その他 2021.05.06

経営をつなぐ、M&A入門フォーラム2021
ゲスト:芝園開発、山口建設工業

 

アフターコロナ時代のM&A活用法

 

 

タナベ経営は2021年2月10日、オンラインセミナー「経営をつなぐ、M&A入門フォーラム」を開催した。73名の経営者や経営幹部らがライブ配信を視聴し、M&Aの効果を最大限に引き出すための知見を学んだ。

 

 

会社の存続・成長に向けたM&Aの積極的活用

 

本フォーラムは、アフターコロナ時代においてM&Aが必要になる背景や解説などの基調講義(タナベ経営の専務取締役・南川典大)から始まった。

 

中小企業庁の「2019 年版『中小企業白書』」(2019年4月26日)によると、1999年に485万社あった日本企業は、2016年には359万社まで減少した。経営者の高齢化などに伴い企業数が減り続ける中、新型コロナイルス感染拡大が追い打ちをかけ、2020年4月以降は倒産・廃業件数が増加。企業は大再編の時代を迎えている。今後、事業を継続させ、再編を加速させる手段として、M&Aを実施する企業はさらに増えるだろう。

 

「企業や事業を次の経営者へつなぐのがM&A。あまり良くないイメージを持つ人も少なくないが、M&Aはあくまでも手段の1つ」と、タナベ経営M&Aコンサルティング部の部長である丹尾渉は説明する。

 

企業には、後継者を決める時期が必ず訪れる。社内に承継できる人材がいない、まだ人材が十分に育っていないという場合は、第三者への承継、つまりM&Aを検討すべきだ。

 

また、会社を持続的に成長させる方法には、「自力成長」と「外部とのアライアンス締結」の2つがある。自社だけで事業承継や事業ポートフォリオ再構築への回答が出せない場合は、専門家(外部アドバイザー)の活用も一策である。

 

さらに、企業や事業の存続問題は、承継時だけではなく、創業期から成熟期にかけても発生する。M&Aを使った成長パターンは主に2つ。自社を成長させるに当たり、既存事業を組み替えなければ伸びないという結論に至ったときに行う「事業譲渡」と、既存事業とは別に柱となるような事業を買収する「事業譲受」である。自社の業績維持を目指すだけでなく、成長を目指す視点が重要だ。

 

「企業の歩む道は、『存続』『売却』『廃業』『倒産』の4つしかない。成り行きで廃業にしてしまうことは絶対に避けなければならない。企業を存続・成長させるためにM&Aを活用し、第三者に託すことで自社をよみがえらせていただきたい」と、丹尾は本フォーラムを締めくくった。

 

 

【図表】譲渡を考えたきっかけ

※タナベ経営「2020年度 M&Aに関するアンケート」(2021年2月10日、回答数7782名)

 

 

 

ゲスト講演1 「三方良しの良縁」を意識した事業譲渡

駐輪場や駐車場をプロデュースする当社は、2016年にフィットネスクラブ事業を立ち上げた。当初は売り上げが増えて急速に店舗数を拡大したものの、同時期に国内でフィットネスクラブ数が増加。1軒当たりの売上額が減少し、4店舗中2店舗はオープン当初より赤字が続いた。その後、新型コロナウイルス感染拡大による他社フィットネスジムでのクラスター発生や、緊急事態宣言による休業要請で臨時休業を余儀なくされ、多額の撤退費用を覚悟の上で撤退を決意した。

 

今後の事業展開を考える中、以前からM&Aに興味を持っていた当社は、タナベ経営のM&Aアドバイザーの来社をきっかけに、フィットネスクラブ事業の売却を実施。2020年6月にノンネームシートを公開し、2020年9月に交渉内容を契約書に落とし込んで締結。M&Aアドバイザーとの出会いから、わずか5カ月で売却が完了した。

 

M&Aの成果として、フィットネスクラブ事業は売り上げが半減するも、通期黒字化への転換に成功した。事業を売却するに当たり、不動産・クライアントに対しての信用が保たれ、キャッシュアウトがなかった点で財務的なメリットも生まれた。また、既存のフィットネス会員は、継続利用が可能になり、店舗スタッフの継続雇用も守られた。

 

今後は、時間を買う意味でも積極的にM&Aを活用していきたい。M&Aは、想像するほどハードルは高くないが、成功のポイントは売り手・買い手・アドバイザー、「三方よしの良縁」をつくり出すことである。

 

 

 

芝園開発株式会社 取締役 管理部 部長
市川 桐多氏

 

 

 

ゲスト講演2 事業承継と自社の成長を同時に可能にするM&A活用法

山口建設工業は、道路工事をはじめ、建築・住宅などの外構工事や駐車場舗装・工場内のコンクリート舗装・公園整備・運動場の整備を行う建設会社である。自社のアスファルトプラントによる合材の供給と、高い品質で信頼を集める施工管理を提供している。道路舗装工事を請け負っていた同社は、1972年ごろから橋梁・床版工事を手掛けるようになり、現在では全国シェア2位を誇る。

 

同社の社長を務めていた私は事業承継の必要性を感じていたものの、社内での承継が難しく事業譲渡を決意。事業承継を進めるに当たり、トップがいなくても機能する組織づくりを心掛けた。実践したことは次の6つである。

 

(1)次世代経営チームの育成
経営を「チーム」で行う。経営者1人だけで健全な経営を行うことはできない。

 

(2)社内規則、制度の整備
古い就業規則からの脱却、評価制度の見直しなど。

 

(3)株主の集約
社員持ち株の買い取り、集約。

 

(4)徹底した権限移譲
社員にさまざまな業務を任せることで見違えるほどの成長があった。社員の能力を信じて任せることが重要である。

 

(5)事業承継セミナーの受講
「何のために事業承継を行うのか」という軸を決めなければ、間違った判断を下す危険がある。

 

経営者や役員同士のやり取りや現地訪問を重ね、経営者の人柄や姿勢、価値観、企業文化に共感し、2015年1月に森建設(鹿児島県鹿屋市)への事業譲渡を決定した。自分の育ててきた子どものような会社を、どのように次世代へつなげるのかという視点でM&Aを活用すれば、事業承継と成長の両立が可能となる。

 

 

※売り手の企業概要を匿名かつ特定されない程度にまとめた資料で、買い手候補先へ打診する際に使用する

 

 

 

社会起業大学 九州校 校長
(元山口建設工業株式会社・会長)
山口 典浩氏