ポイント
お話を伺った人
伯方塩業 代表取締役社長 石丸 一三氏
自然塩(塩田塩)存続運動が原点となり創業した伯方塩業(写真は大三島工場)
「世界で一番有名な塩メーカーになる」
—— 伯方塩業は、「伯方の塩®」ブランドで高い知名度と信用を築いてこられました。2023年に迎える創業50周年、さらにその先も見据えた自社のありたい姿として、10年ビジョン「世界で一番有名な塩メーカーになる」を掲げています。
石丸:このビジョンは私が社長就任時に掲げた、“未来志向の合言葉”。単に知名度を上げよう、企業ブランドを高めよう、という内容ではなく、ワークライフバランスを充実させ、社員一人ひとりが誇りを持ってイキイキと働ける会社にする、という意味です。
その実現に向け、2019年度からの中期経営計画(5カ年)を策定するため、20年来付き合いのあるタナベ経営に協力をお願いしました。
—— 長期ビジョンへの具体的なアプローチを描き出す中期経営計画は、「LEAP TO THE 50 未来への飛躍」がスローガンです。策定を支援する中で、事業承継への備えをはじめ、持続力の高い経営への強い思いを感じました。
石丸:塩は人が生きていくために、なくてはならないものですが、日本には岩塩などの塩資源がないため、昔から海水を原料とした塩田での塩つくりが行われていました。
しかし、1971年法律により、太陽熱や風などの自然エネルギーを利用した塩田での塩つくりから、製造過程で化学薬品を使用し、化学工業的なつくり方をする塩(塩化ナトリウム99%以上の過精製塩)に全面的に切り替わることとなりました。
世界でも食用にした前例のない塩へ強制的に切り替わる――。その事実に不安を抱いた消費者が、塩田の塩を残してほしいとの想いから自然塩(塩田塩)存続運動を起こした結果、我々に塩の製造委託許可が与えられ、1973年に当社の設立へと結びつきました。
こうした「安心して食べることのできる塩田の塩を残したい」という熱い想いが創業の原点です。‟塩は単なる調味料ではなく、基本食料である”という考えのもと、健康最適塩を探求することを経営の根幹とし、これからもしっかりと受け継いでいきます。
—— 次世代幹部人材を育成・強化することが、10年ビジョン実現への確かな道づくりになりますね。
石丸:オーナー企業ではないからこそ、経営センスや実行力の高いリーダーを一人でも多く育成し、組織経営をよりスムーズに実行することが重要です。いまの経営陣を支えるだけでなく、将来のありたい姿も、自らの手で明確に描き出してほしいですね。何をすべきかを自ら考え、行動できる経営感覚を養い、磨きをかけてほしいと思います。
「世界で一番有名な塩メーカーになる」というビジョン実現に向け、人材育成をはじめさまざまな取り組みを行っている
(写真は松山本社(左)と大三島工場内での製造工程)
次世代メンバーの経営塾で中期経営計画を策定
—— 「未来への飛躍」に向け、次世代の経営幹部メンバーによる経営塾「守破離の会」をつくり、新たな取り組みを進めています。
石丸:「守り尽くして破るとも 離るるとても本を忘るな」。千利休が説いた茶道の規矩(きく)作法である「守破離」は、修業・成長過程の良き訓えです。
当社も創業期の「守」、成長期の「破」を経て、50周年から先は基本と独自性を融合する、新たな「離」のステージに立ちます。その時に役員や部門長になる、いまの部長・次長・課長職7人で「守破離の会」を構成し、タナベ経営と一緒に、中期経営計画や毎年度の方針、重点施策の策定に取り組んでいます。
—— メンバーの皆さんはとても真摯に取り組んでいます。半面、次世代を担う人材ですから、もっと積極的にリーダーシップや自発性を発揮しても良いと思います。
石丸:まさに、そこが狙いです。当社には「大切なものを守る」風土が根づいているので、どうしても革新性が弱く、従順になりがちです。
歴代の社長や幹部は、会社が小規模の頃から強い意志を持って行動を起こし、何でもやらなければと、とにかく毎日必死でした。しかし、現在は経営が安定してから入社した社員がほとんどで、創業時の苦しみを知らない。世代間の温度差は仕方のないことですが、経営陣として会社を引っ張るには、リーダーシップや自発性を磨く必要があります。
—— 若手社員中心の「45周年誌」編纂も、創業以来の歩みをひも解く狙いがありました。
石丸:中期経営計画の策定に先立ち、「会社の原点を見つめてみては」とタナベ経営からご提案をいただきました。創業時を知る幹部にインタビューを実施した若手社員からは、「丁寧に歴史を振り返ることができた」「塩つくりへのこだわりの強さの理由がよくわかった」といった感想を聞いています。
周年誌のほか、ギネスへの登録、周年イベント・販促やプロモーション企画などの50周年プロジェクトを若手メンバー中心に進めています。PJを通じて、社内に新たなコミュニケーションが生まれ、「全員でやっていく」機運が高まっています。50周年PJでの取り組みを、社外・社内へのブランディングにつなげていきたいと考えています。
次世代の経営幹部メンバーによる経営塾「守破離の会」。
経営課題の整理・解決を進めながら、経営陣として会社を牽引する力を養成