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コラム
TCG社長メッセージ
タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
コラム 2016.12.22

「未見」の時代へ挑む:若松 孝彦

 
英国のEU離脱や中国経済の成長鈍化、ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利など、世界経済の先行きは不透明さを増すばかり。東京オリンピック・パラリンピック後の日本経済も同様だ。まさに「未見」――未(いま)だ見ぬ未来へ挑む時代に突入した。会社の強みを生かし、社会課題の解決や顧客価値を追求し、「ポスト2020」もファーストコールカンパニーを目指す。業界の常識を超えた、新たな「ビジネスモデル戦略」をデザインしていただきたい。
  201701_shishin-01   ビジネスモデルの格差が収益力と成長力の格差になる   2017年度の戦略指針は、「ビジネスモデル戦略―あと3年。突き抜ける価値をデザインしよう」です。今はビジネスモデルの格差が、“収益力”と“成長力”の格差に直結する時代。従って、これからの会社は、ビジネスモデル戦略に投資しなければならないのです。   「あと3年」とは、2019年までの期間のこと。東京オリンピック・パラリンピックの1年前です。2000年以降のオリンピック開催国の経済成長率を調べると、大半は開催年度の前年がピークとなり、それ以降は下降しています。中国(北京)と英国(ロンドン)では上がりましたが、現在は両国とも当時の成長率を下回っています。   また、日本では2009年に人口減少が始まりましたが、その10年後の2019年には世帯数がピークを迎え、以降は減少します。さらに2019年10月には消費税増税(8%→10%)が予定されており、駆け込み需要と反動減が起きるでしょう。   しかし、「山高ければ谷深し」。2019年をうまく突き抜けるためにも、ポスト2020年を見据えた戦略が求められます。3年前、タナベ経営は“2020年を期限に中期(経営計画)3年2回転”と提言しました。前半が終わり、いよいよ後半の2回転目に入るのが2017年です。   ビジネスモデル戦略のヒントは、「業界の常識は顧客の非常識」と認識することにあります。独創的なビジネスモデル戦略は、残念ながら同業種や同業界の中に存在しません。ビジネスモデルとは、業界の慣習や横並び体質と真逆のものなのです。一方、「突き抜ける価値」とは、「会社の強みを生かして、社会課題の解決や顧客価値を追求し、業界の常識を超えた新たなビジネスモデル戦略をデザインする」ことを意味しています。   オープンイノベーション戦略で 社会価値とスピード価値を両立   まず、世界経済のインパクトポイントを確認します。世界経済の基調をまとめると、前年と同様「波乱はあっても成長する。しかし、その成長は鈍化する」です。世界の実質GDP成長率は鈍化しながらも、伸長すると予想されます。ただし、米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が選出されたことで、世界が大きく変わる可能性もあります。   IMF(国際通貨基金)が2016年10月に発表した世界経済見通しは、2016年が3.1%、2017年が3.4%で、2016年4月に発表した見通しよりもそれぞれ0.1%引き下げられました。これは、2016年6月に決まった英国のEU離脱、いわゆる「ブレグジット」の影響が大きい。   2016年の世界推計人口は約74.3億人(国連人口基金『世界人口白書2016』)。注目すべきは、2022年(推定人口)にインドが中国を抜いて世界で最も人口の多い国になるとみられること。また、ナイジェリアの人口が急増しており、2050年までに米国を抜いてインド、中国に次ぐ多人口国家になると予測されています。人口増加率ではナイジェリアをはじめとするアフリカ勢が上位を占め、「最後のフロンティア市場」と呼ばれています。   一方、デジタルテクノロジーの進化が、ビジネスモデルの未来を変えていくでしょう。現在の技術革新のトレンドは、「IoT(モノのインターネット)」「ビッグデータ」「AI(人工知能)」の3つで、あらゆるモノがインターネットにつながり、モノのデジタル化、ネットワーク化が急速に進展しています。世界各国が激烈な技術開発競争を繰り広げ、2019~2020年にかけてこれらの技術の実用化が急速に進むでしょう。   また、スマートフォンの急速な普及により、いつでもどこでもネットにつながる時代になりました。「つながる」や「つなぐ」というキーワードはビジネスモデルにおいても重要です。それに伴い、オープンイノベーションによる新しいビジネスモデルの構築が注目されています。オープンイノベーションとは、自社だけではなく他社や大学、地方自治体、起業家などが持つアイデアやサービスを組み合わせ、革新的なビジネスモデルや製品・サービス開発につなげるイノベーションの手法です。   アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、「発明とは、つなぎ合わせる作業のことである」と言いました。まさにオープンイノベーション戦略です。社会課題の解決や顧客価値を追求できるビジネスモデルのデザインを、スピードを高めて実現することが、「あと3年」の期限には大切なのです。社会価値とスピード価値の両立です。 世界経済の景色が一変未来への戦略的仮説を   IMFの世界経済見通しから2017年の主要国・地域の経済動向を予測します。   米国の実質GDP成長率は2.2%の見通しです。引き続き個人消費がけん引するでしょう。米国の本質的課題は2つ。1つ目は、低成長、低インフレ、低賃金という停滞した経済状態にどう向き合うか。2つ目は、二極化。人口の1%の富裕層の富が全体の40%を占めるという構造です。   トランプ氏の勝利は、この2つの本質的課題を解決したいという米国民の声を反映したものでもありました。大統領選と同時に行われた議会選挙で上院・下院での政権のねじれが解消され、共和党の基本路線が全面に出てくる可能性が高いでしょう。それが「大幅減税」と「規制緩和」、加えてトランプ氏の基本政策である「大型公共投資」と「保護貿易」の4つです。これらをどのようなバランスとプライオリティーで実行してくるのか。トランプ新大統領の政治手腕に米国経済は左右されます。   欧州の実質GDP成長率の見通しは2.2%。ブレグジットは2年以上先になるため、今は限定的な影響にとどまっていますが、英国は海外からの直接投資がG7中で最大のため、長期的に見ればやはり大きな影響をもたらすと考えるべきです。またイタリアは現在、3300億ユーロもの不良債権を抱え、不良債権比率は18%と高水準。さらにサンマリノ、キプロス、ギリシャといった国の不良債権比率はイタリアよりも高く、金融危機が起きる懸念も付きまといます。そしてドイツ銀行の不良債権問題もあります。破綻の危機がまだ回避されていません。   中国の実質GDP成長率の見通しは6.2%と減速感が強まります。光明を見いだすとすれば、モバイル分野が急速に拡大していることです。2015年のモバイル取引額は前年比2倍の2350億ドルに達し、米国の2310億ドルを上回りました。都市部のスマートフォン普及率は90%に達し、全国に6億7000万人を超えるネットユーザーを有しており、モバイル広告市場の急拡大を生んでいます。   中国経済の最大の不安要素は「不良債権の急増」。鉄鋼などの過剰設備と“ゾンビ企業”の整理が必要ですが、金融機関の破綻や政府のミスリードによって金融システムで混乱が生じれば、経済の減速感はますます高まります。   インドの実質GDP成長率の見通しは、2016年、2017年ともに7%台の着実な成長が見込まれています。2040年ごろまでは人口動態が経済にプラスに作用する人口ボーナス期へ入り、高成長が持続するとみられます。   以上を踏まえると、世界経済の景色が一変する「ABCDショック」に注意する必要があります。Aは米国のトランプ大統領誕生、Bはブレグジット、Cはチャイナショック、Dはドイツ銀行の経営危機です。一方、日本にとっては円安・ドル高、円安・株高の構図や2020年までの日本経済のロードマップを考えると、チャンスになる場面も多いと想定できます。戦略的にこれらと対峙する必要があるでしょう。   日本経済はプラス成長だが2020年以降に課題が山積   日本経済に目を移すと、実質GDP成長率は2016年度が0.9%増、2017年度は1.2%増(内閣府試算、2016年7月13日)とプラス成長が続くと予測されています。個人消費については、2016年度が前年度比0.9%増、2017年度は同1.4%増の予測。有効求人倍率は1.4倍(2016年10月、厚生労働省)と25年ぶりの高水準で、完全失業率も3.0%(同、総務省)と1995年以来の低い水準を示しています。   設備投資は堅調な企業収益を背景に緩やかな増加傾向が続きます。2016年度は前年度比2.0%増、2017年度は同3.4%増の予測です。   研究開発投資は、リーマン・ショックの影響で2009年度に17.2兆円へ減少しましたが、その後は景気の回復と企業の競争力強化の動きを背景に増加を続けています。   2016年度の民間住宅投資は、国土交通省によると前年度比2.0%増の14兆7300億円になる見通し。2017年度は建設経済研究所と経済調査会・経済調査研究所の推計で14兆8200億円と予測されます。住宅着工戸数の見通し(2016年10月、建設経済研究所と経済調査会・経済調査研究所の推計)は、2016年度が前年度比2.2%増の94.1万戸、17年度は同1.8%減の92.4万戸です。   これらを踏まえて、日本に迫る3つのトピックスとして、①人口減少・高齢化の問題、②2020年の東京オリンピック・パラリンピック、③2025年問題が挙げられます。   人口減少・高齢化の問題については、地方圏だけでなく、都市部の高齢化も深刻になっています。労働力人口(15~65歳未満の生産年齢のうち労働する能力と意思を持つ人の数)は2015年で約6600万人(総務省統計局「労働力調査」)。女性の労働力率が先進国で最高のスウェーデン並みになり、出生率が回復しても、2060年には約5400万人まで減少すると予測されています。   さらに大きな課題が日本の労働生産性です。OECD(経済協力開発機構)加盟34カ国中、日本は21位(7万2994ドル)。OECD平均を下回り、1位のルクセンブルクの約半分、4位の米国の6割程度にとどまっています(日本生産性本部)。産業構造においてサービス業が伸長している中、デフレ経済によってサービス業の生産性が低くなってしまっていることも原因の1つに挙げられます。いつの間にか日本は生産効率が悪い国になってしまったのです。   2020年の東京オリンピック・パラリンピックの経済効果は、累計で最大30兆円に達すると日銀は試算しています。訪日外国人観光客は2016年10月に早くも2000万人の大台を突破し、2020年には3300万人に達すると見込まれます。それでも2015年時点で世界の16位、アジアでも6位(日本政府観光局)。まだ伸びしろはあるのです。   2025年問題とは、団塊の世代が2025年に75歳以上の後期高齢者になり始めることで、社会保障費が急増する問題です。加えて2025年の前後に、高度経済成長期に建設されたインフラの老朽化がピークを迎えるため、社会インフラの維持管理・更新に要する費用は、5兆円規模にまで膨れ上がると見込まれています。   ビジネスモデル戦略で構造転換に挑め   これまで提言してきた内容をまとめると、2019年には「3つのヤマ」が訪れます。①技術革新・価値観の変化、②情報流通量の倍速化、③社会課題解決時代です。①は事業のサービス化と専門化を加速させ、②はプラットフォーム革命を促し、③は社会課題解決マーケットという成長領域を生み出します。これらのヤマへ対応するには、やはり「新たなビジネスモデル」が必要なのです。   それを裏付ける米国発のサービス・ビジネスモデルが日本へ上陸しています。具体的には「Uber(ウーバー)」「Houzz(ハウズ)」「Airbnb(エアビー&ビー)」です。Uberは「ライドシェア」という、スマートフォンを活用した自動車の配車サービスを世界規模で提供している企業です。特定地域では、自動運転車を使った配車サービスも開始していて、今後、自動運転技術が確立されれば、交通・移動が不便な地域の課題解決につながる可能性もあります。「タクシー業界は存在していたけれど、Uberは今までになかった」のです。   Houzzは、住まいに関する情報や専門家などをWeb上で共有するプラットフォームを展開。同社のWeb上には、プロが設計・デザインしたインテリアや住宅の写真1200万枚が登録され、世界中のユーザー4000万人とつながりを持てます。それぞれのライフスタイルに合った住宅を造るために消費者とプロフェッショナル人材をつなぎ、家造りのプロセスを一気通貫でサポートするWebプラットフォームを提供しています。「住宅・リフォーム業界はあったけれど、Houzzは今までになかった」のです。   Airbnbは、一般住宅や別荘などに旅行者を有料で泊める、いわゆる民泊の予約サイトです。宿泊施設不足の解消のほか、いま社会問題化している空き家の有効活用という課題解決にもつながる可能性があります。「旅館ホテル業界はあったけれど、Airbnbは今までになかった」のです。   これら以外にも、IT技術を駆使した新たな金融サービス「フィンテック」が生まれています。これは英語のファイナンスとテクノロジーを合わせた造語です。ビッグデータを活用して瞬時に融資を実行するサービス、借り手と貸し手をネットで結び付ける仲介融資、指紋だけで支払いができる「手ぶら決済」や「スマホ決済」、AI(人工知能)による資産運用「ロボ・アドバイザー」など、従来の金融業界の常識を覆すサービスが生み出され、米国では、“フィンテック革命”とも呼ばれています。「銀行やATM(現金自動預払機)はあったけれど、フィンテックは今までになかった」のです。   こうしたサービスのビジネスモデルの特徴は、業界の外、異業種からデジタルテクノロジーを導入し、市場に参入したサービスイノベーションであるということです。業界の常識を崩壊させるために参入したのではなく、社会課題や顧客価値という「顧客の常識」に直接アプローチした結果、業界の常識が崩れようとしているのです。   タナベ経営では、「社会性×突き抜ける価値」をデザインできる会社のビジネスモデル戦略を「ビジネスモデル4.0」と呼び、提言しています。1970年代から1980年代のビジネスモデルを「2.0」、1990年代から2000年代を「3.0」、2010年以降を「4.0」と設定し、この各期間において「経営の価値観」が大きく変わったことが本質的なポイントだと考えています。   ビジネスモデル戦略の成功の秘訣(ひけつ)は、正しいコンセプトに従って、事業戦略から経営スタイルまでを構造転換することです。従って、ビジネスモデルはまず「志」ありきでなければなりません。現代では、それを「社会課題の解決」「顧客価値の創造」と呼ぶのです。 ビジネスモデル4.0のコンセプトは、次の5つです。   ①事業戦略……突き抜ける価値をデザインする 「課題マーケットの発見」×「専門価値の提供」×「事業のサービスブランド化」を推進することがポイントです。   ②収益・投資戦略……顧客価値を高めるモノサシ経営の実践 売上高経常利益率10%を実現するために、ビジネスモデル構築へ投資することです。   ③組織・人材戦略……一人一人が活躍できるチームをデザインする 一人一人の成長と向き合い、活躍の舞台を複数用意して、人材を即戦力化することです。“専門性を組み合わせた総合”というハイブリッドな組織モデルを目指します。   ④経営システム……全員活動の仕組み化 自由闊達(かったつ)に開発を行える経営スタイルや社内アカデミー(企業内大学)などによる全員参加の人材育成への取り組みが求められます。   ⑤オープンイノベーション戦略……「協創」へかじを切る 提携・連携から共に新たな価値を創るパートナーを構築し、結果、スピード価値に挑んでいきます。 「ポスト2020」に向けたビジネスモデルの転換ができなければ、企業は存続すら難しくなるでしょう。ビジネスモデル戦略を生み出す新たな経営スタイルに、ぜひ挑戦してください。   2017年の年頭に当たり、「未見」という言葉をお贈りします。未(いま)だ見ぬ経済、未だ見ぬ市場、未だ見ぬ顧客、未だ見ぬ自社―「未見の我」へ勇気を持って挑むことで、ビジネスモデル戦略をつくることができます。   2020年以降は経営の景色が一変するかもしれません。しかし私たちは、環境の変化に巻き込まれるのではなく、自ら未見へ挑み、自らの手で景色を一新させていきましょう。
PROFILE
著者画像
若松 孝彦
Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。