“正直な商売”をモットーに創業以来、鉄を中心に外装建材や鉄鋼建材、住宅建材などへ事業を広げてきたカケフグループ。ホールディングスへの組織改編によって各分野の専門性を高める一方、インドやインドネシアで事業を展開するなど海外へも活躍の場を広げている。
成長の秘訣は「真面目にコツコツ」
福原 カケフホールディングスは、2018年に創業70年を迎えられました。これまで鉄や鉄製品を中心に事業を広げてこられましたが、2017年には持ち株会社であるカケフホールディングスを設立。現在はグループ5社が各領域で事業を展開されています。まずは、グループ会社や事業概要について簡単にお聞かせください。
掛布 当社の始まりは、1948年に掛布静雄が個人事業としてトタンの販売を始めたことにさかのぼります。以来、鉄一筋で事業を続けてきました。グループ会社は、外装建材事業を行うメトーカケフ、鉄鋼建材事業を行うスタールカケフ、コイルセンター事業を行うカケフ鋼板、住宅建材事業を行うカケフ住建の四つの事業会社と、カケフ住建のインドネシア子会社で構成されています。組織改編から3年目を迎えましたが、グループ間のコミュニケーションは良好で各社が専門性を高めながら事業に取り組めていると感じています。
福原 グループ全体の売上高は189億円(2018年8月期)、従業員数は250名を超えています。順調に規模を拡大してこられましたが、ここまで成長した秘訣はどこにあるのでしょうか?
掛布 特別な秘訣はありませんが、創業以来、真面目にコツコツと仕事をしてきたことが今につながっていると思います。社風の原点は創業者の人柄。妻(掛布邦子)の父である創業者は、“正直な商売”をモットーとする実直な経営者でした。お客さまの意向を真摯に聞く姿勢が成長の秘訣だと感じています。
お客さまのニーズに合わせて事業領域を拡大
福原 飛躍のきっかけとなった出来事や創業者の人柄が分かるエピソードはありますか?
掛布(邦) 父はもともと三菱重工業に勤務していましたが、終戦を機に退職。その際、退職金の代わりに軍需工場に残っていた、穴の開いた鉄板100枚を譲り受けたことが創業のきっかけです。その鉄板とトタン板を交換してもらい、販売したところから事業がスタート。さらなる発展を目指して1958年に合資会社へ改組しましたが、翌年に日本を襲った伊勢湾台風が一つの転機になりました。東海地方が甚大な被害を受ける中、救援物資の指定問屋になったのです。
中には災害に便乗した値上げを行うところも多くありましたが、父は一切値上げをせず、付け払いのお客さまであっても商品を販売し続けました。そうした父の姿勢は地域を越えて伝わり、販路が飛躍的に広がっていきました。
福原 目先の利益にとらわれることなく、被災したお客さまに寄り添う姿勢を貫かれた。素晴らしい経営判断をされました。
掛布(邦) また、父は「どうすれはお客さまが楽になるか」を常に考えていました。創業後しばらくはメーカーから仕入れたトタンを販売するだけでしたが、1960年代からはお客さまの要望に合わせて建造物の骨組みに使う鋼材の取り扱いを始めたり、お客さまの用途に合わせて波型やV字型にトタンを加工したりと、付加価値の部分に力を入れるようになりました。
福原 1カ所で複数の材料が調達できれば顧客は発注の手間が省けますし、すでに加工されていると現場ですぐに使えて便利です。どちらも日頃からお客さまに接しているからこそ、気付くことができたのでしょう。
掛布 高度成長の波にうまく乗れたことが成長のポイントですが、加えて同業他社がやりたがらない仕事にもコツコツと取り組んだことで事業領域が広がっていきました。
また、非常に早い段階から業務ごとに専任の担当者を置いていたことも、お客さまの課題にいち早く気付けた要因だと思います。私自身、営業に専念できたのできめ細かい対応ができましたし、お客さまから相談していただける関係を築くことができました。
そうした積み重ねが信頼となり、現在の事業を支えています。創業から70年たちますが、赤字決算を出したのはリーマン・ショック後の1期だけ。これは当社の自慢です。
福原 「信頼関係」や「お客さまの課題解決」といったキーワードは、グループ経営理念にも掲げられています。
掛布 お客さまの課題を解決するために、いつも現状を超えるプラスアルファを求めてきました。これを社員全員に伝えたいと思い、グループ経営理念にまとめました。
鐵の新しい需要と高付加価値を創造し、社会の発展に貢献する。お客様の課題解決を通じて信頼関係を構築し、共に永続的繁栄を目指す。社員の幸福を追求し、広く社会に感謝され、成長し続ける人材を育成する。
責任を重んず 約束を守る 親切丁寧 無駄を省く 明朗で前進
ホールディングス化で専門性を磨く
福原 順調に事業を拡大される中、創業70周年を前にホールディングスに組織改編された理由はどこにあるのでしょうか?
掛布 一番の理由は人材が育ってきたこと。各事業を任せられる人材が出てきたことです。各社の事業に重なる部分がほとんどないことも分社化に向いていました。今後は、各社が自立しながらそれぞれのカラーを打ち出し、事業を広げていってほしいと期待しています。また、専門性を高めたグループ間のコラボレーションによって、新たな領域に事業が広がる可能性は大いにあります。そうしたシナジー効果が出てくることも楽しみにしています。
福原 ホールディングス化へはスムーズに移行できましたか?
掛布 移行後は弊害などもなくスムーズに進んでいますが、導入までには紆余曲折がありました。当初は社内で試行錯誤しながら取り組んでいましたが順調には進まず、途中からタナベ経営に助けていただきました。ホールディングス化には経理面だけでなく組織づくりのノウハウをはじめ総合的な知識や経験が必要です。やはり専門家の協力が不可欠だと痛感しました。
福原 ホールディングス化のメリットについては、どのように感じておられますか?
掛布 さまざまありますが、私は情報に関するメリットが大きいと思います。専門化するほど情報が集まるので、新たなビジネスチャンスが増えています。特に、海外からの情報は将来に向けた大きな財産になると感じています。
福原 海外戦略や注力していく地域、今後の課題などについてお聞かせください。
掛布 海外展開の一つの目的は、日本の優れた技術を海外に移転することです。すでにインドとインドネシアに進出していますが、現時点では経済格差が大きいため日本の高い技術はあまり役に立ちません。日本では住宅1棟当たり1500万円から2000万円のコストをかけますが、現地の住宅はそれより1桁少ないか、もっと低い価格帯が主流。ただ、これからは性能へのニーズが高まっていくと思いますから、当社が貢献できる部分も広がっていくと予想しています。
その際、ポイントになるのが、日本の機能を現地の価格帯にどう近づけていくか。これは非常に難しい課題ですが、現地においても外資系の大型工場などを中心に当社の技術に対する評価が広がっているため、そこを入り口に事業を広げていきたいと考えています。
一人一人が活躍できる働きがいのある組織へ
福原 新卒採用では売り手市場が続いており、多くの中堅・中小企業が採用に頭を抱えています。そうした環境下で、今年度は9名の新卒社員を採用したと伺いました。
掛布(邦) おかげさまで、新卒採用に加えて若年の中途採用においても良い方に入社していただきました。採用については、日頃から大学を回ったり、合同企業説明会に参加したりと地道な活動を続けていますが、その際に入社1年目、2年目といった若い社員に同行してもらい、学生の悩みや質問に直接お答えするようにしています。また、リファラル採用として社員のお子さんやお孫さん、お友達、知り合いなどをご紹介いただくなど、より多くの機会をつくるように心掛けています。
福原 新入社員研修では一緒に山登りをされているとお聞きしました。
掛布(邦) 日頃から私と社長は山登りやハイキングに出掛けていることもあって、2018年から取り入れています。休憩を含めて出発から下山までに約2時間かかりましたが、一緒に歩くといろいろな話ができて面白いですね。自然の中で鳥のさえずりを聞きながら歩くとリフレッシュできますし、同じ体験をすると距離が縮まります。
福原 掛布社長は若い社員にどのような印象を持たれましたか?
掛布 今の若い方は知識が非常に豊富で驚きました。私たちは、その長所をどう伸ばしてあげられるか真剣に考えないといけません。仕事を通して知識を使いこなすセンスや判断力を身に付けていけば、各現場で活躍できる人材に育っていくだろうと今から楽しみにしています。
福原 次世代の経営幹部育成を目的とするジュニアボードやネクストボードをはじめ、人材育成には非常に力を入れておられます。
掛布(邦) 社員が、「この会社で働けて良かった」と思ってくれるような会社にすることは私たちの責任です。ですから、縁があって入社してくれた社員に、少しでも長く一緒に働いていただけるような環境づくりが大事だと考えています。
社員教育はもちろんですが、長く働くためには給与面も大事。これについては地域の企業の中で平均以上の給与であるよう努力していますし、福利厚生についてもできることから整備しています。
すぐに大手企業並みとはいきませんが、例えば産休・育休制度では、復職後、お子さんが小学校3年生まで短時間勤務を利用できるように整えました。法律上は3歳までですが、本人が希望すればより長い期間にわたって短時間勤務を続けることができます。
福原 小学校低学年まで短時間勤務を利用できれば、子育てと仕事が両立しやすくなります。
掛布(邦) 子育てと仕事の両立は簡単ではありません。仕事を辞めようか続けようかと悩む社員が、制度によって1人でも多く踏みとどまって頑張ろうと思ってくれるよう導入しました。今のところ、男性社員が育休や短時間勤務を利用した実績はありませんが、今後は介護休暇も含めてみんなが取りやすい環境にしていくことが大事。毎日仕事をしてくれる社員が一番大切ですから、これからも社員の幸せを考えて働きやすい環境づくりに取り組んでいきたいと考えています。
永続発展を目指し変化に対応できる組織へ
福原 真面目に愚直に、お客さまと事業に向き合われた結果が現在の成長につながっています。最後にカケフグループの今後のビジョンをお聞かせください。
掛布 このままいけば5年先は企業規模が200億円を超えると予測していますが、10年先も成長し続けるには新しい事業の柱が必要になるだろうと考えています。30年前にコイルセンター事業へ参入し、20年前に住宅建材事業に挑戦したように、10年から15年に一つのペースで新たな事業を確立していくことが、安定的な成長につながっていくと考えています。
福原 この先、80周年、90周年、そして100年企業を目指すに当たり、大事にしていることや引き継いでいきたい思いはありますか?
掛布 当社はこれまで鉄一筋で正直にコツコツと取り組んできました。この姿勢は今の経営幹部にしっかりと根付いていますし、この先も変わらず受け継いでほしいと思います。その上で、若い世代のセンスを引き出し、伸ばしながら新たな領域に挑戦する組織であること。現在、各事業会社の社長は自ら方向性を見つけてリーダーシップを発揮してくれていますが、若い社員にも同じように成長してもらいたいと思います。これからも安定した職場であり続けるために、経営幹部が先頭に立って時代の変化に対応できる組織を目指してもらいたいと願っています。
福原 創業者から続く正直な商売、コツコツと努力するカケフグループの社風を引き継ぎながら、ホールディングス化によるシナジーを発揮され、ますます発展していかれることを祈念しております。本日はありがとうございました。
PROFILE
- ㈱カケフホールディングス
- 所在地:岐阜県可児市二野1979-150
- 創業:1948年
- 代表者:代表取締役 掛布 毅
- 売上高:売上高:189億円(グループ計、2018年8月期)
- 従業員数:260名(2019年5月現在)