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イベント開催リポート
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コラム 2026.01.28

「長期的に最幸に儲ける」。持続的成長を実現する経営 WELLZ UNITED

タナベコンサルティングは2025年12月16日、「持続的成長を実現する経営フォーラム」を開催。最上インクス、WELLZ UNITEDの取り組みと、タナベコンサルティングによる講演をリアルタイムで配信した。 ※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。


WELLZ UNITED (井上) 代表取締役 井上 大輔 氏

WELLZ UNITED (井上) 代表取締役 井上 大輔 氏

29歳で井上代表取締役に就任。借入金20億円、債務超過10億円、金無し、モラルなし、ビジョンなしの組織を実質無借金、幸せに働く自走組織へと再生。2018年「京都経営品質賞」優秀賞、2024年「学生に知ってほしい働きがいのある企業賞」大賞を受賞。「happy spiral」を掲げ、HR支援や廃校活用にも取り組む。


29歳で直面した「20億円の負債」と「心の荒廃」

私は現在、WELLZ UNITEDの代表取締役を務めています。当社は創業78年の老舗企業で、電気設備資材の卸売りから電気工事、そして最新のDX・AIシステム開発まで、電気とシステムに関わるあらゆるジャンルを手掛けています。さらに最近では、地元の廃校を活用したイチゴ栽培やクラフトビール醸造といった、農業・地域再生事業にも取り組んでいます。

今でこそこうした多角的な挑戦を楽しんでいますが、私の経営者としてのスタートは、まさに「絶望」という言葉がふさわしいものでした。

私は1974年に生まれ、大学卒業後に英・ロンドンでホテルマネジメントを学び、バリ島のホテルで実務を経験後、29歳の時に家業である井上株式会社に戻ってきました。3代目として就任した私を待っていたのは、借金20億円、実質債務超過10億円という目を疑うような経営状況でした。

しかし、本当に私を苦しめたのは、数字以上に「社内のモラル崩壊」でした。社員同士の信頼関係は完全に破綻しており、そんな環境に身を置くうちに、私自身もいつしか社員の悪口を言い、会社が良くならないことを外部環境のせいにする卑屈な人間になっていました。

「このままでは、私自身もダメになる。そして、社員の人生も全て台無しにしてしまう」。

2011年、私は自らの至らなさに気付き、大きな決断を下しました。それが、「働く誰にとっても毎日がちゃんと幸せな会社を目指します」という第二創業宣言でした。


持続的成長に向けて「人中心経営」へ

当時の社員は、私の言葉に非常に戸惑ったと思います。「創業家出身の3代目が、また何か浮世離れしたことを言い出した」というのが本音だったでしょう。しかし、私は本気でした。

結果として、この13年間で1人当たりの人件費は1.5倍を超え、限界利益や限界利益率も約2倍になりました。限界利益率を変えるためにはビジネスモデルも変えなければならないため、同時にビジネスモデルを変え、財務状態も現在では実質無借金の自己資本比率57%ぐらいまで戻しています。

「人中心経営」とその結果 出所:WELLZ UNITED講演資料

出所:WELLZ UNITED講演資料


社員も80名から現在130名まで増えました。何よりも、社員から「ああしませんか、こうしませんか」という提案が13年間で約6500件あったのが嬉しく、1件1件、全てに対して1カ月以内に返事をしてきました。

つまり、6500回社員と経営談義をしてきたのです。結果として、社員が自立し、自分で考える力につながりました。

経営者にとって大切なのは、「今ある資源をどう再価値化するか」です。私は単なる精神論ではなく、組織の仕組みそのものをアップデートするために、具体的な「3つのデザイン」を実装していきました。


(1) 組織図の逆転と決定権の委譲

まず、私たちは「逆転の組織図」を公表しました。経営層が一番下にいて、現場の各部署が上にいる図です。これは、企業としての「決定権は現場にある」という意思表示です。

例えば、当社の東日本進出戦略「Go East」も、私が命じたわけではありません。経営計画として掲げるのではなく、「行きたい」と願う社員が表れたときに、初めて会社がそれを全力でフォローする。人が動くのを待ってから会社が動くという、徹底したボトムアップのスタイルを貫いています。


(2) 「ホウレンソウ」を捨て、SNSで「ありがとう」を循環させる

私たちは、旧来の「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」というコミュニケーションを廃止しました。ホウレンソウは閉鎖的で速度が遅く、今の時代には合わないと思います。

代わりに、社内SNSを導入して、あらゆる社内情報をオープンにしました。そこで飛び交うのは、年間約3万件にも及ぶ「ありがとう」の交換です。誰が誰を助け、お客さまにどのような喜びを提供したか。これらが可視化されることで、私がいちいち指示を出さなくても、組織全体が今どの方向に進んでいるのかがリアルタイムで共有されます。

給与額以外の情報は、不都合なニュースであっても全て公開しています。情報の透明性が、社員の主体性を引き出す絶対条件なのです。


(3) 制度を「生き物」としてアップデートし続ける

一度決めた制度を何年も守り続けることは、経営の怠慢だと考えています。当社は、この13年間で、労務制度を50回以上もバージョンアップしてきました。植物の成長に合わせて添え木を調整するように、人と組織の成熟度に合わせて制度を書き換えるのです。

前述のように、社員からの改善提案は累計で6500件を超えました。これら全てに私が1カ月以内に返事を出し、決断を共有してきた結果、社員たちは「自分たちの手で会社は変えられる」という強い自負を持つようになりました。

これら3つに取り組んだ結果生まれたのは、社員からの信頼でした。「信頼を大切にする経営が重要」とよく聞きますが、社員から会社への信頼はなかなか生まれない。

では、どうやって信頼を生んだのかということですが、やはり芽が出るまで3年ほど時間がかかりました。ですが、いったん自分が信頼されているということを認知しはじめると、自分で判断する主体性が生まれます。

マネジメントにおいて重要なのは、やはり人を信頼することに尽きると思います。人は千差万別ですから、人によって信頼してもらう方法は変わってきます。例えば、気付きを支援してみたり、やることを支援してみたりすることですが、そこで生まれた信頼が積み重なることで、お客さまの価値になっていく。このような経営を目指しています。

1人1人の気づきを重ねる独自ミルクレープ経営 出所:WELLZ UNITED講演資料

出所:WELLZ UNITED講演資料


もちろん、上から管理し、人を動かす方法もお客さまのためになるし、ビジネスとしてのやり方ではある。けれど、当社としては、毎日が幸せな会社をつくりたいので、従来のPDCAを回す経営ではなく、信頼をベースにした「独自ミルクレープ経営」を目指しています。

図表のように、青のループではなく、オレンジのループを目指しました。その結果が、今の経営につながっていると思います。


顧客価値づくりに向けた挑戦

共有したいこととして、これからの企業は、社員を含めた関わる人たちの「日常の質の高さ」と、「経験を積み重ねることで得られるもの」を重要視するべきだと思っています。

「日常の質の高さ」と「経験を積み重ねることで得られるもの」 出所:WELLZ UNITED講演資料

出所:WELLZ UNITED講演資料


事業の評価軸については、売上高や規模よりも「顧客が増えているか」を重視しています。顧客が増えているということは、何らかの価値を提供できている証拠だからです。

一方で、私たちは、社員を疲弊させるような不当な扱いをする顧客との取引について、勇気を持って解消しました。たとえ数億円の売り上げを失うことになっても、「幸せな会社」という一貫性を優先しました。

また、「お客さまを変えられないか」「お客さまに提供するもの・サービスを変えられないか」「その売り方を変えられないか」という3つについて、私たちが持っている資源を使って取り組めることを1つずつ考えていきました。

そのほかに私が重要だと考えていることとして、「管理をしない」というものがあります。例えば、トヨタ自動車との取引につながったAI事業も、実は社員が自ら始めたプロジェクトから成長したものです。

私はほとんど介入せず、任せっきりに近い状態でしたが、信頼して任せることで想像以上の成果が生まれました。社員一人一人が主体性を持って取り組むことが何より重要です。


プラットフォームとしての組織づくり

私は、将来を見据えてホールディングス体制への移行を決断しました。WELLZ UNITEDはホールディングスであり、事業会社としては井上株式会社です。この判断の背景には、「挑戦できる余白を残しておきたい」という思いがあります。

事業運営とマネジメント機能を分離することで、多角化への対応、人材の成長機会の創出、承継への備えを同時に進めることができます。実績が出てから体制を整えるのではなく、目指す姿に合わせて先に環境を整える。この考え方は、これまでの経営経験から得た私なりの結論です。

ホールディングス化によるマイナス面は特に見当たりませんので、企業の持続的成長のためにも、この体制への移行は重要なのではないかと考えています。

人も組織も、時間をかけながら成熟へと向かいます。当然、私自身もやりっぱなしにしてしまったことや、経験したままにしてしまったこともありました。しかし、やらないよりはやったほうが良いですし、行動から得られるフィードバックや周囲からの意見、そして自らの内省も含めて、やはり経験と気付きこそが成熟につながるのだと思います。

人の集まりである組織も同様です。「組織としてどういう経営をしていくのか」というデザインそのものが、結果的に組織としての成熟をもたらしていくのだと思います。だからこそ、何に取り組み、どういう形で進めていくのかという「取捨選択」が大切だと考えています。

私たちは、環境づくりという視点、経営に参画してもらうという視点、互いがどうやって成長していくのかという視点、そして私たちらしい働き方と報酬を実現するために経営活動に取り組んでいます。これらにどういう形で取り組むかには、企業の個性が出ると思っています。

取り組み(実装)のスパイラル効果 出所:WELLZ UNITED講演資料

出所:WELLZ UNITED講演資料


また、1つの取り組みが複数の成功を生むこともあります。

アイデアが実り、プラスの成果が出ると、「自分がこの会社の組織制度を変えたのだ」という社員の自信にもつながりますし、会社としても多くの気付きを得て現状を見直す機会が生まれます。

1つの取り組みで複数の効果を生むような活動を少しずつ積み重ねていくと、必ずそこに相乗効果(シナジー)が生まれます。このシナジーによって絶えずエネルギーが交換され、「循環」ともいえる動きが生まれることこそが、この取り組みの力だと思っています。

当社はまだ、シナジーと複利的な成長の段階を行き来しているレベルで、完全な循環までは達成できていません。しかし、いずれはそのような循環の中で、組織の新たな価値や可能性がシナジーを生み出し、自律的に成長が生まれる組織になりたいと考えています。


変化するということ

持続的な成長のために、リーダーが最も大切にすべきこと。それは、「自分自身の変化」です。組織はリーダーを映す鏡ですから、その鏡である組織を変えたいなら、まず自分という実体を変えなければなりません。自分が頑固に変わらないままで、組織だけを変えようとするのは「無理なゲーム」です。

私はよく、「髪型や眼鏡くらい変えてみよう」と話します。身の回りの小さな変化を楽しめない人間に、大きな変革など起こせるはずがないからです。社会も、組織も、自分も、常に「未完成」である。その流動性を認め、自分を変え続ける勇気を持つことが、組織に変化への耐性をもたらすのです。

2020年、次の10年に向けて、私たちは「マルチステークホルダーを幸せにする」という新たなビジョンを掲げました。自分たちだけが幸せになるのではなく、地域社会や環境、関わる全ての人々と幸せの「円(縁)」を広げていく。小さなアクションが渦を巻き、大きなエネルギーとなって循環していく「スパイラル経営」への挑戦です。

廃校を活用した農業も、このビジョンの延長線上にあります。また、社員一人一人の健康のために年間4万円を会社が負担する「みんなのウェルネス」や、5年ごとに10万円を持って旅に出る「自由研究」など、遊び心のある制度も積極的に取り入れています。これらは全て、社員の視野を広げ、人生を豊かにするための投資なのです。

We Standard 出所:WELLZ UNITED講演資料

出所:WELLZ UNITED講演資料


経営資源の制約は、捉え方次第で「創造の源」に変わります。私自身、借金20億円という過酷な制約があったからこそ、「信頼」という見えない資本の本当の価値に気付くことができました。

これからも、「変化こそが王道である」と信じ、社員と一緒に毎日がちゃんと幸せで、成長し続けられる会社をつくっていきたいと考えています。