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コラム
TCG社長メッセージ
タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
コラム 2024.01.05

クオリティリーダーシップ戦略。人的資本とイノベーションの決断が、世界への道をひらき世界を変えていく:若松 孝彦

 

2024年の日本経済は、「失われた30年」と呼ばれるデフレ経済から「新しい未来の30年」へ30年ぶりの大転換期を迎える。求められるのは、企業が有する固有の価値を磨き上げることで競争優位性を確立させる「クオリティリーダーシップ」だ。自社の独創的な強みをブランディングしていく経営戦略を提言する。

 

 

「コストリーダー」から「クオリティリーダー」へ

 

2024年は、「失われた30年」から「新しい未来の30年」へ、全ての経済指標が逆回転していきます。失われた30年と現在を比較すると、日本の実質GDP成長率※1は-5.7%(2009年)から2.0%(2023年予測)へ、インフレ率※2は-1.3%(2009年)から2.5%(2022年)へ、ドル円レートは84円82銭(2009年11月27日)から150円61銭(2023年11月8日)へ、そして国際競争力※3は1位(1992年)から過去最低の35位(2023年)へ転落。この30年間で「安い国、日本」が誕生しました。

 

このような状況を踏まえ、タナベコンサルティンググループ(以降、TCG)は「クオリティリーダーシップ戦略」を提言します。

 

失われた30年の前、1960年から1990年代の日本経済を成長させたのは、松下幸之助氏や本田宗一郎氏、井深大氏、稲盛和夫氏をはじめとする尊敬すべき創業者、企業家でした。彼らの経営スタイルには2つの特性がありました。「イノベーション」と「企業は人なり」の経営です。彼ら創業者は命懸けでイノベーションを起こし、その経営プロセスで「企業は人でできている」と気付き、「企業は人なり」の経営を実装して日本経済を創ってきたのです。

 

しかし2000年以降、彼らが第一線を退くと、後継者はバブル崩壊とデフレ経済を「コストダウン」と「管理」で乗り切ろうとしました。状況として、この「コストリーダーシップ」が正しい側面もありました。

 

問題は、その後も経営基調としてコスト削減を繰り返し、将来に向けた夢を語らず、ビジョンを描くことを軽視してきたこと。結果として、イノベーションや人材へ投資する優先順位は低下していきました。

 

2024年は、経済の大転換を機にコストリーダーシップから脱却し、「クオリティリーダーシップ戦略」へ転換する必要があります。クオリティとは、「社会や顧客に貢献できる独創性、独自性の高い強みを創ること」。リーダーシップとは、「卓越した強みで世界を変える強靭な意志でイノベーションを起こし、グローバルでトップを狙う経営者リーダーシップ」を意味します。

 

 

世界市場の96%は日本の外、円安は日本経済最大のチャンス

 

国際通貨基金(IMF)が発表した「世界経済見通し」(2023年10月)によると、2024年の世界実質GDP成長率は2.9%と、2023年の3.0%から微減の予測。ロシアのウクライナ侵攻やハマスとイスラエルの紛争などによる一時的な停滞はあるものの、世界経済は「弱含みで緩やかに回復する」と見ています。

 

米国は2.1%(2023年)から1.5%(2024年)へ、中国は5.0%から4.2%へ、日本も2.0%から1.0%へ減速し、EU圏は0.7%から1.2%と横ばいの予測。先進国は、「インフレをどのように乗り越えていくか」を試行錯誤している状態です。

 

一方、成長率では「アジアの新興市場国と発展途上国」が5.2%から4.8%と微減ながら高水準を維持する予測。中でもASEAN5(インドネシア・マレーシア・フィリピン・タイ・ベトナム)とインドが際立っています。

 

各国の名目GDP の推移(IMF 調べ)を見ると、2000年ごろまで世界経済をけん引してきたのは米国と日本でした。2008年のリーマン・ショック以降、米国と中国が世界経済をけん引していますが、中国経済は2028年まで停滞すると予測されています。

 

日本の世界経済への寄与率(シェア)は、1990年代の10%前後と比べ2028年は4%まで減少するとの予測。期待されるインドでも4.1%(2028年予測)です。成長力とシェアの両方を持つけん引役が不在なのです。

 

逆に言えば、世界市場の96%は日本の外にあるということ。したがって、日本にとって円安経済は最大のチャンスと言えるのです。

 

 

日本経済は新サイクル、戦略的に値決めのできる価値転嫁へ

 

日本経済は「回復基調を維持、インフレ経済への転換期」局面です。これは新たな経済サイクル(30年ぶりのインフレ経済への移行)の入り口に立っている状態。これまでの30年間の価値観をリセットする経営のかじ取りが求められます。

 

日本経済の潮流は、①成長をけん引する堅調な個人消費とインバウンド需要、②企業インフレはピークアウト、価格転嫁が進んで企業業績は改善、③生産回復、設備投資は引き続き好調、④新規建設投資は抑制気味、メンテナンス投資が成長、⑤業績再編から企業再編の時代へ、⑥金融政策は2024年春には実質賃金がプラスに、金融緩和の政策転換に注視が必要、この6つです。

 

賃金昇給による人件費の高騰、原材料費の高止まりが続き、「五月雨式の価格転嫁」では追い付かず、「真に値決めができる価値転嫁」を実現しないと収益力が向上しない可能性があります。

 

デフレ経済とインフレ経済では経営の価値観が逆転します(【図表1】)。企業経営は環境適応業。経営者自ら率先垂範で意識を変えていかなければなりません。

 

【図表1】デフレ経済からインフレ経済への転換による経営の価値観の逆転

出所 : タナベコンサルティング作成

 

 

「パーパス」はクオリティリーダーシップ戦略のコンセプト

 

クオリティリーダーシップ戦略には「パーパス(貢献価値)」が必要です。なぜなら、パーパスは新しい30年サイクルに向けた新しい「クオリティ・コンセプト」であるからです。

 

経営理念とパーパスの違いは何でしょうか。経営理念は、創業者が社内向けに発信してきた「不変的な志」。パーパスは、現在の経営者や社員の皆さんが次の30年の社会やステークホルダーに向けて宣言する能動的な「貢献価値」です。

 

パーパスを掲げてクオリティリーダーシップ戦略を実践している企業の共通点は、①グローバルニッチトップ戦略、②本業多角化(コア・コングロマリット)戦略、③ブランディング&PR戦略、④付加価値の成長戦略、⑤人材からイノベーションが生まれる組織戦略、という5つの戦略を実装していることです。(【図表2】)

 

【図表2】 5つのクオリティリーダーシップ戦略

出所 : タナベコンサルティング作成

 

 

 

PROFILE
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若松 孝彦
Takahiko Wakamatsu
タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 。タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。