ビジネスモデルの格差が収益力と成長力の格差になる
2017年度の戦略指針は、「ビジネスモデル戦略―あと3年。突き抜ける価値をデザインしよう」です。今はビジネスモデルの格差が、“収益力”と“成長力”の格差に直結する時代。従って、これからの会社は、ビジネスモデル戦略に投資しなければならないのです。
「あと3年」とは、2019年までの期間のこと。東京オリンピック・パラリンピックの1年前です。2000年以降のオリンピック開催国の経済成長率を調べると、大半は開催年度の前年がピークとなり、それ以降は下降しています。中国(北京)と英国(ロンドン)では上がりましたが、現在は両国とも当時の成長率を下回っています。
また、日本では2009年に人口減少が始まりましたが、その10年後の2019年には世帯数がピークを迎え、以降は減少します。さらに2019年10月には消費税増税(8%→10%)が予定されており、駆け込み需要と反動減が起きるでしょう。
しかし、「山高ければ谷深し」。2019年をうまく突き抜けるためにも、ポスト2020年を見据えた戦略が求められます。3年前、タナベ経営は“2020年を期限に中期(経営計画)3年2回転”と提言しました。前半が終わり、いよいよ後半の2回転目に入るのが2017年です。
ビジネスモデル戦略のヒントは、「業界の常識は顧客の非常識」と認識することにあります。独創的なビジネスモデル戦略は、残念ながら同業種や同業界の中に存在しません。ビジネスモデルとは、業界の慣習や横並び体質と真逆のものなのです。一方、「突き抜ける価値」とは、「会社の強みを生かして、社会課題の解決や顧客価値を追求し、業界の常識を超えた新たなビジネスモデル戦略をデザインする」ことを意味しています。
オープンイノベーション戦略で
社会価値とスピード価値を両立
まず、世界経済のインパクトポイントを確認します。世界経済の基調をまとめると、前年と同様「波乱はあっても成長する。しかし、その成長は鈍化する」です。世界の実質GDP成長率は鈍化しながらも、伸長すると予想されます。ただし、米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が選出されたことで、世界が大きく変わる可能性もあります。
IMF(国際通貨基金)が2016年10月に発表した世界経済見通しは、2016年が3.1%、2017年が3.4%で、2016年4月に発表した見通しよりもそれぞれ0.1%引き下げられました。これは、2016年6月に決まった英国のEU離脱、いわゆる「ブレグジット」の影響が大きい。
2016年の世界推計人口は約74.3億人(国連人口基金『世界人口白書2016』)。注目すべきは、2022年(推定人口)にインドが中国を抜いて世界で最も人口の多い国になるとみられること。また、ナイジェリアの人口が急増しており、2050年までに米国を抜いてインド、中国に次ぐ多人口国家になると予測されています。人口増加率ではナイジェリアをはじめとするアフリカ勢が上位を占め、「最後のフロンティア市場」と呼ばれています。
一方、デジタルテクノロジーの進化が、ビジネスモデルの未来を変えていくでしょう。現在の技術革新のトレンドは、「IoT(モノのインターネット)」「ビッグデータ」「AI(人工知能)」の3つで、あらゆるモノがインターネットにつながり、モノのデジタル化、ネットワーク化が急速に進展しています。世界各国が激烈な技術開発競争を繰り広げ、2019~2020年にかけてこれらの技術の実用化が急速に進むでしょう。
また、スマートフォンの急速な普及により、いつでもどこでもネットにつながる時代になりました。「つながる」や「つなぐ」というキーワードはビジネスモデルにおいても重要です。それに伴い、オープンイノベーションによる新しいビジネスモデルの構築が注目されています。オープンイノベーションとは、自社だけではなく他社や大学、地方自治体、起業家などが持つアイデアやサービスを組み合わせ、革新的なビジネスモデルや製品・サービス開発につなげるイノベーションの手法です。
アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、「発明とは、つなぎ合わせる作業のことである」と言いました。まさにオープンイノベーション戦略です。社会課題の解決や顧客価値を追求できるビジネスモデルのデザインを、スピードを高めて実現することが、「あと3年」の期限には大切なのです。社会価値とスピード価値の両立です。