未来戦略フォーラム(ゲスト:オムロン、マツキヨココカラ&カンパニー、森永乳業)
現状を打破し、未来の企業の姿を思考する
新型コロナウイルスの感染拡大やロシアによるウクライナ侵略、50年ぶりの円安が進行するなど、経営を取り巻く環境は大きく変化している。先行きの見えない時代に企業が生き残っていくには、既存戦略の踏襲するのではなく、”未来ビジョン”とそれを実現させる”中期経営計画”が必要だ。タナベコンサルティングは2022年9月28日、「未来戦略フォーラム」を開催し、特別ゲスト3社による講演と、タナベコンサルティングのコンサルタントによる講演を通じて、現状を打破し、自社に合った実効性のある中期経営計画を策定するポイントを解説した。
※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。
オムロン株式会社
「攻めのDX」&「守りのDX」〜DX時代に経営者が考えるべきこと〜
イノベーション推進本部シニアアドバイザー
竹林 一 氏
立石電機(現オムロン)入社以後、新規事業開発、事業構造改革の推進、オムロンソフトウエア代表取締役社長、オムロン直方代表取締役社長、ドコモ・ヘルスケア代表取締役社長、オムロン株式会社イノベーション推進本部インキュベーションセンタ長を経て現職。京都大学経営管理大学院客員教授。著書に「たった一人からはじめるイノベーション入門」などがある。
1.DXとは何か
自社、自部門、自身にとってDXとは何だろうか。単なる「2025年の壁」※への対策だろうか。あるいは、モノからコトへ消費行動が変わる中で、データを活用した新規事業を立ち上げるために必要な施策だろうか。いずれにせよ、「DX時代」に顧客満足を生むために必要なのは「新たな顧客満足の創出」である。
コト消費の時代にはいいものを安く売るQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)が重要であった。しかし、これからは価値を価格に変える仕組みを作るための視点が重要となる。
DXとはデジタルを用いた事業構造の転換(トランスフォーメーション)だ。社会構造が劇的に変わる中、事業モデル・組織構造・個人の意識の本質的な変化を先取りし、ITを活用して新たな価値軸で事業構造転換を図るのである。その中で、成功の鍵を握っているのは、事業構造の転換を目的とした「攻めのDX(新たな価値の創出)」と、QCDの強化と効率化を目的とした「守りのDX(体質の強化)」だ。
2.攻めのDXと守りのDX
攻めのDXとは、これまでの事業構造を変え、いかに新しい事業を立ち上げていくかである。例えば、自動改札機をDXするとすれば、どのような方法があるだろうか。1967年に世界で始めて導入された自動改札機は、駅改札業務の効率化をかなえ、以降、私たちの生活を支えている。
そこに、改札を通った利用者の情報を基に、街の情報を利用者のスマートフォンへ通知するようなワン・トゥ・ワン・マーケティングの機能が加われば「街の活性化」、子どもが通ると保護者のスマートフォンに通知されるような機能が加われば「安心・安全な街づくり」という価値が生まれる。このように、DXは既存事業であっても構造を変えることで新しい価値を生むことが可能である。
守りのDXは「経営DX」「現場DX」に分けられる。経営DXは、情報システム部門主体となって標準化を進め、基幹システムの革新により大きなビジネスインパクトを得るような「経営プラットフォームの構築」を指す。一方、現場DXは、現場(各部門)主体で経営DXとの連携を考慮した個別最適を目指し、多種多様な現場業務革新の積み上げにより大きなビジネスインパクトを得る、「現場固有業務のスマート化」である。経営DXが情報システム部門主体であることに対し、現場DXは現場の各部門が主体になるため、IT活用人材を育成する必要がある点に留意したい。
3.DXを成功に導く「起承転結型人材」
攻めのDXも守りのDXも、成功のためには「起承転結」の各パートを担う人材の育成が不可欠である【図表】。「起」の人材は0から1を生み出し、「承」の人材は全体構想を描き、「転」の人材が承のアイデアを基に実現可能な事業計画を策定し、KPIを決め、リスク管理をしていく。そして最後に「結」の人材がKPIに従い現場を運営していく。
出所:竹林氏講演資料より
それぞれの人材の役割が違うため、マネジメントスタイルも別にするべきである。起・承のタイプはコーチングやアドバイスによって価格競争力
プロセスを評価するのに対し、転・結のタイプは目標管理やレビューによって結果を評価する。起・承は、いかに転・結の有するアセットを活用するか、転・結は、いかに起・承の有する機動力を活用するかが鍵となってくる。クリエーションを担う起・承、オペレーションを担う転・結、特徴の異なるそれぞれの人材がうまく連携することがDXにとっては重要だ。
DXを一過性の流行とせず、自社に適した変化・改善を行い、ただデジタルに明るい人材ではなく、起承転結に即した人材を育成し、失敗を恐れずに自社の未来を切り開いていただきたい。
※日本において、企業がDXを推進しなければ、エンジニア不足の激化やアプリケーションのサポート切れなどの諸問題が2025年に一気に顕在化する問題
株式会社マツキヨココカラ&カンパニー
旧ココカラファインにおけるM&Aを活用した成長戦略
取締役グループ事業企画統括
山本 剛 氏
2021年10月株式会社マツモトキヨシホールディングスと株式会社ココカラファインが経営統合し、株式会社マツキヨココカラ&カンパニーが発足。市場環境が大きな変革を迎える中でそれを成長機会と捉え、地域住民のニーズに応えるため自社と他社との経営資源を有効に活用すべくM&Aを積極的に推進。規模拡大に留まらず機能補完型のM&Aや他社とのジョイントベンチャーも国内外で展開している。
1.12年間で44社がグループイン
東京を基盤とするセイジョーと大阪を基盤とするセガミメディクスが統合し、2008年ココカラファインが設立された。以降、12年間でグループインしたのは44社。当社は成長のドライバーとしてM&Aを積極的に活用してきた。M&Aを活用した背景の1つは、業界上位プレーヤーとしてのポジションの維持。それが価格競争力の源泉となる仕入れボリュームの確保につながっている。
また、展開エリアの拡大にもM&Aを活用した。2010年には東京・千葉・神奈川、2011年には北海道、2012年には新潟、2013年には山口県など、各地で展開しているドラッグストアをグループイン。2021年3月期には事業規模3664億円、店舗数1461店舗と、ドラッグストア業界7位の地位を確保した。
出所:山本氏講演資料より
2.成長のためのM&A戦略
組織の編成に大きな変化があったのは2013年。それまで、持ち株会社であるココカラファインホールディングスの下に各販売子会社が並列でぶら下がっていたが、それらを統合し、ココカラファインヘルスケアを設立した。
そうすることでオペレーションの効率化には成功したものの、当時、ドラッグストア業界は再編成の真っ只中であったため、M&Aを検討しているセルサイドの企業がココカラファインヘルスケアへの統合を危惧し、ココカラファインにグループインすることを避けるようになった。そのため、その後は業界再編が始まったばかりだった調剤薬局を中心にM&Aを展開した。
また、専門性のない社員が調剤薬局のM&Aを進められるようマニュアル化。スピード感を持って取り組んだ結果、ドラッグストア業界における調剤売上高は第4位となり、収益性を拡大することができた。
そのほか、ドラッグストア事業および調剤事業の充実とともに、介護事業においてもM&Aを展開。ドラッグストア事業、調剤薬局事業との連携を図っている。
3.経営統合後の取り組み
2021年10月、当社はマツモトキヨシホールディングスと経営統合。社名をマツキヨココカラ&カンパニーとし、売上高1兆円、3300店舗を有する日本最大級のドラッグストアグループとなった。食品が売り上げの40~50%を占める同業他社に比べ、当社は美容と健康を合わせて70%という特徴を生かし、「美と健康の分野でアジアNo.1」を目指す。
グローバル企業として確固たる地位を築くために打ち出したのは連合体構想だ。業務提携やフランチャイズ契約など柔軟な経営体制を構築していく予定である。中間持ち株会社が店舗運営に集中できるよう、グループ戦略や経営計画の策定は持ち株会社であるマツキヨココカラ&カンパニーが担い、商品仕入やPB商品の企画・開発、販売促進などはミドルオフィスであるシナジー創出会社のMCCマネジメントが担う。
グループ売上高1兆5000億円、営業利益率7.0%(2026年3月期)を目標に掲げて出発し迎えた第1四半期は、旧マツモトキヨシ・旧ココカラファインの合算が過去最高益と順調な滑り出しとなった。