グループ経営としてのストーリーを描く
※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。
メイホーホールディングス:ホールディングス化による永続的発展的な企業経営
事業会社経営者の育成
建設関連サービスや人材派遣、建設、介護、グローバル人材教育と幅広い事業領域で展開しているメイホーホールディングス。「既存事業会社の成長」「既存セグメント内の新たなM&Aによる成長」「既存セグメント以外のM&Aによる成長」、これら3つの成長を合わせることでグループの拡大を目指す「三段ロケット推進方式」を成長戦略として描いている。
戦略の具体的なアクションは5段階ある。まずは「グループ理念の共有」をし、「経営効率 化・人材支援・業務連携の推進」を図ることでシナジーが生まれ、「グループ会社の利益増大」「グループ全体の資金力増大」につながり、さらなる「M&A によるグループの拡大」を目指す。この5段階を回し続けながらエネルギーを蓄積する。
各事業会社で管理部門とプロフィット部門に溝があることは珍しくない。そのため同社で はできるだけ溝を埋められるよう、次の6つの考え方を共有している。
①グループの主体は個社
②グループの成長は個社の成長
③グループがあるから、個社はリスクをとって成長へのチャンレンジが可能になる
④ホールディングスは個社のチャンレンジを支援
⑤個社もセグメントもホールディングスもグループ全体の発展が共通の目的」「自組織の発 展のみが目的ではない
加えて、盛和塾で学んだ「経営の原点12ヶ条」になぞらえて「経営の原点8ヶ条」をつくり、「経営の現状を受け入れる」「事業の将来像を明確にする」「絶対逃げない覚悟を持つ」「会社の存在目的を明確にする」「具体的な目標を立てる」「強烈な願望を心に抱く」「自分に恥じない努力をする」「自分に正直に生きる」といった尾松氏の考えを理解してもらえるよう伝えている。私の経験では、各事業会社の経営者や幹部に繰り返し考えを伝え続け腹落ちするにはおよそ3年かかる。
事業会社をマネジメントする経営システム
グループインした事業会社では、次の4つのポイントに重きを置いて変革を進める。1つ目は、PMI(統合プロセス)である。株式譲渡実行日から7日以内に、決裁・会計・人事労務システムなどの導入・運用を開始するなど「デジタル技術の導入・活用」や、PMIチームを立ち上げ、チームによる窓口一本化など「M&Aマニュアルの更新・活用」を行う。
2つ目は、「俯瞰(ふかん)逆算」である。長期計画をつくったり、10年後に在りたい姿を事業会社の社長に考えてもらったりする。
3つ目は管理部門の強化だ。会社のPDCAを回すため、経営企画・総務・人事・内部監査・財務経理に適切な担当者を配置して整備する。
4つ目は、人材を育てること。グループ全社の幹部社員を対象に毎週行っている「フィロソ フィ勉強会」や同グループの経営に関する考え方を記した「フィロソフィブック」を全社員に配布し、朝礼で唱和することなどが挙げられる。
スローガンである「変わる勇気が未来を変える」を合言葉に、今後も同グループは改革を推進し、さらなる成長を目指す。
SOEIホールディングス:持続的成長のためのメガプラットフォーム構築
ホールディング経営に踏み切った背景と推進体制
地盤改良工事を中心に国内外の都市開発・社会インフラを支えるSOEIホールディングス。2007年、先代が急逝したことを受け、代表取締役に就任した。当時は教育システムがなく、門外漢であったため、事業内容を勉強するのに苦労した。
事業の拡大を図る中で、祖業である地盤改良工事の企業1社にさまざまな事業と管理の機能を持たせることにリスクを感じていた。世襲だけではない事業承継の選択肢を持ちたかったことや、専門的な工事を手掛けるコングロマリットを戦略としていたことなどを背景として、2016年にホールディングス化。M&Aを中心に事業を拡大させた。私が社長に就任した当初は10億円ほどだった売上高も現在は62億円となった。
ホールディング経営を推進する際の課題は大きく分けると3つある。1つ目は「事業会社の縦割りによるシナジーの喪失」。同社では情報共有がスムーズにいかない状況に対し、グループの経営会議や社内報において情報を発信しシナジーの喪失を防いでいる。
2つ目は「類似業態のカニバリゼーション」。社内取引を明確にし、公正なルールをつくることで顧客を取り合わないよう仕組み化している。
3つ目は「管理の重複」。同社では各事業会社に配置している管理担当者と、ホールディングカンパニーの管理部門の業務が重複しないよう、管理会計・財務会計の管理システムを構築し対応している。
自身の原体験からつくった教育システム
人材不足が叫ばれる建設業界だが、同社の従業員数は年々増加の一途をたどっている。プロパー社員がグループ全体の3分の1近くを占めるほどだ。求職者が魅力的に感じるポイントとして挙げているのは教育システムである。
社長就任当初に苦労した経験から、私は人材育成のための「SOEIグループ職業訓練校」を2018年に設立し自ら理事長を務めている。新入社員に対して、毎年2週間ほどプラントの設営や薬剤の管理など地盤改良の実地研修を行うプログラムである。
地盤改良の実地研修を受ける従業員
長年培ってきた地盤改良工事を中心としながら、コンクリート構造物の維持補修分野や、防災や減災を目的としたインフラの維持補修・耐震、災害復旧・復興への対応、クロスボーダーでのM&Aに注力していくという同社。事業をスケールさせる中で、今後はグループを横断した人材育成によって従業員の多能工化を見据える。
ポイント解説:ホールディング・グループ経営を推進する5つのテーマ
分社経営からグループ経営への転換
ご講演いただいた2社の成功からは3つの学びがある。1つ目は安定(経営者輩出)と成長(事業ポートフォリオ)を実現するためには、ホールディング経営スタイルのデザイン・ストーリーが重要であること。2つ目はホールディングカンパニーをグループ経営のプラットフォームにしていること。3つ目はプラットフォームとして運営するためにグループ経営システムを設計していることだ。
ホールディング・グループ化したものの、各事業会社だけで物事が完結する部分最適な「分社経営」になっている企業は少なくない。メイホーホールディングスやSOEIホールディングスのように意思決定基準を統一し、資源配分やシナジーが発揮できる体制を整え、ガバナンス、マネジメントの在り方、間接業務の統制などを検討して、グループ全体最適である「グループ経営」へと転換する必要がある。
【図表1】分社経営とグループ経営の特徴
出所:タナベコンサルティング作成
また、推進するには「グループ理念」「グループ経営企画機能」「グループガバナンス機能」「グループマネジメント機能」「シェアードサービス機能」といった5つの視点が重要である。
「グループ理念」はグループ共通の目的やグループ全体での成長を考える視点。「グループ経営企画機能」は事業会社各社の経営をどのようにサポートするかといった視点。「グループガバナンス機能」はどのようなルールで経営するのか基準を明確にする視点。「グループマネジメント機能」は事業会社各社が目標を達成するためのマネジメントの在り方を考える視点。「シェアードサービス機能」は共通業務を集約・効率化しコストを抑える視点である。
【図表2】ホールディング・グループ経営を推進する5つのテーマ
出所:タナベコンサルティング作成
経営の在り方を一足飛びに変えることはできない。自社のスタイルに合わせ、徐々に改革を進めていただきたい。
タナベコンサルティング:遠心力がグループ経営をイノベートする
プラットフォーム型ホールディングスで持続的成長を
企業規模に関係なくホールディングス化へ取り組む企業が増えている。日々接しているクライアントにおいても、持続的成長のため、経営者がホールディングス化を希望する企業は珍しくない。理由の1つとして多くの企業が事業承継のタイミングに差し掛かっていることが挙げられる。
昨今のトレンドとして、オーナー主権から社員主権へ、経営スタイルが変化している。オーナーのトップダウンではなく、社員を経営者として経営に巻き込み、社員を交えて話し合うような経営スタイルへと変化している企業は少なくない。そのため、事業承継も同族型承継ではなく、内部昇格が活発である。
一方で、自社株の承継のためにホールディングス化したものの、ホールディングカンパニーが事業活動の実態のない会社になっているケースが見受けられる。資本戦略は目的の1つとしてあって良いが、主目的にしてはいけない。せっかくつくったホールディングの体制を、会社として中身を実装していけるようにするには、何に取り組めば良いだろうか。
まずは、エンパワーメントが高い組織、つまり、遠心力が働いている組織をつくることだ。社員を経営者として教育していく仕組みや、カルチャーを含めた成長戦略を描く必要がある。
次に財務戦略を打ち出すこと。ファイナンスモデルとプロフィットモデルをデザインしていくことも含めて、ホールディングと事業会社の財務上の責任範囲を明確にしたい。
昨今、ホールディングスの在り方として提唱しているのはプラットフォーム型ホールディングスだ。あくまでも主役は事業会社や社員であり、ホールディングカンパニーは組織の土台として、必要に応じて経営資源を事業会社へ供給するような構図となっている。この体制は事業会社の自律性を促し、より遠心力を高めるのに有効だ。(【図表1】)
【図表1】プラットフォーム型ホールディングスの体系図
出所:タナベコンサルティング作成
ホールディングスグループ経営は複数の事業会社を持ち、セグメンテーションとバリューチェーンを拡大して遠心力を強めていく。この遠心力がグループ成長のエンジンとなるのである。
遠心力を強める一方で、ホールディングカンパニーはパーパスやMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)によって各事業会社を束ねる機能を持ち、社員を引き付ける求心力を高める必要がある。共通の強い価値観を持ち、各事業会社へと浸透させてグループ全体で成長するのがこれからのグループ経営の在り方だ。
なお、事業会社の経営は、内部から社員が昇格して事業会社の社長になるのが望ましい。ホールディングス化した当初は、ホールディングカンパニーと事業会社の社長を1人が兼任するケースもよく見られるが、なるべく兼任せず専任で組織を機能させるべきだ。
【図表2】ホールディングスグループ経営の推進力
出所:タナベコンサルティング作成
ホールディングスグループ経営を、形だけでなく中身を伴うように実装するには、次の6つのモデルがある。 1.Visionary HDGs:ビッグビジョンを追求する 2.Incubating HDGs:事業と経営者を育成・輩出する 3.Rebuilding HDGs:事業ポートフォリオを再構築する(場合によっては祖業を売却) 4.Vertical HDGs:垂直統合でバリューチェーンを最大化する 5.Co-creative HDGs:イノベーションを起こして価値を共創する 6.Successional HDGs:事業承継を機に進化する
ホールディング経営で目指す姿のストーリーの軸として1~6を参考にし、顧客や社員、ステークホルダーからの共感を得てさらなる成長へとつなげていただきたい。