料理(右下)写真はイメージ
食品廃棄物を有効活用した発酵液状飼料を開発し、ジャパンSDGsアワード※1の最高賞である「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞した日本フードエコロジーセンター。循環型社会の実現を目指す同社の取り組みについて、創業者・髙橋巧一氏に話を伺った。
発酵液状飼料として未利用資源を活用
山口 日本フードエコロジーセンター(以降、J.FEC)では、「『食品ロス』に、新たな価値を」を掲げ、廃棄物処理と畜産農家の経営という二つの社会課題をビジネスで解決されています。まずは創業の背景を教えていただけますか。
髙橋 きっかけは1998年に農林水産省で始まった、未利用資源の利用推進事業です。世界的な人口増で輸入穀物の飼料が高騰すると、豚も牛も鶏も、日本の畜産経営は立ち行かなくなる未来が見えていました。対策として未利用資源、つまり食品廃棄物を家畜のエサに利用することを、私も農水省に打診していました。獣医師で経営コンサルタントも経験した私の話を面白いと思ってくれたのでしょう、打診後に農水省の方がワーキンググループ(WG)に参加させてくれました。
食品廃棄物の飼料化における最大の課題は、安全性の確保とコストです。安全で安心、安価な飼料でなければ、誰も使いません。ただ、腐敗を防ぐために必要な「乾燥工程」には膨大なコストが必要で、WGの専門家も頭を悩ませていました。そこで私が「(乾燥不要の)液状飼料にすればよいのでは」と提案したところ、「何だ、それは?」と。
液状飼料はヨーロッパでは当たり前の存在。例えば、チーズづくりの副産物であるホエー(乳清)やウイスキーの廃液は、栄養分が豊富で養豚のエサに最適です。そう伝えると、「君が始めるプロジェクトに補助金を出そう!」という話になりました。
山口 日本が直面する飼料自給問題の解決モデルですね。そこからビジネス化を進めることになりますが、小田急グループで事業を始動されてから黒字化に至るまでの道のりをお聞かせください。
髙橋 まず農場を借りた実験プラントで、日本古来から酒やみそに使われてきた発酵技術を使って保存性を高める「発酵リキッドフィーディング」を、産官学連携で開発しました。
その後、2001年に全ての食品排出事業者を対象に食品リサイクル法の施行が決まりました。スーパーマーケットや食品メーカーが続々と視察に訪れ、鉄道以外に百貨店やホテルも展開する小田急電鉄が「ビジネスとして、一緒にやろう」と声を掛けてくれたのを機に、2005年に小田急ビルサービスの環境事業部で「エコフィード」※2事業を立ち上げました。
実は、4年目には実質的に黒字化しました。しかし、多額の管理費や、決裁などの意思決定に時間を要したため、会社分割を提案して2013年に独立し、J.FECとして再スタートしました。独立以降、管理業務はアウトソーシングしてスリム化。意思決定のスピード感も高まり、黒字が続いています。
※1…SDGs推進本部(SDGs推進本部長:内閣総理大臣)が、持続可能な開発目標(SDGs)達成に資する取り組みを行う企業・団体などを選定し表彰している
※2…食品残さなどを利用して製造された飼料
日本フードエコロジーセンター
代表取締役 髙橋 巧一氏
1967年神奈川県生まれ。1992年日本大学生物資源科学部獣医学科卒。同年獣医師免許取得。経営コンサルティング会社、環境ベンチャー、(株)小田急ビルサービス環境事業部顧問を経て、現在、日本フードエコロジーセンター代表。2018年(一社)全国食品リサイクル連合会の会長に就任。
環境に良い事業だからこそ利益が生まれる
山口 エコフィード事業の特徴として、排出事業者は廃棄物の処理費用を、畜産農家は輸入穀物と比べて飼料代を削減でき、ブランドとしての付加価値を高められることが挙げられます。またJ.FECも、食品廃棄物の処理費と加工販売する飼料代、二つの収益が得られます。契約数はどのぐらいですか。
髙橋 食品事業所は180~190事業所、養豚場は15農場です。1日にスーパーなら1店舗で30kg~100kg、食品工場なら500kg~1t。合計で約35tの食品廃棄物が毎日、原料として工場に入りエコフィードに加工され、エサとして養豚場へ届けられます。
生育段階や目指す肉質が農場ごとに違うので、数種類のエサを農場ごとにカスタマイズして提供しています。365日休みなく稼働し、食品廃棄物はその日のうちに飼料化し翌日に出荷するので、基本的に在庫はありません。
山口 1日に35tというのは、想像もつかないスケールですね。
髙橋 液状飼料を使う畜産農家は国内にほぼ皆無でしたが、今では約100万頭の養豚に使われています。全国の養豚数は920万頭なので、養豚飼料に占める割合は10~15%まで増えたことになります。工場見学者にはロイヤルティーを頂くことなくノウハウを伝えているので、私たちと同じモデルの事業者も誕生しています。
山口 国内外を問わず、多くの企業や団体から工場見学の申し出が寄せられていると伺っています。社長自身が他社にも惜しみなくノウハウを継承されるという行動の裏には「フードロスをなくしたい」という思いが込められていますね。
髙橋 工場見学をされると、皆さん驚きます。廃棄物と言っても、食べ残しや生ごみではなく、賞味期限が切れていないフレッシュな食べ物ばかり。原料として品質のいい食品を有効利用し、焼却炉で燃やすための税金も削減していることを、もっと世の中に訴求していきたいですね。
山口 環境負荷も軽減できる持続可能なビジネスモデルを実現されています。
環境・リサイクルビジネスは儲からないという印象をお持ちの方も多いかと存じます。
現在の業績についてお聞かせください。
髙橋 毎年増収増益で年商は現在3億1500万円、利益は数百万円で推移しています。環境ビジネスやリサイクルビジネスは「儲からない」「コストが高くつく」といわれ続けてきました。しかし、環境に良いことをやるからこそ収益性も高くなるし、リサイクルするからこそコストダウンができるというのが私の実感です。
Win-Winの関係性の先にあるSDGs
山口 SDGsビジネスモデルに取り組む際、従業員を含むステークホルダーをいかに巻き込むかが、成果の可否を決める重要なポイントの一つだと捉えています。髙橋社長が大切にされている考え方についてお聞かせください。
髙橋 一人一人にやりがいと誇りを持ってもらい、この仕事に携わってもらうことがとても大切です。会社分割後は毎年、新卒を数名ずつ採用していますが、離職率はずっとゼロです。
朝礼や会議で「従業員の皆さんの日々の努力が、どれだけ社会に貢献し、世の中の役に立っているか」を伝えています。工場見学にたくさんの人が訪れるので「自分たちは、すごいことをやっている!」と実感できるのも、従業員のモチベーションアップにつながっています。
山口 新卒社員の3割が3年以内に辞める時代に、離職率ゼロは素晴らしいですね。
髙橋 社員の自己実現のため、副業も禁止していません。副業ありきではなく、一つの会社に縛られている方がその社員にとってもったいないからです。
4年前、障がい者雇用に関心のある中堅社員がいました。そこで、彼の自己実現の場をつくるべく、就労支援会社と連携して、焼却処分されていた袋入りのパンやおにぎりの分別作業を任せることになりました。
この仕組みによって、食品メーカーにとっては分別処理の手間とコストが軽減されてリサイクル率がアップし、障がい者の皆さんには安定的な雇用の場が生まれます。当社も、品質の良い袋入り食品をリーズナブルに入手できて生産性が上がり、また、社員の自己実現にもなります。こうした、みんながWin-Winな環境をつくり続けたいと思っています。一石二鳥と言いますが、一石五鳥にも十鳥にもつなげるのが私たちのスタンスです。
山口 髙橋社長のミッションに共感する社員が入社し、自己実現できる場を提供することで、成果を上げているのですね。
経営コンサルティング本部
SDGsビジネスモデル研究会 サブリーダー
山口 莉乃
組織に縛られない連携で持続可能な農業ビジネスを実現
山口 髙橋社長がこれから新たに、取り組んでいきたいことは何でしょうか。
髙橋 個人的にはライフワークとして、人間社会と自然環境が共存して心地よく暮らせる世界を、目に見えるモデルとしてつくっていきたいです。食品リサイクルだけでなく、やりたいことは100以上あります。一つずついろんな方々の力や知恵を借りながら、挑戦していければと考えています。
会社としては、従業員のやりがいを尊重し、その実現に手を差し伸べていきます。一人一人が自己実現し、社員が育ってこそ会社も成長します。J.FECは私にとっても自己実現なんですよ。小学生の時に「獣医師の免許を取り、環境問題の解決を仕事にする」と作文に書いた夢が今、現実になっています。
山口 小学生の髙橋少年の思いは、これからも力強く歩みを進める原動力になっていくのですね。
髙橋 すでに「サスティナブル・ファーム」(SF)という新プロジェクトを始動しています。エコフィードを飼料だけでなく農作物の液肥にも利用する食品リサイクル・ループを構築し、SDGsのゴール12(持続可能な消費と生産)・17(パートナーシップの活性化)の達成にもつなげます。
処理コストがかさむ糞尿を再生可能エネルギー化し、農作物は直売所やネット販売、レストランで消費者へダイレクトに訴求しファンを増やして、農家が家族を養える収益と週休2日を可能にします。持続可能な新しい農業ビジネスモデルとして、2年後の実現を目指しています。
山口 畜産や農業で付加価値の高い商品を「つくる仕組み」と、消費者に直接届けて収益性を高める「供給する仕組み」を、トータルに変革する挑戦です。
髙橋 SFのプロジェクトメンバーは、畜産やレストラン運営、シェフなど、それぞれに自分の仕事を持つプロフェッショナルです。これからは一つの会社だけで仕事をするのが時代遅れになって、組織の枠に縛られずにプロ同士で相乗効果を高めていく姿が当たり前になります。
産業革命以後の経済優先のベクトルでは、人も社会も地球も疲弊が進んでいる、経済だけ回せば人間が幸せになれるかと言えばそうじゃない、とみんなが気付き始めています。
全ての会社の原点は社会課題の解決にある
山口 世の中の潮流に合わせて、SDGsの取り組みを進めようと考えている、中堅・中小企業の皆さまにメッセージをお願いします。
髙橋 実は、当社がSDGsを強く意識したことは一度もありません。何をどうすれば、自分たちがやりたいことや社内に持つポテンシャルを生かしながら、社会に貢献できるか。そしてそれが自社の課題解決にもつながるか。そう考えればおのずと道が見えてきますし、SDGsにも一致します。「SDGsをやらなきゃ」と肩ひじ張って頑張る方が、難しいのではないでしょうか。
山口 SDGsへの取り組みをブランディングとして捉えるのではなく、「わが社が取り組むべき社会課題の解決とは何か」を前提にした本質的な軸を持つかどうかで、動き方も成果も変わってくるということですね。
髙橋 見学に来られる方々にはいつも「SDGsを一つの部署単位で実施するのはやめましょう」と伝えています。というのも本来、SDGsは全社方針の根底を成すものだからです。
パナソニック創業者の松下幸之助氏は「明るい電球を安く家庭に届けたい」と考え、会社を立ち上げて成長させていきました。「世の中で困っている人を助けよう」と社会課題を解決することから始めたのは、本田技研工業の創業者・本田宗一郎氏も同じ。「儲けよう」「知名度を上げよう」という発想ではなく、どの企業も社会の課題を解決したいと思って創業しているはずです。全ての会社にあるその原点と本質を見直すことが、これからの持続可能なビジネスモデルづくりにつながっていきます。
特に現在、私たちは新型コロナウイルスという大きな社会課題に直面しています。今こそ原点に立ち返り、物事の本筋ややるべきことを見直さないといけない時期に差し掛かっていると感じます。
山口 私も同感です。ビジネスは「社会の困り事を解決する」ことから始まり、「困り事の数だけ事業がある」と考えています。よって、今こそ、創業の原点に立ち返り、課題解決視点でビジネスモデルを見直す必要があると捉えています。
髙橋 SDGsのバッジを胸に着けることよりも、世界がどう変わっていくのか、グローバルな視点と感覚を大事にしてほしいですね。
山口 おっしゃる通りです。自分のこと、自社のこと以上に世界を俯瞰し、社会・環境に配慮して物事を見る人、また、そういう人材が活躍できる会社が増えることが、社会の変革や企業のサステナビリティーにも影響しますね。
髙橋 本当に、そうですね。実際、「食品ロスの削減が進めば、飼料化する原料が減り、売り上げも下がっていきませんか?」とよく質問を受けるんです。でも当社はずっと「食品ロスを削減できた!」と契約先に喜ばれ、売り上げは伸び続けています。食品廃棄物の数量や種類をデータ化したレポートを毎日、排出事業者に提供し、仕入れや生産量の改善を可能にしているからです。積極的な情報発信によって、成果を手にした契約先が新たな取引先を紹介してくれるので、どんどんビジネスが広がっています。
「明日の売り上げを伸ばすこと」ではなく、「社会課題をどうやって解決していくかを考えること」が重要です。そう言うと、若い世代ほど共感してくれます。
山口 企業のサステナブルな経営戦略を構築するために、まずは創業の原点に立ち返る。そして、社会課題解決を軸にした事業のミッションに対し、社員を中心としたステークホルダーが共感し、共鳴する。このようにして、成果を上げる貴社の実績こそが、中堅・中小企業の皆さまの励みになります。本日はありがとうございました。
PROFILE
- (株)日本フードエコロジーセンター
- 所在地:神奈川県相模原市中央区田名塩田1-17-13
- 代表者:代表取締役 髙橋 巧一
- 売上高:3億1500万円(2019年3月期)
- 従業員数:35名(パート含む、2020年5月現在)
SDGsそのものの理解から目標設定と経営への統合・報告までサステナビリティ経営実現のためのあらゆるSTEPを支援します。
https://www.tanabeconsulting.co.jp/vision/service/