ポイント
お話を伺った人
生活協同組合コープやまぐち 会長 岡崎 悟氏
全員がキャリアアップできる人事制度を目指す
—— コープやまぐちは、2020年に同一労働同一賃金を基本とするジョブ型の人事制度を構築されました。新たな制度に刷新した狙いはどこにあるのでしょうか?
岡崎:地域のみなさまにご利用いただき、おかげさまで2020年度の売上高は228億円に到達しました。この成長を支えているのが626名(2021年5月現在)の職員たちです。特に、全体の8割以上を占める現場スタッフの存在が大きいと感じています。
ただ、以前は現場スタッフのほとんどはパートやアルバイトといった非正規雇用のパートナー職員であり、従来の制度ではこの層に対する明確な評価基準やキャリアアップの仕組みが整備されていませんでした。現場スタッフがもっと活躍し、成長していける制度をつくりたい。それが新たな人事制度の構築に至った一番の理由です。
食品スーパー事業だけでなく、移動店舗販売事業も手掛ける
—— 職能給から一部職務給への移行も含め、従来の制度を根底から変えるチャレンジングな制度です。具体的にどのような制度になっているのかお聞かせください。
岡崎:一番のポイントは、全ての職員に同一の制度が適用されることにあります。雇用区分にかかわらず、仕事の内容・役割、労働時間、転勤の有無といった働き方によって処遇を決める制度にしました。具体的には、「スマイル職」「リード職」「マネジャー職」「経営職」「高度プロフェッショナル職」という5つの職群と、スキルや成果に応じた9つの等級をつくり、部門や業務ごとに時給などを設定。併せて、働き方に応じて「ホワイト」「ブルー」「オレンジ」「レッド」の4つのステージを設定し、それぞれキャリアアップの道筋を明確にしました。
—— 新たな制度では職群・等級・ステージなど選択肢が幅広い仕組みを導入されました。画期的な試みと言えますね。
岡崎:ポイントは大きく分けて、採用の多チャンネル化とライフステージの変化に合わせた働き方の選択の2つです。採用については、フルタイムや短時間勤務、勤務地を限定した働き方などに対応する柔軟な仕組みとしました。
入協後の働き方についても、半年に1度の自己申告の際に、働き方に関する意見を言えるようにしました。最終的には上司との面談や適正検査の結果を含めて可否を判断しますが、ライフステージの変化に合わせた働き方を選択できるよう環境を整備することで、1人でも多くの職員に長く活躍していただきたいと考えています。
納得度の高い評価指標で生産性を高める
—— 現場のやる気を引き出すユニークな評価基準も設定されています。具体的にはどのような指標を取り入れられたのでしょうか?
岡崎:例えばタナベ経営のアイデアを参考に、配達業務の評価表に「TS(宅配生産性)」を導入しました。これは、金額/時間で算出する生産性を測る指標ですが、単に数字を設定するだけでは浸透しません。顧客の購入点数が増えると評価や給与が上がる点を具体的に説明した上で、「担当するエリアにおいて購入点数がいくつ増えたら、どれだけ時給が上がるか」まで明確に示しています。仕事のスピードは個人で違うため、決められた時間内でどれだけ生産性を上げられるかチャレンジすることができます。また、自分のペースで働きたい人は、生産性に応じて基本給を選択することもできます。
—— 各家庭に毎週商品を宅配するついでに商品を紹介したり、チラシを一緒に渡したりするなど、職員は気軽に取り組めますね。収益の改善という点からも、新規開拓よりもメリットが大きい施策と言えます。
岡崎:加入いただいた方に確実に利用してもらい、配達時間に余裕があれば自分で新規開拓することで、より収益のアップにもつながります。しかし、宅配のルートが広がると長時間労働につながるケースも出てきます。私たちはここ数年、働き方改革に力を入れてきましたが、人事制度改革によって長時間労働が助長されては意味がありません。その点、TSは日常業務の1つとして無理なく取り組むことができるので合理性があります。
業務として配送コストが変わらないまま売り上げがアップするため、粗利益が増えて時給を上げる原資も確保できる。一方、基準の達成は職員の時給アップに直結するので、現場の納得度が非常に高い。実際、若手社員は積極的に取り組んでくれていますよ。
生産性を測る指標の「TS(宅配生産性)」。日常業務の1つとして無理なく取り組むことができるよう設計されている