自社に適したメディア改革を
消費者の生活様式が変わる中、新たなマーケティングや営業手法を取り入れることが課題となっている企業は少なくない。住宅業界では、デジタルを活用しながら顧客とのタッチポイントを増やすことが鍵となる。
博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所によると、2020年の生活者のメディア総接触時間(全体、1日当たり・週平均、東京地区)は411.7分であった(【図表】)。内訳をみると「テレビ」(144.2分)が最も多く、次に「携帯電話/スマートフォン」(121.2分)、「パソコン」(64.9分)が続く。10年前の同調査と比較すると、携帯電話/スマートフォン(25.2分)は96分増加しており、躍進が目立つ。
【図表】性年代別メディア総接触時間(1日当たり・週平均):東京地区
年齢階層別・男女別に見ると、携帯電話/スマートフォンの接触時間が最も多いのは「女性15~19才」で211.1分。最も少ない「女性60代」でも58.0分と、私たちの生活における情報収集手段として存在感が増していることがうかがえる。
これらのことから、携帯電話/スマートフォン向けのインターネット広告やSNSを利用したマーケティングがいかに有用か分かる。重要なのは、必要な情報を必要な人に必要なタイミングで伝えることだ。媒体の特徴を踏まえつつ、目的に最適な手段を取りたい。
非常に複雑な分野であるため、戦略を立てるに当たっては外部パートナーに頼ることも選択肢に入れるべきだ。全社最適で考え、ただマーケティングの手法に工夫を凝らすのではなく、組織体制の変更や人材育成など、俯瞰して問題解決に踏み込んでいただきたい。
当社は2014年に札幌で創業し、ウェブ広告の分野で顧客の求める目標・KPI(重要業績評価指数)達成を支援している。中でもハウスメーカーの集客に特化しており、現在、全国で約1000社の顧客を抱える。
創業当時と比較し、近年はウェブ広告の重要性が高まっていると感じる。かつてはテレビや新聞などの広告を見て購入する直線的な購入プロセスだったが、近年は複合的な経路になってきた。例えば、テレビCMや雑誌などで見た商品について、後にインターネット(以降、ネット)で評価を見て購入を検討するといったように、購入プロセスの中心にネットがあるのだ。
また、幅広い年齢層でデジタルの利用が進んでいる。20~30歳代だけでなく60~70歳代もソーシャルメディアやインターネットで買い物を楽しむようになってきた。そのため、年代の偏りなくネットでマーケティングしていくべきである。
特に注力したいのは、パソコン向けではなくスマホ向けの媒体を通したプロモーションだ。自社で保有するサイトがスマホでの閲覧に最適化されているか、画像の表示やテキストの改行位置など、ユーザーからどのように見えるかを意識していただきたい。
ウェブ広告で代表的なのはGoogle、Yahoo!、Facebook、Twitter、Instagramなどのグローバルプラットフォームだ。どの媒体を利用するかは、特徴を踏まえた上で自社の目的に合ったものを選ぶことが重要である。あまり興味がないユーザーに対し、興味フェーズを段階的に引き上げていくことに適しているのは、GoogleやYahoo!などのインターネット広告。瞬発性に優れ、目の前のアクションを促す(資料請求や近日行われるイベント集客など)ならFacebook、Twitter、Instagramだ。初見のユーザーへブランド価値を伝えるのであればYouTubeが適している。
広告でできることは、あくまでもサービス認知やリード獲得のように、マーケットに対する初めのアプローチである。受注してから、いかに顧客へ価値ある商品・サービスを提供できるか、戦略の構築を忘れないでいただきたい。
株式会社ONE CRUISE
取締役
向山 貴晃氏
北海道札幌市に本社を置く土屋ホームは、2021年で創業52年を迎えた住宅メーカーだ。土屋ホームがデジタルを活用した顧客創造に注力するようになったきっかけは、2017年ごろにタナベ経営から「これからの住宅の受注はインターネットになる」と聞いたことだった。住宅ポータル系サイトへ出稿したこともあったが、掲載するのは土地情報や図面案くらいで、リードへのアプローチは営業が兼任する状態だった。意思を持って計画的に取り組もうと決めてからは、マーケティングだけでなく社内体制、教育に至るまで改革を進めた。
マーケティングは、新聞・テレビCM、オーナー紹介、モデルハウスに加え、ONE CRUISEなどの外部パートナーへ依頼してGoogle、Yahoo!、Facebook、Instagram、住宅系ポータルサイトなどのインターネット広告を活用。またキャンペーンを1つの地区で年4回ほど打つなど工夫した。失敗を重ねながらも、現在は月1500件ほどの見込み客を獲得するまでになった。
社内体制は、各支店で販促担当者が企画やプロモーションを行っていたものを、事業部単位で担うようにした。また、2021年からは本社に営業推進課を設け、マーケティング推進エンジンを担う体制へとブラッシュアップ。デザインやプロモーションの領域は本社側でハンドリングしている。支店最適から全社最適へ改革を進めたことで、クリエーティブの質やブランドの発信が統一され、支店長は本来やるべき仕事に専念できるようになった。
社内教育としては、デジタルを活用した営業品質向上を施策。「TS3(Tsuchiya Sales Support System)」という、営業のアプローチブックを導入した。また、全営業社員にタブレット端末を支給し、営業で使用する資料や、接客に関する動画などをクラウドで一元管理。アップデートした情報を同時に更新している。新人からトップセールスまでが同じ資料を使うため、成績が優秀な社員のアプローチをモデルとして共有し、若手社員の即戦力化を図ることもできている。
今後は、デジタルリードの25%をアポイントメントにつなげ、さらに同15%を商談へと進め、最終的には同5%を受注にまでつなげる目標だ。
株式会社土屋ホーム
代表取締役社長
山川 浩司氏
株式会社タナベ経営
取締役
島田 憲佳