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コラム

TCG社長メッセージ

タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
コラム 2018.08.31

“まるごとイノベーション”を目指して「あたらしい」を生み出そう:若松 孝彦

タナベ経営が提唱している「ファーストコールカンパニー宣言」の一つである「顧客価値のあくなき追求」。「モノ余りでコト不足の時代」にますます専門化していく顧客価値へどのように対応すべきなのか。

 

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本物以上に「本質」を追求する

 

私たちは今の時代を「モノ余りでコト不足の時代」と認識して提言し続けてきました。供給過剰な「モノ」ではなく、供給不足な「コト(価値)」にフォーカスして、そこへ戦略投資をしよう、という意味です。

 

課題先進国と呼ばれる日本企業の事業戦略は、本物以上に「本質」を追求すべきなのです。「事業」は、「事(こと)」の「業(わざ)」と書きます。日本語はよくできています。事業とはコトなのです。特に日本国内では、事業の「本質」を追求できた会社が「成長」し、追求できない会社、追求が浅いままの会社は「衰退」します。

 

会社を変身させるには、「顧客への提供価値」である強みを追求しながら「経営理念以外は全て変える」気概が必要です。それは同時に、経営理念の本質以外はやらない、ということも意味します。結果、顧客価値の転換に合わせて、会社を「まるごとリフォーム」「まるごとリノベーション」して、「あたらしい会社」を生み出すことになるのです。

 

皆さんの会社はどうでしょうか。「事業セグメンテーション」や「新規事業」「M&A」「組織名称や再編」「会社ホームページ」など、この3年で何を変え、何が変わりましたか。あたらしい価値は加わりましたか。

 

なぜ、“まるごとイノベーション”なのか

 

『日本経済新聞』でも取り上げていましたが、流通業のモデル企業であるイトーヨーカ堂の直営部門の売上高が、ある会社に逆転されることが確実になりました。それは「ドン・キホーテ」です。年商は両社とも約8000億円なのですが、2桁成長のドン・キホーテが逆転するそうです。

 

流通業の価値観からすれば、ドン・キホーテの戦略(圧縮陳列)は業界の非常識です。しかも、顧客ターゲットは、人口減少の「若者」。流通業界の常識がすでに変わっているということです。そう考えると、どちらの方が流通の常識だったのか、と疑いたくなります。

 

ポスト2020における経済変化の本質は「価値の転換」です。これはあらゆる業界で起こる可能性があります。競争環境が激変しているのです。例えば、「銀行 VS アマゾン(流通)」「自動車 VS Google(自動運転)」「ホテル VS Airbnb(エアビーアンドビー)」といった、これまで考えられなかった同業ではない分野からのライバルが次々と出現しています。いつも言い続けてきたことではありますが、「同業種」「うちの業界」発想からは真の戦略が出なくなっているということなのです。

 

繰り返しますが、「事業」という字は「事(こと)」の「業(わざ)」と書くのです。

 

事業の本質を求めることができる経営理念をいくつか紹介しましょう。

創業者であるフィル・ナイトの自伝『シュードッグ』(東洋経済新報社)が話題になった「ナイキ」のミッションです。

「To bring inspiration and innovation to every athlete in the world.」
(世界中の全てのアスリートにインスピレーションとイノベーションをもたらすこと)

 

またキッコーマングループの経営理念は、次の通りです。

1.「消費者本位」を基本理念とする

2.食文化の国際交流をすすめる

3.地球社会にとって存在意義のある企業をめざす

 

カルビーグループの企業理念は、

「私たちは、自然の恵みを大切に活かし、おいしさと楽しさを創造して、人々の健やかなくらしに貢献します。」

 

顧客価値のあくなき追求は、顧客の未来を変えるほどの「あたらしい価値」を生み出します。そのために、事業の出発点でもある経営理念すら、いま一度、翻訳し直す必要があるのです。その翻訳過程で、事業そのものを見直し、あたらしい価値を付け加えてみてください。いつの時代も「戦略」は「理念」に従うのです。

 

 

変わり続けてこそ100年経営は完成する

長寿企業は今日までなぜ生き延びてきたのでしょうか。「企業は環境適応業」といわれるように、企業規模の大小の違いに関係なく、時代の環境変化に合わせて自社を変化させることが求められます。

 

帝国データバンクの「“本業”の現状と今後に対する企業の意識調査」(2015年)では、創業(設立)時と現在とを比較した本業の変化を紹介しています。【図表1】の左の円グラフは、創業時と比較した本業の変化です。47.7%が「変化した」と答えています。右の円グラフは、今後10年間で本業が変わる可能性です。47.8%が「可能性はある」と回答しています。


【図表1】創業(設立)時と比較した本業の変化と、今後10年間で本業が変わる可能性

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※母数は有効回答企業1万867社
出典:帝国データバンク「“本業”の現状と今後に対する企業の意識調査」(2015年7月)

 

このように、歴史の長さにかかわらず、環境や顧客の価値変化に合わせ、本業を変えて対応してきた企業が生き残っていると言えます。

 

例えば、京都にある島津製作所は創業143年。連結売上高3765億円、従業員数は1万1954名の会社です。「科学技術で社会に貢献する」という社是の下、「見えないものを見えるように、分析のできないものを分析できるようにする」ことに商品開発軸を置いています。

 

1909年より医用機器事業、1936年より航空機器事業、2008年より産業用機器事業を展開。祖業の分析技術から周辺技術を増やし、技術と技術の融合で新しい技術を生む。それが、新しい事業開発につながっているのです。

 

同社の現在の事業構成は、祖業の計測機器事業が60%、その他の事業が40%です。祖業をやめるのではなく、生かし、それを進化させる経営技術に長けている会社が生き残る。自社の事業の本質、専門的価値の拡大、それが「あたらしい」をつくるのです。

 

 

「あたらしい」を生み出す5つの戦略

 

「あたらしい」ことを生み出す開発環境への対応ポイントは5つあります。

 

1つ目は、「デジタル技術」です。デジタル技術でイノベーションが起きやすくなった、開発へ取り組みやすくなった、と言えます。これまではできなかったことができるようになる、ということです。

 

【図表2】にもあるように、既存の技術や現場と「AIやIoT、ロボットなどのデジタル技術」がつながって新しい製品やサービスが生まれているのです。私たちのライフスタイルがデジタル化、デジタル技術を駆使することで開発力が高まるのです。

 

【図表2】全ての分野で、革新的な製品・サービスが創出(共通基盤技術×産業コア技術×データ)

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出典:経済産業省「新産業構造ビジョン」(2016年4月27日)より加工して作成

 

スマートフォンは、日本で71.8%(総務省「情報通信白書(2017年版)」)まで普及しました。通信速度は2020年をめどに今の4Gから5Gにアップする予定であり、ますますスピードが高まります。これからは、写真ではなく動画の時代になります。テレビとインターネットの境がなくなっていきます。タナベ経営も「FCCアカデミー」というクラウドを使った教育プログラムを提供していますが、5Gになると教育価値そのものが変化し、なおかついっそう高まるでしょう。

 

2つ目は、「海外のビジネスモデルや規格を取り入れることで日本の変革スピードを加速させる」。海外のビジネスモデルやスタートアップ企業のアイデアを日本企業に取り込むことで、まだまだイノベーションを起こすことができるのです。

 

米国・シリコンバレーをはじめ世界先進のスタートアップ企業は次元が違ってきています。ものすごく速いスピードで成長しています。IPO(株式公開)ではなく、大企業への技術の売却意思が80%を占めています。海外のモデルや規格を取り入れるチャンスなのです。

 

3つ目は、「優秀な人材が集まる会社になる」ため、「多様な人材」「多彩な人材」を採用し活躍するシステムを導入し、「ダイバーシティー&インクルージョン経営」を推進。イノベーションを起こす経営環境を整備することです。イノベーションの源泉は人であり、人の多様性がイノベーションを起こします。

 

これにより事業展開スピードがアップしています。イノベーションも自前主義という価値観ではスピードが上がりません。自前でいろいろと試行錯誤をしている間に、マーケットを逃してしまいがちです。事業の成功確率以上に、展開スピードを上げることがこれからのイノベーションのポイントです。それにはオープンイノベーションへの取り組みが不可欠なのです。顧客、取引先、仕入れ先、異業種、大学などオープンに取り組むべき対象企業は多くあるはずです。

 

最後、5つ目は「異質とつながってあたらしい価値」をつくることです。キーワードは、「×(クロス)」することであります。皆さんの会社もさまざまなつながりをデザインし、イノベーションの可能性をもっともっと広げる必要があります。

 

シリコンバレーに本社を構える「Plug and Play(プラグ&プレー)」は、世界に26の拠点を持ち、世界中のスタートアップ企業を総合的にサポートするアクセラレーターです。施設の提供や投資家、弁護士、大学などの人脈の紹介、投資家に対するプレゼンテーションのアドバイス、マーケティングなどの事業支援、直接投資などを行っています。240社以上の世界的大企業をパートナーに、毎年400以上のスタートアップ支援を実施しています。昨年(2017年)に日本法人も設立しています。

 

このアクセラレーターは、リソースが欲しい起業家と大企業や投資家をつなぐ存在です。今は、業界に特化したアクセラレーターや、機能に特化したアクセラレーターなど、さまざまなものが世界中に誕生してきているのです。

 

要するに、中堅・中小企業もこのスタートアップ環境の中に入るべきです。このような会社ともつながることで、「オープンイノベーション」がさらに加速します。

 

これまで述べてきた、「①デジタル技術、②ビジネスモデルや規格の輸入は日本の変革スピードを加速させる、③ダイバーシティー&インクルージョン経営の推進、④オープンイノベーション、⑤異質とつながってあたらしい価値をつくる、という「5つの戦略」を意識して、開発環境を整備していきましょう。

 

 

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「経営理念以外は全て変える」くらいの意気込みで「まるごとイノベーション」に臨む覚悟が必要なのです。

 

「まるごとイノベーション」は組織戦略

 

会社に新しい風を吹き込むためには、中途半端な部分変更ではなく、内部を一気に変えることが必要です。そうすることによって変革スピードが上がります。中途半端な変更は社内から抵抗され、失敗するケースも多いのです。冒頭にも申し上げた通り、「経営理念以外は全て変える」くらいの意気込みで「まるごとイノベーション」に臨む覚悟が必要なのです。変えるべき項目と視点は、【図表3】の通りです。

 

【図表3】内部で変えるべき項目と視点
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イノベーションを起こす“あなた”のリーダーシップ

 

ここまで紹介してきたケースは、誰が実践、実現しているのでしょうか。「あたらしいコトを生み出す顧客価値の追求」のリーダーは誰なのか。

 

政治家ですか、官僚ですか。違いますよね。「経営者」であり「企業家」たちのリーダーシップなのです。ここでも日本語はよくできています。社会という言葉をひっくり返すと“会社”になります。会社が社会にイノベーションを起こす最も効果的かつ、効率的な単位なのです。有名な経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、「新しいことを行うイノベーションは企業家が起こす」と言っていました。

 

イノベーションを起こすのは、会社であり、そこにいるリーダー一人一人なのです。要するに、『FCC REVIEW』を読んでいただいている皆さんですね。

 

いつの時代も人がイノベーションの起点であり、かつイノベーターなのです。

 

アップルの創業者スティーブ・ジョブズは、「創造性とは、ものごとを結び付けることにすぎない」と言いました。

 

「つなぐイノベーション」を今すぐ実行し、顧客をワクワクさせ、元気にするような、「あたらしい価値」を創造していきましょう。

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PROFILE
著者画像
若松孝彦
Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。