事業承継は自社変身の最大のチャンス
「令和」という新時代を迎え、国内企業の多くは承継の時期を迎えています。価値観が大きく転換する時代の事業承継に重要なのは、「既存事業を受け継ぐだけでなく、新しいビジネスモデルをつくり、新しい市場を創造すること」であり、必要なのは「スタートアップ・スピリッツ」です。
スタートアップとは「新しいビジネスによって新市場を創造すること」。残念ながら、日本のスタートアップは世界の潮流から遅れているのが現状です。
しかし、日本には約360万の会社があり、同じ数の経営者、後継者、リーダーが存在します。すべての会社に、事業承継という経営技術を身に付け、スタートアップ・スピリッツを持って自社を「アトツギ(後継ぎ)ベンチャー企業」へと変身させていただきたい。事業承継は自社変身のチャンスなのです。アトツギベンチャー企業の出現とその数の増加が、地域経済、日本経済の希望になると私は信じています。
スタートアップ・スピリッツを生む
オープンイノベーション&共創戦略
スタートアップの本場は、やはり米国です。次いで、英・ロンドンや独・ベルリン、仏・パリに代表される欧州の大都市が続きますが、近年は中国の北京や上海、イスラエルのテルアビブなどで非常に活発化しています(Startup Genome『グローバル・スタートアップ・エコシステム・ランキング2017』)。
ご存じの通り、イノベーションに関する日本の評価は芳しくありません。CTA(全米民生技術協会)の調査では、61カ国中30位(『インターナショナル・イノベーション・スコアカード2019』)。スイスのビジネススクールIMDが発表した『世界競争力ランキング』においても、日本は30位。さらに同調査の「ビジネスの効率性の分野」に関する評価は63カ国・地域中46位と、ショッキングな結果でした。
また、2019年6月時点で「ユニコーン企業」(時価総額10億ドル以上の未上場企業)は世界に362社。そのうち4分の1(25.1%)を中国企業が占めています。しかし、日本企業は「プリファード・ネットワークス」(東京都千代田区)1社のみ。総合的に見ると、スタートアップの世界における日本の存在感は極めて薄いと言わざるを得ません。
こうした状況をいかに打開していくか。そのキーワードとなるのが、「オープンイノベーション」&「共創戦略」です。特に、共創パートナーの一つにスタートアップ企業を迎えることが、海外戦略の後れを取り戻すポイントになります。
なぜなら、世界のスタートアップ企業と共創すれば海外と直接つながることができますし、新たな技術やノウハウが自社に注入されることで、スタートアップ・スピリッツが育まれるからです。この先も成長を続けていくには、変化を起こして自社の成長エンジンを入れ替える必要があります。
加えて、2015年の国連総会で採択された「私たちの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)」も、スタートアップ・スピリッツにとって重要な要素になり得ます。社会課題に対して17のグローバル目標と169のターゲットを設定して2030年までの改善を目指すSDGsは、一見するとビジネスとは程遠い印象を受けますが、社会課題の解決は、日本企業が成長するための大きな原動力となっています。
考えてみれば、昭和の時代から優秀な会社は社会課題を解決してきました。日本の経営者には、その志向を持っている人が多いのです。
例えば、井深大氏や盛田昭夫氏(ソニー創業者)、松下幸之助氏(パナソニック創業者)、本田宗一郎氏(本田技研工業創業者)といった昭和の先輩経営者は、戦後の日本経済復興という当時の社会課題と、自社の顧客に対する使命や戦略を見事に一致させ、会社を大きく発展させました。社会課題を解決したいというスタートアップ・スピリッツが会社の存在価値につながった好例なのです。
元米大統領のジョン・F・ケネディは、「屋根を修理するのは、晴れた日に限る」という名言を残しました。雨が降ってきてから屋根を修理しても遅すぎる。問題には手遅れになる前に対処する必要がある、という意味です。まさに今こそ、アトツギベンチャー企業に変身するラストチャンスと言えるでしょう。