【図表】リージョン経済圏の総生産(名目)と国際比較
※県内総生産は年度、各国GDPは暦年。単位:10億米ドル、2016年
出所:内閣府「平成28年度県民経済計算について」(2019年11月29日) 5.リージョン経済圏をデザインせよ 私たちタナベ経営は、コンサルティングファーム(以降、ファーム)として創業63年の歴史がある。「日本の経営コンサルティングのパイオニア」といわれる所以である。その歴史の中で、日本全国(札幌・仙台・新潟・東京・名古屋・大阪・金沢・広島・福岡・那覇の10カ所)にファームスタイルで事業所を持つに至っている。全国の各主要都市に均等に拠点を展開しているファームはタナベ経営だけだ。 また、各地域ファームの創立年数は平均50年前後。「地方創生」が叫ばれるずっと以前から、地域密着で中堅・中小企業の成長発展や再生に携わってきた。その結果、コンサルティング実績社数は7000社を超える。タナベ経営ほど各地域の中堅・中小企業を熟知しているファームはないだろう。 私自身も、10拠点を訪ねながら1000社超の企業へアドバイスを行い、多くの経営者仲間やクライアントと膝を交えてきた。年間の移動距離を換算してみると日本20周分、つまり地球を6周したことになる。日本経済のセミマクロ経済に、誰よりも、どこよりも精通すると自負している。新型コロナ禍の「休業不況」でも、地域展開という分散投資をしてきた当社は、10拠点それぞれが地域企業へ貢献価値を発揮している。 新型コロナウイルスの感染者数は依然、世界中で拡大している。日本は他国に比べて被害が少ないとはいえ、海外渡航などの行動規制を解除するには至っていない。完全な往来ステージにはまだ時間がかかりそうだ。したがって前回(2020年8月号)で指摘したように日本はしばらく「内需型経済(鎖国型経済)」にならざるを得ない。しかし、外出自粛やそれに伴う消費抑制がかかった環境での内需型経済の回復は難しい。その対策の一つが「リージョン経済圏のデザイン」である。国や地域の新しい法整備、ルールづくりと言える。 今、新型コロナウイルスの感染拡大防止策で、東京都は「命」を起点にして神奈川県や埼玉県、千葉県と強く連携せねばならなくなった。これらの地域と安全な形で連携しない限り、東京の経済や観光は機能せず、感染対策も成立しない。まさに新しい「関東リージョン(行政区域)」である。 大阪府も、京都府や兵庫県、滋賀県、和歌山県などと一体の経済圏であり、その域内での人の完全往来を実現しなければ安全を確保できなくなるだろう。「関西リージョン」である。福岡県と九州圏、愛知県と東海圏も、同じ状況だ。そうしなければ経済が回らなくなる。道・府・県をつなぐことで単位を大きくし、経済や観光、感染症対策を打っていくしか方法がない。 コロナショックで「8割経済」(ピーク時の8割の水準になる経済)に陥る中、従来の都市機能や地域単位では税収、ビジネス、観光、物流などが成り立たなくなる。例えば、観光は海外から顧客を取り込むインバウンドではなく、「安近短観光(マイクロツーリズム)」から始めるべきだ。口コミや近くの地域でなければ、本当の安全対策は分からない。リージョン経済圏の観光旅行を優先的にデザインしながら補助する。リージョン圏という地域観光を掘り下げることで、地域(細部)から日本(全体)の良さも発見できるし、数年後のインバウンド需要時には、より充実した情報発信が可能な観光立国となるだろう。 ビジネス全体では、関東圏や関西圏などのリージョン経済圏単位が結びつくこと。そして、その単位で世界の地域ともつながることである。【図表】のようにリージョン経済圏の国際競争力はある。人口減少が止まらない中、今の地域連携を常態化させ、新しいリージョン経済圏へと発展すべきなのである。 新型コロナ禍で地域への機能分散と権限委譲がいかに大事か、身をもって実感した。これまでの震災や豪雨などの自然災害による局地的なショックとも異なる体験だ。前回、私が「戦後」になぞらえ「染後経済復興が始まる」と言った本質はここにある。 ニューノーマル(新常態)の経済活動の単位として地域を関東圏・関西圏・中部圏・東北圏・九州圏などの「リージョン圏経済へトランスフォーメーション(変容)」することが、国のサステナブルなビジョンとなる。 6.リージョン経済圏への権限委譲と投資 コロナショックで国と地域の役割分担の不整合が露呈した。それは今も続いている。企業経営におけるホールディング会社(持ち株会社)やグループ組織といった経営システムの技術が、国や地域の経営に必要になっている。 このグループ経営では、傘下企業各社へできるだけ権限委譲し、各社が決めるべきことと、ホールディングやグループ本社(コーポレート)が決めるべきことを明確にする。経営理念、事業領域の策定、ポートフォリオ、取締役や経営職の人事、グループ業績連結会計、戦略投資判断、人材育成(共通と各社専門領域)などはコーポレート本社が担う。戦術や戦闘に当たる経営活動の細部に関しては各社に権限委譲し、グループ全体として成長することである。 国家経営をグループ経営に例えると、国がなすことを明確にし、後は各リージョンに任せる自由度が大切だ。国防、金融(税金)、国土、災害、宇宙科学、教育、デジタル通信、そして労働厚生(感染対策を含む)など、国の戦略に関わる領域を定め、それ以外(交通、メディア、物流、学校、病院など)はリージョン経済圏に任せる行政スタイルのデザインである。 例えば、大阪府が「都」になって東京都と首都機能の分散を図るのも、その一策だろう。賛否の問題ではなく、国や地域の経営解題として、例えば、東京都が感染拡大や自然災害、紛争などで一時的に機能しなくなっても国家経営ができるような「戦略的分散投資」が必要である。同様に、九州圏の福岡県や中部圏の愛知県を中心にリージョン経済圏をデザインし、首都機能の中核役割以外の権限を委譲していく。 要するに、地域のトランスフォーメーションが必要なのだ。グローバル市場に対して、自立・自走できる経済圏を一つの単位としてデザインすることが急務である。国内総生産(GDP)が減少するということは、それらを構成する従来の地域経済も縮むという意味であり、コロナショックで人口減少はさらに加速する。市場規模が減少していく中で、47の子会社(都道府県)は多すぎる。47の子会社をなくすのではなく、束ねてくくり直す。全ての都道府県を束ねるのではなく、中核リージョン圏から束ねることがポイントである。 タナベ経営が日本全国を10のリージョン圏に区分して拠点を置いていることは冒頭で説明した。コンサルティングの際に全国展開している会社の組織を経営分析すると、規模にかかわらず、同様の地域に中核拠点を持つ組織は多い。 これからやって来る「染後復興」の社会へ備える必要がある。万一、現在のような“迷走”が続けば、消費税率を20%台にまで引き上げても、日本と地域経済が構造的な危機に陥る可能性は高い。リージョン経済圏が自立・自走できる制度設計(都市機能のデザイン)が必要となる。戦略的分散投資で国と地域の形をトランスフォーメーションすべきだ。 7.コンパクト×スマートな都市機能への戦略投資 ――自然災害・感染予防、地域包括医療、5Gインフラへの投資 日本の国土面積は世界の0.28%にすぎず、人口も全世界の1.9%程度である。ところが、世界における日本の災害発生割合を見ると、マグニチュード6.0以上の地震回数18.5%、活火山数7.1%、災害死者数1.5%、災害被害額17.5%など(内閣府「2014年版防災白書」)、国土面積と比べて非常に高い。 堤防の整備や防災技術の進歩もあり、一度に1000人以上の犠牲者を出すような災害は減ったが、死者・行方不明者が6000人を超えた1995年の阪神・淡路大震災、2万人の死者・行方不明者が出た2011年の東日本大震災をはじめ、直近では今年7月に九州で発生した「令和2年7月豪雨」のほか各地での集中豪雨などによる水害、また火山の噴火といった大規模災害が頻発している。 これは、日本という国が、自然災害に関して他のどの国よりもしっかりと対策を打たねばならないことを示唆している。防災対策へ取り組むことに異論の出ない国が日本である。 未来の日本は、「都市機能を集約することと合わせて住居を集約していく都市づくり」(=コンパクトシティー)と、「ITや環境技術などの先端技術を駆使して街全体の電力の有効利用を図ることで、省資源化を徹底した環境配慮型の都市づくり」(=スマートシティー)を、リージョン経済圏の中でデザインし直す必要がある。 先般、トヨタ自動車がパートナー企業や研究者と連携しながら、自動運転、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)、パーソナルモビリティー、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証できる街「Woven City(ウーブン・シティ)」を静岡県裾野市に建設すると発表した(2021年初頭に着工予定)。未来のスマートシティーへの取り組みは、国や地域を挙げて支援すべきだ。 自然災害が起きやすいエリアを避け、できるだけ安全なエリアへの移住を促進する政策も重要だ。「国土強靭化」と言っても、日本中の海岸や河川に防波堤を完全整備することはできない。だからこそ、「コンパクト×スマートシティー」という受け皿を、国土ビジョンとして明確に持って取り組むべきだろう。 医療体制もひっ迫している。病院3団体(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会)が6月に公表した緊急調査結果「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査(追加報告)」によると、全病院の3分の2に当たる66.7%が赤字である。このうち、コロナ患者を受け入れた病院は8割近く(78.2%)が赤字に苦しむなど、極めて厳しい状況にある。 私はコンサルティングで多くの病院組織へもアドバイスを行ってきたので、構造的な経営上の問題に新型コロナ禍が追い打ちをかけたと理解している。前述の調査では、東京の病院は他道府県の病院よりも赤字率が高い。一般の公共サービスのような地方の問題とも違う、構造的な要因と考えられる。命に関わる医療体制へのリージョン経済圏への戦略投資は「待ったなし」なのである。 一方、医療費および診療費は増加の一途をたどっており、GDPに占める比率も上昇している。いわゆる「団塊の世代」(1947~49年生まれ)が75歳以上となる2025年をめどに、重度の要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築が必要なのである。これらの医療体制のトランスフォーメーションにも、「リージョン経済圏」のデザインと併せて取り組むしかない。 ただし、高齢化には地域差が生じている。地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じてつくり上げなければならない。そのため、病院経営におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)やオンライン診療への戦略投資も不可欠となる。 感染症対策としては、米国の疾病予防管理センター(CDC)を参考に、緊急事態での司令塔機能の強化策として、政府の関係各省の権限を1カ所に集中させる「日本版CDC」の創設は必然だろう。 さらに、これは金融面においても同様だ。現政権が2014年に策定した成長戦略には「日本版スーパーリージョナルバンク」構想の実現が盛り込まれ、現在まで買収による地方銀行の拡大が進んだ(この大規模化した地方銀行のことをスーパーリージョナルバンクと呼ぶ)。コロナショックの融資支援で一時的に多忙な状態になっても、地域の人口や企業数が増えていない現実を直視すると、地域のオーバーバンク状況の本質は何ら変わらない。必要な時に、必要な場所で、適正な数の金融機関のある状況をリデザインしなければ総崩れになる。ICT(情報通信技術)やデジタル化されたスマートリージョン都市を構築できれば、この問題も併せて解決できるのだ。 8.サステナブル・SDGsテック戦略で貢献価値を発揮せよ ウィズコロナ時代の今こそ、SDGs(持続可能な開発目標)へ積極的に取り組み、世界経済を支援していくことが大切になる。東京オリンピック・パラリンピック(2021年開催予定)、大阪万博(2025年開催予定)に向けたメインテーマとなり得るだろう。 2020年の世界経済フォーラム「ダボス会議」で「世界で最も持続可能性のある企業100社」(コーポレート・ナイツ社)が発表されたが、トップ100にはアジアから16社がランクインし、日本からは積水化学工業、武田薬品工業、コニカミノルタ、花王、パナソニック、トヨタ自動車の6社がランクインした。アジア・太平洋地域内ではトップの社数である。私は、日本が世界で勝ち残るためには、「サステナブル企業」としてブランディングをすることが大切だと考える。 スイスのIMD(国際経営開発研究所)の世界競争力ランキングで、日本の順位は年々低くなり、2020年は過去最低の34位であった。ただし、235項目の長期的な基準において「環境関連の技術」が2位だった。 私は、日本という国の貢献価値は、サステナブル(持続的成長)・SDGsテックにおいて、国も企業もファーストコールになることだと考える。結果、世界からリスペクトされる国・企業になる。これらをポストコロナ時代におけるグローバルな戦略ポジションとし、そのためのロードマップをビジョンの中に組み込んで策定することだ。SDGsに取り組むサステナブルテック戦略を、日本が世界に向けて発信する基本戦略としなければならない。 以上の8つの戦略を「国と地域のトランスフォーメーション 日本経済編」として提言する。「朝の来ない夜はない」。ポストコロナの新しいグローバル社会の中で、日本や地域が貢献価値を発揮できる枠組みをリデザインすることが急がれる。提言した8つ以外にも多くのアイデアや施策を日本の「One Vision」として策定し、その中で大切な税金や資源を戦略的に再配分することが「国と地域のトランスフォーメーション戦略」となる。 「未来は創るためにある」。今こそ、国や地域の経営においても、ビジョン策定、発信という経営者リーダーシップが求められている。
タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
※県内総生産は年度、各国GDPは暦年。単位:10億米ドル、2016年出所:内閣府「平成28年度県民経済計算について」(2019年11月29日) 5.リージョン経済圏をデザインせよ 私たちタナベ経営は、コンサルティングファーム(以降、ファーム)として創業63年の歴史がある。「日本の経営コンサルティングのパイオニア」といわれる所以である。その歴史の中で、日本全国(札幌・仙台・新潟・東京・名古屋・大阪・金沢・広島・福岡・那覇の10カ所)にファームスタイルで事業所を持つに至っている。全国の各主要都市に均等に拠点を展開しているファームはタナベ経営だけだ。 また、各地域ファームの創立年数は平均50年前後。「地方創生」が叫ばれるずっと以前から、地域密着で中堅・中小企業の成長発展や再生に携わってきた。その結果、コンサルティング実績社数は7000社を超える。タナベ経営ほど各地域の中堅・中小企業を熟知しているファームはないだろう。 私自身も、10拠点を訪ねながら1000社超の企業へアドバイスを行い、多くの経営者仲間やクライアントと膝を交えてきた。年間の移動距離を換算してみると日本20周分、つまり地球を6周したことになる。日本経済のセミマクロ経済に、誰よりも、どこよりも精通すると自負している。新型コロナ禍の「休業不況」でも、地域展開という分散投資をしてきた当社は、10拠点それぞれが地域企業へ貢献価値を発揮している。 新型コロナウイルスの感染者数は依然、世界中で拡大している。日本は他国に比べて被害が少ないとはいえ、海外渡航などの行動規制を解除するには至っていない。完全な往来ステージにはまだ時間がかかりそうだ。したがって前回(2020年8月号)で指摘したように日本はしばらく「内需型経済(鎖国型経済)」にならざるを得ない。しかし、外出自粛やそれに伴う消費抑制がかかった環境での内需型経済の回復は難しい。その対策の一つが「リージョン経済圏のデザイン」である。国や地域の新しい法整備、ルールづくりと言える。 今、新型コロナウイルスの感染拡大防止策で、東京都は「命」を起点にして神奈川県や埼玉県、千葉県と強く連携せねばならなくなった。これらの地域と安全な形で連携しない限り、東京の経済や観光は機能せず、感染対策も成立しない。まさに新しい「関東リージョン(行政区域)」である。 大阪府も、京都府や兵庫県、滋賀県、和歌山県などと一体の経済圏であり、その域内での人の完全往来を実現しなければ安全を確保できなくなるだろう。「関西リージョン」である。福岡県と九州圏、愛知県と東海圏も、同じ状況だ。そうしなければ経済が回らなくなる。道・府・県をつなぐことで単位を大きくし、経済や観光、感染症対策を打っていくしか方法がない。 コロナショックで「8割経済」(ピーク時の8割の水準になる経済)に陥る中、従来の都市機能や地域単位では税収、ビジネス、観光、物流などが成り立たなくなる。例えば、観光は海外から顧客を取り込むインバウンドではなく、「安近短観光(マイクロツーリズム)」から始めるべきだ。口コミや近くの地域でなければ、本当の安全対策は分からない。リージョン経済圏の観光旅行を優先的にデザインしながら補助する。リージョン圏という地域観光を掘り下げることで、地域(細部)から日本(全体)の良さも発見できるし、数年後のインバウンド需要時には、より充実した情報発信が可能な観光立国となるだろう。 ビジネス全体では、関東圏や関西圏などのリージョン経済圏単位が結びつくこと。そして、その単位で世界の地域ともつながることである。【図表】のようにリージョン経済圏の国際競争力はある。人口減少が止まらない中、今の地域連携を常態化させ、新しいリージョン経済圏へと発展すべきなのである。 新型コロナ禍で地域への機能分散と権限委譲がいかに大事か、身をもって実感した。これまでの震災や豪雨などの自然災害による局地的なショックとも異なる体験だ。前回、私が「戦後」になぞらえ「染後経済復興が始まる」と言った本質はここにある。 ニューノーマル(新常態)の経済活動の単位として地域を関東圏・関西圏・中部圏・東北圏・九州圏などの「リージョン圏経済へトランスフォーメーション(変容)」することが、国のサステナブルなビジョンとなる。 6.リージョン経済圏への権限委譲と投資 コロナショックで国と地域の役割分担の不整合が露呈した。それは今も続いている。企業経営におけるホールディング会社(持ち株会社)やグループ組織といった経営システムの技術が、国や地域の経営に必要になっている。 このグループ経営では、傘下企業各社へできるだけ権限委譲し、各社が決めるべきことと、ホールディングやグループ本社(コーポレート)が決めるべきことを明確にする。経営理念、事業領域の策定、ポートフォリオ、取締役や経営職の人事、グループ業績連結会計、戦略投資判断、人材育成(共通と各社専門領域)などはコーポレート本社が担う。戦術や戦闘に当たる経営活動の細部に関しては各社に権限委譲し、グループ全体として成長することである。 国家経営をグループ経営に例えると、国がなすことを明確にし、後は各リージョンに任せる自由度が大切だ。国防、金融(税金)、国土、災害、宇宙科学、教育、デジタル通信、そして労働厚生(感染対策を含む)など、国の戦略に関わる領域を定め、それ以外(交通、メディア、物流、学校、病院など)はリージョン経済圏に任せる行政スタイルのデザインである。 例えば、大阪府が「都」になって東京都と首都機能の分散を図るのも、その一策だろう。賛否の問題ではなく、国や地域の経営解題として、例えば、東京都が感染拡大や自然災害、紛争などで一時的に機能しなくなっても国家経営ができるような「戦略的分散投資」が必要である。同様に、九州圏の福岡県や中部圏の愛知県を中心にリージョン経済圏をデザインし、首都機能の中核役割以外の権限を委譲していく。 要するに、地域のトランスフォーメーションが必要なのだ。グローバル市場に対して、自立・自走できる経済圏を一つの単位としてデザインすることが急務である。国内総生産(GDP)が減少するということは、それらを構成する従来の地域経済も縮むという意味であり、コロナショックで人口減少はさらに加速する。市場規模が減少していく中で、47の子会社(都道府県)は多すぎる。47の子会社をなくすのではなく、束ねてくくり直す。全ての都道府県を束ねるのではなく、中核リージョン圏から束ねることがポイントである。 タナベ経営が日本全国を10のリージョン圏に区分して拠点を置いていることは冒頭で説明した。コンサルティングの際に全国展開している会社の組織を経営分析すると、規模にかかわらず、同様の地域に中核拠点を持つ組織は多い。 これからやって来る「染後復興」の社会へ備える必要がある。万一、現在のような“迷走”が続けば、消費税率を20%台にまで引き上げても、日本と地域経済が構造的な危機に陥る可能性は高い。リージョン経済圏が自立・自走できる制度設計(都市機能のデザイン)が必要となる。戦略的分散投資で国と地域の形をトランスフォーメーションすべきだ。 7.コンパクト×スマートな都市機能への戦略投資 ――自然災害・感染予防、地域包括医療、5Gインフラへの投資 日本の国土面積は世界の0.28%にすぎず、人口も全世界の1.9%程度である。ところが、世界における日本の災害発生割合を見ると、マグニチュード6.0以上の地震回数18.5%、活火山数7.1%、災害死者数1.5%、災害被害額17.5%など(内閣府「2014年版防災白書」)、国土面積と比べて非常に高い。 堤防の整備や防災技術の進歩もあり、一度に1000人以上の犠牲者を出すような災害は減ったが、死者・行方不明者が6000人を超えた1995年の阪神・淡路大震災、2万人の死者・行方不明者が出た2011年の東日本大震災をはじめ、直近では今年7月に九州で発生した「令和2年7月豪雨」のほか各地での集中豪雨などによる水害、また火山の噴火といった大規模災害が頻発している。 これは、日本という国が、自然災害に関して他のどの国よりもしっかりと対策を打たねばならないことを示唆している。防災対策へ取り組むことに異論の出ない国が日本である。 未来の日本は、「都市機能を集約することと合わせて住居を集約していく都市づくり」(=コンパクトシティー)と、「ITや環境技術などの先端技術を駆使して街全体の電力の有効利用を図ることで、省資源化を徹底した環境配慮型の都市づくり」(=スマートシティー)を、リージョン経済圏の中でデザインし直す必要がある。 先般、トヨタ自動車がパートナー企業や研究者と連携しながら、自動運転、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)、パーソナルモビリティー、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証できる街「Woven City(ウーブン・シティ)」を静岡県裾野市に建設すると発表した(2021年初頭に着工予定)。未来のスマートシティーへの取り組みは、国や地域を挙げて支援すべきだ。 自然災害が起きやすいエリアを避け、できるだけ安全なエリアへの移住を促進する政策も重要だ。「国土強靭化」と言っても、日本中の海岸や河川に防波堤を完全整備することはできない。だからこそ、「コンパクト×スマートシティー」という受け皿を、国土ビジョンとして明確に持って取り組むべきだろう。 医療体制もひっ迫している。病院3団体(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会)が6月に公表した緊急調査結果「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査(追加報告)」によると、全病院の3分の2に当たる66.7%が赤字である。このうち、コロナ患者を受け入れた病院は8割近く(78.2%)が赤字に苦しむなど、極めて厳しい状況にある。 私はコンサルティングで多くの病院組織へもアドバイスを行ってきたので、構造的な経営上の問題に新型コロナ禍が追い打ちをかけたと理解している。前述の調査では、東京の病院は他道府県の病院よりも赤字率が高い。一般の公共サービスのような地方の問題とも違う、構造的な要因と考えられる。命に関わる医療体制へのリージョン経済圏への戦略投資は「待ったなし」なのである。 一方、医療費および診療費は増加の一途をたどっており、GDPに占める比率も上昇している。いわゆる「団塊の世代」(1947~49年生まれ)が75歳以上となる2025年をめどに、重度の要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築が必要なのである。これらの医療体制のトランスフォーメーションにも、「リージョン経済圏」のデザインと併せて取り組むしかない。 ただし、高齢化には地域差が生じている。地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じてつくり上げなければならない。そのため、病院経営におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)やオンライン診療への戦略投資も不可欠となる。 感染症対策としては、米国の疾病予防管理センター(CDC)を参考に、緊急事態での司令塔機能の強化策として、政府の関係各省の権限を1カ所に集中させる「日本版CDC」の創設は必然だろう。 さらに、これは金融面においても同様だ。現政権が2014年に策定した成長戦略には「日本版スーパーリージョナルバンク」構想の実現が盛り込まれ、現在まで買収による地方銀行の拡大が進んだ(この大規模化した地方銀行のことをスーパーリージョナルバンクと呼ぶ)。コロナショックの融資支援で一時的に多忙な状態になっても、地域の人口や企業数が増えていない現実を直視すると、地域のオーバーバンク状況の本質は何ら変わらない。必要な時に、必要な場所で、適正な数の金融機関のある状況をリデザインしなければ総崩れになる。ICT(情報通信技術)やデジタル化されたスマートリージョン都市を構築できれば、この問題も併せて解決できるのだ。 8.サステナブル・SDGsテック戦略で貢献価値を発揮せよ ウィズコロナ時代の今こそ、SDGs(持続可能な開発目標)へ積極的に取り組み、世界経済を支援していくことが大切になる。東京オリンピック・パラリンピック(2021年開催予定)、大阪万博(2025年開催予定)に向けたメインテーマとなり得るだろう。 2020年の世界経済フォーラム「ダボス会議」で「世界で最も持続可能性のある企業100社」(コーポレート・ナイツ社)が発表されたが、トップ100にはアジアから16社がランクインし、日本からは積水化学工業、武田薬品工業、コニカミノルタ、花王、パナソニック、トヨタ自動車の6社がランクインした。アジア・太平洋地域内ではトップの社数である。私は、日本が世界で勝ち残るためには、「サステナブル企業」としてブランディングをすることが大切だと考える。 スイスのIMD(国際経営開発研究所)の世界競争力ランキングで、日本の順位は年々低くなり、2020年は過去最低の34位であった。ただし、235項目の長期的な基準において「環境関連の技術」が2位だった。 私は、日本という国の貢献価値は、サステナブル(持続的成長)・SDGsテックにおいて、国も企業もファーストコールになることだと考える。結果、世界からリスペクトされる国・企業になる。これらをポストコロナ時代におけるグローバルな戦略ポジションとし、そのためのロードマップをビジョンの中に組み込んで策定することだ。SDGsに取り組むサステナブルテック戦略を、日本が世界に向けて発信する基本戦略としなければならない。 以上の8つの戦略を「国と地域のトランスフォーメーション 日本経済編」として提言する。「朝の来ない夜はない」。ポストコロナの新しいグローバル社会の中で、日本や地域が貢献価値を発揮できる枠組みをリデザインすることが急がれる。提言した8つ以外にも多くのアイデアや施策を日本の「One Vision」として策定し、その中で大切な税金や資源を戦略的に再配分することが「国と地域のトランスフォーメーション戦略」となる。 「未来は創るためにある」。今こそ、国や地域の経営においても、ビジョン策定、発信という経営者リーダーシップが求められている。
タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。