タナベコンサルティングは2025年12月16日、「持続的成長を実現する経営フォーラム」を開催。最上インクス、WELLZ UNITEDの取り組みと、タナベコンサルティングによる講演をリアルタイムで配信した。 ※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。

最上インクス 代表取締役 鈴木 滋朗 氏
1998年4月に最上インクス入社。主に製造部で新規部品の立ち上げなどに従事、2005年より新たな分野の部品開発の支援とした業務・サービスに携わり、その後は試作サービスの海外展開などをけん引。2008年に専務取締役、2010年より現職。
工業製品の部品を開発・製造する最上インクス
私は、1997年に最上インクスに入社し、製造現場を経験後、管理業務取締役・専務取締役を経て、創業60周年を迎えた2010年に社長に就任しました。
当社の主な事業は、顧客が世の中に提供したい商品に必要な部品の開発や、試作品・量産品の製造・実装化の支援です。私たちが製造しているのは、具体的には工業製品に内蔵されるキー部品です。家電製品やロボット、医療機器など、多岐にわたる分野に必要な機能・性能部品を製造しています。
2024年度の事業別売り上げ比率は、試作事業が64.3%、量産事業が33.3%、新事業が2.4%です。年商が22億2000万円(2025年3月期)、グループを含めた従業員数は158名(2025年4月1日時点)となります。
今回は、私が2010年に経験した事業承継を起点に実行した企業変革についてお話しします。
事業承継時に起きた危機と変革への決意
私を含め多くの後継者は、事業承継を「社長になること」と思いがちです。親子でも事業承継が滞りやすいのは、この誤った認識が原因です。
当時を振り返ると、下請けの成長限界・企業の社会的責任・働き方の多様化など、さまざまな問題が蔓延していました。中でも、2008年に起きたリーマン・ショックの余波は、大きな危機でした。
ただ、私が事業承継した際の経営状況は、先輩や先代が築いた基盤のおかげで、自己資本比率が80%以上でした。さらに、実質無借金経営で営業利益・経常利益が5〜10%あり、順調でした。
しかし、この恵まれた環境によって利益が自動的に上がったことで、私は新たな戦略を立てないという経営ミスをします。
危機は時間差で訪れ、連鎖的に悪化しました。原因を見つけられず、業績が下落し、退職者が増加しました。
この段階になって、先代の「次の手は、会社の状況が良いときに打つ」という教えを思い出しますが、すでに経営は悪化しており、選択肢の中から選ぶ余裕はありません。会社のかじ取りに悩みながら到達した思いは、「自ら変化をつくり、事業領域を拡大すること」でした。
現在では、事業承継の真の意味を「事業発展のため、考え方を学び、心構えを身に付けること」と捉えています。
そこで、変革の目的を「自ら次の需要を生みだせる企業になろう!」と定め、収益を生み出せる体質づくりに力を注ぎました。数字を根拠に事実と現場を判断し、幹部の共通認識の醸成に努め、5年後には同じ認識に基づいて次の対策を取れるようになりました。
企業目的と事業目的を再定義し、変革に挑む
変革は、もう一度原点に立ち返り、企業目的と事業目的を確認することから始めました。
当社の最大の企業目的は、「幸せの創造」です。共に働く仲間を幸せにする方程式を「Saijo=FUN×FAN」とし、楽しい「FUN」と、応援する人である「FAN」によって、「いい事業やいい組織を創ろう」という思いを込めています。
「FUN」が多い会社では、仕事を通じて意義ある経験を積むことができ、自分の可能性を発見でき、創造性を伸ばす喜びを体験できます。もう片方の「FAN」が多いと、「うちの子を就職させたい」と社内外から応援してもらえる会社づくりにつながります。
このような社内風土に転換するため、次の取り組みを行っています。
仲間との会話や対話の機会づくりのために、社内新聞があります。6名の課長が社員を取材した記事は好評で、信頼できる組織づくりに役立っています。また、社員がトライアルしやすい企業文化の醸成にも取り組んでいます。社員の関心事を事業や顧客価値につなげ、創造的に開発する文化をつくっています。
さらに、社員のお子さんに、ものづくりの楽しさを知ってもらうためのイベントを実施しました。参加者から感謝の声が上がるなど、自分の仕事の意義を実感できる貴重な社会貢献活動の場になっています。
一方、事業目的は「顧客の創造」です。この目的の実現のため、Group Visionは「モノづくりの可能性を創造する実験型企業」としました。自分たちの将来の可能性を自らつくり、未来を実験する会社を目指しています。
Missionは、「理想社会の実現に貢献する」です。ものづくりを通じて収益と経済的価値をつくり、社会に貢献したいと考えています。Business Conceptは、「実装化ソリューションビジネス」です。利用価値のある開発を行い、社会課題を解決し、実装化をサポートします。
こうした再定義を起点に、これまでの実績に新しい価値を加え、次元を変える取り組みを始めました。
次元の転換には、マインドセットが必要です。「現状に甘んじることなく事業を変え、新たな顧客と市場を見つけ、いかに仕事に取り入れるか」というマインドを、社員と共有しています。
加えて、このマインドの実現に欠かせないのが、「モノ」視点から「モノゴト」視点への転換です。これまでは「モノ」視点によって、「ものづくり」と「対応力(質・コスト・納期)」で顧客に応えてきました。
しかし、これから必要になるのは「モノゴト」視点です。「モノ」と、その周囲にある「コト」の両方を理解した上で、実装できる「モノ」を開発し、「ソリューション」を顧客に提供していくこととしました。
「試作マーケティング」で自ら顧客を創造する
企業目的と事業目的の再定義後、私は、ものづくりで社会貢献できる枠組みの拡大に取り組みました。

出所:最上インクス講演資料
図表の左の正三角形が示すのは、従来型のビジネスです。先代が築いてきた製造業の基盤であり、深化機能があります。
一方、上下が逆になった正三角形は、現在取り組み中の枠組みです。新規事業を実験によって探索し、顧客や社会に近い位置からユーザーやニーズを理解し、価値をデザインします。
この2つの三角形を採用すれば、探索と深化を両立しながら、提案できるレベルと幅を広げられます。
最上インクスの歴史を振り返ると、初代は量産サービス、先代は試作事業を構築しました。そこで、私は「マーケティング企画と販売で事業を拡張しよう」と決め、ニーズを捉えるマーケティングにおいて、試作事業を活用することとしました。
というのも、世の中が求めるオーダーや「モノ」を見れば、その先にある「コト」、つまり今後の市場やキーパーツの動向をつかめます。また、最適化に向けた工法開発の準備を整えることで、社会に実装する条件や課題も明確になります。
事業拡張の推進では、まず「モノゴト」視点で試行錯誤と実験を繰り返し、商品開発・プロセス構築・試作を行いました。
これらの取り組み事例の中に、約10年前に取り組んだセパレーターのプレス加工があります。次世代自動車に実装する最適な部品の開発情報と、実際の部品を提供するこの仕事は「モノゴト」視点に近く、専門性を磨く機会となりました。
また、試作ビジネスという強みを生かし、2012年から開発先進国のヨーロッパと米国に進出し、航空宇宙関係企業や欧州の大手自動車部品メーカーなどから問い合わせを受けるまでになりました。この経験は、顧客と非顧客を知ることにつながり、知識幅の拡大に役立ちました。
そして、試作がもたらす「モノ」情報を解釈し、解決する部品を自社開発しました。それが、イニシャルコストと時間を削減する自社開発したオリジナルフィン「Folding Fin(フォールディングフィン)」です。
このように、当社は自ら需要を生み出す基盤を整えてきましたが、単に部品を作るだけでは資本力の高い企業に負けてしまいます。そこで、「モノ」と「モノをつくるプロセス」の開発にこだわり、差別化を図りました。
近年では、人手不足が常態化し、人の仕事がロボットや機械に置き換えられています。この流れで、若い社員が中心となり、既存の仕事を別に置き換え、より価値を生み出す仕事に時間を割き、人が働かない働き方の構築を試みています。
加えて、モノを作るロボットや機械を自らで工程化し、従来の仕事のプロセスを大きく変えました。ここまでは、先代が築いたプロセスの深化の結果です。

出所:最上インクス講演資料
次のステップであるマーケティングと販売については、従来のステップに加えて変革を進めました。自社の技術資源は有限であるため、ニッチトップの領域で次世代の新たなプロセスを模索しました。
例えば、事例の一つである熱問題は、顧客の試作オーダーから見つけた新規テーマです。機器に使われるエネルギーは最終的に熱に変わり、生産性を低下させます。あらゆる機器が持つ共通課題である点と環境負荷の観点から、この熱問題を取り上げ、解決しようと考えました。
ニッチトップで勝負するには、即効的な解決が重要です。そこで、「巻冷-MAKUREI」というパイプ冷却部品を開発しました。これは、熱いガスや液体が流れる工場のパイプに巻き付け、電力を使わずに冷やす部品です。
この試みは、これまで接点がなかった顧客の創造につながりました。具体的には、酒造メーカーにおいて、精米時の摩擦熱に対して絶大な効果を発揮し、導入が広がっています。自ら需要を生み出せる会社の入り口にようやくたどり着きました。
こういった取り組みが評価され、職業訓練法人アマダスクール主催の「第35回優秀板金製品技能フェア」において経済産業大臣賞を受賞、近畿経済産業局主催の「関西ものづくり新撰2023」に選定されるなどの評価をいただきました。
この事業について、問い合わせ自体は多いものの、当初は売り上げが振るわず悩んだ時期がありました。しかし、徐々に売り上げが上昇し、新しいものを見いだす大切さと苦労を体験しました。最終的には、この事業への取り組みを通じて、「体験によって、考え方は初めて変えられる」と実感しました。
未来の事業承継に必要なのは準備と選択肢の拡大
私もいつかは退任し、次世代に会社をつなぎます。事業承継には10年程度かかるため、前もって準備する必要があります。特に、資本・経営・事業は複雑に絡み合っており、整理が大切です。
社内での整理は経営に大きなダメージを与えかねないため、専門知識・経験・客観性を持った専門家の手を借り、次世代を見据えて意思決定することが重要です。
しかし、現在の最適解が未来でも通用するとはいえないことから、整理には3つのポイントがあると考えます。
1つ目は、「将来に影響のあることは片付けておくこと」です。不採算事業や事業所の見直し、古い仕組み・制度の改変、借金の処理が重要です。
2つ目は、「次世代が選択しやすい経営環境を整備すること」です。財務体質の正常化、10年後の規模や事業・組織構造、顧客との良好な関係を整備します。
3つ目は、「株主の構成と税について方針・方向性を考えること」です。資本と経営の方向性や、株主の構成、株式の譲渡などの勘案が必要です。
当社は、事業承継の準備と並行し、“実験企業”として顧客と会社の価値を上げる取り組みも進めています。その例が、BtoC市場への初進出です。この取り組みの狙いは、「コト」の理解につながる価値体験の把握です。BtoCへの挑戦は、これまでの視野の外にもモノづくりの可能性があることを証明しました。
また、同じ志を持つ企業との事業連携、製造業の枠組みを超えた事業展開、貢献できる機会の創造など、未来の選択肢を広げる試みも進めています。
今後も、顧客の創造という目的のもと、最上インクスは実現可能な社会貢献を世界に発信し、次世代の発展につなげていきます。