FCC(ファーストコールカンパニー:100年先も顧客から真っ先に声をかけられる会社)実現を支援する、経営者のための戦略プラットフォーム「トップマネジメントカンファレンス」(タナベコンサルティング主催、全6回)。第6回(2026年2月開催)では、リックス代表取締役社長執行役員の安井卓氏にご講演いただいた。

リックス 代表取締役 社長執行役員 安井 卓 氏
あらゆる産業の幅広いニーズに応えるリックス
私は2006年にリックスに入社し、生産現場や企画・営業などのさまざまな部門を経験しました。40歳になる年の2019年には代表取締役社長に就任しています。
当社は1907年に福岡県で足袋の卸売りとして創業しました。地下足袋を八幡製鉄所に納入したのが、産業界に進出したきっかけでした。
製鉄の現場でお客さまの困りごとを目にし、課題の相談を受けながら要望に応えてきました。これを原点として、毎日現場に通い、お客さまと対話し、困りごとを聞き出すスタイルによって、現在ではさまざまな産業と信頼関係を築いています。
当社は、1967年高圧油圧ポンプ製造販売の依頼を機に、本格的にものづくりの道を歩み始めました。その後、福岡工場の設立やリックスへの社名変更を経て、1991年に技術開発センターを新設しました。また、2003年に中国とタイに営業拠点を設け、初の海外進出を果たしております。
現在は、東証プライム市場に上場し、国内拠点は42カ所、海外拠点は2026年2月よりインド工場も加わり12カ所になりました。取引先は顧客数が約2200社、仕入れ先数が約3400社あり、2027年度には創立120周年を迎えます。
売上高は2024年に547億円となり、過去最高を記録しました。売り上げの約75%は、鉄鋼や自動車をはじめ、電子・半導体、ゴム・タイヤ、工作機械のための製品・商品・サービスが占めています。
当社はメーカー商社という業態で、お客さまのあらゆるニーズに対応しています。現在は、利益全体の8割が商社機能、2割がメーカー機能ですが、今後はメーカー機能の強化を目指しています。本日は、リックスが取り組む製品開発についてお話します。
リックスの主力製品「ロータリージョイント」「洗浄装置」

出所:リックス講演資料
リックスの自社製品には、「ロータリージョイント」や「洗浄装置」などがあります。
ロータリージョイントは、内部に流路を持つ固定体から回転体に流体を漏らさず供給するための継ぎ手です。内部にクーラント(冷却液)などの流体が流れ、回転部と固定部の継ぎ目から流体を漏らさずにシールをする役割を担っています。
例えば、飲料メーカーの工場では、充填機の中で回転しながらペットボトルにお茶やジュースなどの飲料を漏らさず注ぐために使われています。
特に、当社の工作機械業界向けロータリージョイントの国内シェアは70%以上(リックス調べ)であり、世界的にも高いシェアを有しています。
一方、洗浄装置は、半導体の製造工程で付着する微細な異物を除去する機器やユニットです。
中でも、フラックス洗浄装置は、次世代のAI向け半導体の製造工程で使われています。この装置では、狭い隙間に残りやすく、除去が困難なフラックス(再酸化防止剤)を洗浄できます。複数の大手半導体メーカーさまの受注実績もございます。
この2つの主力製品「ロータリージョイント」「洗浄装置」が、長い間リックスを支えてきました。
オリジナル品開発の鍵は「知の探索」
当社は、強い自社製品を持ちながらも、実は課題を抱えています。その課題は「ロータリージョイント」や「洗浄装置」に次ぐ、柱となる新製品が出てこないことです。
現在、中長期的に「オリジナル品の比率を向上させること」を目標に掲げています。
オリジナル品とは、自社製品やグループ会社製品、独占販売権のある仕入品を指します。もちろんロータリージョイントや洗浄装置もオリジナル品に含まれます。オリジナル品は独自性があるため利益率が高く、強い競争力によって国内外の市場においてかなりの売り上げを上げています。
商権が絡む海外市場では日本とは別の戦略が必要であり、自らハンドリングできるオリジナル品は、海外市場における武器となります。
このような経緯から、オリジナル品の開発を強化するため、当社の長期経営計画「LV2030」では、当社のあるべき姿を「世界中のものづくりの課題解決屋になる」と定めました。
2024年時点で30%程度だったオリジナル品の売上比率を、2030年には55%に引き上げようと奮闘しています。顧客や社会の課題を解決し続けるために、欠かせない目標です。
とはいえ、柱となるオリジナル品は簡単には生まれません。このことは、ロータリージョイントと洗浄装置が、私の入社当時からすでに主力製品とされていたことからも分かります。
つまり、20年近く主力製品のラインナップが変わらず、独自技術が主力製品にしか生かされていない状態でした。次の柱となる新主力製品が生まれない間にも時代は変わり、顧客のニーズも大きく変化しています。私はこのことに非常に危機感がありました。
そんなときに出会ったのが、『両利きの経営』(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著、東洋経済新報社)という本です。ここには、「知の深化」と「知の探索」の両立の重要性が書かれていました。
「知の深化」とは、自社の特定分野の知を継続して深掘りし、磨き込む行為です。ロータリージョイントや洗浄装置の新しい機能の付与や新ラインナップの確立などがこれにあたると考えられます。一方の「知の探索」とは、既存製品に囚われず新製品を切り開く行為です。この知の探索が当社の課題であり、実行できていないところです。私はこの本の教えが腑に落ちて、これを実行しようと動き始めました。
「協創」で新主力製品の開発に挑む
これまでの開発は、ロータリージョイントや洗浄装置など、技術開発センターによる「深化型の開発」が中心でした。その一方で「探索型の開発」は、ほぼ手付かずのままです。
入社時を振り返っても、ロータリージョイントの新機能開発のサポートに追われ、新製品開発にまで手が回っていませんでした。また、売り上げが高い「深化型の開発」を行う部門では新製品開発に対して懐疑的な声も多く、「探索型の開発」は困難でした。
ただ、これ以上「探索型の開発」を先延ばしにはできません。この両輪を回すべく、私は2つのアイデアを実行しました。

出所:リックス講演資料
1つ目のアイデアは、当社とあらゆる機関が協力してソリューションをつくる「協創」という考え方です。ここでいう機関とは、お客さま・仕入れ先・大学・ベンチャー・研究機関などです。
1社でできることは限られます。だからこそ、協創パートナーと当社のそれぞれが持つ技術やノウハウ、アイデアを掛け合わせ、協力して新しいソリューションを生み出したいと考えました。
実際に協創から生まれた製品としては、「太陽光×水素・ガソリンポータブルハイブリッド電源」や「IoTセンサ内蔵水中ポンプ」などがあります。
2つ目のアイデアは、「探索型の開発」に集中できる環境の整備です。2020年に構想を開始した「探索型の開発」を専門とするリックス協創センターは、2024年11月に完成しました。
『両利きの経営』に倣い、探索の施設と深化の施設は、物理的に距離を置いています。両者が近距離にあるとすぐに収益を生まない探索型の開発に対して疑問の声が届きやすく、探索型の開発者たちが深化型の開発の応援を求められやすくなるためです。
私は、リックス協創センターには「すぐに業績につながらなくても開発を続けてほしい」と伝えています。さらに、疑問の声が上がるたびに、探索と深化の両立の大切さを丹念に説明しました。
加えて、産業界にマッチする製品やサービスを生み出すため、リックスは協創を2つの形態によって進めています。
1つ目は、リックスのコア技術である流体制御を軸にした当社主導の協創です。流体制御とは、液体・気体などの流体に、止める・送る・検知する・分離するなどのさまざまな制御を掛け合わせる技術です。
例えば、半導体業界で使われている洗浄ノズル「マイクロアイスジェット」は、リックスの流体制御技術と福岡県工業技術センターの技術を掛け合わせて誕生した製品です。
2つ目は、お互いの強みを生かしたパートナー主導の協創です。ここでは、リックスが持つ顧客基盤や国内外の販売網などを、協創パートナーの技術と掛け合わせています。開発活動は、協創パートナーと意見を一致させて進めています。
一例として、北九州市のロボットベンチャー・KiQ Robotics(キックロボティクス)との協創があります。同社のロボット柔軟指の製造技術を産業界で幅広く生かすため、リックスの顧客からニーズを探り、新たな開発に役立てました。
協創の先の夢は、現在の主力製品に次ぐ新製品を開発・生産し、さらなる主力製品を育てる好循環をつくること。そして、世界で戦える新製品を生むこと。これを実現するのが、リックス協創センターです。
協創の種をまく3つの取り組み
協創を加速させるため、リックスは次の3つの取り組みを行っています。
1つ目は、リックス協創センターの完成前に新設した「NB(ニュービジネス)開発本部」です。ここでは40名ほどの社員が主体となり、新しいアイデアを探索し、開発の「種まき」や「芽の育成」をしています。
2つ目は、困難を極めた開発担当者の意識改革です。開発予算申請が前期と同じ内容・同額であったりしました。開発の内容も深化型の開発に寄ってしまうため、「NB開発本部の役割は探索型の開発の実行である」と何度も伝えました。また、私自身が開発の定例会議には必ず参加し、新しい提案にフィードバックしつつ、意識改革を促しました。これらにより、「探索型の開発用の予算が欲しい」という発言が徐々に見られるようになっています。
3つ目は、社内外にアイデアを募る働きかけです。社外向けには協創パートナーを募るプラットフォーム「アクセラレータープログラム」、社内向けには全社員からアイデアを募る「RENS(RiX’s Exploration of Next Seeds)」をつくりました。RENSには、2022年以降の2年で、75件の応募がありました。
実際に事業化まで至った事例はまだないものの、2026年は取り組み内容をブラッシュアップし、事務局担当者が伴走し、事業化をお手伝いしています。この中には「芽」が出始めた事案もあります。
例えば、九州工業大学からアクセラレータープログラムに応募があった水素エネルギー関連試験機の共同研究・開発です。高温の水素環境下で金属片に負荷を与え、その影響を測定する試験機をつくりました。
また、細胞の培養装置の研究開発は、当社の流体関連技術を使い、九州大学と共同で行っています。これは、社員からの自発的な提案があった事例です。まだ着手したばかりですが、最終的には細胞を効率的に培養することで代替肉を生み出し食料不足の解決を図ってゆきたいと思います。
さらに、酪農向け小型餌寄せロボットは、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構に協力を得て実証試験を行っています。これは、製鉄業界向けのコンベアからの落鉱を集めるロボットから着想を得て日本の牛舎向けに小型化したものです。
最後の閉鎖循環式陸上養殖設備は、魚を育て、食べ物をつくるものづくりの開発です。水槽内の海水をできるだけ換水をしなくても済むように、有害なアンモニアを微生物分解し、脱窒する技術を開発しました。
リックス協創センターは、設立から約1年が経過しました。新製品開発(探索型の開発)のための土壌づくりができ、種蒔きができて、その中から少し芽が出てきたのかな?というところです。私は先頭に立ち、実行する姿を見せながら、新製品の開発・事業化にチャレンジしたいと決意しています。