水道やガスなどの配管資材商社として、社会インフラを支える三興バルブホールディングス。ホールディングス化によってグループ3社の相乗効果を発揮しながら、業界の枠を超えた多機能型商社への飛躍を目指す。
何でもそろう即納体制で競争力を高める
高島 三興バルブホールディングスは、水道やガスなどに使用される配管資材を扱う専門商社として、九州・沖縄を中心に事業を展開されています。まずは創業の経緯についてお聞かせください。
長﨑 当社の創業は1947年。私の祖父である長﨑洋六が、焼け野原の博多で米軍の払い下げ品の販売を始めたことにさかのぼります。社名の三興は、先輩2人と祖父の3人で会社を起こしたことに由来しており、磨き上げたバルブや、パイプとパイプをつなぐ継ぎ手などをリヤカーに乗せて売り歩いたと聞いています。
その後、お客さまの声をヒントに商材を広げたことで事業は成長。営業エリアを北九州から九州全域、さらに沖縄へと拡大していきました。現在は、2019年1月に設立した三興バルブホールディングスを中心に、三興バルブ継手、協和商会、武蔵鋼管のグループ3社で事業を展開しています。
高島 ホールディングス化に伴って、「私たちは『3つの目的』を追求し、日本になくてはならない元気な企業グループを創造する。」というグループ理念を掲げられました。どのような思いを込められたのでしょうか?
長﨑 理念にある「3つの目的」とは、「業界やお客様が抱えている『困りごと』を見つけ、解決に貢献する」、「時代の変化を積極的に受け入れ、断続的なセルフトランスフォームを実現する」、「人財の魅力・能力を最大限に引き出し、活躍の場を創り、自己成長のサポートをする」を指しています。
簡単に説明すると、一つ目は、設備業界、建設業界の困り事を見つけてグループで取り組む企業グループであること。
二つ目に、変化を捉えて自ら会社を変えていくこと。今の時代は、一部を変化させるのではなく、会社の在り方そのものから変えるトランスフォームの覚悟がないと、グループとして成長を続けるのは難しいと感じています。
三つ目が、社員の成長。目的に向かって動く主体は社員ですから、彼・彼女らの能力を最大限に引き出す環境を提供し、イキイキと活躍できる会社にしていこうという決意を込めています。
高島 企業経営はピラミッドに例えられます。頂点に理念があり、それをミッション、ビジョンが支えています。創業以来、豊富な在庫に裏打ちされた「何でもそろう即納体制」が強みであり、ミッションとして受け継がれてきました。加えて、ジュニアボードに取り組んだことで、将来に向けたビジョンが明確になりました。
長﨑 タナベ経営に協力いただき、2014年にジュニアボードを導入して中期経営計画を策定しました。当社は、品ぞろえやデリバリー、営業対応などを強化しながら競争力につなげてきましたが、若手社員も含めて会社の未来を話し合う中、従来の要素だけでお客さまの課題を解決していくのは難しいという意見が出てきました。
ご存じの通り、建設業界は慢性的な人手不足、資材不足など、さまざまな問題を抱えています。それらを解決するには、何でもそろう即納体制に加え、工事を工程通りに進めるためのサポートが不可欠だと考えました。
こうした、お客さまの「不」を解決する新たなサービスが求められているという思いから、「九州・沖縄における円滑な現場を技術でサポートする」をビジョンとしました。
ホールディングス化で社員が活躍できる組織へ
高島 ホールディングス化してから、ちょうど1年がたちました。この組織変更の狙いは、どこにあったのでしょうか?
長﨑 グループ3社はこれまで独立した経営を行っていました。その結果、一部の事業領域が重なっているにもかかわらず情報を共有しておらず、社員同士の交流もほとんどありませんでした。
そうした状況を、相乗効果によって「1+1+1=10」にするにはどうすべきか悩んでいた時、タナベ経営のセミナーでホールディング経営について知りました。その後、いろいろと調べたり勉強したりする過程で、当社に合った組織との結論に至りました。
高島 ホールディングス化にはさまざまなメリットがあります。その中でも、どのような点に魅力を感じたのでしょうか?
長﨑 一番の魅力は、プロパー社員が事業会社の社長になれる点です。年々、人材採用は難しくなっていますが、能力次第で社長になれる組織に魅力を感じる人は多いはずです。社員のモチベーションが上がりますし、会社としても、やる気のある人材を集められるメリットは計り知れません。さまざまな側面から見て、会社の未来にとって一番良い形だと判断しました。
高島 社員のモチベーションや成長という意味では、グループを横断するプロジェクトを立ち上げて新規事業などに取り組まれています。
長﨑 ジュニアボードでは、ビジョンを実現するための新規事業がいくつか提案されました。その実行に当たって、グループ会社からメンバーを集めたプロジェクトチームで取り組んでおり、いくつかは成果が表れ始めています。
例えば、お客さまの現場をサポートする技術として、ねじを現場に合わせて加工するサービスを開始しました。スタートから3年が過ぎましたが、お客さまにかなり浸透して他社との差別化につながったという手応えを感じています。
他にも、マンション向けの給水や給湯の配管について、各部品を組み立てた状態で現場に納品するプレハブ加工を2018年から提供。当初こそ、「商社がそこまで手掛けるのか」と驚かれましたが、今では工期短縮につながると現場から大変好評です。
高島 プレハブ加工された資材であれば、入ったばかりの職人であっても設置できますね。建設業界の人手不足は特に深刻ですから、加工は現場の「不」を解消する付加価値の高いサービスと言えます。
産業構造が変化する中、川中(卸業)に属する企業は川上(メーカー)の機能を持つか、川下(小売業)の機能を加えないと生き残ることは難しい時代です。加工は川上に踏み込んだ新規事業と言えますが、一方で小売り機能の強化にも挑戦されています。
長﨑 当社の強みである即納の基本はデリバリーですが、2019年11月、その逆の形としてお客さまに来ていただく実店舗「バルビア」を福岡市の本社1階にオープンしました。従来からあるデリバリー、オンラインショップに実店舗を加えた複数のルートを持つことで、お客さまの利便性を向上させる狙いがあります。
高島 インターネットとリアルを組み合わせて販売を促進する流れは広がっています。近年、プロ向けの資材をそろえる大型ホームセンターの出店が増えるなど、建設業界では実店舗へのニーズが高まっているように感じます。
長﨑 おっしゃる通りです。実際に、私は熊本市のある大型ホームセンターで、当社のお客さまが、当社の商品を購入される現場を目撃したことがあります。よく知っている方だったのでお声掛けしたところ、「量が少なく、わざわざ持ってきてもらうのは悪いから」とのこと。当社としては少量でもお届けしますが、そういったお客さまの声に応える即納の形とは何かを考え、実験的な店舗としてバルビアをつくりました。
デリバリー、オンラインショップ、実店舗、それぞれに良さがあります。あらゆる世代、シーンに対応できる即納体制を整えることは、円滑な現場をサポートする一環だと考えています。