ポイント
お話を伺った人
荻野工業株式会社 代表取締役社長 佐々木 裕孝 氏
売上高 300 億円・経常利益 30億円・3事業確立の「Challenge 333」
——1957年の創業以来、機械加工分野で独自技術に磨きをかけ、自動車部品や減速機「OGINIC」など機械部品の開発・製造で成長を遂げてきたのが荻野工業様です。佐々木社長は2021年に、3代目の社長に就任されました。
佐々木社長:創業者(荻野六三之氏)から荻野武男前社長(現会長)へと続いてきたオーナー経営から、プロパー社員の私が、経営のバトンを受け継ぎました。
荻野前社長は売上高160億円、経常利益率10%超の優良企業へと成長させた立役者です。さらなる発展に向けて経営ビジョン「Challenge 333」を掲げ、グループ売上高 300 億円・経常利益 30億円・3事業確立という「333(トリプルスリー)」を目指し始めたのも、荻野前社長の先見の明でした。
コロナ禍まで業績は順調でしたし、先を見通して自動車部品、減速機に続く経営の第三の柱を育てながら300億を目指していこうとしていました。ただ、その実現には荻野前社長や役員だけでなく、全社的な経営を考えることができるように、次世代の人材を育成することが急務でした。そこで、私を含めて部長・課長クラスが、タナベコンサルティングの「幹部候補生スクール」に参加することになり、2017年から2年間、第1期・第2期で合わせて8人が学びました。
——これまでもタナベコンサルティングの研修機会を利用して人材育成に力を入れてこられました。今回は「幹部候補生スクール」に参加後、さらに社内独自の研修「300億円ビジョンプロジェクト」がキックオフしました。
佐々木社長:「Challenge 333」の実現へ向け、「幹部候補生スクール」の参加者でプロジェクトメンバーを構成し、互いに全社的な経営課題の解決策をテーマごとに議論することで、一人一人が強靭な経営幹部に育つことが目的でした。荻野前社長には、事業承継の準備を本格的に進める狙いもあったようです。私も参加メンバーの一人として「研修で学んだことを、自社で具体的に実践してほしい」と励ましの言葉を受けました。
未来志向の経営課題をテーマに
チーム別のディスカッションとプレゼンテーションを実施
——2018年5月にスタートしたプロジェクトは、2021年春まで継続して実施しました。
佐々木社長:既存の金属加工事業の強化や生産性の向上、減速機「OGINIC」の用途開拓、3つ目の新たな柱をつくる新規事業など、具体的に検討テーマを決め、解決策を提言するプロジェクトです。
3つの「未来検討チーム」に分かれて、テーマ別に仮説を立て、協議を進めました。数ヶ月ごとに一度、荻野前社長にプレゼンテーションし、中間報告も含めて随時、アドバイスも受けながら、年末に最終プレゼンテーションをするスケジュールで進みました。タナベコンサルティングには、検討テーマの提案からチームごとの協議まで、トータルにサポートしてもらいました。
——文字通り「自社の未来を検討」するのがプロジェクトのチームです。
佐々木社長:金属加工技術の強化は、鍛造工程の内製化など一貫生産体制の構築がテーマです。また、生産性の向上では、検査工程の自動無人化チームや生産管理システム導入などムダのないものづくりをテーマに、実際に実現した場合の現場管理の行動時間分析も行い、検証を重ねました。
自社製品「OGINIC」も、技術特性や強み、競合の調査・分析を進めました。高精度で省スペース、バックラッシュの少なさ、動きが静かでスムーズ、壊れにくい、などの強みを生かせる市場はどこか。一般的な産業用ロボット機器よりも、航空宇宙分野や天体観測機器など大型機器のマーケットにチャンスがあるのではと、国内だけでなく海外にもアプローチを試みました。
——荻野前社長はプロジェクトチームからのプレゼンテーションを、とても楽しみにされていました。
佐々木社長:経営センスに優れ、ものづくりへの造詣も深い荻野前社長と、直接ディスカッションし、実績豊かな知見を得ながら修正点を見いだし、改善していけるので、とても貴重な学びになりました。また、メンバーが普段の担当業務以外にも全社の動きを整理し、数字もしっかり把握する絶好の機会にもなりました。
研修というと堅苦しく思いがちですが、実際はワイワイと何でも語り合いながら、議論の方向性を見いだしていく感じで、とてもポジティブな雰囲気でした。当社はもともと家族的で仲がいいんです。一人一人が次代の経営を担う存在となっていく、人材育成システムとしての意味合いが強い研修だったと言えるかもしれません。
経営目線のマネジメント力を身に着けることが成果に
——プロジェクトのキックオフと同時に、当時は品質保証部長だった佐々木社長はプロジェクトリーダーを務めました。しっかりとメンバーと向き合いながら、冷静に判断、分析し、一緒にやっていこう、と穏やかにまとめていく力とリーダーシップの姿が、印象的でした。
佐々木社長:当社はアメーバ経営を導入し、部課長に権限を委譲しています。私自身もそうでしたが、メンバーはまず、それぞれの担当業務を全うする責任があります。プロジェクトの進捗はどうしても後回しで遅れがちになるので、うまくサポートし合う雰囲気やリズムを作っていけたらと考えていました。
同時に、リーダーとして自分がどのような考えを持ち、何をやっていこうと思っているかをメンバーに伝えました。以前から当社の将来を考えるテーマを決め、中期マターを議論する場の必要性を感じていましたし、プロジェクトがその舞台になるという期待も大きかったですね。
——2020年に副社長に就任され、プロジェクト進捗途上の2年目にメンバーから外れました。プロジェクトリーダーとしてプレゼンする立場から、提言を受ける側へと変わりました。
佐々木社長:私がプロジェクトメンバーを抜けてからも、チームごとにメンバーを組み替えながら、議論を進めてもらいました。アウトプットとして、すぐに業績成果にはつながってはいませんが、営業ロードマップは描き出すことができました。そもそも、簡単に成果が出るテーマでもありませんし、現在進行形で進めているところです。
時限を区切ってプレゼンまでやりきること、実績にこだわるスピリッツを共有化すること、長期的な視点で考え行動すること。どれも、これからの荻野工業の成長に必要なことですし、私を含めプロジェクトメンバーがそれぞれに目線を上げるマネジメント力を身に着けたことが、最大の成果だと思っています。
若手の育成を重視し、さらに若い世代を対象にJB的な高い視点を持つ研修を新たに始動へ
——2021年の社長就任後、「Challenge 333」ビジョンを継承し、さらに「人づくり」を大事にする方針を掲げています。
佐々木社長:プロジェクトの学びを通して私自身、やはり最後は荻野前社長に頼るトップ依存だったことや、仕事のスピード感にも欠けていたことを、改めて気付かされました。
プロジェクトは3年間で一旦終了しましたが、新たな気づきを得ること、計画を持ちゴールを決めスピード感を持って進めていくことは今後も絶対に必要です。当社の社風である大家族主義の良さを残して生かしつつ、そうしたこともしっかりと実践し、自ら動き出せる風土を根付かせていくためにも、特に若手の育成が重要になります。2023年度から新たに、プロジェクトメンバーよりもさらに若い世代層を対象に、経営に関して高い視点・意識を持つ研修をスタートさせたいと思っています。
——タナベコンサルティングへの評価や期待、今後の展望をお聞かせください。
佐々木社長:プロジェクトでは、チームディスカッションにもコンサルタントが参加して、うまくメンバーを巻き込みながらゴールへと導いてくれました。また、技術導入の検討のために、外部の鍛造技術者を探し出して招いたり、技術のマッチング企業を調査したりと、あらゆるアプローチで力を尽くしてくれました。
社内だけでは解決しない難しいマターも、タナベコンサルティングが触媒となって、当社の技術や実績に新たな化学反応を起こしてくれ、未来志向で新たな価値を生み出す力につながったと実感しています。
コロナ禍で業績が落ち込みコストコントロールも余儀なくされましたが、今期は海外が特に好調ですし、回復基調のいい流れに戻りつつあります。新工場(東広島工場)も竣工し、再び「Challenge 333」の実現へ成長戦略のフェーズに入っていきます。金属加工技術で、自動車関連だけでなくOGINICや新事業でも、面白い展開を見せていきたいですね。
——タナベコンサルティングは「333」の実現へ、今後も力強い支援を続けてまいります。本日はありがとうございました。
PROFILE
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- 会社名:荻野工業株式会社
- URL:http://www.oginokk.co.jp/
- 所在地:広島県安芸郡熊野町平谷1-12-1
- 創業:1957年
- 従業員数:454名(2021年4月現在)
※ 掲載している内容は2022年11月当時のものです。