どの地域も同じ問題を抱えているという結果でした。そこで、タナベコンサルティングと、24道府県の中小企業向けに、男性社員の育児休業取得率向上へとつなげる事業の内容を策定していくことになったのです。

 


『中小企業向けイクボス普及・拡大事業』の取り組みを振り返る山崎氏

 

4つの事業で目指すワークライフバランスの実現

 

――具体的な取り組みとして、経営者向けのセミナーや人事・労務担当者向けの研修会の開催、過去に出版したガイドブックの改訂と新規ガイドブックの制作という4つの取り組みを展開されました。各取り組みの内容を教えてください。

 

寺尾:経営者の方を対象とするセミナー『イクボス×経営戦略 人手不足・人材難の時代に成長企業が取り入れている経営戦略とは?』は、2024年2月16日にオンラインで実施しました。特にタナベコンサルティングにお願いして良かった点は、講師の人選やテーマ・キーワードの設定ですね。根幹となる部分から相談に乗っていただきました。今まで《日本創生のための将来世代応援知事同盟》では、行政職員向けに研修を行うことはあっても外部の方が参加するのは初めてでしたので、かなりの部分をサポートしていただきました。

 

山崎:そもそも「イクボス」という言葉は知っていても、実像が分からなければ伝わりません。だとしたら、講師は自身の実体験としてエピソードをお持ちの方がベストになります。その意味では“元祖イクボス”であるファザーリング・ジャパンの川島氏はぴったりでした。

 

寺尾:テーマやキーワードも参加者に刺さる内容だったと思います。打ち合わせ段階では「ダイバーシティー経営」と言われても、「ターゲットとなる中小企業の経営者の方には分かりにくいのではないか」と最初は心配しました。しかし、イクボスや育児休業の取得率向上も「ダイバーシティ・マネジメントの一要素」という説明を受けて納得できました。実際に、セミナー終了後のアンケートを見ると「ダイバーシティー経営について理解を深めたい」「トレンドを知りたい」という参加者が、全体の半数を超えていました。

 

山崎:申し込み人数も目標を達成した上、参加率も9割近い結果でした。講師への質問もたくさん寄せられました。参加した方々の目的とテーマ、内容が合致し、5段階評価で4.4をマーク。主催者としても非常に満足度の高いセミナーとなりました。

 


オンラインで実施したセミナー『イクボス×経営戦略 人手不足・人材難の時代に成長企業が取り入れている経営戦略とは?』の様子

 

――人事・労務担当者向けの研修会についてはいかがでしょうか。

 

山崎:2024年2月14日に実施ですから、開催の順番は先述したセミナーよりもこちらが先になります。『パパ育休が当たり前に! 男性社員の育休取得率向上実践セミナー』というタイトルで、同じくオンラインでの開催でした。

 

寺尾:当時、私は「中小企業の経営者や人事・労務の担当者の方は『育児休業の取得率を向上させたい』と考えていても、いざ育児休業を申請されると困ってしまうのではないか」という仮説を持っていました。社員数の少ない企業では、一人抜けるだけで業務に影響が出ます。かといって、すぐに新しい人材を確保することも難しいです。そこをカバーする方法を学び、取り組むことができるセミナーにしたいと考えました。

 

山崎:それだけに講師の人選は難しかったですね。実はタナベコンサルティングから特定社会保険労務士の方にお願いするというプランが出てきたとき「法律に関する内容に終始するのではないか?」と2人で首を傾げました。実際には、オンラインで打ち合わせを重ねるうちに、その懸念は払拭されましたが、タナベコンサルティングには「あまり法律面のみに偏らないように」と要望はしっかりと伝えました。

 

寺尾:当日は、講師をご担当いただいた特定社会保険労務士の山口先生のご尽力も素晴らしく、また、法律に偏らないようプログラムが組まれていて、セミナーは非常に満足できる内容でした。

 

山崎:申し込み人数・参加率ともに高く、「男性社員の育休取得に関する知識」や「他社の成功事例」など、まさに参加者の知りたかった内容を得られるセミナーになったのではないでしょうか。

 

寺尾:チラシとバナーにもこだわりました。「できるだけ文言を分かりやすく、ターゲットに刺さるストレートなものを」とお願いしました。変化球でなく直球で、一目で誰に向けて開催するものか分かるようにしたかったのです。ふたを開けてみれば、中小企業の人事・総務部の担当者や管理職の方々の参加率が高く、ターゲットにきちんと伝わったのだなと感じました。

 


実施したセミナーや制作したパンフレットに込めた思いを話す寺尾氏

 

――次に、過去に出版したガイドブックの改訂と新規ガイドブックの制作について伺います。まずは、2022年3月に発行された『育休取得に向けた意向確認用ガイドブック』の改訂についてお聞かせください。

 

寺尾:主な改訂要件としては、2022年10月1日以降の育児・介護休業法改正に伴う内容の改訂、全体的な記載内容および表現の見直し、それから「とるだけ育休」への啓蒙(けいもう)表現追加の3点ですね。最後の「とるだけ育休」への啓蒙表現追加は、加盟県へのアンケートで要望がありました。せっかく制度が改正されたのに、まだまだ全国的に「とるだけ育休」が多い現状です。私たちもその意見に賛同し追加しました。

 

山崎:内容の大枠が変わったわけではないので、デザインは2022年3月版から引き継いでいます。タナベコンサルティングには進行管理を、特定社会保険労務士の山口先生には、法律の専門家としての視点で全体をチェックいただきました。

 

寺尾:高知県内の中小企業からも好評だった2022年3月版を、新たに制作する『中小企業のためのイクボスガイドブック~実践編~』と合わせて改訂し、一緒に使ってもらう狙いがありました。

 

――新たに制作した『中小企業のためのイクボスガイドブック~実践編~』に関してはいかがでしょう。

 

寺尾:こちらも大変でした。良いものを作りたいという思いだけで、どのような内容や構成にすればいいのか、まったく分からなかったからです。救いになったのが、最初のミーティングでタナベコンサルティングが示してくれた骨子でした。同席された特定社会保険労務士の山口先生も太鼓判を押す内容で、完成に向けた道筋が見えた点は本当にありがたかったです。

 

山崎:限られたページにどこまで内容を整理して掲載するか、編集面でもタナベコンサルティングからサポートしてもらいました。24道府県からも意見を募りましたが、良い意見があっても誌面のスペースの都合で泣く泣くカットした点は残念でした。最終的には改訂した『育休取得に向けた意向確認用ガイドブック』と合わせて、男性社員の育児休業取得率を上げていくためにより役立つものができたと考えています。

 


『中小企業のためのイクボスガイドブック~実践編~』。限られたページにどのような情報を掲載するのか、厳選するのに頭を抱えたという

 

密なコミュニケーションが信頼感を醸成

 

――最後に、本事業のご感想をお聞かせください。

 

寺尾:今回は入札だったのですが、提示した仕様書以上の内容を能動的にご提案いただいた点は、とてもありがたかったです。特に細かい部分で、多角的な見方をはじめとするさまざまなアドバイスがありました。期待以上だったので満足しています。

 

山崎:何度もミーティングを重ねながら、機動的にも対応してくれました。個人的に印象に残っているのは、やはり『中小企業のためのイクボスガイドブック~実践編~』ですね。自分たちだけではできなかった部分、悩んでいたところで道筋を示してくれた点が非常に助かりました。ただ発注者の意向を汲むだけではなく、積極的に事業へ関わったくれたところも大変満足しています。

 

寺尾:タスクやスケジュール管理についても、当初からWBSを組んでくれたので、メンバー全員で業務を共有できたことも大きかったと思います。ロードマップとして「見える化」できていたため、お互いが同じスケジュール感を持つことができたのも、プロジェクトの進め方として信頼できました。

 

また、事務的な面をきちんとしていただいた点も、発注者としては大いに助かりましたね。2週間に一度、定期的にオンライン・ミーティングを行い、議事録もすぐに送っていただきました。急な問い合わせにもすぐにご対応いただいたことを覚えています。それに、講師への依頼の進捗状況など、何か動きがあったときも逐一ご報告いただきました。遠隔地でのやりとりだったので、特に密にコミュニケーションを取っていただけたことで安心できました。

 

手厚くサポートしていていただけたおかげで目標だった参加申込者数を達成しました。それに、参加者へのアンケートからも“イクボス”への理解が深まったと実感しています。リーフレットは制度だけでなく、手に取った方が実際に行動に移せるようこだわりましたので、多くの方に見ていただけたらと思います。

 

――本事業により、全国各地の中小企業で“イクボス”の理解と実践が進み、男性の育児休業率が向上することを祈念いたしております。本日はありがとうございました。