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コラム 2026.06.10

グループ化という成長戦略 ――中小食品企業をつなぎ、育てるグループ経営とは―― ヨシムラ・フード・ホールディングス

FCC(ファーストコールカンパニー:100年先も顧客から真っ先に声をかけられる会社)実現を支援する、経営者のための戦略プラットフォーム「トップマネジメントカンファレンス」(タナベコンサルティング主催)。第4期第1回(2026年4月開催、テーマ「日本企業の取るべき戦略」)では、「グループ化という成長戦略」について、株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス 代表取締役CEO 吉村元久氏と、タナベコンサルティング九州本部長エグゼクティブパートナー 古田勝久との対談が行われた。


株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス 代表取締役 CEO 吉村 元久氏

株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス
代表取締役 CEO 吉村 元久 氏






ホールディングス化は、強みと弱みをつなぐための選択

古田 本日は、グループ経営を一つのテーマとして、ヨシムラ・フード・ホールディングスの取り組みを伺ってまいります。ホールディング経営をされている会社、あるいは検討されている会社、M&Aを戦略として進められている皆さまにとっても、多くの示唆があるお話になると思います。まずは会社概要と、グループ経営に至った背景からお聞かせください。


吉村 当社は2008年設立で、現在はグループ会社が37社、従業員は2000人弱、売上高は約600億円規模になっています。私自身は金融出身で、もともと食品業界にいたわけではありません。独立後に中小企業のコンサルティングをしていた中で、「口を出すだけではなく、自分で株を持って経営してみたらどうか」と言われたのが最初のきっかけでした。


古田 最初からホールディングスを構想されていたわけではなかったのですね。


吉村 そうです。最初に関わった会社は白石興産で、その後、食品卸売の会社、さらに生産会社が加わりました。3社になった段階で、これは別々に経営するよりも、一緒にした方がいいと考えたのです。営業に強い会社、生産に強い会社、どちらも弱い会社と、それぞれ特徴が違っていましたから、互いに補完し合う形をつくることが合理的でした。


古田 つまりホールディング化は、規模拡大そのものを狙ったというより、各社の強みと弱みをつなぐための手段だったということですね。


吉村 その通りです。営業が弱い会社には営業力のある会社が支援し、生産が弱い会社には生産力のある会社が支援する。そういう形で今のグループ経営の原型ができていきました。1社でできないことを、グループで補っていくという発想がベースにあります。




上場は、成長資金と信用力を引き寄せる転機である

古田 御社は比較的早い段階で上場を果たされています。M&Aによる成長を進める中で、上場を決断された背景にはどのような狙いがあったのでしょうか。


吉村 もともと強い上場志向があったわけではありません。3社をぶら下げたホールディングスの段階で、知り合いのベンチャーキャピタルから「その考え方は面白いので、上場を考えてみないか」と声を掛けられたのがきっかけです。結果的に複数のベンチャーキャピタルから出資を受けられ、その資金を使って人を採用したり、設備投資をしたりできるようになりました。


古田 上場が資金調達の幅を広げ、その後の成長の起点になったわけですね。


吉村 そうですね。加えて、上場したことで知名度と信用力が上がりました。銀行からも融資を受けやすくなりましたし、後継者不在で悩む企業オーナーの方々からの相談も増えていきました。結果として、「一緒にやってほしい」という案件がどんどん集まるようになったのです。


古田 上場によって、単に資金面だけでなく、「選ばれる立場」にもなっていったということですね。


吉村 はい。もちろん上場には、内部監査なども含めて手間もコストもかかります。ただ、その先に信用や資金調達の選択肢があるなら、そのために必要な組織をつくる。それを積み重ねてきた結果が、今のグループにつながっています。




選ばれる買い手になることが、M&A戦略の核である

古田 M&Aというと、自ら買いに行くイメージが強いかもしれませんが、御社の場合は「買ってほしい」「一緒にやってほしい」と声を掛けられることが多かったと伺いました。


吉村 そうですね。創業期は、赤字や事業再生色の強い案件も多かったのですが、案件が増える中で、徐々にグループ企業の同業他社や取引先、仕入先といった、相乗効果を出しやすい会社とのご縁が増えてきました。私たちにとって事業が理解しやすく、相手にとっても一緒になる意味がある。そういう案件が増えてきたのです。


古田 その延長線上に、いわゆるロールアップ戦略があるわけですね。


吉村 ええ。ロールアップという言葉は少し分かりにくいかもしれませんが、要は同業他社や周辺企業を集めていくことです。たとえば水産分野では、地域によって繁忙期が違います。そうすると、工場同士で加工を融通し合うことができる。海外でも、同業の販売会社がグループに加わることで市場シェアを押さえ、仕入先との交渉力を強めることができます。


古田 単純に売上高を足すのではなく、グループ化した後にどうシナジーを生むかが重要だということですね。


吉村 その通りです。M&Aは入口にすぎません。グループに入った後に、どういう成長をつくるかが大事です。同業、取引先、仕入先など、既存の事業と接点のある会社ほど、その可能性は高くなります。今はそうした案件がかなり増えてきています。



出所:ヨシムラ・フード・ホールディングス講演資料

出所:ヨシムラ・フード・ホールディングス講演資料



プラットフォームの本質は、機能の補完と個別最適の関係づくりにある

古田 御社は中小食品企業の「支援プラットフォーム」とも言える存在になっています。そのプラットフォームとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。


吉村 少し大げさな言い方ではあるのですが、要するに「どうやって支援するか」ということです。中小企業は、どこかに強みがある一方で、どこかに弱みがあります。販売が強い会社もあれば、生産が強い会社もある。真面目にものづくりをしていても、商品開発や営業が弱い会社もあります。全部が強ければ大企業になっているでしょうし、全部が弱ければ続いていません。ですから、グループに入る会社は、どこかの穴をグループとして埋められることが前提になっています。


古田 その穴を埋めるのが、ホールディングスの機能ということですね。


吉村 そうです。ホールディングスには、営業、生産、商品開発など、機能ごとの人材がいます。必要に応じて各社を支援し、グループ内の知見を横展開していきます。ただし、関わり方は一律ではありません。


古田 その点は非常に興味深いところです。ホールディングスと事業会社の権限の線引きは、どのように考えておられますか。


吉村 基本的には、私たちは株主であり、経営は事業会社の役員に委ねるという考え方です。ただ、現実には会社ごとに状況が違います。新しくグループに入った会社と、10年以上一緒にやっている会社では、関わり方が同じにはなりません。最初は密にコミュニケーションを取りますし、信頼関係ができてからは距離の取り方も変わります。どこまで任せ、どこまで関与するかは、個別に丁寧に決めています。


古田 つまり御社のプラットフォームは、仕組みだけで運営されているのではなく、各社との関係づくりの上に成り立っているわけですね。


吉村 そうですね。一律のマニュアルで全社に接しているわけではありません。事業の状況も、経営者との距離感も、それぞれ違います。だからこそ、機能の補完と同時に、関係性の設計も大事だと思っています。



出所:ヨシムラ・フード・ホールディングス講演資料

出所:ヨシムラ・フード・ホールディングス講演資料



変化に応じて形を変えながら、食の価値を未来へつなぐ

古田 最後に、これからグループをどのようなビジョンでリードしていきたいのか、お聞かせください。特に、海外展開を進める中で、日本の食文化をどう捉えておられるのかが非常に印象的でした。


吉村 シンガポールやマレーシアで事業をしていると、日本の食に対する関心の高さを強く感じます。日本で本物の和食を知った人が、自国に戻っても食べたいと思う。そういう市場が確実に広がっていると感じています。ですから私は、日本でおいしいもの、いいものをつくり、それを海外に届けていきたいと考えています。


古田 その思いの背景には、ご自身の原体験があると伺いました。


吉村 私は函館生まれで、子どもの頃、朝獲れたイカをそのまま食べるような環境で育ちました。新鮮な魚介のおいしさ、生で食べる和食文化の魅力は、自分の体験として強く残っています。それを海外の方にも知ってもらいたいという思いは、実はかなり早い段階から持っていました。実際に海外へ行き、市場を見て、その可能性を確信するようになったという感じです。


古田 一方で、グループが大きくなる中で、その思いを社員や経営者にどう共有していくかは、今後の課題でもあるのかなと感じました。


吉村 おっしゃる通りです。私は、そういうことを伝えるのが必ずしも得意ではありません。日々のオペレーションや予算管理、月次の数字に追われる中で、中長期で何を目指しているのかを十分に伝え切れていないという反省があります。そこは今後、改善していかなければならないところだと思っています。


古田 ただ、本日のお話を通じて、一つはっきりしているのは、事業ポートフォリオや組織の形は変わっても、「一社ではできないことをグループで補い合いながら生き残っていく」という発想は変わっていないということです。長所を生かし合い、弱みを補完し合いながら企業を残し、育てていく。その延長線上に、日本の食文化を未来へつなぎ、海外へ広げていく構想があるのだと感じました。


吉村 そうですね。5年先、10年先を細かく描いているわけではありませんし、実際に何が主力になっているかも分かりません。ただ、一社でできないことをグループで実現するという考え方は、ずっと変わっていません。そこはこれからも大事にしていきたいと思っています。