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コンサルティングケース
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TCGのクライアントが持続的成長に向け実践している取り組みをご紹介します。
コンサルティングケース 2024.02.01

持続的な林業経営と森林資源経営サイクルの構築へ 広島県

ヒノキは山地中腹の緩傾斜の湿潤地での成長が良いが、尾根筋などの乾燥地でも生育する 写真提供:広島県    

広島県の林業を活性化し、持続的な業界に

  ― 広島県は木材の製材品出荷量が全国1位(2021年度)ですね。 小谷 現在、県は2021年に策定した「2025 広島県農林水産業アクションプログラム」に基づき、林業分野について、林業経営適地の集約化や経営力の高い林業経営体の育成を図り、森林資源経営サイクルを構築して、安定的な木材生産と持続的な林業経営を実現する政策を推進しています。   その1つとして、県農林水産局林業課では、経営力の高い林業経営体を育成するため、森林組合や民間企業の林業経営体が行う、中長期的な経営戦略の作成などの経営改善に向けた取り組みを支援。また、中長期的視点を持った計画の立案・実行ができる人材を育成するためのマネジメント研修を実施しています。このうち、経営者層を対象とする「次世代林業経営者研修」について、タナベコンサルティングがカリキュラムの企画・作成や講師派遣などをトータルに支援いただいています。   広島県は森林面積が県土面積の約 7割を占め、森林率は全国で15位になります。一方で、中山間地域を中心に少子高齢化など環境は厳しさを増しています。1次産業の林業を中山間地域の基幹産業として活性化させるだけでなく、森林資源を有効に循環させて利用することも重要であり、生産性を高めながら持続可能な林業の確立を目指して取り組んでいます。 酒井 木材は、切ってもまた植えて再生できる、有益で貴重な資源です。絶え間なく私たちの生活に役立てていくには、森林資源経営サイクルの構築が必要となります。   戦後には植林活動が進み、下刈りや間伐など保育の時代を経て、現在は大きく成長した木を切り出して使い、さらに再植林する時代です。その木を切ってしっかり使って次世代へ森林を育てながら、持続的に「生産・再植林・再生産」を可能にする難しさが、新たな課題となっています。   ― 広島県の林業全体を考える持続的な林業経営が、森林資源の循環利用にもつながります。 小谷 県内の林業経営体の多くは、これまで単年度収支が基軸でした。経営体が長期的な視点を持って仕事量を確保し、持続的な経営を行ったり、林業全体を維持・成長させたりするには、人材の確保や育成がより重要になります。   ただ、経営体の雇用環境は、人が集まりにくく定着率も低いのが現状です。その課題を改善するには、まず林業の未来ビジョンや中長期の経営戦略、事業計画を立てるスキルや知識を持つ経営者を育成すること。そして、描いた戦略を現場の社員まで落とし込んで共有し、組織が一体となって取り組めるようにすることが必要です。   しかし、そのノウハウが業界には十分にありません。そこで、初めて経営者層のマネジメント研修を実施しようと考え、タナベコンサルティングに協力いただくことになりました。広く他業界の経営を支援されているので、受講者には林業に生かせることをどんどん学んでもらいたいという期待がありました。  

企業経営の原理・原則を学び、ビジョン・戦略を策定

  ― 初のマネジメント研修として、2020 年度にスタートしたのが「次世代林業経営者研修」です。 小谷 マネジメント研修では現在、受講対象者を「経営者層」「管理部門」「現場リーダー(班長クラス)」の 3 階層に分けて、それぞれの役割に応じたカリキュラムにより一体的な人材育成研修を実施しています。中でも、林業経営体の経営力を高める鍵は、経営ビジョンや経営戦略を描く戦略リーダーとなる経営者層の育成です。   経営者層を対象とした「次世代林業経営者研修」には毎年、県内の林業経営体から、経営者や参事、課長といった次世代を担う方々が約10名参加しています。ワークショップやグループディスカッションでは、業界全体の課題を話し合い、自社のことを紹介します。経営者同士で情報や意見を交換するので「つながりを深める機会になった」「あらためて経営理念に基づいて考えることが大事と再認識できた」と受講者に好評です。タナベコンサルティングがうまくカリキュラムを組んでくれたおかげです。 酒井 社員が数名の民間企業から職員が数十名いる森林組合まで、林業経営体の規模はさまざまですが、アンケート調査では「中期経営計画の大切さが分かった」などの声があり、研修に「満足」との意見が多く出ています。経営者層の研修は初めての経験でしたが、これまでにない場を提供できたという意味でも、実施する価値があったと思っています。   ― 半年間に1日の研修を6回繰り返し、学びを重ねました。カリキュラムを検討する際は、どのようなことを大事にされましたか。 酒井 経営力の高い林業経営体を育てるのが最大の目標です。ただ、公的機関が実施する研修ですから、受講する経営者層や経営体にプラスになるだけでなく、林業全体の発展につながることもしっかりと考える研修にしたいとタナベコンサルティングにお伝えしました。   研修ではビジョン・戦略、マーケティングなど、企業経営を進める原理・原則から教えていただきました。グループワークは経営体としてどうしていくかを個別に考え、さらに1日の研修を終えた後、自社に持ち帰って議論を深めてもらいました。自社の方向性を結論として導き出し、次回の講義で発表する研修の進め方は、「何をするかを突き詰めていくのはしんどかった」と振り返る感想もありましたが、皆さん最後までやり抜くことで大きな力になったと思います。   自社や経営者としての立ち位置を明確にしないと、ビジョン・戦略、計画をつくれません。単なる知識ではなく、身近でリアルな問題として捉えながら、目指す姿を具体化できる研修になりました。  

実践重視の新カリキュラムへアップデート

  広島県は、成長が早く、木材としての質も良いコウヨウザン(広葉杉)の普及に取り組んでいる。 植栽は人力での作業がほとんどであり、作業の効率化に向けドローンを使った苗木運搬の実証や普及に取り組むなど、DXの活用を積極的に推進している。 研修でのグループディスカッション 写真提供:広島県     ― 開始から4年目になる2023年度には、ビジョン・戦略の実践を重視して「人材の採用・育成、DX活用」中心のカリキュラムにブラッシュアップしました。 小谷 経営戦略を絵に描いた餅にしないために、個別の課題を掘り下げ、より実践的に解決につなげていく内容へアップデートしてはどうかと、タナベコンサルティングから提案をいただきました。実践には人材が不可欠ですし、その確保(採用)と育成が経営力の高い林業経営体の実現につながります。 酒井 新カリキュラムは、実務レベルのことが分かりやすいと好評です。例えば採用では、ハローワークへの求人票の書き方のコツや表現テクニックを具体的に指導いただきました。その通りに求人票をつくって人材確保に取り組んだ林業経営体から「とても役立って、ありがたい研修」との声が届いています。 小谷 DXについても、新たに研修テーマへ取り入れました。時流や外部環境の変化にアジャストできるか、対応力を高めることも、持続的な林業経営には必要ですから。   林業の現場では、ドローンを活用した森林情報の把握など「スマート林業」が進んでいます。さらに、 RPA (デスクワークの自動化技術)などの先端技術を知り、苦手意識を取り去ることから始めて、他業界の先進事例も学びながら、経営全体で DX を推進し、課題解決に役立てていけるようになることが目標です。 酒井 林業に限らず、多くの産業で人材の確保が厳しさを増す中で、現場作業だけでなく経営的な視点からもICT 化を進めることが重要になっていきます。人でなければできないことに人材を投入すること。DX をどのように活用すれば利益につながるかを考えること。そうした意識を高めてもらうことから始めています。   ― 林業経営体と業界全体の成長の支援へ、さらなる展望をお聞かせください。 酒井 持続的な林業経営や森林資源の循環利用について、中長期的な視点に立って考え、理解を深めて、当たり前の共通語にしていく。そして、確実に実践することで、経営も業界も発展し元気になっていく。そんな姿が広島県の林業のスタンダードになることを理想としています。   現にその理想への兆しを感じています。私は人材育成関係の研修講師も務めていますが、「次世代林業経営者研修」を受講した林業経営体の若手社員から「私も経営のことを学びたい」と相談を受けました。持続的な林業経営や森林資源の循環利用の重要さが、若い世代にも少しずつ浸透していると分かって本当にうれしかったです。   広島県 農林水産局 林業課 林業経営・技術担当監 小谷 美紀氏(左) 参事 酒井 将秀氏(右)  

PROFILE

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  • 所在地 : 広島県広島市中区基町10-52