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コラム
TCG社長メッセージ
タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
コラム 2021.03.01

ウィズコロナでアップデートする世界:米国 ニューヨーク・サンフランシスコ編【Vol.1】

米・ニューヨーク市は2020年3月にドライブスルー式の新型コロナウイルス検査を開始。「密」を回避し、医療スタッフが感染する危険性を減らしながら受診者のサンプルを採取する  
コロナ禍によって世界中のフォーマットが変容を求められる中、海外のビジネス現場はどう対応し、どう変わろうとしているのか。経営者はコロナ後のニューノーマル(新常態)といかに対峙すべきか。タナベ経営グループのトップである代表取締役社長の若松孝彦が、世界5カ国のビジネス専門家とZoomで緊急ディスカッションを試みた。   ウィズコロナ時代の持続的経営に向けたロードマップを描く本企画(全3回・特別編)の第1回は、世界最多の新型コロナウイルス感染者数を更新し続けている米国だ。ニューヨーク、シリコンバレー、東京をつないだディスカッションから、米国企業が生き残りを懸けてDXを推進し、新たなビジネスチャンスを生み出している最新状況をお伝えする。
    ブルックス・ブラザーズやハーツも経営破綻   若松 Zoom越しではありますが、米国訪問の際にお世話になったお二人の元気な顔を見ることができて安心しました。クロスボーダービジネスから現地ビジネスにまで精通しておられるので、今回はリアルな現状をお話しいただければと思います。よろしくお願いします。   米国は大統領選挙が終わりましたね。まずは、その後も拡大している新型コロナウイルス感染状況について教えてください。   Scharf 感染者数は2020年12月12日に累計1600万人、死亡者数は12月14日に同30万人に達しました(米ジョンズ・ホプキンス大学)。新規感染者数は、12月上旬に1日当たり約20万人のペースで急増。夏の終わりに一度安定したものの、主要都市から離れた地域での感染が多発するなどして増加の一途をたどっています。特に大きな打撃を受けているのは、高齢者や介護施設の入居者です。   皆木 12月9日には1日当たり死亡者数が3000人を超えました。これは、2001年9月11日に起きた「アメリカ同時多発テロ事件」による死亡者数(3000人弱)を上回ります。   若松 日本は12月15日現在で感染者数の累計が18万人超、死亡者数が同2600人超(厚生労働省)に及び、日本も感染の第3波のさなかにありますが、米国はまさしく危機的状況と言えます。企業はどのような状況ですか。   Scharf 新型コロナは、多くの企業を容赦なく痛め続けています。有名紳士服ブランドのブルックス・ブラザーズや大手レンタカー会社のハーツなどがパンデミック以降に経営破綻(米連邦破産法11条の適用を申請)。2020年の第3四半期までに倒産した資産1億ドル以上の企業数は、第1四半期34社、第2四半期55社、第3四半期49社に上りました。2005~2019年の各四半期平均が19社なので、状況の深刻さをお分かりいただけるでしょう。大型倒産の半数以上が「鉱業、石油・ガス」と「小売業」に属する企業です。国内の中小企業への影響はさらに大きく、多くの企業が永久に扉を閉ざすこととなりました。   若松 米国は全企業の99.7%を中小企業が占めますから、経済悪化は避けようがありません。景気回復の兆しは見えますか。   Scharf 2020年の米大統領選挙後も株式市場は好調を維持しており、投資家が6カ月先の活況を見据えていることを示唆しています。新型コロナのワクチン開発も急速に進んでおり、FDA(米国食品医薬品局)は12月11日にファイザーとビオンテックが開発したワクチンの緊急使用を許可。14日からワクチン接種が始まりました。これにより、6~8カ月以内にウイルス感染を制御できるようになるのでは、との期待が高まっています。     設備投資してテラス席を常設し、営業を続けるレストラン(パロアルト市)。店内での飲食を禁止しているサンフランシスコは、店先の道路(歩行者天国)や駐車場を屋外席として使えるよう支援している       1.パロアルト市中心街のメインストリートは歩行者天国となり、地元レストランが屋外で接客している
2.パロアルト市ではアップルストアも屋外で接客対応
3.ニューヨーク市地下鉄の車内。ラッシュアワーにもかかわらず乗客は2名のみ
4.ニューヨークのグランド・セントラル駅。旅行者や通勤客がいなくなり人影もまばら
    テクノロジー業界はM&Aの値付けが高騰   若松 それぞれのリアルな街の様子はどうでしょうか。   皆木 サンフランシスコ郊外、シリコンバレーの中心に位置するパロアルト市の街中へ出かけると、メインストリートのユニバーシティー・アベニューは車両の通行が禁止されていて、日本で言う「歩行者天国」になっていました。   州では店内飲食が禁止されているので、レストランは店外にテーブルと椅子を並べて食事を提供していました。中には屋外イートスペースを建造して本格的な食事を楽しめるようにしているレストランもあり、「じっと死を待つのではなく、何とかしよう」という必死さが感じられました。   また、アップルストアは営業を再開していましたが、店員が屋外で接客し、希望の商品を提供するなどの対応をしていました。   Scharf ニューヨークでは中心部から郊外へ移り住む動きが活発になり、中心部は人口が減って家賃が下がっています。私の息子も郊外へ転居しましたが、以前住んでいたアパートの家賃は20~25%下がっているとのことです。   2020年10月には海外からニューヨークを訪れる観光客は9割減となり、グランド・セントラル駅をはじめ街にはほとんど人がいません。公共交通機関はガラガラですが、道路は通勤車で混雑しています。   若松 予想を上回る変化ですね。コロナに関連する補助金や助成金、融資などの支援制度はどうなっていますか。   皆木 2020年3月時点で2兆ドルの大型経済対策が成立し、国民1人につき最大1200ドル、子どもは500ドルが2020年4月に給付されました。ビジネスに対する支援としてはローンという形で事業継続資金を融資し、その後、目的と合致する用途に使ったことを証明できたら免除になる仕組みです。予算枠が決まっているので早い者勝ちの状態でした。多額の融資を受けたものの事業が順調に立ち直ったため、返金した企業もあったと聞きます。   若松 ダウ平均株価はコロナ禍でも高止まりで、米国は「金余り状態」と言えます。ビフォーコロナ時代と同様に、こうした資金は企業の方へ向かっているのでしょうか。   Scharf ファンドや富裕層が投資先を熱心に探しているのは確かです。テクノロジー関連の業種ではM&Aが頻発し、買収価格はとんでもない額に跳ね上がっています。このような状況においては従来の“値付け”、つまり売り上げと市場シェアから今後のキャッシュフローを予測して買収額を設定するようなやり方は通用しません。利益が出ていないスタートアップでも、顧客を取り込んで競合に奪われないような技術を持っていれば、高値で買い取ろうとする動きが顕著になっています。   例えば、クラウドコンピューティングサービスを提供するセールスフォース・ドットコムは、ビジネスチャットアプリを手掛けるスラック・テクノロジーズ(以降、スラック)のM&Aを進めているそうです。スラックはコロナ禍でもそれなりに利益を出していますが、セールスフォース・ドットコムが欲しいのは、そのキャッシュフローではありません。スラックのビジネスツールを自社のプラットフォームに統合することで利便性を高めて顧客を増やし、競合であるマイクロソフトのコラボレーション・プラットフォーム「Microsoft Teams(マイクロソフト チームズ)」に対抗できるシステムを構築するのが目的です。       【図表】ウィズコロナ時代に注目の     米国スタートアップ企業とビジネスのポイント 出所:Scrum Ventures Newsletterより皆木氏が作成     BtoB向けのDX関連ビジネスが台頭   若松 2018年にマイクロソフトのシリコンバレーオフィスを訪問した際、Microsoft Teamsを活用したカスタマーサクセス(顧客の成功体験づくり)型の組織展開に関するプレゼンテーションを受けました。同社の先見の明に驚くとともに、米国で起きていることは2年後に日本でも起きる可能性が高いという経験則を強めました。   やはり、米国はビジネスアイデアの発信地。コロナ禍でのビジネス展開の創意工夫、新ビジネスの台頭などを紹介してください。   Scharf 企業規模にかかわらず、かつてないような経営環境の大変化にはデジタル化で対応するしかありません。過激な表現ですが「DXができない企業は死ぬしかない」と私は思います。注目すべきは、ウェブ会議システムのZoomや電子署名サービスのDocuSign(ドキュサイン)といった、従業員が在宅勤務でもシームレスに業務を遂行でき、チームでの共創も可能にするテクノロジーの発達です。   また、リアル店舗を展開してきた小売店は、来客数の減少を穴埋めするために、オンライン販売のプラットフォーム整備を大幅に加速。レストランも、オンライン注文システムやカーブサイド・ピックアップ(ECで注文した商品をリアル店舗の駐車場で受け取るサービス)の導入などに努めています。デリバリー専用レストランや個人のスマートフォンからメニューにアクセスできるタッチレスメニューなども登場しました。   ジムやダンススタジオは、Zoomを使用したオンラインクラスを開催。また、自動車販売店は、顧客がオンラインで自動車の内外装をチェックして価格交渉を行い、販売店が顧客の自宅まで試乗車を届けるサービスを始めました。   医療分野では、遠隔診療・診断サービスの利用が急増しています。また、アマゾンが処方箋の必要な医薬品のオンライン販売を始め、物流力を生かした品ぞろえと価格設定で話題になっています。   皆木 コロナ禍の中で活躍が期待されるスタートアップにmmhmm(ンーフー)があります。英語の相づちのように発音する、ユニークな社名です。   同社が開発したのはZoomなどのウェブ会議システムやYouTubeなどの動画配信サービスで利用できるバーチャル・プレゼンテーション・カメラアプリ。プレゼンテーターの姿をサイズ調整しながら画面に登場させたり、背景画像や資料と合成したりすることで、リアル感と双方向性の高い提案が可能になります。出資者にはスクラムベンチャーズやデジタルガレージ、そして三木谷浩史氏(楽天の代表取締役会長兼社長)なども名を連ねます。   若松 このアプリは画期的ですね。提案者がその場にいるような雰囲気になるので、プレゼンの説得力が増します。ウィズコロナの時代には、こういった身近なイノベーションが無数に生まれてくるはずです。ピンチの時にこそ勝者は動くものです。   皆木 他にも有望なスタートアップ企業が続々と現れています。「生産性・便利さ」と「健康・安全」を追求したBtoB向けツールの開発が主流になっています。(【図表】)   若松 確かに今回のコロナ感染によってBtoB向けツールの必要性が高まったと言えます。BtoCの大前提となるBtoBコミュニケーションが寸断されましたからね。日本でもBtoBデジタルマーケティングなどのDXニーズが非常に高まっています。   私はコロナショックの現象を「世界同時リセット」と呼んでいますが、米国の状況をお聞きして、国境を越えてほぼ同時に同様の社会解題が発生していて、それを解決する企業のイノベーションは以前のように2年の遅れを待たずに日本でも起きているのでしょう。コロナ禍がもたらすニューノーマル(新常態)に対応する切り札は、やはりDXだと確信しました。お二人とも健康に留意されてご活躍ください。本日はありがとうございました。     今回のディスカッションでも、バーチャル・プレゼンテーション・カメラアプリ「mmhmm」を活用       アクセスアジア 代表 ジョナサン・シャーフ 氏 専門領域は成長戦略の策定、効果的な販売トレーニング、販売プロセスの改善。クライアントと協力し、売り上げや利益、顧客サービスの大幅な向上につながる変革を推進する。主なクライアントは、米国で事業を展開している日本・韓国ほかアジア関連企業と、アジアに進出・拡大している米国企業。約30年のキャリアの中で、駐在員として日本に7年駐在。シンガポールにも7年居住し、東南アジア全域で活動している。     ミナキコーポレーション 代表 皆木 寛樹 氏 東京で生まれ、2歳の時に父親の転勤で渡米。帰国後、日本の公立小学校に通い、再び父親の転勤で香港の英国系学校にて中学時代を過ごしバイリンガルとなる。日本で高校・大学を卒業後、日本の大手メーカーにてプリンターの海外向け販売の仕事に従事し、東京とアムステルダムに通算8年間勤務。MBA取得のために退職・渡米後、米国にて経営コンサルティング会社、航空宇宙産業用アルミ材のマーケティング担当VP、半導体スタートアップのCOOなどを経て、2010年に翻訳・通訳業で独立。在米歴は通算30年以上で、米国市民権を持つアメリカ人。     タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦 タナベ経営グループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。