その他 2021.06.08

NEXT建設イノベーションフォーラム2021
ゲスト:清水建設、和建設

高速・非連続・低成長の時代にこそ必要な
10年先を見据えた建設業のビジョン

 

 

タナベ経営は2021年5月26日、「NEXT建設イノベーションフォーラム」を開催した。225名の経営者や経営幹部らがライブ配信を視聴し、企業環境が急速に変化する時代において、自社の持続的な成長のために必要な知見を学んだ。

 

 

未来への打ち手を考える

 

本フォーラムは、建設業の現状や課題の基調講義(タナベ経営ドメインコンサルティング東京本部・部長の石丸隆太)から始まった。

 

国土交通省の「令和2年度(2020年度)建設投資見通し」(2020年10月)によると、バブル崩壊をきっかけとして2010年に約42兆円まで下がった建設投資は、2020年には約63兆円(見込み)と回復基調にある。また、民間非住宅建築分野では、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)やリニアモーターカーの開発、公共土木分野では「国土強靭化計画」や防災・インフラ設置の影響で、建設業の需要は当面維持されると言われている。

 

しかし、「建設業界には3つの課題が残っている」と石丸は続ける。1つ目は、建設業就業者の人手不足。理由として、入社3年目までの離職率の高さ(大卒25%、高卒50%)が挙げられる。2つ目は、建設業におけるICT普及率の低さ。人が行う業務を機械に置き換え、人手不足も併せて解決していくことが重要である。3つ目は、多くの企業が下請けのビジネスモデルであること。自社の強みを見つけ、地域に根差しながら新しいビジネスモデルを構築していく必要がある。

 

「まずは長期ビジョンを策定し、推進を通して人材も育成していくことが重要。長期ビジョンの策定と推進に当たっては、次の3つのフェーズが必要」と、タナベ経営の執行役員である山本剛史は提言した。

 

(1)長期ビジョンの策定

 

まず、自社のあるべき(なりたい)姿を描く。次に、複数の事業を組み合わせて成長戦略を計画する。タナベ経営では、事業の数を増やし、それを組み合わせて新しい価値を提供することが最も重要と考えている。そのためには経営資源の再配分が必要であり、その際は撤退戦略を中心に考えることがポイントとなる。「何を始めるか」ではなく「何をやめるか」を決めていくのだ。新規事業などの新しい戦略は次世代メンバーでも考えることができるが、撤退の判断はトップにしかできない。

 

(2)中期経営計画の策定

 

中期経営計画策定と人材育成における課題は主に3つ。1つ目は、全社戦略に社員が興味を示さないということ。2つ目は、現場改善の話に終始してしまうということ。3つ目は、ないものねだりになってしまうことである。まずは、全社最適で考えることができるリーダーの育成が重要だ。次に、現場改善ではなく改革について議論する。最後に、「誰が何をやるか」を決め、責任の所在を明確化させる。

 

(3)インナーブランディングの推進

 

コロナ禍によるテレワークの普及や、ダイバーシティー推進による多様性の拡大により、今後は社員の声を1つにまとめるインナーブランディング施策が重要になる。「ビジョンを打ち出した段階で全社員が瞬時に理解し、賛同することはない」(山本)。有事の際の従業員エンゲージメントは、日頃のインナーブランディングで決まると言っても過言ではない。

 

 

 

株式会社タナベ経営
執行役員 ドメインコンサルティング大阪本部長
山本 剛史

 

 

株式会社タナベ経営
ドメインコンサルティング東京本部 部長
石丸 隆太

 

 

 

ゲスト講義 持続的成長を見据えたビジョンと事業戦略

大手総合建設会社である清水建設は、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で掲げられた脱炭素化社会の実現に向けた取り組みや、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献、新型コロナウイルス感染症などのパンデミックなどを背景に、長期ビジョン「SHIMZ VISION 2030」を策定。ビジョンの達成に向けて、次の3つのイノベーションに取り組んでいる。

 

1.事業構造のイノベーション

 

ビジネスモデルの多様化とグローバル展開の加速、及び、グループ経営力の向上

 

2.技術のイノベーション

 

建設事業の一層の強化に向けた生産技術の革新と未来社会のメガトレンドに応える先端技術の開発

 

3.人財のイノベーション

 

多様な人材が活躍できる“働き方改革”の推進と社外人財との“共創”による「知」の集積

 

また同社は、事業収益(連結売上利益)の構成を、建設事業90%、非建設事業10%(2018年度)から、建設事業65%、非建設事業35%(2030年度)へ変えることを目指す。

 

2017年10月には、非建設事業の収益基盤確立に向けて、LCV事業を立ち上げた。LCVとはLife Cycle Valuation(ライフサイクルバリュエーション)の略で、完成した施設・インフラの価値を完成時より高めるために、レベルの高い技術やサービスを提供するという事業コンセプトである。クライアントの施設建設だけでなく、ニーズや希望に合わせて再生可能エネルギーやIoTなどを活用し、事業参画・投資を含めた包括的なサービスやソリューションを提供して価値を生み出す取り組みだ。

 

例えば、設備サービスであれば、省エネルギー設備や空調設備、熱源設備などを初期投資なしで提供。それをメンテンスし、月額料金をいただくビジネスモデルである。総合病院やホテルなどで導入が進んでいる。

 

他にも、長期ビジョンで示す「地球環境に配慮したサステナブルな社会の実現」に向け、再生可能エネルギー発電の推進や、農業と発電事業の両立を目指す「営農型太陽光発電」の展開、建物付帯型水素エネルギー利用システム「Hydro Q-BiC」の実装を進めている。

 

 

 

清水建設株式会社 LCV事業本部 顧問
那須原 和良氏

 

 

 

ゲスト対談 地域オンリーワン建設業が実践する中期ビジョンとジュニアボード推進

和建設工業は、高知県と岡山県で建設事業を展開する企業である。創業当時は公共事業や設計事務所からの請負業務を行っていたが、注文住宅・新築戸建て住宅設計の強化を目的に、1998年にフルオーダー型分譲マンション「BE WELL(ビ ウェル)」をスタート。2000年に住宅事業部を立ち上げ、フルオーダー型一戸建て住宅「SHINKA(シンカ)」を展開した。業界内でもフルオーダー型のサービスは珍しく、和建設の大きな強みとなっている。

 

この事業を支えるのが、顧客の思いを形にする独自のノウハウだ。全社一丸となり、「和プロデュース」として昇華している。例えば、住居予定者が考える理想の家の姿を可視化、数値でグラフ化する「暮らしのイメージチェックシート」。初回の打ち合わせの際にこのシートを用いることで、家族の家へのこだわりを探ることができる。

 

2017年には、事業承継を見据えた組織経営への転換に向け、タナベ経営とともに経営理念、中期ビジョンを策定。中期ビジョンを推進するべくジュニアボードも開始した。当初は、3カ月に1回、社長・専務に対してメンバーが答申し、意見を求めるといった内容だったが、3期目からは経営体制として機能しつつある。メンバーも11名から20名に増え、次世代の幹部メンバーとして活躍している。

 

2020年には、若い世代をターゲットとした「FLEX(フレックス)」シリーズを開発。セミオーダーで間取りや建具・フローリング・扉の面材・壁紙の色を選べる自由度の高さで好評を博している。

 

ブランドを複数展開することで市場を拡大している和建設は、今後ホールディング化を進め、全社最適視点で組織拡大を目指す。

 

 

 

和(かのう)建設株式会社 代表取締役
中澤 陽一氏

 

 

株式会社タナベ経営 ドメインコンサルティング大阪本部 本部長代理
森田 裕介