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コラム
イベント開催リポート
タナベコンサルティンググループ主催のウェビナーやフォーラムの開催リポートです。
コラム 2024.10.02

ウェルビーイングトランスフォーメーション(WX)と新産業共創 博報堂

FCC(100年先も顧客から真っ先に声をかけられる会社)実現を支援する、経営者のための戦略プラットフォーム「トップマネジメントカンファレンス」(タナベコンサルティング主催)。第3回(2024年8月開催)は、博報堂の堂上研氏が登壇し、「ウェルビーイングトランスフォーメーション(WX)と新産業共創」についてお話しいただいた。

株式会社博報堂 ミライの事業ビジネスユニット ビジネスデザインディレクター 堂上 研 氏

株式会社博報堂
ミライの事業ビジネスユニット ビジネスデザインディレクター

堂上 研 氏

 

博報堂の新規事業を生む組織づくり

 

2012年に起業のため博報堂を辞めようと考えた際、私は当時の社長(戸田裕一氏、現博報堂DYホールディングス取締役会長)から新規事業の創造を勧められ、それから新規事業に取り組む数々のチームを組成。博報堂初の新規事業組織で奮闘し、2019年には新規事業の専任チーム「ミライの事業室」を設立して、室長代理兼ビジネスデザインディレクターとなった。

ミライの事業室は社会課題解決をドメインとし、「新しい社会と産業をデザインする」ことをパーパスに掲げる。M&Aも含め外部の力を借り、投資・投機をしつつ新規事業の創出に取り組んだ。

産業や分野の垣根を払い、パートナー企業とともにオープンイノベーション型で新規事業を創造する「チーム企業型事業創造」を掲げて推進。これまでマーケティングを支援したクライアント企業は3000社以上、5年間で面会したスタートアップ企業は200〜300社に及ぶ。

 

博報堂 チーム企業型事業創造
出所:博報堂講演資料

 

 

新規事業創造のための取り組み

 

最初に取り組んだのは新規事業を生む4つの型づくりだ。自社で事業を開発する「自社開発型」、多様なメンバーを集め、互いの強みを生かして事業を共創する「マルチステークホルダー型」、パートナー企業とともに人材や資金、アイデアを出資する「パートナーJV型」、スタートアップ企業への出資と買収を通じて新規事業を創造する「スタートアップ投資型」がある。

 

新規事業開発の4つの型
新規事業開発の4つの型
出所:博報堂講演資料

 

新規事業創造に至った経緯として2018年、博報堂の経営陣に対し、広告会社から脱却するための5つの提言を行った。

1つ目は、エージェンシーからの脱却。博報堂が広告代理店から脱却するために、主となる事業を創りたいと訴えた。

2つ目は、単年度P/L(損益計算書)・前年比からの脱却。前年比の売り上げで評価する広告代理店とは違い、時間軸で評価できない事業を創り、B/S(貸借対照表)経営を行うべきと提言した。

3つ目は、スピード感のある意思決定体制構築。社内で稟議を通すには3カ月かかるため、許容限度額内の資金は自由に使える権限委譲を提案した。

4つ目は、失敗を恐れない評価制度の構築。5つ目は、未来への事業投資の準備だ。

次に博報堂のバリューチェーンの変革を提案した。博報堂のバリューチェーンは、企画・マーケティングから始まり、制作、メディア購入を経て販売支援し、マーケティング支援やメディア購入によって収益を得るというものである。

ミライの事業室では、この構図に事業戦略コンサルとマーケティング・システム構築を加え、広告ビジネスとは異なる収益基盤とした。M&Aや新規採用を通じたカルチャーミックスにより、立ち上げ当初に十数名だった事業室メンバーは今や約120名へ拡大している。

博報堂の進むべき道として、「(メディアや企業ではなく)生活者の代理(エージェンシー)となるべき」と提言している。そもそも、既存事業に従事する中で顧客の奪い合いに終始するマーケティングに疑問を感じており、イノベーションによって市場を創造し新ビジネスを起こしたいという強い思いがあった。

 

博報堂の進むべき道
博報堂の進むべき道
出所:博報堂講演資料

 

 

「ミライの事業室」が起こす新規事業とは

 

博報堂の既存ビジネスは「労働集約型」と「フロー型」を組み合わせるため多くの人員を必要とし、納品すればビジネスは終わる。

一方、ミライの事業室は「レバレッジ型」と「ストック型」を組み合わせたビジネスを創ることを意識した。つまり、SaaSモデルやプラットフォームモデルに取り組み、1人が100人に、あるいは100社に販売できる「レバレッジ型」、2〜3年後も継続して展開できる「ストック型」のビジネスを創った。

経営者は、新規ビジネスに短期間で大きな成果を求めがちだ。100億円を投じて企業の買収や合併を行うM&Aをするならば、時間をかけなくても新規事業はできる。しかし、それが不可能ならば時間をかけるしかない。新規事業の目的をどこに据えるのかが重要だ。

ミライの事業室は、事業開発のアクセラレーションやアライアンスを組むこと、つまりスタートアップ投資の手法を選んだ。

 

“生活者データ・ドリブン”マーケティングでイノベーションを起こす

 

“生活者データ・ドリブン”マーケティングには、顧客が持つ価値観や生活視点の分析が必要だ。

現代の生活者はいくつものコミュニティーを持ち、それぞれのコミュニティーで違う顔を持つ。また、デジタル化が進み一人一人がメディアになる時代。一人の生活者が簡単に企業を立ち上げられる。そうした生活者の集まるコミュニティーに商品やサービスを販売したい企業を巻き込めば、CtoCやDtoCなどのビジネスが活性化し、ビジネスのプラットフォームは変わっていく。

これからは多様な人が出入りするコミュニティーが生まれ、最終的にコミュニティーの運営をするビジネスが生まれる。そのため、コミュニティーの中で“生活者データ・ドリブン”マーケティングをどう展開すべきか考えている。

博報堂については、メディアのエージェンシーとなる「第2創業」から、自身でメディアを持ち、新規事業を創出する「第3創業」へと転換したい。まずは広告周辺領域から事業を始め、その先にコミュニティーをつくるビジネスモデルを創りたい。これを「広告業からの生活共創業」と呼んでいる。

 

ウェルビーイングメディア「Wellulu(ウェルル)」の立ち上げ

 

新規事業を生むには経営者のコミットメントが重要だ。経営者は権限委譲して新しい事業にチャレンジしてほしい。

社内では保守層がブレーキを踏む。リスクを冒さないことがリスクだと認識していない。会社は改革的な提言を大事にすると活性化する。新規事業では、経営陣と事業を生む人間、事業づくりに伴走する人間の三位一体が大切だ。

ここからは、ウェルビーイングをビジネスと捉え、ウェルビーイングに特化したメディア事業を始めた当社の取り組みを紹介したい。

ウェルビーイング市場は750兆〜830兆円といわれ、成長率は年間8.6%に及ぶ。ウェルビーイングをビジネスにするには、生活者の「あったらいいな」で終わる「nice to have」から費用を投じても欲しいと願う「must have」へとビジネス化することが重要だ。

また、離職率の増加を背景に、ウェルビーイング経営に取り組む経営者が増えている。その点に着目し、このビジネスに可能性を感じている。

博報堂は2023年に「Wellulu」というウェルビーイングに特化したメディア事業を始めた。博報堂の歴史の中でも全く新しい取り組みである。成果を上げられたのは、ソウルドアウト(博報堂DYグループ)が過去(2020年)に連結子会社化したメディアエンジンを、博報堂DYグループの仲間にしたことが大きい。

「ウェルビーイングを感じる要因は一人一人違う」ことを前提に、メディア立ち上げから約450記事を投稿し、現在は月間25万を超えるユーザーがアクセスするメディアに急成長した(2024年9月現在)。時間や費用をかけずに成長できたのは、既存事業の強みを生かした結果だった。

また、ネットワークを生かして著名人や有識者を取材している。著名人や有識者と企業の経営者が対談する機会をつくり、企業の経営者にも取材した。今後は取材によるスタートアップエコシステムをつくろうと考えている。出資した企業を博報堂DYホールディングスで紹介し、彼らの事業をグロースさせるビジネスを展開である。その企業がIPO上場したときにエクイティーを獲得することもビジネスモデルに組み込まれている。

 


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