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コラム
TCG社長メッセージ
タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
コラム 2019.08.30

Future Vision 2030 「令和」の時代へ すべてをスタートアップしよう:若松 孝彦

スタートアップ・スピリッツで
既存事業に新しいエンジンを

 

「成功するスタートアップ企業は300社に1社」といわれるほど厳しい世界ですが、アトツギベンチャー企業の成功確率は、それより高いと考えます。なぜなら、歴史や信用、顧客、人材といった経営資源が、すでにあるからです。ゼロから起業するスタートアップ企業のように「ないない尽くしの経営」ではありません。

 

アトツギベンチャー企業として成功するためには「アトツギベンチャー経営者の三つの基本方針」を押さえておく必要があります。

 

一つ目は「財務体質」。高収益で無借金経営の体質をつくることが重要です。

 

二つ目は「経営体制」。組織経営体制が欠かせません。

 

三つ目は「会社の成長エンジン」。開発見込みのベース型ビジネスである「サブスクリプション(商品・サービスなどの一定期間の利用に対して代金を支払う方式)」や、ワンストップビジネスである「プラットフォームモデル」を、既存事業の成長エンジンに組み込んでいくことが成功のポイントです。

 

自動車で例えるならば、マイナーチェンジではなく、フルモデルチェンジまで踏み込むこと。外装だけでなく、自動車の中核となるエンジンを変えること。それが、タナベ経営が提言している「トランスフォーメーション」の意味するところです。

 

三つの基本方針を実現できれば、「高収益・無借金」「組織経営」「新しいビジネスモデル」の企業体質へ変わるため、より多くの候補の中から後継経営者を選ぶことが可能となります。これが「事業承継の経営技術」です。

 

加えて、今ある“新しい社会インフラ”をうまく活用することです。例えば、スタートアップ企業やアトツギベンチャー企業が、投資家や企業向けに短いプレゼンテーションを行う「ピッチイベント」もその一つ。共創するスタートアップを探すほか、ピッチをする側に立てば、自社の新規事業に対するアドバイスを受ける良い機会になります。

 

また、世界最大規模のアクセラレーターで、タナベ経営のパートナーでもある「プラグ・アンド・プレイ」が提供するイノベーションプラットフォームなどを活用し、スタートアップ企業やその技術を取り込むこと(提携やM&Aを含む)。「スタートアップ・ファースト」という考え方で、自社のビジネスモデルを捉え直すことです。これは、既存事業の延長線上で考えるだけではなく、スタートアップ企業の技術を起点にイノベーションを考える思考です。

 

加えて、「マクアケ」などが運営するクラウドファンディングのプラットフォームや、異なるスタートアップ企業が利用するコワーキングスペース「WeWork」のような場所には、スタートアップに必要なノウハウや資金、人材がおのずと集まります。これらを活用することで変身(トランスフォーメーション)が加速するのです。

 

既存事業×五つの戦略実行で
自社をフルモデルチェンジする

 

事業承継期にある企業が、これら三つの基本方針に沿ってフルモデルチェンジする際に必要なのは、「既存事業×五つのスタートアップ戦略テーマ×成長率120%以上」という方程式です。五つのスタートアップ戦略とは「ミッション」「カスタマー」「テクノロジー」「ブランディング」「チームビルディング」という五つの戦略テーマへの取り組みです。成功するスタートアップ企業やアトツギベンチャー企業は、この五つの戦略テーマにおいて卓越した思考と実行力を有しています。

 

 

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まず、ミッションで大事なのは「貢献」を中心に据えること。ミッションの本質は自らの困り事、あなただけの困り事にあります。例えば、米国の配車大手のUberは、「サンフランシスコでタクシーが拾えない」という実体験から始まりました。このように、具体的な困り事を出発点として、誰に「貢献したいのか」を明確化することです。

 

次に、カスタマーでは、実在の顧客の幸せをイメージすること。「最重要顧客像(ペルソナ)」を明確にして、その人を幸せにするための仮説を立て、ビジネスモデルをデザインすることです。さらに、ペルソナ顧客からのフィードバックを参考に、事業を素早くブラッシュアップする仕組みをつくることです。自社が幸せにしたいペルソナを再設定するところからマーケティングを見直してみるとよいでしょう。

 

テクノロジーで大事なのは、共感できるパートナー企業と先端技術で協働することです。決済・送金、投資・運用、クラウドファンディングなどのフィンテック(金融)、採用・転職支援、適性診断、勤怠・労務管理に代表されるHRテック(人材)、ノウハウ共有やモニタリング、センサーシステムといったアグリテック(農業)など、さまざまな分野でIT技術の活用が広がっています。デジタル・トランスフォーメーションとも呼びますが、既存事業にテック(テクノロジー)を掛け合わせる「クロステック」によって、顧客が抱える課題に対して新しいアプローチで解決策を提供できる時代なのです。

 

ブランディングのポイントは、少数でも熱狂顧客(コアファン)をつくることです。消費者同士がSNSでつながる今は、コアファンが商品・サービスの魅力を自ら発信してくれます。一瞬で世界中と情報を共有できるのがSNSの特徴。若い世代ほど、企業広告よりもSNSやインフルエンサーの口コミを重視する傾向があるため、SNSを利用したブランディングがますます重要になっています。

 

チームビルディングで大切なのは、同じ熱量を持つ必要最小限のチームからスタートすること。新規事業は、専属組織で、同じ熱量を持つ優秀なメンバー3名でスタートアップすると成功確率が上がります。いずれにしても、自由闊達に開発できる組織風土や制度設計が成否の鍵を握ります。

PROFILE
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若松孝彦
Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。