その他 2022.01.31

M&Aフォーラム
ゲスト:SHIFT、向井珍味堂

 

 

企業成長を再加速させるM&Aのポイント

 

 

タナベ経営は2021年12月2日、オンラインセミナー「M&Aフォーラム」を開催。コロナショックによる格差拡大・低成長の環境下で企業が存続していくためのポイントについて、M&Aコンサルティングの実績が豊富なタナベ経営のコンサルタントによる講義や、企業内大学を設立・運営しているゲストの講演など、さまざまなプログラムを経営者やリーダー層の方々が視聴した。

※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。

 

 

Session1 オープニングメッセージ
新型コロナウイルスの影響を受け、世界の経済環境は大きく変わった。デジタル化が急速に進む中、高い成長率を示す企業がある一方で、窮地に立たされている企業は少なくない。今後はコロナショックの傷を抱えながら、いかに回復していくかが鍵となる。

 

アフターコロナに対応したビジネスモデル改革を行うためには、ポートフォリオの組み替えと、企業の価値を次世代につなぐことが重要だ。

 

ポートフォリオを再編する際の判断基準は、自社がその事業の「ベストオーナーか」という視点である。単に不採算ということだけでなく、コングロマリット・ディスカウント(多くの事業を抱える複合企業の企業価値が、各事業の企業価値の合計よりも小さい状態)に陥っていないか留意したい。

 

また、企業の価値を次世代につなぐため、事業承継は慎重に行いたい。日本の99%は中小企業であり、その多くが後継者不足に悩んでいる。一昔前では自分の息子がダメなら娘婿、娘婿がダメなら社員、社員がいなければM&Aを選択していた。

 

しかし、その後継者選びが適切であるかは疑問に思う。「経営をつなぐ」という視点からみると、株式公開(IPO)やホールディング経営など幅広い選択肢が生まれる。自社に適した事業承継がどのような形態であるか見極め、判断していただきたい。

 

 

株式会社タナベ経営 専務取締役南川 典大

1993年タナベ経営入社。西部本部長、取締役、常務取締役を経て2021年より現職。中長期ビジョンや事業戦略、再生戦略の策定、ブランディング等、数百社のコンサルティング・教育に従事。2017年よりM&A、金融機関コンサルティング・アライアンス事業の立ち上げに注力し主導。加えて、現在は東京本社エリアおよびドメイン(業種・事業領域)コンサルティング戦略の推進を指揮している。2021年よりM&A全般を支援するグローウィン・パートナーズ株式会社取締役に就任。

 

 

 

Session2 SHIFTが目指すM&A/PMI戦略2.0
2005年に創業したSHIFTグループは、ソフトウェアの品質保証を手掛けている。今後は「『DX』『売れるサービス作り』といえばSHIFT」といわれるように、顧客のビジネス成功にコミットする企業を目指す。

 

1.M&A/PMI戦略

 

2019年からM&Aを加速し2019年は5件、2020年は6件の実績がある。売上高3000億円を目指す過程で、M&Aを重要な戦略の1つとして位置付けている。M&A戦略は単に売り上げを作るための手段ではなく、SHIFTのサービス価値の向上や、顧客の利益を生むサービス作りのためである。

 

2.M&A/PMIの組織・運営体制

 

2020年12月にPMI推進室を新設し、M&A/PMIを一貫して行える組織体制へ。経営人材のサポート体制の強化を図っている。
→M&A/PMIのエコシステムの確立を目指す

 

3.M&A候補先選定基準

 

(1)SHIFTグループにとって新しい商材を持っている企業
(2)優秀なエンジニアが在籍していながら事業継承に課題を抱えている中小IT企業
(3)事業会社の顧客を持つ大型プライムベンダー
(4)プラットフォーム事業の構築に際し、必要となる商材(ヒト・モノ・カネの情報)を持っている企業

 

これらの選定基準に加えて、「付加価値が高く単価向上が見込めるか」「これまでの商材でカバーできない領域」「顧客母集団を活用できるか」「のれん負けせず、すぐに利益貢献できるか」といった4つのポリシーを設定している。

 

4.PMIの「型化」

 

SHIFTグループにジョインした後の「PMIの型」の主な項目は7つあり、グループ会社各社が置かれている状況に応じて対応している。
(1)M&A後の整備…関係者連絡、体制整備
(2)チームビルド(マネジメント)…コミュニケーション、未来の共有
(3)チームビルド(全体)…情報連携
(4)インフラレベル…コンプライアンス、セキュリティ、物理インフラ
(5)経営管理…予算、法務
(6)文化の共有…グループ取締役会の概要説明・初回サポート
(7)その他(SHIFT側課題)…グループ経営管理ノウハウのある人材の採用、グループ経営サポートの強化

 

IT業界における各機能をSHIFTグループ内に網羅的に備えることで、品質保証事業を軸に、あらゆるニーズに対応できるようにする“IT業界の総合デパート”を目指し、今後も足りない機能に特化して買収を検討していく。

 

 

 

株式会社SHIFTグループ経営推進部 部長

小島 秀毅氏

一橋大学大学院商学研究科経営学修士課程(MBA)修了。ハーバード・ビジネス・スクールPLD修了(PLDA)。大和証券、GCAを経て、2011年に三菱商事に入社。食品化学事業の立ち上げと合わせて国内外のM&A/PMIを推進し、同事業をグループのコア事業に育てる。2020年より現職。M&A/PMIを一貫して行える体制を組成し責任者を務める。

 

 

Session3 事業承継ぶっちゃけ体験談
向井珍味堂は、1947年に大阪市平野区で創業した、穀粉・香辛料、きな粉、唐辛子、青のりなど香り豊かな粉末食品の製造販売会社である。

 

1.事業承継までの道のり

 

顧問の中尾敏彦氏は、大学卒業時「絶対に家業は継がない!」と言っていたが29歳で入社。40歳の時に先代社長が体調を崩し、44歳で社長を引き継いだ。当時、事業承継に関する情報を集めるために商工会議所の引き継ぎ支援センターへ行き、理解を深めるうちに、自社の事業承継は親族承継、社員承継、M&Aのうちのどれかであると判断。将来の承継に向けて、収益体制の改善と自己資本を蓄積した。

 

56歳でストレスから体調を崩し、60歳までに事業承継をしようと決断。親族には適任者がおらずあきらめた。全株式を個人が買い取れるような金額ではなかったため、社員承継ではなく、M&Aを選択。セミナーを受講し、仲介者にメリット・デメリットを聞いたり、相談したりして準備を重ねた。

 

2.M&Aを進めた実体験談

 

買い手への条件は次の3つ。

 

(1)経営理念を理解してくれること
(2)社員と得意先、社名、ブランドを引き継いでくれること
(3)原料の相場に変動があることを分かってくれる懐の深さ

 

数十社の候補から2社に絞って進めていたもののタイミングが合わず見送りに。1年半後に再度声を掛けてくれたのが、鹿児島県の飼料・製麺会社ヒガシマルであった。生産管理のレベルを高く評価してもらった。

 

M&Aを決めた理由は次の4つ。

 

(1)モノづくりへのこだわりを表した経営理念への理解
(2)社員と得意先、社名、ブランドを引き継いでもらえる
(3)ヒガシマルのグループ会社である食品メーカーとも相乗効果が期待できた
(4)管理体制が厳しそうだったが、社長や社員に家族的な温かみがある

 

3.事業承継を振り返って

 

M&Aをして良かったことは次の3つ。

 

(1)販路の拡大
関西でBtoB中心だったが、関東・九州へ拡大し、BtoCも展開。
(2)国産原材料の安定確保
グループとして交渉することで安定的に確保できるようになった。また、他のグループ企業と提携して高品質な原料を提供できるようになった。
(3)人材補強
グループ会社の中から優秀な営業人材を補強し、新規開拓。

 

 

 

株式会社向井珍味堂顧問(元社長)

中尾 敏彦氏

京都大学工学部を卒業後、長瀬産業に入社。1984年、家業の株式会社向井珍味堂に入社。1999年代表取締役社長に就任。同時に事業承継を課題と捉え企業の再構築に着手する。2013年M&Aで事業承継を完結、会長兼最高顧問から顧問へ、現在に至る。

 

Session4 新たな価値観で事業の価値を未来へ繋ぐ
M&Aは中堅・中小企業に根付いてきているものの、良いイメージを持っていない層は一定の割合で存在する。M&Aをイメージだけで判断せずに、M&Aの進め方、現状の自社の価値について冷静に知ることが重要である。

 

1.セルサイドのポイント

 

(1)留意点
①事業承継の準備は早期に着手
着手が「遅い」と後手に回る。承継に「早すぎる」はない
②業績が悪化する前に着手
業績が悪化し、救済を必要とするような時間的余裕がない状況を回避
③先入観を持たずに着手
「当社を選ぶ会社はない」という根拠のない先入観は捨てること

 

(2)「中小M&Aガイドライン」策定による環境整備
経済産業省が中心となって策定した「中小M&Aガイドライン」では、中小企業がM&Aをためらう主な3つの要因(M&Aの知見がなく、進め方が分からない/M&A業務の手数料などの目安が見極めにくい/M&A支援に対する不信感)を踏まえて、M&A業者などに対し、「M&Aの基本的な事項や手数料の目安を示す」ことや「適切なM&Aのための行動指針の提示の遵守」を求めている。

 

2.バイサイドのポイント

 

(1)事業ポートフォリオの転換
①M&Aが自社の戦略と無関係に実行されるのであれば意味がない
②「M&Aで実現したいことは何か」を明確にするM&A戦略を構築する
③M&A戦略に基づき、事業ポートフォリオを転換する(買収/カーブアウト)

 

3.タナベ経営からの提言

 

(1)セルサイド
①「譲渡」=「良くないこと」という誤った先入観を捨てる。
会社の譲渡は、儲けるためではなく、ステークホルダーのため、事業の存続・成長のためであることを認識する。
②M&Aの進め方を知る
M&Aの進め方を知る努力が必要。事業承継は、経営者の最後の大仕事であり、終わりではない。
③自社の価値(強み)を磨く
現状の自社の価値を把握することも必要(簡単に調べることができる)。より魅力的な「選ばれる」会社になるように磨き上げる。

 

(2)バイサイド
①事業戦略の実現に向けた「M&A戦略」を策定しているか。「良い会社」ではなく「欲しい会社」を見極める。
②譲り受けて終わりではなく、譲り受けてからが本番。譲渡側は「自社を成長させてくれる会社かどうか」を見ている。両社でどのようなシナジーを実現させるかを決める(PMI)。
③譲渡側の心情を理解すること。譲渡側は、事業承継の場合「一生に一度の出来事」である。「ともに成長していく」という価値観が必要。

 

 

 

株式会社タナベ経営M&Aコンサルティング本部 本部長代理

丹尾 渉

タナベ経営入社後、収益・財務構造改革を中心に、資本政策や組織再編コンサルティング等に従事。2017年からM&Aアライアンスコンサルティング本部の立ち上げに参画。M&A戦略構築からアドバイザリー、PMIまでタナベ経営のM&Aメソッドの開発に携わり、3年間で延べ50件以上のM&Aコンサルティングに携わっている。