自社に適した制度改革を
「労働人口の減少」「働き方改革への対応」「就業意識・ワークスタイルの多様化」など、企業の雇用に変化が求められる中、新型コロナウイルスの影響でその必要性は一気に高まった。先行きが見通しにくい今、戦略的な人事制度改革には何が必要なのだろうか。
タナベ経営東京HRコンサルティング本部本部長の川島克也は、三つのポイントがあると説く。
一つ目は「ジョブ型人事制度への転換」だ。人材を採用してから職務内容に合うよう人材育成を行うメンバーシップ型に対し、求める職務内容に合う人材を採用し成果に報酬を支払うのがジョブ型である。導入には、自社の理念・風土、成長戦略・生産性との整合性を取った制度の構築が必須となる。
二つ目は「リーダーシップ人材の育成」。自社の理念を理解し、業績向上のため自発的に貢献する人材を育成すべきであり、そのためには会社と社員の関係(エンゲージメント)の強化が欠かせない。
三つ目は「自社と自社社員を『知る』」ことだ。人材マネジメントを科学する「HRテック」を活用することで、自社や社員を定量的に判断し、感覚的な人事からの脱却を図るよう提言した。
リーダーシップ人材の育成についてはラッシュジャパンを、HRテックの活用についてはアッテルをゲストに迎え、人材に選ばれる企業になるための取り組みの実践や活用ツールについて聞いた。
「ラッシュ」は新鮮な野菜や果物を使用したハンドメードの製品を製造・販売するコスメブランドだ。1995年に英国で誕生し、世界49の国と地域にて約930店舗(2019年6月時点)を展開。ラッシュの日本法人であるラッシュジャパンは、1999年に日本での1号店をオープンさせ、約83店舗(同)を運営している。
当社では倫理観を全ての判断基準にしており、利益と倫理観を天秤にかけた時、迷わず倫理観を選択する。全世界の店長が集う会では経営の話をせず、海洋汚染や難民、LGBTなど社会課題に取り組むゲストを呼び、トークセッションを繰り広げる。そこから得たインスピレーションを、各店舗で展開するアクションへ店長が落とし込む。
当社は広告を打たない。店頭でスタッフが接客する時にしか自社のバリューを顧客に直接伝えられない。そのため、本社から店舗へ指示を出すのではなく、顧客に最も近い店舗がどのような顧客体験を作りたいかを考えている。通常、多店舗展開する小売チェーンにはエリアマネジャーがいるが、当社の店長には上司がいない。店舗の運営は店長のオーナーシップに任され、本社はあくまでもそれをサポートする立場だ。
人事制度でもスタッフの主体性を尊重している。全く経験のない職種でも本人の意思で自由に挑戦できるよう、会社の決定による一方的な人事異動は行わない。スタッフは、失敗に学びチャレンジで成長する。その成長を支えるため、上司はスタッフへのフィードバックを常日頃から行いサポートする。
当社のビジネスの目的は、事業を通じて社会課題を伝え、小さな変化を起こすことで世の中を良くすること。倫理観をブランドバリューとし、それを理解するスタッフ一人一人の自律的な行動を後押しする環境を整え、ビジョンの実現を目指している。
安田 雅彦氏
~採用、配置、パフォーマンス・退職者予測を科学し、未来をつくる。~
HR領域におけるデータ分析事業を手掛ける当社は、企業が人と組織のパフォーマンスを最大化することをミッションに、「感覚人事」を脱するためのピープルアナリティクスサービス「アッテル」を開発。社員の適性検査により人材情報を定量化し、データ分析・予測・改善までをワンストップで提供している。ベータ版リリースから1年間で約200社の利用実績を築いた。
当社の独自調査によると、採用面接時に高評価を得た人材の6割が、入社後、評価が低くなる傾向にある。このようなミスマッチが起こらないよう、人の感覚に頼る人事ではなく、データを用いた精度の高い意思決定を支援している。
アッテルを導入して採用面接の高精度化を図った結果、活躍人材が2倍以上となったり、早期退職者の性格の傾向を分析して離職を4分の1にまで減らしたりした事例がある。また、活躍人材を事業所・職種ごとで定量的に定義するため、適材適所に人を配置できると好評だ。
当社の分析から、多くの人事担当者が求める人材が、必ずしもその企業で活躍するとは限らないことが分かった。よくある誤解は次の三つだ。一つ目は「学力が高い方が活躍しやすい」。偏差値が一定以上であれば、入社後のハイパフォーマーとローパフォーマーの割合は変わらない。二つ目は「ストレス耐性があると退職しない」。選考時のストレス耐性テストでは、耐性が高い結果になるよう応募者が解答している可能性が高いため、ストレス耐性と在職率は比例しない。三つ目は「エンゲージメントスコアが高ければ、退職率が低い」。エンゲージメントが高い社員と低い社員の退職割合に大きな差はない。
人材は、自社の文化やビジョンにフィットしているかが重要。一般論ではなく、自社独自の人事戦略を構築する必要がある。
塚本 鋭氏
「NEXT人事戦略フォーラム」アンケート結果
重要な課題であると感じていること(複数回答)