新型コロナウイルス感染拡大の影響により、生活様式だけでなく働き方も大きく変わった。非対面接触や分散して働くことが求められ、行動やプロセスが見えにくい中、成果や生産性がより重要視されている。同様に、学びについても成果につながる生産性の高い学び方が求められている。ウィズコロナの時代には、リアルでの研修をオンラインに置き換えるだけでなく、リアルとデジタルをうまく使い分けることが重要だ。そうした教育環境の構築ステップは次の3つである。
①目的・項目を洗い出し、「成果逆算型」で学ばせる
②事業特性・ビジョンに合わせた成長ステップを設計する
③学習内容との相性から最適な学び方を選ぶ
ジュピターテレコムは、階層別のスキル教育が中心の教育体制や受動的な社員の受講姿勢といった課題を背景に、2017年に「J:COMユニバーシティ」を設立。立候補式を促進し、7学部で計100以上のプログラムを提供している。主体的な学習体制の構築に向け、次の4つに注力した。
①集合・オンライン・動画など多様な方法でいつでも学べる体制を構築
②全国の社員が学び合うディスカッション形式を導入
③受講漏れをなくす徹底的な社内PR
④講座の質の向上(講師社員のスキルアップ)
ポイント
企業理念と多種多様な価値観の共有を目指す企業内大学
立候補式を促進し、他部門の業務理解や新しいキャリア開発に貢献
中野 真理子氏
「加和太アカデミー」は、5つのコース、全435講座から学べる企業内大学である。毎月第3金曜日を「学びの日」とし、就業中に受講。全社員が講師を務めるのが大きな特徴だ。運用上の工夫は次の4点である。
①アカデミー運営専属の担当者を配置
②人材教育への投資を惜しまない
③受講状況の可視化
④月1回、受講の最新状況をメルマガ配信で共有
今後は、講師のレベルアップ、人事評価との連動、モデル人材の輩出を目指す。
ポイント
経営者の人づくりに対する意思の共有
学びを習慣化させ、文化にして、その文化を他社との差別化につなげる
河田 亮一氏
タナベ経営の調査によると、デジタル・コモディティー化、労働力人口の減少、顧客・社員・社会の多様化を背景に、9割の企業が中期経営計画の重点テーマに人材育成を掲げている。また厚生労働省の「平成30年度『能力開発基本調査』」(2019年3月)によると、能力開発や人材育成に関して「問題がある」とする事業所は76.8%にも上る。解決に向けたポイントは次の3点だ。
①求められる人材を軸とした学びの仕組みを構築する
②社員のパフォーマンス向上のために最適な手段を選択する
③教育の成果検証を仕組み化する
川島 克也
大鵬薬品工業は文化・習慣・考え方の違いに柔軟に対応し、海外メンバーやパートナー企業とともに課題を解決するグローバルリーダー育成に向け、「Global One Academy(GOA)」を設立。20~30歳代を対象としたジュニアコースから開校した。その結果、GOA受講生の提案内容の品質向上や周りへの働き掛けなどの面でポジティブな影響があった。今後は、知識やマインドスキルを身に付ける中で、OB・OGとのネットワークを広げ、若手社員の成長につなげる。
ポイント
若手社員からリーダーを育てる
取締役・執行役員によるグローバルリーダー人財像の設計
高橋 郁子氏
スマホ・タブレット・PCで受講できる「マルチデバイス対応」や、日常生活のスキマ時間を使って学習する「マイクロラーニング」が最近のトレンドになっている。また、eラーニングの領域が知識型から経験・実践型へ拡大する傾向にある。急速な環境変化に対応すべく業務マニュアルの整備・更新が進み、今後は従業員に対し、速く、漏れなく、分かりやすく伝える手段としてeラーニングの活用が加速する。
学習履歴を一元管理し、学習継続のための仕組みを整え、また修了後は成果を見える化することによって、教育の取り組みを会社全体で盛り上げることが重要である。
吉田 自由児氏
ヤマハサウンドシステムは、新経営方針「YSS 2.0」において人的経営資源への大幅投資を決定。従業員へ満足度調査を行い、教育制度の満足度が低かったことを背景に、2020年に「YSSアカデミー」を設立した。その結果、教育体制の改善だけでなく、新卒の採用ブランディングにYSSアカデミーを活用したことにより応募数が増加した。一度学んだノウハウが長く使えた従来と異なり、常にイノベーションが求められる現代においては、学び続けるための工夫が必要である。
ポイント
プロジェクトをボトムアップで進める
作成するプロセスから教え合い、学び合う組織風土を目指す
武田 信次郎氏
リーダーシップとイノベーションが求められる背景には、顧客ニーズの多様化と市場変化の加速化への対応がある。自社にどのような人材像が求められているかを、あらためて掘り下げていただきたい。「自社の学びのゴールはどこか」「自社の求める人材像は明確か」などだ。自ら考え行動できる「自律人材」が今後必要になる。
川島 克也