2024年6月28日に開催された、FCC(顧客から一番に声のかかる会社)実現を支援する、経営者のための戦略プラットフォーム「第2期トップマネジメントカンファレンス」(タナベコンサルティング主催、全6回)。第2回は、「北海道発コングロマリット経営の軌跡」をテーマに、オカモトホールディングスの代表取締役・オカモトグループCEOの岡本謙一氏に講演いただいた。
株式会社オカモトホールディングス 代表取締役 オカモトグループCEO
岡本 謙一 氏
オカモトグループは、1950年に士幌町中士幌の新聞販売所から始まった。1964年にこの場所に燃料給油所第1号となる中士幌給油所を開設したが、その後1989年に給油所は閉鎖。私が25歳の時、父が資本金を出資する形で法人がスタートした。
専修大学経営学部を卒業し、家業を継ぐ形で始まったガソリンスタンド経営には、当時不満を抱いていた。経営をするなら大きくしたいと思っていた私は、より大きな町にガソリンスタンドを作ろうと考え、音更町にもガソリンスタンドを作った。この、士幌町から飛び出した決断がターニングポイントだった。
その後、帯広市や旭川市をはじめ全道に展開し、東北地方にもガソリンスタンドを開設することで、業務の仕組み化ができた。組織で仕事をするという体制が整ったことで、事業がさらに拡大していった。
グループ連結で売上高1702億円、経営利益55億円(2024年3月期)を達成した秘訣は、人が育つ仕組みをどう作るかだと考えている。現在の業績は、現場の社員が自ら考え動くという仕組みがうまく絡み合った結果である。
また、ライフプラン設計のために使用していた「SMI」というモチベーションアップのためのプログラムに効果を感じていたため、土屋ホールディングスの会長・土屋公三氏が開発した「3KM※」と「3KM手帳」を導入した。現在では4800名いる社員のうち、3600名の社員がこの手帳を使っていることも「人が育つ仕組み」を支えている。
※3KM:「個人」 「家庭」「会社」の3つのKと、もう一つの3つのKである「健康」「経済」「心」、「目標(Mark)」「管理(Management)」「意欲(Motivation)」の3つのMにちなんで名づけられたプログラムの総称
出所:オカモトホールディングス講演資料
北海道から本州へ展開することについて、抵抗は感じなかった。また、海外ではガソリンスタンドが元売りのマークを掲げずに、プライベートブランドとして店舗展開しているということに気付き、それを道内でも実践した。
さらに、ガソリン販売は売上高を上げることはできるもののマージンが決まっているため、ガソリンスタンド事業で売上高を稼ぎ、収益は他の事業で稼ぐという構図を取るということも重要だった。
ガソリンスタンド事業で収益を上げることが難しい企業が多い中、オカモトグループの経営が軌道に乗っている理由は、店舗におけるオペレーションだけでなくバックオフィスも含め、いかに効率を良くするかという点を追及したことが挙げられる。
コロナ禍でテレワークという言葉が使われる前から、現場の社員は車の中から会議に参加する「カーワーク」を取り入れたり、事務所や会議室を持たずに地域の公民館で会議をしたりするなど、徹底的な効率化を図った。
その後、TSUTAYAやびっくりドンキー、スポーツクラブなどの経営も始めたものの、2020年のコロナ禍の影響で系列店が50店舗も閉店するという大打撃を受けた。そこで、採算の合わない事業からは撤退する必要があるという考えの下、回復の見込みが薄い事業をやめつつ、新しい新事業を展開していったことが、コロナ禍後のV字回復の鍵になった。
1995年には全国で6万店ほどあったガソリンスタンドが、2023年には2万7963店まで減少しているが、今後もあと1万7000店ほど減少すると見込んでいる。理由としては、日本の少子高齢化が挙げられるが、業界が衰退しても、強い会社は強くなる。
また、電気自動車が普及したら石油業界やガソリンスタンド事業はどうなるのだろうかと考え、2023年に世界で最も電気自動車が普及しているノルウェーへ視察に行った。その際のオスロからベルゲンまでの450kmの道のりをテスラとトヨタ自動車のレンタカーで移動した。当初は7時間程度と予想していたものの、実際は到着までに14時間もかかった。
充電しようとしてもスタンドが埋まっていることが多く、さらに、100%充電されるまでに2時間ほどかかるため、返却時まで苦労が絶えなかった。これらの経験から、電気自動車は不便だと感じた。国が発信している情報とエンドユーザーが発信している情報を比較した上で、ガソリン車の事業について「まだ成長の余地がある」という認識を持っている。
最初に始めた事業はコイン洗車場だった。空き地を借りて、スプレー洗車の機器はリースでそろえた。置くだけでお客さまが来てくださるという手軽さから、1年間で7店舗まで増やした。
しかし、参入障壁の低さから次々と同様の洗車場ができたため、この事業からは手を引くことにした。この経験から、競合のまねがしやすいビジネスには参入しないという考え方を持つようになった。
また、多くの人はM&Aについて難しく考えるが、実はそれほど難しくない。M&Aを行った多くの会社では、社長が働きすぎてしまうために、潜在能力の高い人材が育ちにくいという状況が発生している。仕事を積極的に任せ、若く優秀な人材を生かす仕組みがオカモトグループにはあるため、M&Aを有効に活用できている。
グループ内には「CCU(チェンジ・キャリア・アップ)制度」がある。入社してから勤めたい業種を決めることができ、入社後もグループ内転職を可能とする制度である。勤めてみてから、その業種が自分に向いていないと感じたら、グループ内の別事業に異動することもできる。一方、各グループから常に欲しい人材の募集をかけて、人事部が中心となってグループ内で人材を異動させていく制度もある。
こうすることで、簡単に異動されないよう、組織が人材を大事にするようになる。また、グループ内転職ができるため、退職していく人が少なくなるのもメリットである。
オカモトグループの人事理念に「勤めてよかった・辞めたらだめよ・戻っていいよ」というものがある。「勤めてよかった」は本人視点で、「辞めたらだめよ」は家族視点。そして「戻っていいよ」というのは、退職時の声かけだ。必ず「戻ってこいよ」と声をかけるのだ。
退職し、他社の空気を吸ったものの「やっぱり前の会社の方が良かった」と思った元従業員が帰ってきやすいようにすることも重要である。
2013年にTOPS(トヨタ・オカモトプロダクションシステムの造語)というトヨタ生産システムを導入し、7年間、トヨタ自動車のOBにコンサルタントとして指導してもらった。オカモトグループは製造業ではないのに、なぜトヨタ生産システムを導入したのか。その理由は「定位置」にある。物の定位置が決まっていることが、無駄を省くためには重要なのだ。
会社が良くなるか、良くならないかはバックヤードを見るとわかる。整理整頓ができていないようであれば、トヨタ生産システムを導入するだけで、会社の効率は格段に上がる。
出所:オカモトホールディングス講演資料
3KMは人生の意識を変える仕組みで、TOPSは仕事の意識を変える仕組みである。会社の年次目標などは、従業員にとっては「やらされている感」があるため、3KM手帳では個人・家庭の目標を優先させる。家族の欄には必ず、祖父母や両親に何かプレゼントを贈るといったことを書く。これを実行すると、オカモトグループに入社してから急にプレゼントをくれるようになったと認識され、家族を巻き込むことができる。
何のために仕事をしているかと考えると、やはり自分や家族のためである。そのため、個人や家族の目標をしっかりつくることで、仕事に対する姿勢が変わっていく。そのため、自社の社員はみな自分事のように仕事をすることができる。これが3KMを導入して良かった点である。
3KMを活用しやすいように、手帳に書いたことを実行したら1人5000円から2万円以内で補助をしたり、家族4名まで沖縄旅行に招待したりといった仕掛けをしている。こういった仕組みづくりをすることが、次のアクションの要因になっている。仕組みづくりは良い循環を生むことにつながる。
個人・家庭・会社の3つの分野で夢を描き、目標を立て実現させていく、教育実践プログラム「3KM」の「3KM手帳」
出所:オカモトホールディングス講演資料