熊本県熊本市に本社を置く総合住宅メーカーのアネシスグループ。複数のブランド展開によって事業基盤を固める一方、2019年のホールディングス化によって社員が活躍できる組織づくりに力を注いでいる。
「お客さまを幸せにする家づくり」を目指して
中須 アネシスグループは、熊本市に本社を置く総合住宅メーカーです。2019年にアネシスホールディングスを設立し、グループ6社を加えたホールディングス組織に移行されました。まずは企業概要からお聞かせください。
薮内 当社の創業は1994年、今年(2019年)で25年目を迎えます。創業者で代表取締役を務める加藤龍也が「お客さまを幸せにする家づくりをしたい」「社員が誇れる会社をつくりたい」という思いで会社を起こしたのが始まりです。当初は分譲住宅の施工販売からスタートしましたが、現在は注文住宅やリノベーション、リフォームまで取り扱う総合住宅メーカーとして事業を展開しています。
中須 “アネシス”という社名にはどのような意味が込められているのでしょうか?
薮内 アネシスはギリシャ語で「安心」という意味。社名には「家に住み始めた後も安心して暮らしていただきたい」という願いを込めており、当初から“アフターメンテナンス日本一”を目指して事業を行ってきました。
中須 住宅購入時だけでなく、購入後の暮らしに着目されたことでお客さまの支持を集めました。
薮内 創業時から当社が大切にしてきたのが「人間尊重」の経営です。社員やお客さま、取引先企業を大事にする考え方が社内に浸透しており、これが家の品質向上や会社の強みになっています。また、新しいことにチャレンジする社風が当社の特長ですが、これも人間尊重から生まれたもの。社員の挑戦を応援する加藤の姿勢が社風となり、新規事業が増えていきました。
中須 人間尊重の考え方は「人財を育成し幸せを形にする」というグループ理念にも表れています。顧客満足などお客さま視点を入れる企業はたくさんありますが、社員視点で作られた企業理念は珍しいように思います。
薮内 「人財の育成」は当社の核となる考え方。「幸せを形にする」とは、お客さまが求める家族の幸せの形を指すと同時に、社員の幸せも含まれています。
加藤は日頃から「人としてのステージを上げなさい」と社員に伝えています。はたから見れば同じことをしているようでも、ステージが上がるにつれて見える景色は変わっていく。その繰り返しが自己実現へと導き、社員の幸せが実現されると私は解釈しています。その結果として事業の幅が広がり、会社は発展していくのだと思います。
ホールディングス化で社員が活躍できる組織へ
中須 社員が各社の経営を担うホールディングス組織は、社員にとって人としてのステージを上げるチャンスを増やします。
薮内 ホールディングス体制への移行には事業承継も大きく関係していますが、社員の活躍の場を広げることができるのも魅力でした。当然、複数のニッチ分野でナンバーワン事業を持つという事業戦略上の狙いもありましたが、事業承継と事業戦略の両面から見てホールディングス体制が最適でした。
古田 薮内部長は経営企画室長としてホールディングス化に向けて奔走されていました。新体制移行の発表を聞いた社員の反応はいかがでしたか?
薮内 ホールディングス化に伴う最大の変化は、各事業が独立採算で経営する点です。まずは事業を経営できる人材の育成が急務でしたが、当初は不安を感じる事業責任者もいました。ただ、幹部メンバーと話し合いを重ねるうちに、同じ方向を目指すチームになった手応えを十分に感じることができました。
古田 メンバーのベクトルを合わせるポイントはありますか?
薮内 当社の場合、ホールディングス化の約2年前から次世代リーダーが集まって会社のビジョンを考えるインフォーマルな会がありました。会社の指示ではなく、社員が自発的に集まって、アネシスの歴史や理念を学び、どのような会社にしたいかというビジョンについて語り合う会です。ビジョンを行動指針に落とし込んだり、新たな人事考課の仕組みを検討したりしていましたが、そのメンバーが中心となって中期経営計画やホールディングス組織を推進していきました。
そのような経緯もあって、非常に主体的に取り組んでくれましたし、タナベ経営にご協力いただくことで当初の不安が消え、前向きな雰囲気が広がっていったように思います。
古田 社員が会社の将来について主体的に考える土壌ができていたことは大きいと思います。
薮内 大変なことはあったものの、その分、横のつながりが強くなりましたし、みんなで作ったという思いが残っています。この経験はきっと会社の将来にとって大きな財産になると確信しています。
地域にとって「なくてはならない企業」へ
古田 創業者から社員に経営をバトンタッチする上で大事なのは、創業の志や理念を受け継いでいくことです。次世代リーダーの会がまとめたビジョンは、大事なツールになるはずです。
薮内 ビジョンにまとめた内容は、朝礼などの場で従来から共有されているものです。明文化されたことで、しっかりと守っていこうという気持ちがいっそう強くなりました。自分で読み返すだけでなく、月に1度は必ず唱和しています。唱和はタナベ経営の提案でしたが、実際に声に出してみると理解が深まりますし、全体に浸透していく様子を実感できます。今後は自分の言葉に変えて、若い世代に分かりやすく伝えていくことが大事だと考えています。
古田 ホールディングス体制に移行して半年ほどたちましたが、今の課題についてはどのように考えておられますか?
薮内 何より、やりきる文化をつくることです。中期経営計画と現状のギャップを把握し、改善に向けた対策を真摯に追い求める体制づくりが課題です。会議を見直したり、先行管理を導入したりする中、ようやく「計画を達成するにはどうすればよいか?」「どのような手を打つべきか?」といった前向きで活発な議論が出てきています。組織の活性化が始まったと受け止めており、これが続いていけば企業風土として定着し、強い組織になるだろうと期待しています。
古田 ここ数年は福岡市や久留米市にも事業所を開設されるなど活躍の場を広げておられます。今後は「九州ナンバーワン」を目標に置かれていますが、住宅業界を取り巻く経営環境についてはどのように考えておられますか?
薮内 事業環境は楽観視できるものではありません。国内は人口減少が進んでいますし、新築住宅市場は縮小傾向が続いています。ただ、住宅業界の特徴は、参入障壁が低くプレーヤーの数が多いこと。ライバルは多いものの、本当の意味でお客さまに価値を提供できる企業はより強くなっていくと捉えています。
中長期的には、九州のお客さまにとってアネシスが本当に価値ある企業になることが成長の条件になるでしょう。街の活性化に貢献できる企業、より良い暮らし方を提案できる企業など、地域にとってなくてはならない企業になれれば未来は明るいと考えています。
成長の背景にあるみんなが挑戦できる組織
古田 ホールディングス化に伴い、薮内部長はアネシスグループ初の女性役員に抜擢されました。これまでどのようなキャリアを積まれてきたのでしょうか?
薮内 新卒入社後、住宅営業からスタートしました。アネシス初の女性営業職であり、周囲から「女性には無理だ」という声も聞こえましたが、やるからにはトップセールスになろうと決意。実際、入社3年目にトップセールスを達成できました。その後、産休・育休中に家庭と仕事の両立を目指して一級建築士資格の勉強に励み、復職後は設計部門へ異動。2年ほど設計を経験した後、新規事業の「オーガニックハウス」の立ち上げに営業設計として参画しました。
古田 子育てをしながら資格取得の勉強もするのは大変です。さらに新規事業の立ち上げや設計営業と業務が広がる中、仕事と子育ての両立は簡単なことではありません。
薮内 これまでも、注文住宅やエス・バイ・エルの代理販売といった新規事業に携わってきたため、不安はありませんでした。むしろ、新規事業の立ち上げから関わってみたいという気持ちがありましたし、設計営業としてより深くお客さまに関わることに魅力を感じていました。その後、第2子の産休・育休期間中にMBAを取得。復職後は経営企画室と総務部の責任者を兼任しましたが、この2年間の経験で視点が大きく変わりました。
古田 今やアネシスグループの約半数は女性社員です。薮内部長がキャリアアップと家庭を両立させるロールモデルになったのではないでしょうか?
薮内 ロールモデルになれているかは分かりませんが、周囲が初めから「女性はできない」と決めつけない環境づくりに、少しは貢献できているのかもしれませんね。ただ、私はもともと不器用な人間です。壁に当たった時、当時の上司から多くの気付きを与えていただきましたし、社長の加藤は大きな気持ちで見守ってくれました。周囲のサポートなど安心してチャレンジする環境があったからこそ、思い切って挑戦してこられたと思います。本当に感謝しています。
古田 見守ることは、実は一番難しいものです。優秀な人材が多いことも納得できます。
薮内 当社にはチャレンジしたい社員を、性別に関係なく応援する社風があります。実際、私以外にも事業長、設計課長、積算課長の女性管理職がおり、それぞれの立場で活躍しています。年齢や性別にかかわらず同じ土俵に立って新規事業を立ち上げられる環境に魅力を感じて、優秀な人材が集まっている側面はあると思います。
街づくりに事業を広げ新しいアネシスへ
中須 アネシスが成長を続ける理由が見えてきました。ホールディングス組織への移行という大きな転機を迎えましたが、今後の展望についてお聞かせください。
薮内 ホールディングス化によって、今後は社員がアネシスグループを引き継いでいくことになります。創業者の志を守りながらも、新しいアネシスをつくっていくことが重要です。
中須 新しいアネシス像について具体的なイメージはお持ちですか?
薮内 中長期的な視点で言えば、アネシスグループが九州にとってなくてはならない企業になること。それには地域を活性化する事業、企業をつくる必要があります。例えば、街づくりや地域づくりの視点で新規事業を考えていくことが重要です。これは私個人のビジョンとも重なるためしっかりと進めていきたいと思います。
中須 仕事と個人のビジョンが重ねられる人生は幸せです。仕事と自己実現を一致できる社員が1人でも多く出てくると、企業は活性化して成長していきます。
薮内 当社が今日のような多事業展開に至った背景には、自律的に行動する社員の存在に加えて、チャレンジを応援する風土、体制が大きく関係しています。誰でも挑戦する素地はすでにあるため、これからもオーナーシップを持って挑戦してほしいと思います。
新規事業の選択肢が広がり、より大きなチャレンジができるように、企業体力や人材力を高めていくことが、今の経営幹部の役割だと考えています。
中須 アネシスグループが、九州にとってなくてはならない会社になれるようタナベ経営も全力でサポートさせていただきます。本日はありがとうございました。
PROFILE
- ㈱アネシス
- 所在地:熊本県熊本市東区長嶺南8-8-55
- 設立:1994年
- 代表者:代表取締役 加藤 龍也
- 売上高:71億3500万円(グループ計、2019年1月期)
- 従業員数:148名(グループ計、2019年6月現在)