2016年 年頭指針
ミッションの追求がソリューション価値を増大
2016年度の戦略指針は「ミッションロイヤリティ戦略」です。今は「モノ余りでコト不足の時代」。それが年々加速し、顕著になっています。コト不足の加速は、裏を返せば、社会や顧客の課題がより鮮明になっていることを表します。私たちは、コト不足を満たす価値を「ソリューション価値」、すなわち課題解決価値と定義します。皆さまの会社の商品やサービスによって、社会や顧客の課題を解決するのがソリューション価値ということです。
この価値を高めるために、経営者の持つべき思考がミッション、すなわち使命であり、ミッションの追求こそがソリューション価値の増大につながります。
ロイヤリティとは「忠実」という意味。「戦略は理念に従う」。自社の理念から生まれる使命に忠実な戦略が、ミッションロイヤリティ戦略なのです。
世界経済は波乱はあっても成長する
まず、世界経済のインパクトポイントを述べます。2016年度の世界経済の基調を一言でまとめると、「波乱はあっても成長する」です。
2015年時点の世界推計人口は73億人で、30年前の1.5倍(総務省統計局『世界の統計2015』)になっています。人口増加に伴ってGDPも拡大。同局によると、全世界の名目GDPは1985年の13兆4754億ドルから、2013年には5.6倍の75兆5663億ドルになりました。1人当たりの名目GDPも3.8倍に拡大し、同GDPが1万ドルを超える国は、2005年の51カ国から2014年は70カ国へ増えています。
1人当たりの国民所得を2000年と2013年で比較すると、先進国はこの13年間で1~2倍の拡大幅にとどまります。ちなみに2013年の日本の国民所得は、G7の中でイタリアに次ぐ低水準。一方、アジアの新興国・途上国は最大11倍となり、先進国と新興国・途上国の所得格差は着実に縮まっています。(労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2015』)
IMF(国際通貨基金)の予測によると、2016年の世界の経済成長率は3.6%。2015年初めの予測では3.8%だったので少し下がりました。その大きな要因は、中国経済の減速です。
2016年の中国の成長率は6.3%で、2015年の6.8%からダウン。中国の経済統計の中で信頼性の高いデータとされる「電力発電・消費量、鉄道貨物輸送量、輸出入統計」を見ると、月間の発電電力量はゼロ成長、鉄道貨物輸送量は2014年以降マイナスのまま、輸出入統計では2014年11月以降、前年同月比で輸入のマイナスが続いています。中国経済の減速は予断を許さない状況です。
米国は2.8%と好調を維持。ユーロ圏は1.6%と若干ながら成長する見通し。不振のギリシャも基幹産業の観光業が堅調で0.8%と高めの水準です。
ASEANは全体的に回復基調が継続。中でも5カ国(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム)の2016年の実質成長率は4.9%程度に回復すると見込まれます。
こうした世界情勢を踏まえた日本のチャンスは、4つあります。
1つ目が、インバウンド(訪日外客数)の激増です。2013年に1000万人を超え、2015年は10月時点で1600万人を突破し、過去最高を更新しました。政府は2020年に2000万人という目標を掲げていますが、前倒しで達成できる可能性が高いでしょう。インバウンド需要により、2015年4~9月の大阪のホテル稼働率は91%に達し、東京でも83%と毎日ほぼ満室状態が続いています。
2つ目は、新興国で拡大・高度化する消費。経済産業省『通商白書(2015年版)』によると、上位中所得国の消費支出が2004年から急増し、「世界人口の総消費者化」が進行しています。好調なのは通信やレクリエーション、教育、医療・ヘルスケア関連。これらの分野へ効果的なマーケティングを行うことで、チャンスをつかめるでしょう。
3つ目は、IoT(Internet ofThings)※です。代表的なものは、自動車の自動運転システムやアップル社の『iWatch』。米調査会社のガートナー社は、2020年のIoT市場が約2兆ドルになると予想しています。
※ コンピューターなどの情報・通信機器だけでなく、さまざまなモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり、相互に通信したりすることにより、自動認識・制御、遠隔計測などを行うこと
4つ目は、TPP(環太平洋経済連携協定)。この締結により、世界のGDPの36%と貿易額の26%を占め、人口8億人を有する経済圏が誕生することになります。賛否両論ありますが、波乱はあっても成長する世界のマーケットを取り込むチャンスと捉えるべきです。
では、世界経済に「波乱」を起こす要因とは何か。
1つ目は、金融資産、金融市場です。世界の金融資産の規模は、世界のGDPの3.7倍に達しています。2000年には2.9倍でした(内閣府『国際金融センター、金融に関する現状等について』)。つまり、金融経済が実体経済よりも速いスピードで成長しているのです。これが実体経済に影響を及ぼさないはずがありません。大国の金融市場が動揺すれば、その影響は商品・サービスの生産や販売活動、設備投資活動(実体経済)に必ず波及します。
2つ目は、テロを含めた世界各地での紛争です。これらは波乱を起こす可能性があります。
しかし、実体経済を示すGDPを長期的なスパンでみると、減速はしても成長予測です。波乱の動向に目配りしつつも、それに惑わされず、実体経済をしっかりと見極めるスタンスが、私たち経営者には求められます。