企業はこのような状況下で、どのように対応すれば良いのだろうか? まず、神田氏はマクロ経済面から見た日本企業が直面する主な課題として、次の5つの要素を上げる。
①労働力の確保・活用
②インフレ経済下での競争環境の変化
③脱炭素化(GX)、デジタル化(DX)
④経済安全保障
⑤社会保険料・税負担の増加
1つ目は「労働力の確保・活用」だ。日本の人口は減少の一途をたどっており、出生率が大幅に上昇してもこの傾向は長期に続く可能性が高い。
「企業の成長や事業継続にとって、人材はなくてはならない重要な資本です。労働力人口が減り続ける中で人材を確保するには、賃上げを行い、人材投資を拡大することが不可欠です。
さらに、女性の正規雇用の継続、外国人労働者の受け入れ、『働き方改革』などの環境整備といったさまざまな取り組みが重要になります。特に、日本は欧米先進国と比較すると女性の能力を生かしきれておらず、短時間の低スキル業務に就く女性が多いので、男女間賃金格差はかなり大きいです。
2つ目の「インフレ経済下の競争環境の変化」については、ひと言でいえば『コストカット』から『高付加価値化』への変化です。デフレ時代はいかにコストを抑えて価格競争を勝ち抜くかが重要でしたが、インフレ下ではその方法で成果を上げることが難しくなります。賃上げなどの原資を稼ぐために値上げを行わなければならないので、付加価値を高めて利益を確保する戦略への転換が求められます。
また、現預金の有効活用も重要です。インフレになると現預金は実質的な価値が目減りしますから、余剰資金は新たな成長のための投資に回すべきでしょう」(神田氏)
3つ目の「脱炭素化(GX)、デジタル化(DX)」については、すでにEV(電気自動車)へのシフトが大きな潮流となっている。こうした技術革新のさらなる加速はもちろん、変化する国内外の制度にも対応する必要がある。
デジタル化を通じた人材と需要の獲得も大きなポイントになる。企業はデジタル化を単なるペーパーレス化ではなく、新しい需要の創造のためのツールと捉えて行動することが重要だ。
4つ目の「経済安全保障」では、「脱中国」を進めること。この点、米国を中心に日本など民主主義国家が参加するインド太平洋経済枠組み(IPEF)の動きを注視する必要がある。IPEFで議論されている重要品目には、半導体など日本にとって国際競争力の高いものが含まれている。IPEF参加国が中国からの調達を控えるようになれば、日本製品への代替需要が発生する可能性がある。
5つ目の「社会保険料・税負担の増加」は、拡充される少子化対策・防衛関連での財源確保に伴い、企業負担は増える見通しである。加えて、高齢化の進行などに伴う社会保障給付費の増加や財政健全化により、社会保険料や税の負担は長期的に増加していくとみられる。
こうした負担を乗り越えながら、企業は売り上げや利益を伸ばせる環境をつくっていかなければならない。簡単ではないが、日本経済を取り巻く環境を直視して対応すれば突破口は開けると、神田氏は経営者にエールを送る。
「足元のインフレは資源高や円安の影響が大きく、それが落ち着けば以前のゼロインフレに回帰するという見方もあります。しかし、企業の価格設定行動や家計の消費行動は昨年から変化しており、春闘では30年ぶりの高い賃上げ率が実現する見込みです。人件費増加分が販売価格に転嫁され、サービスを含め幅広い品目で値上げが広がれば、賃金と物価の循環的上昇が加速します。そうなれば、マイナス金利政策の解除など金融政策が正常化する局面がいずれ訪れるでしょう。
こうした経済金融環境の変化を見据えつつ、人材確保や『働き方改革』、デジタル化や高付加価値の創造などに迅速に取り組むこと。それが今後の企業の成長の鍵になるはずです」(神田氏)
PROFILE
- (株)大和総研
- 所在地:東京都江東区冬木15-6
- 設立:1989年
- 代表者:代表取締役社長 望月 篤
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