未来戦略フォーラム(ゲスト:オムロン、マツキヨココカラ&カンパニー、森永乳業)
森永乳業株式会社
森永乳業グループのサステナビリティ経営について
サステナビリティ本部サステナビリティ推進部長
浜田 和久 氏
1962年生まれ。1985年名古屋大学農学部卒業。1985年森永乳業株式会社入社。2013年機能素材事業部事業企画グループ長。2016年情報システム部長。2018年IT改革推進部長。2020年3月CSR推進部長。2021年6月組織改正により現職。
1.森永乳業グループにとってのサステナビリティ
1917年に創業し、牛乳、乳製品、アイスクリーム、飲料、その他の食品などの製造、販売を行っている森永乳業。経営理念には、おいしさと健康の両面でお客さまを笑顔にするという決意が込められており、かがやく”笑顔”を生み出し続けるために、環境問題や人権課題へ対応するサステナビリティ経営を本格化させた。
2019年に森永乳業グループが策定した10年後の在りたい姿である「10年ビジョン」。その中で打ち出した3つのビジョンのうちの1つが「サステナブルな社会の実現に貢献し続ける企業へ」であった。ビジョン達成のために策定したのは「サステナビリティ中長期計画2030」だ。2022~30年度までのサステナビリティ分野における中長期的取り組みをまとめ、サステナビリティ経営の実現へと動き出した。
サステナビリティ経営の中核を成すサステナビリティ中長期計画2030では、コーポレートスローガン「かがやく“笑顔”のために」を基に、「森永乳業グループは、『おいしいと健康』をお届けすることにより豊かな“日常・社会・環境”に貢献しすべての人のかがやく笑顔を創造し続けます」というサステナビリティビジョンを策定。「食と健康」「資源と環境」「人と社会」という3つのマテリアリティテーマを設け、実現のために7つのマテリアリティ(重要取組課題)を設定した。
2.サステナビリティ中長期計画2030概要と推進体制
7つのマテリアリティ策定に向けて、自社を取り巻く多くの課題を洗い出し、影響を及ぼすリスクと機会を検討・整理した。その後、「自社が取り組むべきか」「自社が取り組みたいことか」「自社に取り組める能力があるか」という3つのポイントを鑑みながら、「森永乳業にとっての重要度」を評価するとともに、「ステークホルダーにとっての重要度」の視点からも、各項目の重要度を評価し、7つのマテリアリティを決めたのである。
3つのマテリアリティテーマ「食と健康」「資源と環境」「人と社会」には、それぞれ「目指す姿」を掲げている。「食と健康」は、「森永乳業グループならではの、かつ高品質な価値をお届けすることで、3億人の健康に貢献します」。「資源と環境」は、「サプライチェーンパートナーとともに永続的に発展するために、サステナブルな地球環境に貢献します」。「人と社会」は、「全てのステークホルダーの人権と多様性を尊重し、サステナブルな社会づくりに貢献します」。森永乳業グループだけでなく、全てのステークホルダーに向き合っていく自社の姿勢を示している。
3.サステナビリティ経営の推進
サステナビリティ経営を推進するための取り組みは5つある。1つ目は、2021年6月から行っている組織改正だ。社長直轄の「サステナビリティ本部」を新設し、組織や会議体の名称を「CSR」から「サステナビリティ」へ改称した。そうすることで、サステナビリティ経営へとかじを切る意思を社内外に強く示した。
2つ目は先述の「サステナビリティ中長期計画2030」の策定。事業との連携を意識した計画の策定と、企業価値向上による従業員のモチベーション向上をミッションとし、各本部からの選抜メンバーによるプロジェクトチーム「SXチーム」を2021年7月に発足。サステナビリティ中長期計画策定に向けた検討を進めた。
3つ目は「サステナビリティ委員会・事務局会議・専門部会」の整備。「サステナビリティ委員会」傘下に、事務局会議、専門部会(気候変動対策部会、プラスチック対策部会、人権部会)を設置し、経営レベルでのサステナビリティテーマの討議と取り組みのスピードアップを図った。
4つ目は「事業所サステナビリティ活動」の推進。トップダウンだけでなく、ボトムアップの取り組みとして、各事業所に「サステナビリティ推進リーダー」を設置し、現場での活動を推進した。
5つ目は、社内外に向けた積極的な情報発信。ニュースリリース配信、メディア・投資家向け説明会の開催、社内向けに情報を配信した。メディア・投資家向け説明会は社長自らの言葉で「サステナビリティ中長期計画2030」の説明を行った。
サステナビリティ中長期計画2030を中心とした全社活動、事業所サステナビリティ活動による現場活動、この両輪を回すことで、サステナビリティに対する社員の「自分事化」を進めていく計画である。
株式会社タナベコンサルティング
長期ビジョン設計におけるキーポイント
執行役員
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
ストラテジー&ドメイン東京本部長
村上 幸一 氏
ベンチャーキャピタルにおいて投資先企業の戦略立案、マーケティング、フィージビリティ・スタディなど多角的な業務を経験後、タナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。豊富な経験をもとに、マーケティングを軸とした経営戦略の立案、ビジネスモデルの再設計、組織風土改革など、攻守のバランスを重視したコンサルティングを数多く手掛けている。高収益を誇る優秀企業の事例をもとにクライアントを指導し、絶大な信頼を得ている。
1.流動的変化と構造的変化
ロシアによるウクライナ侵攻、少子高齢化問題、サプライチェーンのひっ迫など、企業経営を取り巻く環境は劇的に変化しており、不確実性が高まっている。企業が立ち向かっていくべき課題を見極めるには、その変化が「流動的変化」か「構造的変化」なのかに着目していただきたい。
例えば、外食や観光など、コロナが終われば元通りになる変化は流動的変化。フードデリバリーサービスのように、コロナ後も生活様式やライフスタイルの変化によって定着し、世の中の構造として残っていくのが構造的変化だ。
2.理念以外は全て変える
タナベコンサルティングでは、「経営のバックボーンシステム」を提唱している(【図表】)。普遍的な自社の価値である経営理念を背景にミッション・ビジョンをつくり、そのミッション・ビジョンを基に中期経営計画を策定。その中期経営計画を達成するためにビジネスモデル・ファイナンシャルモデル・コーポレートモデルを設置し部門展開するという考え方だ。
【図表】経営のバックボーンシステム
出所:タナベコンサルティング
急速に時代が変化する今、流動的変化か構造的変化かを見極めながら、普遍的な自社の価値観である経営理念以外は全て変えるほどの柔軟な対応が企業に求められている。
中長期経営計画の策定については、過去の延長線上ではなく、バックキャスティング(在るべき姿からの逆算)で目標を定めることだ。そして、10年先の長期ビジョンである「未来ビジョン」を北極星(道しるべ)として、中長期経営計画を策定しステップアップしていただきたい。
3.6つの戦略テーマ
未来ビジョンの策定に当たっては、経営理念を核とした次の6つの戦略テーマを重点にすると良いだろう。
1.M&A
2.クロスボーダー
3.DX
4.SDGs
5.人材活躍
6.ポートフォリオのリデザイン
M&Aはマツキヨココカラ&カンパニー山本氏の成功と失敗を経験しながらも現在の地位の確立に至った講話を、DXはオムロン竹林氏の「攻めのDX」「守りのDX」や「起承転結型人材」の講話を、SDGsは森永乳業浜田氏の事業とSDGsを一体化させながら、社長直轄の組織を設けて推進されている講話を参考にしていただきたい。