「働き方改革」は「学び方改革」から始まる
働き方を抜本的に改革して長時間労働の抑制を図る動きが活発化しています。労働時間の短縮は生産性を向上させることが絶対条件になります。ただし、これらは国の政策以前に、民間企業の積極的な取り組みが大切なのです。タナベ経営創業者の田辺昇一も「生産性なくして分配なし」と言っていた通り、生産性を高めない限り社員に分配できません。労働時間を短縮するには、単純なコストカットや時間削減ではなく、生産性の向上が不可欠です。
ところが近年、日本の労働生産性が振るいません。日本生産性本部が発表した2015年のデータでも、OECD 加盟35カ国中22位(7万4315ドル)。1位のアイルランド(15万3963ドル)の半分以下、3位の米国(12万1187ドル)の6割程度にとどまっています。しかもイスラエル、ギリシャより低いのです。国際競争力を高めるためにも、生産性の向上は必須です。
働き方改革と生産性向上を両立させるキーワードは何か。それは「全員活躍経営」に他なりません。イキイキと活躍する社員の数が多いほど、職場環境が整備され、生産性も高まるのです。ある一部の部門や人材で生産性を上げているようでは、組織の生産性は二極化して全体の生産性が上がりません。
私は労働分配率を「プロ化比率」と呼んでいます。随所に主となれる非凡なプロ人材の数が増え、彼ら・彼女らが活躍できる組織へ近づくほどに付加価値が高まり、労働分配率も改善するからです。労働分配率は、人件費を下げれば一時的に改善しますが、それでは持続しません。社員一人一人が学び、成長し、活躍する組織を目標にするのです。現在は、人材やチームに対する考え方が180度変わっているのです。
そのためにも、財産である人材の「学び方」から改革し、各人の潜在能力を引き出し、活躍できるチームをつくる。そうしたチームに投資し、職場環境を整備する戦略が求められています。これが、日本の中堅・中小企業の生産性を高める重要なアプローチなのです。
世界ナンバーワンの総合モーターメーカー・日本電産の永守重信氏は、「機械に設備投資をすると生産性は1.5倍程度になるが、人に投資すると生産性は2倍、3倍に高まる」と言っています。人材投資によって組織生産性は飛躍的に高まります。新たな価値観へ組織全体が向かっていくべき時なのです。
プロ人材を育成するデジタル「アカデミー」の構築で仕組み作り
私たちタナベ経営は、3年前の2014年、日本初のプロフェショナルコンサルタントを育成するビジネススクールをつくろう」を合言葉に、「タナベコンサルタントアカデミー」を構築しました。
プロフェッショナルコンサルタントが育つためのカリキュラムを再整理するとともに、その専門分野ごとに社内講師を選定。約120 のプログラムをデジタル映像に収録し、セキュリティーを確保したクラウド上で専門プロフェッショナルコンサルタントがノウハウを公開しています。タナベ経営のスタッフであれば、年齢、役職、性別、部門の垣根を越え、誰でも、いつでも、どこからでも学べる環境をつくりました。
もちろん、従来のリアルな集合研修、ディスカッション教育、ケーススタディーメソッド教育、ジュニアボードなどは継続しています。しかし、その頻度や内容は大きく変わりました。現在では、クラウドの映像学習とリアルな集合研修、テレビ会議などを組み合わせて、『タナベFCC アカデミー』をデザインしています(FCC:ファーストコールカンパニーの略)。
クラウドで配信する映像は、パソコンだけでなくスマートフォン、タブレットからでも視聴できます。コンサルティングファームとして、北海道から沖縄まで全国展開し、時には海外へ出掛けて仕事をするコンサルタントにとって、非常に効果的なシステムになったと自負しています。
社員の中からタレントを見つけてマネジメントする
従来からある「e ラーニング」(インターネットを使った学習教材)と「FCC アカデミー」との根本的な違いは何か。それは、私たちが提唱する「アカデミーコンセプト」の中心価値に、「タレントマネジメント」を置いていることです。タレントマネジメントとは、「社員が持つタレント(Talent:能力・資質・才能)やスキル、経験値などの情報を人事管理の一部として一元管理することで、組織横断的に人員配置や人材開発を行うこと」です。
社内の優秀な人材、モデル人材、ナレッジ人材を発掘し、タレントマネジメントによって人材のノウハウを見える化する。それをデジタル映像としてプロデュースするとともに、クラウドによる映像学習とリアルな集合研修(社内や派遣など)の両方で組織共有することにより、「学び方改革」から「働き方」「働きがい」を高めて、プロフェッショナル人材を増やし生産性改革へと導く。こうした経営システムを、私たちは「FCC アカデミー経営」と呼んでいます。
こうした学習手法が「経営システム」となり得るのは、FCC を目指すビジョンマネジメント(VM)、タレントマネジメント、人材活躍のプラットフォームなどのインフラとして成長していくからです。
会社の物語は、創業者や社長だけのものではありません。むしろ、現場や社員、組織の中にこそあるのです。社員が組織や仕事を通じて発揮している才能を、いかに見つけ、見える化し、磨き、つなげるのか。アカデミー経営による人材育成は、社内から人材を発掘し、活躍につなげる(長所連結主義)ことが、重要なスキルとなります。
また、建設業や不動産業の専門スキル、店舗オペレーションスキル、工場の機械加工スキルなどノウハウの蓄積にもつながります。e ラーニングとは全く違う概念であり、従来の教育アプローチとも180 度異なる「未見」の取り組みなのです。